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173.結末(今世)

Author: 美桜
last update Last Updated: 2025-12-08 18:34:41

就業後。

希純はさっさと仕事を終わらせて、中津の挨拶もそこそこに会社を後にした。

運転手も、昼間の沈んだ様子の社長を見ていたので自然と顔に笑みが浮かび、問いかけた。

「チケット、手に入れられたのですか?」

車に乗り込んだ途端にホールへ向かうように言われ、始めはなんの為に?と疑問に思ったが、その嬉しそうな様子から事情を察して尋ねたのだ。

「ああ。中津がくれた」

「そうですか。よかったですね!」

最近の社長はとても親しみがもてていいと思う。以前はなんだかピリピリしていることが多くて、中津さんがいない時はこんな風に話しかけたりできなかった。

運転手の男は、バックミラーに映る希純の緩んだ目元を見て、感慨深げに微笑んだ。

ホールに着き、ドアを開けて見送った時なんかは、さらっと「お疲れさま」とまで言われた。

「ご連絡頂ければお迎えに参りますが?」

そう言うと、彼は後ろ手に軽く振って「いいよ」と言った。

そのご機嫌な後ろ姿に、男は丁寧に一礼した。

*

開演前のざわつきの中、希純は自分の隣が2席空いていることに気がついた。

こんないい席なのに、まさか遅刻か?

開演後に来ても、演奏中はもちろん会場に入れない。しかもこんな前の方なら、目立つこと間違いなし。

希純は自分のことでもないのに、妙にそわそわとしていた。

そこへー

「お疲れ様です」

「?」

聞き慣れた声に振り向くと、そこには一人の女性を連れた中津の姿があった。

「お前も来たのか?」

眉を顰める上司にも怯まず、中津はニッコリと微笑んだ。

「はい。彼女と一緒に」

「井藤花果です」

「……」

その緩んだ顔に苛つきながらも、側でペコリと頭を下げた女性に視線を向けた。

「こんばんは」

「こんばんはっ」

初めてあった中津の彼女は、可愛らしい感じの女性だった。彼らは希純を越えて隣に中津、その隣に花果が座った。

2人は「間に合ってよかったね」「遅刻するかと思ったよ」などコソコソと囁きあっていて、希純は少しだけ疎外感を覚えた。

そこで

「彼女は如月尚のファンなんじゃなかったのか?」

とそっと尋ねてみたのだが、振り向いた中津に

「別にファンじゃなくても、来ていいでしょ」

と冷たくあしらわれ、希純はそれ以上話しかけるのをやめた。

その内コンサートが開演し、彼も舞台に集中して隣にいる2人には見向きもしなくなった。

今回はクラシックだけのプログラムで、
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Comments (7)
goodnovel comment avatar
美桜
あ、准でした…。すみません。
goodnovel comment avatar
美桜
あ、主役はあくまでも洵なので、彼らのことはそこまで詳しく書く予定ではないです。
goodnovel comment avatar
美桜
真田洵を主役としたストーリー。 美月はその後も順調にピアニストとして活躍し、怜士は彼女の後ろ盾としてずっと見守り続けます。その後、美月がピアニストを引退してから彼らは再婚の予定です。 今から書く予定のものなのでこの程度になりますが…。
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