ことわざを英語に移すとき、いつも最初に考えるのは『意味を伝える』ことと『文化的な響き』のバランスだ。
僕は実務でよく出会う場面を想定して、まずは汎用的で誤解の少ない表現を提案する。最も自然な訳としては、'Nothing ventured, nothing gained' が標準的で、カジュアルからビジネス寄りまで幅広く使える。短くてリズムが良く、日本語の「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の核心である「リスクを取らなければ成果はない」という意味をきちんと拾ってくれる。
ただし、文学的なテキストや比喩を重視したい場面では、直訳ぽく 'If you do not enter the tiger's den, you will not catch its cub' のような表現を残しても面白い。場面に合わせて使い分けるのが鍵だと感じている。
英語圏には「背に腹はかえられぬ」に近いニュアンスを持つ表現がいくつかあります。特に面白いのは“Between a rock and a hard place”というフレーズで、文字通り「岩と硬い場所の間」という意味ですが、どちらを選んでも苦しい状況に追い込まれたときのジレンマを表します。
この表現の起源は20世紀初頭のアメリカ西部の鉱山労働者たちの間で生まれたと言われています。賃金削減に抗議すれば職を失い、黙っていれば生活が苦しくなる——そんな板挟みの状況をうまく言い表しています。最近では『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でピーター・パーカーが仲間を救うか世界を守るかの選択を迫られるシーンにも通じるものがありますね。
中国の故事成語『狡兎死して走狗煮らる』は、戦国時代の策士・范雎のエピソードが元になっています。英語で表現するなら『When the cunning rabbits die, the hunting dogs are boiled』が直訳に近いでしょう。
このことわざの本質は、『役割を終えたものが捨てられる』というシニカルな現実を表しています。『ゲーム・オブ・スローンズ』のティリオンが言った『A ruler who kills those devoted to her is not a ruler who inspires devotion』とも通じるものがありますね。日常的に使える英語表現としては『Kick someone to the curb after using them』というスラングもピッタリです。
日本語のニュアンスを完全に再現するのは難しいですが、英語圏の文学作品では類似のテーマが繰り返し登場します。例えばアーサー・ミラーの『セールスマンの死』でも、使い捨てられる主人公の悲劇が描かれています。