別れた後、仏弟子の婚約者は後悔で気が狂った
私の婚約者の真宮湊(まみや みなと)は、清廉な仏弟子だった。
付き合って二年になるけれど、彼は一度たりとも私に触れたことがない。かつて仏の前で「戒を破らぬ」と誓ったからだと言う。
湊はさらに、妊娠するまでは籍を入れるつもりはないと、人工授精を先に受けるよう求めてきた。
ようやく妊娠がわかったとき、湊は静かに微笑んで、私に盛大な結婚式を約束してくれた。
けれど、結婚式当日、私は彼に九十九回電話をかけたが、彼はとうとう現れなかった。
代わりに届いたのは、彼の義姉香月紗良(こうづき さら)からの一通のメッセージ。
添付されていた動画に映っていたのは、ベッドの上で彼女と絡み合う湊の姿だった。あの清廉な彼の面影など、そこには微塵もなかった。
その瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れた。
戒を破れなかったんじゃない。私が、愛される相手じゃなかっただけ。
しばらくして、湊からメッセージが届いた。
【昨日の夜、紗良が熱を出してね、放っておけなかった】
【君も知ってるだろう。兄貴はもういない。今、彼女には俺しかいないんだ】
【結婚のことは、彼女の体調が落ち着いてから、改めて考えよう】
私はスマホの画面を見つめたまま、ただ黙って涙をこぼした。
そして父に電話をかけた。
「お父さん、決めたよ。政略結婚、受けることにした」