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高橋ひよこ
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Novel-novel oleh 高橋ひよこ

ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・

ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・

泉川咲月は就活を終えたばかりの大学4年生。春からはバイト先のケーキ屋にそのまま社員として働くことになっていたが、内定を貰ったはずの会社が経営不振による破産宣告を受け、実質の倒産。咲月はまた一から就活のやり直し。落ち込んでいた咲月は弁護士である叔母から事務所の15周年パーティーに誘われて顔を出す。そこで出会ったのは新進気鋭の若手デザイナー羽柴智樹。彼のオフィスで働くことが決まった咲月は、そこで癖のあるスタッフ達と出会う。羽柴からは子ども扱いされてばかりだが、同世代とは違う余裕のある態度にトキメキ始める咲月。羽柴の方も弁護士である敦子を上手く利用する為に咲月のことを引き受けたつもりでいたが……
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Chapter: 第四十話
 前月分のスタッフ全員の交通費や立て替え経費の集計に追われる月初。咲月はメールで送られてきた清算書と手元にある領収書の金額をひたすら目で追って確認していた。  最近は笠井から引き継いだ事務仕事が中心になってしまっていて、社長である羽柴の補佐業務はほとんど何もしていない状態だった。慣れればどちらもこなせるようになるのかもしれないが、今のところはそんな余裕はない。これまで事務と営業の仕事を掛け持ちしていた笠井のすごさが身に染みてよく分かった。 ――あれ? だったら私、デスクが社長室にある意味がないんじゃ……。 頻繁に使うファイル類はデスクスペースの後ろの棚に並んでいる。だったら他のスタッフと一緒にフロアでデスクを並べていた方が、仕事の効率は良いはずだ。あちらなら分からないことが出てきたら笠井にすぐに聞くことだってできる。さらには事務作業中に何度も部屋から出て必要な書類を取りに行くという手間も省けるのではと、さすがの咲月も頭のどこかで思い始めてはいたが、それはなかなか言い出せずにいた。 ――でもそうすると、デザイン中の社長が見れなくなるんだよね。 普段はどこか余裕のある表情で何事も達観している風に見える羽柴が、子供みたいに楽し気にペンを走らせていることもあれば、真剣な目をしてデザイン画に向かっていることもある。そんな彼に対して、咲月は仕事中に何度もパソコンモニターに隠れながら視線を送ってしまう。つい目が離せなくなってしまう理由は自分でもまだあまりよく分からないけれど。  何にせよそれは、今のデスク位置からでしか眺めることができない光景なのだ。 もしかしたら、紗英がデザイン部の先輩について言っていた「ギャップに惚れた」ってやつだろうか? イヤイヤ、自分の場合はそういうんじゃないし、と心の中で否定する。紗英も何だかんだ言って、先輩には恋愛感情はないっていってたし、推しとか眼福とかそういう感覚なんだろう。そもそも羽柴との年齢差を考えたら、咲月なんて子供過ぎて眼中にも入れて貰えてないはずなのだ。ちゃん付けで名前を呼ばれている時点で、それは決定的だ。 同じ室内の窓際のデスク。部下から送られてきた資料に目を通して、眉を寄せて何か難しい表情をしていた羽柴が、咲月から
Terakhir Diperbarui: 2025-04-28
Chapter: 第三十九話
「私、ずっと思ってたんだけどさぁ」 紗英が目元を赤らめながら、少し呂律の怪しい口調で咲月に向かって人差し指を突きつけてくる。美奈は途中からソフトドリンクへと切り替えていたけれど、ずっと酎ハイばかりを頼み続けていた紗英はそろそろ限界に近付いているのかもしれない。「ん、何?」 店に来てまだ一度もアルコールを口にしていない咲月は、この場で唯一のシラフだ。明日は休日だしお腹も満たされたことだしと、そろそろ何かカクテルでもと考えていたけれど、向かいの席の様子が既にあやしい。今日は飲まずに世話役に徹する気でいた方が良さそうだ。メニューをチラ見してから店員を呼んで、リンゴジュースをオーダーする。すぐに運ばれて来たドリンクを紗英の前にそっと置きつつ、まだ少しレモンサワーが残るジョッキを回収してテーブルの隅に移動させた。「咲月って弁護士やってる叔母さんと結構仲いいでしょう? なのになんで、ケーキ屋が倒産して内定取り消された後、叔母さんのとこに就職ってならなかったのよ? 結構手広くやってる事務所なんでしょ、姪っ子一人雇うくらいできたんじゃないの?」 敦子と食事に出かけたり、いろいろ買って貰ったりしているのは二人には何度か話したことはあった。今日持って来たバッグもそうだし、卒業式の袴一式を用意して貰ったのも喋った記憶はある。そこまで可愛がって貰ってるのなら、卒業後の面倒だってみてもらえそうなのにとずっと不思議に思っていたらしい。「あ、でも、今のデザイン事務所は敦子叔母さんからの紹介だったから……」 「うん、それは聞いた。でも、自分の事務所においでとは言われたことないんだよね?」 「そう言えば、言われたことは無いね」 「まさか、咲月のジンクスが発動するのを恐れて、とか? ……さすがにそれはないかー」 「あーでも、ほら。身内が入ると他のスタッフが仕事し辛くなるってのもあるからじゃない?」 横で聞いていた美奈が、それっぽいフォローを入れてくれるが、紗英はあまり納得していないようだった。確かに姪っ子を創立パーティへ気軽に呼んだり、事務所へ遊びに来させたりするような人がそんなことを気にするとは思えないのだろう。 咲月は困ったなという風に小さく苦笑する。これまで大学の友達に実家の話をしたことがないから、当然といえば当然なのだ。身近にコネがない訳じゃないのに、何でこの子はこん
Terakhir Diperbarui: 2025-04-23
Chapter: 第三十八話
「でも同じ会社の人と付き合うとかは無理だなぁ……」 そう呟いたのが美奈じゃなくて紗英だったから、咲月は食べていた鶏の唐揚げで喉を詰まらせそうになり、むせ返ってしまった。驚きと喉の詰まりで思わず目をぱちくりさせる。ついさっき、会社の先輩の話で瞳にハートを浮かべていたところではなかったか、と。「いやいや、バッグデザイナーの先輩は?」 咲月が来る前に散々いろいろ聞かされていたせいもあってか、美奈も速攻で紗英を突っ込んで「はぁぁ?!」と目を剥いていた。「だってほら、付き合ったとしても、その後に上手く行かなかったことを考えてみてよ。下手したら職場に居辛くなって、職も彼氏も同時に失うことになっちゃわない?  あんなに苦労して就活した会社だよ。そこまでの覚悟ができるくらい本気ならいいかもだけど……」 「じゃあ、その先輩は何なの一体?」 「先輩は私にとって、社内のオアシスってとこかなぁ。ぶっちゃけ、推しだね。それ以上でもそれ以下でもない!」 あくまでも恋愛感情ではないと言い切る紗英に、美奈が呆れた溜め息を吐いている。コイバナだと思って真剣に聞いていた時間を返せと、紗英にクレームを入れ始める。「だってほら、大学ん時だってバイトとかサークルで付き合い始めた子とかいたけど、別に上手くいってる内はいいよ。でも、結局別れるってなった時、必ずどっちかが来なくなってたもん」 「まあ、普通はそうなるなるよね。たまに平然としてる人達もいたけど、周りが変に気使わされて大変なやつ」 「そうそう。学生の時はそういう後々のことは考えず行動しても何とかなったでしょ。気マズかろうが、どうせ卒業したら会わなくなるんだしって。でもさ、今はそういう訳にもいかないじゃん」 「……確かに、どっちかが辞表出すまでずっとだよね」 就活をやり直すリスクを冒してまでは踏み込みたいとも思えないと、ついさっきまであんなに惚気ていたとは思えないほど紗英がドライに語る。社会人になって見た目と同じくらい、恋愛観までがらりと変わったみたいだ。「でも、うちの会社って意外と社内結婚が多いらしいんだよねー」 信じられないと言いたげに、紗英が眉を寄せながら言う。「やたら懇親会的なのが多いから、そういうので距離が縮まるのかなぁ。大抵はどっちかが辞めて、どっちかが残ってるって感じなんだけど。結婚しても旧姓のままだったりす
Terakhir Diperbarui: 2025-04-17
Chapter: 第三十七話・アフターファイブ
「あ、こっちこっちー」「沙月、おっそーい」 通っていた大学通りの馴染みの居酒屋。駅前でよく見かけるチェーン店だ。アルバイト店員の中にはどこかの講義で一緒になった記憶のある後輩の顔をちらほら見かけた。学生の時から住み続けているマンションが近いという理由で、この店を指定したのは紗英だった。 卒業式以来ずっと会ってなかった紗英は、当時とはメイクもがらりと変わって随分と大人っぽくなったように思えた。美奈と共に同じゼミで、学生生活の大半を一緒に過ごした紗英はアパレルメーカーの勤務。第一志望は出版社で、ファッション誌の編集をやりたかったみたいだけれど、あまりの高倍率に断念して、紹介する側ではなく作って流通させる側に回ることにしたらしい。「ほんと、咲月は全然変わらなくて安心するー。見てよ、紗英を、また初めて見るバッグを持ってるんだよ。こないだ通勤用って言ってたのとは全然違うし。バッグばっかりどんだけ買ってるのよ?」「えー、社割社割! でも、新作が出たらつい欲しくなっちゃうんだよねぇ」 洋服こそビジネスカジュアルを意識してはいるものの、咲月は卒業祝いに敦子からプレゼントして貰ったバッグを通勤用にしている。落ち着いたブラウンの合皮のトートバッグは中の仕切りが多くて使い勝手がとてもいい。自立タイプだからデスクの下に立ててしまえるのが気に入っている。 ただまあ、敦子セレクトだからデザインが大人っぽ過ぎるのは確か。でも、ブランドに詳しい人なら分かるらしく、初めてオフィスに持って行った時、笠井から「あら、そのバッグ素敵じゃない」と褒めて貰えた。「もしや、これも例の彼のデザインとか?」 美奈が揶揄うように紗英の顔をの覗き込んでいる。先に飲み始めていた二人は、すでに目元がほんのりと赤らんでいた。テーブルの上には半分以上を飲み終わっている酎ハイの中ジョッキ。向かいに座る美奈の言葉に、紗英は照れ笑いを浮かべ始める。「え、例の彼って何のこと?」 ジャケットを脱いで壁のハンガーに引っ掛け、美奈の隣の席に座りながら咲月が二人の顔を交互に見る。どうやら自分が来る前にすでに何か面白い話が出ていたらしい。美奈達はクスクスと笑い合って、妙に盛り上がっている。「同じ会社のデザイナーさんなんだってー。四つ上だったっけ?」「そう、デザイン部にいる先輩。展示会とかで一緒になったりするんだけど、
Terakhir Diperbarui: 2025-04-09
Chapter: 第三十六話
 聞かなくても分かっている。咲月のことは顧問弁護士の敦子から預かっている子くらいにしか思われていないってくらいは。それでも聞き返してしまったのは、別の答えが返ってくるのをどこかで期待していたからだろうか。無意識の台詞に、自分自身が一番驚いていた。 ――あれっ、私、何言ってんだろ……? そんなこと、社長に聞く必要なんてないのに……。 さっきの甘えた言い方は、咲月のことをただ揶揄っただけだ。年上で大人な彼からすれば、咲月なんて本気で相手にするはずなんてない。笠井や七瀬に比べたら、咲月なんてまだまだ子供でしかないのだから。  そう頭では理解しているのに、咲月は胸の鼓動が早鳴るのを抑えきれなかった。揶揄いの言葉にさえ、心が大きく揺すぶられるのを感じる。こうなるのが分かっていて、あんな風に思わせぶりなことをわざと言うなんて、羽柴智樹という男は何て意地が悪いんだろう。 そんな咲月の隠れた動揺を打ち破ったのは、社長室扉を叩く音だった。コンコンと二度のノック音の後に、平沼の困惑した声が聞こえてくる。「失礼します。社長、ちょっといいっすか? 七瀬さんがやっぱ社長にも同席して欲しいそうなんすけど……」 小松絡みで相談に来たという七瀬が、羽柴も一緒に話を聞いて欲しいと言い出しているらしい。この事務所では小松の仲介者だった平沼が担当していると伝えたみたいだけれど、彼女はどうしても羽柴社長もと聞かないようだった。  彼女に取って、小松の件は都合の良い言い訳に過ぎない。過去に逃した魚を再び追いかけるのに丁度良いキッカケだったのだろう。笠井の予想では、独立の可能性が立ち消えた彼女の夫は、早い内に見限られて捨てられてしまうに違いない。 そんな女の冷酷な策略を知ってか知らずか、平沼は呆れるような溜め息を吐きつつ、客人の様子を報告してくる。「うちはもう小松の案件はとっくに対応済みだから、社長に出てもらうようなことは無いって言ってるんすけどね。向こうのことを相談に乗って貰いたいとかなんとか――」 「渡せる情報は渡してあげたんだよね?」 「はい。うちがどう対応したかは伝えました」 「じゃあ、こっちで助けてあげられることはもう何もない。他所の事務所のことにまで口出しはできない。他に何かあれば、七瀬――ああ、彼女の旦那の方に連絡するようにするって言ってくれるかな」 さっきとは打って変
Terakhir Diperbarui: 2025-04-04
Chapter: 第三十五話
「咲月ちゃんは、笠井さんと一緒に行きたかった?」 ソファーテーブルの上の書類を片付けている咲月へ、羽柴がボソボソと遠慮がちに聞いてくる。さっきの笠井からの誘いに横から口を挟んでしまったことを大人げなかったと気にしているみたいだ。 咲月はちょっと首を傾げて悩むそぶりを見せた後、小さく笑いながら答える。「いえ、合コンって聞くとあんまりなんですけど、いつも笠井さんが何食べてるのかには興味があっただけです。なんか、凄いお洒落な物を食べに行ってそうじゃないですか、笠井さんって」 毎日のように外で昼食を取る先輩。きっと行きつけのお店とかも沢山あるんだろう。笠井も一人暮らしだったはずだけれど、どうやり繰りすれば毎日外食が出来るのかも教えて欲しいくらいだ。社員になってからも咲月はコンビニに頼り切りなのに。 咲月の能天気な答えに、羽柴はふっと小さく鼻で笑っていた。そして少し考えていたみたいだが優しく微笑み返す。「そうか、咲月ちゃんはそういうのに興味があるんだね。じゃあ今度、とっておきの店に連れていってあげる」「え……?」「君と一緒に行きたいとずっと思ってる店があるんだよ」 羽柴がさらっと口にした言葉に、咲月は思わず窓際のデスクを振り返り見る。「それとも、俺のお勧めでは物足りない、かな?」「あ、いえ、そんなことは……」 大きなモニターで隠れた羽柴の顔が、今どういう表情をしていたのかまでは見えなかった。ただその言い方がとても社交辞令とは思えなくて、しかもさりげない色気を帯びていて、咲月の胸はドキッとした。 ――今のは、会社のみんなで行くってこと、だよね……? 子ども扱いされるのに慣れてしまっているせいか、上司の真意が読み取れない。余計な勘違いをして恥をかくのも嫌だと、咲月はわざと無邪気に笑って応えた。このオフィスで一番年下なのだから、多少は頭の弱いふりしても許して貰えるだろう。この場はキャラに無いぶりっ子声で誤魔化してしまうのが一番に思えた。 自分のデスクに戻って椅子に座りながら、あくま
Terakhir Diperbarui: 2025-03-30
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