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108.

Author: 美桜
last update Last Updated: 2025-08-29 22:41:50
「何するのよ!!」

次の日の夕方。

ボディーガードに連れられた春奈が、悠一の前に乱暴に投げ出された。

「痛っ!」

ドサッと床に倒れ込み、春奈は目の前に綺麗に磨かれた革靴を目にした。

顔を上げると、そこには底冷えのするような冷たい眼差しの悠一がいて、咄嗟に身を引いた。

だがー

「きゃあー!」

髪の毛をガッ!と鷲掴みにされ、無理やり顔を上向けにされた。

「痛い…」

涙目で訴えたが、ふんっと嗤われた。

「この程度で泣き言を言うな」

「……」

どんなに哀れを誘うような顔をしても、見つめる瞳には嫌悪と憎しみしか宿っていなかった。

なんで…?

春奈は、自分がなぜこんなにも悠一に憎まれたのか、分からなかった。

だから、怯えながらも尋ねずにはいられなかった。

「どうして?どうして、こんなひどい事するの?」

「分からないのか?」

悠一の瞳に、益々憎しみが込められた。

「お前が、あのガキ共に余計な事を吹き込んだせいで、雪乃は死んだんだ」

「え…」

死んだ?誰が……。お姉ちゃんが…!?

呆然としていた春奈が、急に意識を取り戻して叫んだ。

「待って!お姉ちゃん!?お姉ちゃんが死んだって、そう言ったの!?なんで!!」

「……」

悠一は目を眇めて、目の前で焦ったように喚いている女を見つめた。

まるで、自分に罪がないみたいに言うんだな…。

だが、

「どうしてお姉ちゃんが死ななきゃいけないの!?」

彼女がそう言った途端、湧き上がる怒りが抑えられなかった。

「お前だ!!お前が!あいつらに雪乃がいなければって言ったんだろうが!!」

「!」

ゼイゼイと肩で息をして、怒りを吐き出す悠一の目には、涙が滲んでいた。

ああ…そうか…。あの子たちまだ小さいのに。そんなことしちゃうんだ…。

春奈の目から光が失われた。

そして、ふふっ…と小さく笑うと突然立ち上がり、ここに来た時から目に映っていた子供たちに向かって、怒鳴った。

「この人殺し!!」

咲良は驚愕に目を見開いて固まり、陽斗は地団駄を踏んだ。

「なんだよ!僕はママの為にやったんだぞ!」

「うるさい、バカ!あんたのせいで、お姉ちゃん死んじゃったじゃん!!」

「バカって言うママがバカ!!」

2人の罵り合いに咲良は泣き、悠一はイライラと歯を食いしばっていた。

そしてダンッ!!と床を踏み鳴らし、3人それぞれに視線を据えた。

「お前ら全員が人殺しだ。母子3人、仲良く罪を
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Comments (6)
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
楽しみに待ってます(*^-^*)
goodnovel comment avatar
美桜
実は初めてまともに書いた小説なので、私もこの2人には思い入れがあります。私自身も書いてみたいなぁ…と思っています。実現できたら、ぜひ覗いてみてくださいね...
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
ぜひ、続きが読みたいです 2人のラブラブが見たい
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