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設樂理沙
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Novels by 設樂理沙

『願わくば……』

『願わくば……』

       そんじょそこらではお目にかかれないほどのきれいな顔を持つ夫は これからは妻だけに尽くすと公言。はぁ?                 ******** 夫はアラ還を前に妻に対して外に向けてもこれからは妻だけに 尽くすと公言。ずるい男、今になって。 さんざん今までいろんな女性と付き合ってきた夫の言葉。そんじょそこらではお目にかかれないほどのきれいな顔を持つ夫は、独身時代もそして結婚して既婚者になってからもすごくモテた。 そんなイケてる男とその妻の行く末を描いてみました。
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Chapter: 第67話 ◇晴れて恋人同士?になれたその後で2[完結]
67(番外編) お互いの気持ちを確認し合ったことで葵は前にも増して 軽やかに西島と接することができるようになった。 自分の気持ちに素直に……。 心の中で毎日『大好きです』の言葉を西島に送るようになった。  日によってそれは『大好きっ』だったり『大好きなんです』だったり、 『何でこんなに好きになっちゃったんだろう』だったりその時々の気分で 変わる。             ◇ ◇ ◇ ◇ 程よい距離感で付き合って3年の月日が流れた。  西島さんへの好きの気持ちはちっとも減らなかった。           一緒に暮らすことの怖さや不安よりもたくさん側にいたい気持ちの方が 勝るようになっていった。  七夕の日に『西島さんの奥さんになりたい』と書いて、差し入れの おかずを入れた容器の上にカードを貼り付け、袋に入れて何も 言わずに西島さんにいつものように手渡しした。  いつもだったら次の差し入れ時に、洗ってある前の容器を受け取って 帰るのだけれど、今回は翌日の朝一番に西島さんが家まで届けてくれた。  「ご馳走様! おいしかった。」   いつもの笑顔で西島さんはそう言ってくれた。 早朝届けてくれた容器を紙袋から取り出すと、わたしが願い事を 書いた短冊の裏側が同じように貼り付けられていた。  そこには西島さんからのメッセージが書かれてあった。―― もう僕は3年前から願っていました。  こちらこそ、僕の奥さんになってください。――   たった2行だけれど、そのメッセージが私に  最高の幸せを運んでくれた。   ずっと待っていてくれた西島さんも私の願いを読んだ時 今の私と同じように幸せを感じてくれたろうか!「じゃあ、行って来ます」 「わざわざ届けに来てもらってありがとう!  行ってらっしゃい」  私をもういちど振り返り、西島さんは職場に向かった。                  ―――― Fin. ――――
Last Updated: 2025-04-26
Chapter: 第66話 ◇プロポーズ、お受けします
 66『大好きな男性《ひと》と結婚して奥さんになって、楽しくて幸せな家庭を作るのが私の夢だった。 きっと女性なら皆《みんな》そうだと思うけど。 本気で向き合ってもらえてるんだぁ~って、再確認できて本当にうれしく思います。 ただ、元夫との長い結婚生活でかなりの人間不信になってしまってちゃんとした夫婦で居続けるということが……信じ続けるっていうのかなぁ、上手く言えないけど……人間社会での生きていく上での約束事にもう縛られたくないっていうか。 裏切られることが怖いんだと思うの。西島さん、私はあなたのことが好きだしずっと側にいて仲良くしていきたいのでこれからも宜しくお願いいたします。 プロポーズ、お受けします。 私も遊びなんかじゃないです。でも、仲の良い友人、恋人、この関係のままがいいような気がするので……どうでしょ?だめですか?』 「やっぱりね、そんな気がしてた。でも気持ちの上でのプロポーズは受けてくれて、ほっとしたよ。 こちらこそ、ありがとう。今の関係でこのまま仲良くしていけたらよいね。 でもいつか、君の中で入籍をしたいと思う日が来たらその時はちゃんと僕に言ってほしい」 『ありがとう、そうします』 今日は西島さんから私たちの気持ちを確認するようにリードしてもらってうれしかった。 私への気持ちが本気だと言われて、やっぱり女性として感激してしまった。 心から甘えられる恋人がいるって最高。 こんなおばさんになって、素敵な出会いが2つも訪れるなんて自棄を起こさずに生きてきて良かった。
Last Updated: 2025-04-26
Chapter: 第65話 ◇晴れて恋人同士? になれたその後で
65 . 番外編   毎晩、葵は僕に『大好きだよ涙が出るほど』って言うんだ。 そして、やさしく撫でてくれる。 ミーミがいつも『私は? ねえ、私は?』って葵に言う。               そしたら葵は『いい子だね、可愛いね、ミーミおいで~』ってミーミを抱っこするんだ。 にゃぁー『どうして大好きって言ってくれないの?』ってミーミが泣く。 僕は葵にとって特別な存在らしい。 葵の手はやさしくて、暖かい。 僕も葵が好きだ。 『にゃぁー』ってミーミが泣くと、僕はミーミのことをたくさん舐めてやって『いい子だね、大好きだよ~』って言ってやる。 そしたら、ミーミは落ち着くんだ。 最近、西島っていう人がちょくちょく家に来るようになった。 仲良さそうにしているけど、葵が西島さんに『大好きだよ』って言うのは、まだ聞いたことがない。 もしかして、どこか余所の場所で言ったりしてないだろうか!                                   ◇ ◇ ◇ ◇ 「質問と言うか、提案と言うべきか君と意思確認しておきたいと思うことがある」 西島さんはそう言ってきた。 たぶん、あのことだと思った。 真面目な彼のことだからきっと……。「君との付き合いは遊びじゃないから、それをちゃんと証明する意味で確認したいことがあるんだ。 君さえOKなら、入籍してもいいぐらいには本気だ、君とのこと」「ありがと、そう言ってもらってとってもうれしいぃ~。 それって、プロポーズだよね? 違ってたら恥ずかしいけれど』 「いや、違ってなんかなくてその通りなんだけど。あぁ、今更この年で恥ずかし過ぎて、直截的な言いまわしは使えない……と言うか、断られるような気がして。 お伺いのような聞き方しかできないでいるのが、正直なところかな。 君も僕と一緒で遊びでこういう付き合いのできる人だとは思えないけど……でも、結婚を望んでの関係じゃないような気もするしで、できれば君の思っている気持ちを知りたいっていうのが一番。どう? 僕の勘は当たらずとも遠からずではない?」 
Last Updated: 2025-04-26
Chapter: 第64話 ◇素晴らしき人生が……
64 (最終話) 普通は離婚したことなんて誰も進んで言いたがるようなことじゃ ないよね?  だけど、私は気が付くと畑に向かって走っていた。 実際は自転車に乗ってたんだけども。  気持ち的には、自分の足で走っていたのだ。 とまれ…… 畑に居るその人に一番に伝えたくて。  離婚が成立したことを西島さんに報告した。  西島さんにとって私が離婚したことなど取るに、足らないことだと 分かっていてもどんなことでもいいから何か彼からの言葉が 欲しかったのかもしれない。  私は風が草花を揺らし続ける静寂の中でその時《彼の反応と言葉》を待った。 そしたら、早速西島さんからデートに誘われた。  デートと言い切るには、私の勝手な妄想が随分と入って いるのだけれど。  「じゃあ、今まで遠慮してたのですが、今度雰囲気の良いお店に 飲みに行きましょう。 帰れなくなったら、私の家に泊めてあげますから」     「ありがとうございます。 ぜひ、お供させていただきます」 そう返事をしたあと、私は畑で西島さんの姿を時々視界に入れつつすぐ いつものように作業をし始めた。  自然が醸し出すきれいな空気と、愛でている野菜たちが 閉じ込めようとしても出て来てしまう照れくささをすぐに 取り去ってくれるから。     心から湧いてくる喜びに私は浸った。うれしいお誘いがあって ……好きな人から誘われて  …… Happyな気持ちになって  ……   私と西島さんは、もちろん将来を約束している恋人同士ではない。 そんな決まりごとの関係なんて、くそくらえだ!  刹那的と言うのは例えが重苦しいからアレだけど、その一瞬々を 思い切りお気に入りの人と楽しく過ごすって何て素敵。 家に帰ったら絶対彼氏のコウと愛娘のミーミが待っててくれて 必ず~おきゃえり~にゃぁさぁ~い~って出迎えてくれる。 I Wish 私が願ってやまなかった幸せがすぐ側にある。 Happy Life...... 素晴らしい人生がI Love People... 愛お し い人たちが I Love My Cats.. そして愛しい猫たち  ――――― Forever ―――― ※番外編へと続く→ 65話66話67話
Last Updated: 2025-04-25
Chapter: 第63話 ◇小山内(おさない)葵に戻る
63. 興信所の調査に貴司は落胆を隠せなかった。               きっと、何も事情を知らない調査員がこんな姿を見たら さぞかし不思議がったことだろう。  結果がクロなら分かるが、シロで落ち込むなんて日本中探しても 確実に自分くらいなものだろうから。  ここで往生際の悪いことをしてもどんどん自分だけがドツボに 嵌っていくであろうことはすでにこの頃、貴司は自覚していた。 結局自分だけは不倫や浮気で離婚された悪友たちの二の舞は 踏むまいと先手を打ったものの、ただの足掻きでしかなかったのだ。 どんなにこれからも葵と一緒にいたいと願っても……2度と 葵がこの家に、自分の元に、戻って来ることはないのだ。  葵のいないこれからの生活など貴司には想像もつかない。  今更何をと言われようとも、まだまだ心の整理が必要だ。             ◇ ◇ ◇ ◇  夫の貴司と会い離婚を突きつけてからほどなくして あっさりと離婚が成立した。  今後私が困らないようにと、財産分与に追加して今までの お詫び料だと言って更に上乗せした分を夫が渡してくれた。                お金に汚い人でなかったことが救いだ。  年金分割も同意してくれた。  円満に話が進んだので、今後は息子たちの親という立場で スムーズにお付き合いできるのかな? と考えている。 『まっ、こればっかりはしようがないものね~』  夫から役所へ離婚届を出したと連絡受けた後、私は大きく深呼吸した。 この日をずっと待っていた。 長かった。  苦しかった。  切なかった。 そして……ようやくすっきりした。  私は小山内(おさない)葵に戻った。
Last Updated: 2025-04-25
Chapter: 第62話 ◇あなたが一番と言ってくれた妻
62.遡って仁科貴司が初めて葵の様子を見に畑を訪れた日のこと。 男の自分が見ても水も滴るいい男。 醸し出すオーラからして違っている葵の夫が少し離れた 所に居る。 葵の夫仁科が来た時、たまたま道具と水を取りに行ってた 自分は、2人からはかなりの距離があった。  ふたりの遣り取りの雰囲気から、その場にはいない存在に なるよう努めた。  視界の端でその男を見た瞬間、知らぬ間に昔の思い出の中に ワープしていた。  その場面は子供が幼かった日の運動会で西島の今は亡き妻もいた。 仁科貴司が息子たちを伴って妻である葵と歩く姿を目にすると 余所の奥さんたちは色めきだった。  その様子を見ながら西島の妻は、私はあなたが一番と言ってくれた。 そう言われてうれしかったことを思い出した。  だがあの時、自分は冷静に考えた。 しかし、そんなふうに言ってくれる妻だってどちらに対しても 初対面で、自分かあの男かを選べと言われたなら、きっとあの男を 選ぶだろうと。  それが当然と思えるほどに、仁科は魅力的できれいな男だ。  それでもだ、余所の女房連中がキャーキャー騒ぐ中、あなたが 良いと言ってくれた愛しい妻が偲ばれた。   葵さんも独特の雰囲気を持つ、キュートな女性だ。一切毒のない女性で、派手に着飾って美貌をアピールする でなし、夫の横にいても高慢に振舞うでもなく、しとやかで 清楚な雰囲気を纏い、素敵に見えた。 あの少し毒さえあるような男には、派手で彫りの深い顔に 厚化粧をしているような美人が似合いそうなせいか、皆 奥さん連中は血迷い、 もしかしたら、あのきれいな男の横にいたのは私だったかも しれないと、勘違いしていたのだろう。  そんな雰囲気が彼女たちの言葉や態度から見てとれた。 その様子におかしいやら、あきれるやらしていたのを ふと思い出した。             ◇ ◇ ◇ ◇  昔の思い出に浸っていたらいつの間にか、葵と貴司の姿が 見えなくなっていた。  仁科貴司はやはり今夜、葵の暮らす家に泊まって いくのだろうかと思った。  昨日は葵からお好み焼きの差し入れがあった。  自分の好きな豚肉がたくさん入っていた。 たくさん持って来てくれていたので、今日はみそ汁を付けて 食べるとするか。 手作りのお
Last Updated: 2025-04-25
『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦

『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦

幼馴染みでもあり、従兄妹という繋がりもある  大好きな人との結婚を夢見ていた花。  その願いが一人の悪女によって 打ち砕かれてゆき、  花の心に大きな傷跡を残す。もがきながらも新しい  人生に船出をし、さまざまな人たちの狭間で揺れながら  幸せへの道に辿り着く、そんなstoryになっています。 登場人物 ◉掛居 花 27才 主人公  向阪 匠吾 27才 花の婚約者   島本玲子 29才 悪女  島本蘭子 32才 玲子の姉  金城信也 32才 蘭子の恋人  井出耕造 41才   宅麻士稀       29才 若き医師  内野歌子      25才 看護師  相馬綺世       30才 現場監督      相原清 史郎    32才   槇村笙子      29才 ◉魚谷理生      31才  遠野理子        24才  小暮ゆき 26才  雨宮洋平       33才   星野倫子    29才  宮内隆         33才  柳井寛    33才      
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Chapter: ◇恋しくて 168 (完結) 
168 (最終話)   この真鍋のアプローチと花の様子を何気に伺っていた人物がいた。 掛居が相馬とはもう付き合ってないのでは? という噂がまことしやかに流れ、ご多分に漏れずこの噂を相原も耳にすることとなったのだが、それでも相原はまだ懐疑的だった。 だが掛居が他部署の真鍋とどうも付き合っていると聞き及び、ここで初めて彼女が本当に相馬と付き合っていないのだと確信できたのだった。 あの日以降、彼女に何も自分は聞かず一方的に接触を断ってしまった。 そしてそんな自分に対して彼女の方も何の反応も返して来なかった。 だから、そういうこと《相馬と付き合ってる》なのだとすっかり思い込んでいた。 このまま、いまのままではいずれ彼女は誰か他の男のモノになってしまうのだ。 それは嫌だ。 グルグルこのような考えを巡らせているうちに気が付くと足が勝手に彼女のマンションまで来ていたようで、目の前にマンションが見えた。          ◇ ◇ ◇ ◇ その後しばらくマンションの前で佇む男の姿があった。 男はオートロック式の一階にある玄関……の中に住人と一緒に入り、花の部屋の前まで来るとインターホンを鳴らした。「はい、ぁ……」「ご無沙汰……雨が降ってきて、あの、傘貸してもらえないだろうか」 インターホンの画面に相原の姿を見て、花の心臓がドクンと跳ねた。 何も考えられずに急いでドアを開ける。「少し上がってもいいかな」「……傘……は?」「ごめん、雨降ってない」「じゃあ……」「会いたくて来た」          ◇ ◇ ◇ ◇「今頃? どうして?  今まで私のこと放っておいてなんでいきなり来ちゃうの。 私はもう会いたくない」 そう言い放つ目の前の掛居は唇を震わせて泣いている。「急に会いに来なくなってごめん。 連絡もしなくてごめん」「謝らなくていいです。 私たちは正式な交際をしていたわけじゃなくて、ただ会いたい時に会っていただけの関係だし、元々流されて仲良しごっこをしてただけ。 だから今の私はもう個人的には相原さんとは会いたくないので帰って下さい」 泣きながら自分の意志を伝えて来る掛居を相原は一歩近づき抱き締めた。「折角仲良くしてもらってたのに勝手に離れてしまって、ほんとにごめん。 好きなのに君を傷つけてごめん……。
Last Updated: 2025-05-28
Chapter: ◇デートに誘ってくれた人 167
167       デートに誘ってくれたその男性《ひと》は、やさしそうな人に見えた。 それで花は、今の何かを打破したくてデートに応じることにし、 出かけて行った。 しかし何度か彼とのデートに出掛けたけれど、つい相原と比べてしまう 自分がいて、心癒されない自分に気付き自己嫌悪に陥るのだった。           ◇ ◇ ◇ ◇  掛居とのデートは話も合うし楽しかった。 だが、彼女が自分との逢瀬を100%楽しんでいるようにはどうしても 思えず、自分の誘いを断り切れず無理をしているのではないだろうかと 真鍋は思うようになっていった。  まだデートといっても近場で3回ほど会った程度だが、 社内ですれ違ったりする時はお互いアイコンタクトを取る。 それでその日も昼休みが終わりそうな時間に視界に彼女が見えたので 挨拶だけして席に着こうと思っていたら派遣の遠野さんから『夜間保育どうして辞めちゃったの?』 と彼女が問い詰められているところに遭遇。  彼女が何やら説明して遠野さんから離れて行ったんだが、 なんて答えたのかは聞き取れなかった。 それでつい気になって遠野さんに訊いてしまった。「えっと、聞くつもりじゃなかったんだけど、掛居さんって 保育所でも勤務してたの?」「そうなのよ。  保育士の芦田さんと凛ちゃんに気に入られてね。 あっ、凛ちゃんって相原さんの娘さんのことね。 なんか掛居さん、相馬さんとペアの仕事もなくなるし、あんなに 可愛がってた凛ちゃんがいる保育所の夜間保育も辞めちゃうしで…… 彼女今ちょっと、なんだろう……なんて言えばいいのか、言い得て妙な言葉 が見つからないけどまぁ、今までが充実し過ぎていたから淋しいと思うんだ けど、保育所は辞める必要ないと思うのよ。  だけど知らないところで何かあったのかもしれないわね」  俺は丁寧に説明してくれた遠野さんに礼を言って席に着いた。 俺とのデートでは楽しそうにはしているが何ていうんだろう、気持ちは 俺にないって感じ? 相原さんとのことは今までどんな関係だったのか皆目分からないし、 相原さんが心ここにあらずの原因なのかどうかもも分からないけど、 俺は次のデートではっきりさせることに決めた。          ◇ ◇ ◇ ◇   何度目かのデートの折に、
Last Updated: 2025-05-28
Chapter: ◇しがらみ 166
166       相馬さんの異動の知らせと、やっぱりというか、異動後相馬さんと掛居さんが付き合うことが決定してるという噂がまことしやかに流れてきた。 社内はその噂で持ち切りだった。 ちぇっ、告白する前に失恋だな、こりゃあ。 やっぱり掛居さんも相馬さん狙いだったかぁ~。 様子見してたせいで『セーフ』と俺は独りごちる。 やはり様子見って大事だよな、はぁ~。 だけど不思議なことがあった。 相馬さんが実際の異動でいなくなるまで引継ぎとかがあるのでふたりは今まで通り机を並べて仕事をするのかと思えばそうではなかった。 掛居さんが別の場所へ席を移動させてしまった。《飛んでイスタンブールしてしまった》 周囲は移動させられたと思っていて相馬さんを慰めたりしているが、そうではない。 人事に親しくさせてもらっている先輩がいて、こっそり教えてもらったのだが掛居さんの意志でということらしい。 相馬さんとの仕事にやりがいを見出し頑張っている中でのいきなりの異動に彼女はかなり怒っていたらしい。  だけど、だからって普通席の移動なんて一社員の気持ちだけでできるもんじゃないだろ。 それを先輩にぶつけたら『世間なんて奴は……企業なんてヤツは……いろいろしがらみがあるんだよ』としか教えてくれなかった。 これで掛居さんが普通の社員でないことだけはなんとなくだけど分かった。誰か役員繋がり《縁故》の入社かもしれないと。 そんなこんなあって、相馬さんが異動先に行くまでの間、ついぞふたりが並んで親し気に談笑する姿を見ることは叶わなかった。 何より掛居さん自身が相馬さんとのことは根も葉もない噂だと火消しに回ったのでふたりが交際するとか結婚するとかの噂はすぐに鎮静化した。 念の為、相原さんとの接触はないのかとその後しばらく様子をみていたけれどそんな素振りも見受けられず、これでようやく出張っていっても少し可能性があるかもと思えたため、俺は掛居 さんにデートを申し込んでみた。 
Last Updated: 2025-05-28
Chapter: ◇三角関係 165
165    ところがある時、ン? と思うような現場に出くわすことになったのだ。 それもなんというか、どうしてこんなややこしいシチュエーションで 出くわすかなぁ~というような。 ある日のこと……帰りが相馬さんと同じ時間帯になり、声を掛けようと したら相原さんが娘ちゃんを抱いて出て来て、そのあとからすぐに掛居さん が続いて出て来て……それをひっそりと眺めている相馬さんがいて、 ブルブル。 何気に俺は相馬さんに声かけられなかったんだよね。 おかしいだろ?   何もないんだったらさ、相馬さん掛居さんに声かけるだろ? 『よぉ』だとか『お疲れさん』とか。 だって少し離れてたけど目の前だぜ。 掛居さんの前に相原さんが出て来たっていう状況がなければ絶対何がしか 声を掛けてただろうと思うんだよな。 それでますますおかしいのがそのまま帰宅するなら出入り口を右に行く はずなんだけど相馬さんは駐車場のある左手へ、そう相原さんや掛居さん が向かった左手方向へと出て行ったんだ。  その時俺の脳は瞬時に閃いた。  三角関係~になりそうなのか、という発想が。 あ~あ、やばいかも、益々俺の出番がぁ~ァ、 |アモーレミオ《無意味な言葉遊び》。なんのこっちゃ。 俺は彼らに気付かれないよう、大股、大急ぎで右折右折で そのあとは前進あるのみ。 駆け足で社屋から離れましたとも。 もしかすると自分はトンデモない光景を見てしまったのかもと、 就寝するまでの間やきもきして過ごした。 とにかくその後も忠実に以前より決めてある行動を……様子見、 ひたすら様子見隊であった。 結局全くの部外者の自分に3人の関係性なんてわかるはずもなく そのままひたすら様子見の日々を過ごした。 永久に様子見隊かも、などと思っていたがある日 その日《決定的な日》がきたー。
Last Updated: 2025-05-28
Chapter: ◇新たな恋人候補 164
164  2月末日に辞令が下り、2週間後に相馬は新しい部署に着任した。 相馬の異動が決まり、それに伴いまことしやかに流れた相馬と自分との噂に、やはりというか、その日を境に相原からの誘いはピタっとなくなってしまい、花は寂しくてたまらなかった。 思っていた以上に心地よい相原との関係に依存してしまっていたようだ。 相原のことを好きなのだと気づかされもした。 けれど、どうすることもできず、時間だけが過ぎてゆく。 そんな中、花は夜間保育も辞めさせてもらい、社内でもなるべく相原には近づかないようにしていた。 それは自分の心を守る術でもあった。*春がきた* 春になり、新しい月が訪れ、桜見物の頃になると、花が相馬と付き合ってはいないことなどが周囲にも知れ渡るようになり、今までは相馬の存在があったことで言い寄ってこなかった他部署の真鍋祐貴という一つ年下の男性《ひと》から花はデートに誘われることになる。          ◇ ◇ ◇ ◇ 真鍋は相馬付になった掛居花のことがしばらくして気になる存在となった。 だいたいが相馬綺世のようなデキる美男子と仕事を組むとなると、大なり小なり女を出す女子社員が大半なのに花は全く違って見えたからだ。 これまでに辞めていった女子社員や遠目からいつも相馬のことを注視しているような女子社員と同じように相馬の彼女になりたいだとか、そこまでいかなくともなんとかして近づきたいとかというような、所謂下心というものを花の中に見てしまっていたら真鍋はそこで花に対する興味を失っていたかもしれない。 しかし、だからといってデートに誘うとか告白するとかをするつもりはなかった。 花は午前中は相馬とその日の打ち合わせに熱心で、その後は仕事に邁進、そして時々相馬に呼ばれてブースに入ると熱心に相馬とディスカッションをする。 それとなく何気にふたりのことを注視している周りの社員たちの前で繰り広げられるそんな光景は日々のルーティンとなっていった。 2人の関係は今日も順調だ。 ……ということは仕事だけの関係性で恋愛感情を持ち込んではいなさそうだなと確認をし、皆またその日自分たちの仕事に彼らふたりがそうであるように真摯に向き合うのだ。 おかしな話ではあるが周りをそんなふうに元気づけてくれるのが相馬と掛居 の《どうし
Last Updated: 2025-05-27
Chapter: ◇伝家の宝刀を抜く 163
163「相馬さん、私相馬さんと二人三脚での仕事か充実していてすごく楽しかったです。 あと、最低でも2年は一緒にお仕事したかったです。 そしたらもっと相馬さんのこと、知れるかななんて思ってました。 でも今相馬さんがいなくなってしまったら、もう相馬さんのことを知るチャンスはなくなります。 相馬さんへの返事にはもっと時間が必要でした。 相馬さんが異動願いを出した時点でこのお話はGame Overなんです。 交際はできません。ごめんなさい」「いやいや、ちょっと待って。 勝手に異動願いを出したことは姑息だったと思うけど、俺の気持ちも分かって。 早く掛居さんと付き合いたかったから……だから」 私はいろいろ言い訳する相馬さんに深々とお辞儀をし、ブースから退出した。 私はこれまでのことを上司に話し、相馬さんが公私混同をし、自分《花》の仕事環境への配慮を怠り、自分を混乱させているということを訴えた。 またその際、自分が向阪茂の孫であることも話した。 伝家の宝刀を抜いたのだ。 その上で明日から相馬が異動のための引継ぎをする間、自分は関わりたくないので席の移動も兼ねて他の人の仕事補佐に付けてくれるよう、頼み込んだ。 花は卑怯と言われても今後徹底的に相馬を避けることを選択したのだ。 相馬のことを軽く憎んですらいるというのに、明日からどんな顔をして相馬に向かえというのだ。 翌日からは同部署の端にデスクを移動し働くようになった花に、声を掛けたくても話し掛けるな全開オーラで声を掛けられようはずもなく、傷心の相馬はその後異動までの日々をひっそりとそして淡々と引継ぎ業務をこなした。 自分の知る物腰の柔らかかった花のスルーには肝を冷やすほどの強い拒絶の意志を感じた。 引継ぎの日々、何も知らない周囲の人間から『席が離れ離れで辛いわな、もうすぐ異動で職場が離れ離れになるっていうのに、上司は何やってんだか』と可哀想がられたりするのも、相馬には苦痛の種で、曖昧に笑ってやり過ごすしかなかった。
Last Updated: 2025-05-27
『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―

『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―

知紘と仲良く暮らしていた美鈴の結婚生活に暗雲が立ち込める。 いとも簡単に美鈴との絆を断ち切った夫・知紘。 悲しみと共に困惑するやらで、ネガティブになってしまう 美鈴の前に救世主が現れる。その人は金星からやって来たという 綺羅々だった。どうして、私にやさしくしてくれるの? よその女性に現を抜かす夫の知紘に見切りをつけ、亡き祖父母 が住まっていた古民家へと移住する美鈴。そこで偶然か必然か? 根本圭司という人物と知り合うことになる。 ふたりの男性と交流ができる美鈴の未来は、誰と? どこに? 向かうのだろう。 美鈴は過去世で金星にいた時、薔薇という名前で 存在しその時に嫉妬心に駆られた奈羅という女性から 嫌がらせを受けていた。
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Chapter: ◇告白したけれど 第93話  番外編-3  [ 完結 ]
93 「振られたな……」奈羅のことが好きだったと告白したのに、そこは完全スルーされ稀良は 落ち込んだ。 しばらく気持ちを落ち着けるために部屋に留まったが、そのあと奈羅に 続いて稀良も部屋を後にした。          ◇ ◇ ◇ ◇稀良には翌日からまた、研究漬けの日々が待っていた。 一日を終え、働き疲れ軽い疲労を抱えた稀良が白衣を脱ぎ捨ててドームの 長い廊下を歩いていると、顔馴染の摩弥《♀》に声を掛けられた。「調子はどう? なんかオーラが暗いよね」「分かってるなら訊くな」「落ち込まない、落ち込まない。今度あたしがデートしたげるからさ」「あー、ありがとさん」  「何奢ってもらうか考えとく」「おう」 軽い遣り取りをしているうちに2人はドームの外に出ていた。前方には彼ら2人の位置から5・6m先に奈羅が立っていて、明らかに 稀良を待っていたふうで、稀良に視線を向けているのが見てとれた。 「あらあら、もしかしてあの人が落ち込んでる原因?  じゃぁまっ、あたしはお邪魔虫にならないよう消えるわ。またねー」「あぁ、また」 稀良に手を振り離れて行く女と稀良を、奈羅は目をそらさずじっと 見つめていた。 そんな奈羅の元へ稀良が歩いて来て声を掛ける。 「俺のこと、待ってた?」「うん……」 「フ~ン。それじゃあさ、これからデートでもする?」「うん」らしくなく、乙女のように俯いて奈羅が答えた。ふたりは肩を並べ夕暮れの中、恋人たちや友達同士と、人々が賑わう街中へと 消えて行った。                ****綺羅々の懸念していたことは現実となり、奈羅に復讐するはずが何たること……。 綺羅々は稀良と奈羅の恋のキューピットになってしまったのだった。      ―――― お ―― し ―― ま ―― い ――――
Last Updated: 2025-04-28
Chapter: ◇合意 第92話 番外編-2
92 「おねがい、ほしいの……」この短いダイアローグ《DIALOGUE》が二人の合意となった。たわわでまだ瑞々しい魅力的な乳房にはただの一度も触れないまま、尻フェチの稀良は奈羅と結合に至る。ここで稀良は綺羅々のまま退場するのがいいだろうと考え、しばらくの間、彼女との快感の余韻に浸り、そのあと身体から離れようとした。だが、奈羅の動きの方が早かった。くるりと身体をを反転させたかとおもうと稀良を下にして、彼にキスの雨を降らせ始めたのだった。その内、稀良の胸や腹にもやさしい愛撫をしかけてきた。それでまたまた稀良のモノに元気が漲り《戻り》、今度は正常位でもう一戦、彼らは本能のまま快楽の中へと身を投じていった。大好きで長い間片想いをしてきた綺羅々と二度も想いを交わすことができた奈羅は幸せだった。「綺羅々、ずっと好きだった。だから、今あなたと一緒にいるのがまだ夢みたいよ」奈羅は自分の告白に無言のままでいる隣に横たわる男に視線をやる。男はベッドの上、上半身を起こした。その髪型とシルエットから奈羅はその人物が綺羅々でないことを悟り、愕然とする。「残念だけど、俺は綺羅々じゃない」「どうして?」「言っとくけど君がしてほしいって、ほしがったんだからね。そこははっきりさせとく。俺は前から奈羅のことが好きだったからうれしかったよ。俺たち体の相性もいいみたいだし、付き合わない?」頭の中真っ白で混乱しかない奈羅は、素早く下着を付け服を着る。稀良も話しかけながら帰り支度をした。互いが衣類を身に着けたあとで、奈羅はもう一度稀良に詰問した。確かに自分は綺羅々と一緒にこの部屋へ入ったはずなのに。いくら問い詰めても綺羅々の方にどうしても帰らないといけない用事があったため、綺羅々が|自分《奈羅》のことを稀良に託して先に帰ったのだと言う。自分は酔っぱらってはいたけれど、しばらくシャワーに入るという話もしていて、絶対当初この部屋にいたのは綺羅々だったはず。だけど、酔っていただけに100%の自信が持てない自分がいた。よもや、自分がした同じような手口で復讐されるなどと思いつきもしなかった奈羅は、綺羅々を責めるという発想は出てこなかった。このまま稀良といても埒があかないと考えた奈羅は、部屋に稀良を残したまま部屋を後にした。
Last Updated: 2025-04-28
Chapter: ◇稀良と奈羅 第91話 番外編-1
91 あまりの気持ち良さに奈羅は現世からどこか別の所へとしばらくの間、 意識を飛ばしてしまっていた。 意識が戻ったのは身体に別の快感を覚えたからだった。この時はまだうつ伏せ寝のままだったのだが、首筋から両肩、背中、腰と その辺りを行きつ戻りつ絶妙な力加減でマッサージを施していたはずの手の 動きに変化が あり、眠たくなるような心地良さから肉体的快感、性的感覚 を伴うものへと変わっていったのである。 奈羅は今の状況に歓喜した。ずっと綺羅々と性的関係になりステディな関係になりたいと思っていたからだ。 気付くと先程まで腰から下を纏っていたバスタオルが取り払われていた。綺羅々とバトンタッチした稀良が、しばらくの間は綺羅々と同じように マッサージしていたのだが、どうしてもバスタオルの下にある奈羅の下半身 を見てみたいという欲求に逆らえず、早々にバスタオルを取っ払って しまったのだ。 目の前に現れた形の良いぷるるんとした双丘に目を奪われ、 稀良は一瞬固まってしまった。 尻に釘付けになっている眼球に身体中の熱い血液が集中し 漲ってくるのが分かった。 もう今や、稀良の暴走しようとする勢いは理性では止められないほどに 高まっていて、手は豊満な美しい双丘を這っていた。 しばらく撫でまわしたあと、できるなら最初から触れてみたかった双丘の なだらかな斜面を下りきった所にある秘密の場所へと指を滑り込ませてい った。そして指の腹で秘所の周辺を撫で愛でていった。その時、奈羅の喘ぐような切ない吐息が漏れるのを稀良は 聞き逃さなかった。急いで稀良は身に纏っていた衣類を脱ぎ捨てマッパとなり、彼女の 上《背中》へと胸、腹とそれぞれをぴったりとくっつけた。そして首筋から肩、背中へと愛し気に愛撫を施していった。そして身体のあちこちに触れながら、一番施したかった場所へと口元を 近付けた。そこは双丘にある割れ目の根本であり、ぎゅっと両手で広げたかと思うと、 そこから舌先で秘所を弄んだ。すると、それに比例して奈羅の喘ぎ声が途切れることなく続いた。一応、稀良はジェントルマンなのでレイプ魔のようなことはしない。そんな稀良は奈羅の耳元で囁く。「していい?」すると奈羅が答えた。
Last Updated: 2025-04-28
Chapter: ◇Mission complete! 第90話
90 (最終話-番外編へと続く)「シャワー終わったよ。どう、君もシャワー行けそう?  それともこのまま朝までゆっくり寝とく?」 「私も行くわ。折角綺羅々との時間ができたんだもの。 朝までただ寝てるなんて有り得ない。待って、私もシャワー浴びてくる」 「急がなくていいよ。ゆっくりしておいで」           ◇ ◇ ◇ ◇「お待たせ……」「こっちに来て」俺はまだ足元のふらついている奈羅を抱き寄せる。 彼女の力が6割方抜けた感じだ。「まだ体がシャンとしてないだろ? うつ伏せにそのまま横になって。 マッサージして身体をほぐしてあげるから」「ありがと。綺羅々ってやさしいんだね」 自分がコナを掛けても冷たい反応しか返してこなかった綺羅々が部屋を とってくれて、その上抱かれる前にマッサージまでしてくれるだなんて 奈羅は幸せ過ぎて夢心地だった。 今夜のひと時が終わってもまだまだこの先も綺羅々との幸せな時間があり、 2人の未来があるのだ。 この時、奈羅は女の幸せを存分に味わっていた。 それを知ってか知らでか、綺羅々の手によって部屋の明かりが最小限に 落とされ、濃密な部屋の中、淫猥な空気が流れ始めるのだった。綺羅々は奈羅の巻かれただけのバスタオルを背中越しに腰の辺りまで ずり落とし、丁寧なマッサージを施し始めた。そして15分経った頃、後ろに控えていた稀良と絶妙なタイミングで 入れ替わった。相手は酔っている上にマッサージの施術で全く気付いていないようである。綺羅々は稀良に親指を立て、ゆっくりと静かにその場から立ち去った。 『くだらない方法だけど、仇はとったよ薔薇』 綺羅々は今いるラボ《研究所》は辞めて別の場所を探すつもりでいた。 心機一転、研究もプライベートも一から立て直そう。そう心に誓い、いろいろあったハプニングに別れを告げ、 夜明け前の人通りの少ない静謐な空気の中へと溶け込んでいった。
Last Updated: 2025-04-27
Chapter: ◇お泊り 第89話
89 「わぁ~、あたし、どうしよう。酔っぱらってきちゃったー。 もう飲めないよ。私の代わりに綺羅々飲んで」 「はいはい、何言っちゃってるんだぁ~。天下の奈羅様が。 もっと飲めるだろ? はーい、どんどんいっちゃって」 「きついって」 そう言いながら俺がコップに酒を注ぐと奈羅は上目使いに俺のことを 見つめて、グイっと酒をあおった。 『いいぞー、その調子だ。ドンドンいけー。何も考えずガンガン飲めー』 見ていてもかなり酔っているのが分かる頃、俺は悲し気に言った。 「俺、薔薇のことが好きだったんだよね」「ん? 薔薇は……だけど薔薇はいなくなっちゃったんでしょ。 もう忘れなよ。あたしが慰めたげるからさ」 「そうだよね。ありがとーね、奈羅」「ふふん、どういたしまして」 『もうフラフラだな、コイツ』 「かなり酔ってるみたいだし、どこかで今夜は泊まって明日帰るとしますか」「はーい、さんせーい」 会計を済ませ予めとっておいたアンモデーション《宿泊施設》の 505号室に入室した。 入室すると同時に彼女はトイレに駆け込んだ。トイレの隣にある浴室を開けて確認すると稀良がちゃんと予定通り 待機していた。俺たちは改めてアイコンタクトを交わす。 「ごめんなさい、飲み過ぎたみたい。 でも、少しだけ横になったら大丈夫だと思うのよ」 「OK.じゃあその間、俺シャワーしとくよ。お先に」 俺は奈羅がベッドに横になるのを確認し、シャワールームに向かった。 実際にシャワーを浴びるのは稀良の方だ。 その間、俺はシャワールームの前で待つ。シャワーの音が止まるのを合図に上着をドア横のハンガーに掛け、 奈羅の横たわるベッドの側まで行く。
Last Updated: 2025-04-27
Chapter: ◇嵌めてやろうか 第88話
88    ―――――――― 攻略《罠》―――――――――俺はラボ内で奈羅を見つけ、飲みに行かないかと誘った。俺が真実を知っていて彼女を恨んでいるなんて知らない奈羅は、ノコノコとパブに1人でやって来た。「綺羅々が誘ってくれるなんて、あたしびっくりしちゃった。うれしー」「久しぶりだよね。あれから半年振りくらいかな。あんなことがあったのに俺、冷た過ぎたかも。何となく気になって連絡してみた。元気だった? もういいヤツ《彼》できた?」「う~ん、男友達は何人かできたけど、彼氏はまだかな」「じゃあ俺と酒飲んでも大丈夫かな」「勿論、誘ってくれてうれしかったわ」薔薇に酷い仕打ちをして悲しませた女が目の前にいる。俺は実りそうだった恋をこの女の罠でぶち壊された。今に見てろ! 俺の誘いをすっかり俺からの好意だと思い込んでいるこの勘違い女を驚かせてやろう。こんな女のこと……少しは驚くかもしれないが、さてどうだろうな。しばらくすれば落ち着きを取り戻し案外楽しむ感覚になるだけかもしれない。だが、俺に嵌められたかもしれないことはいつまでもこの女の心に残るだろ? それだけでもいいさ、何もしないよりは。つまらないことをしようとしている自覚は大いにある。俺は話題が途切れないようポツポツとだが奈羅に話し掛け、時間をかけた。何のって? 勿論、酒をどんどん勧めて酔い潰すためさ。
Last Updated: 2025-04-27
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