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第22話

last update Last Updated: 2025-05-11 09:21:37

背中には嫌な汗が伝い、心臓の音がバクバクとうるさく響く。

お願い。どうか、バレませんように。

こんな、海斗くんに抱きしめられているところなんて見られたら……きっと、今まで以上に敵視されるのが目に見えてるもん。

私はハラハラしながら、じっと息をひそめる。︎︎︎︎︎︎

さすがの海斗くんも状況を察したのか、今は何もせずにじっとおとなしくしている。

「あっ。教科書、やっぱり教室に置き忘れてたわ」

ナホさんが、英語の教科書を机の中から取り出す。

「教科書、あって良かったね。それじゃあ帰ろうか」

二人の声と足音が、だんだんと遠ざかっていく。

二人とも出て行った……?私たち、なんとかバレずに済んだの?

「よし。大丈夫そうだな」

海斗くんが私から離れ、カーテンを開ける。

教室には私たち以外もう誰もいなくて、一気に緊張が解けた。

「ああ、ドキドキした……」

「ほんと、危なかったな」

それだけ言うと、海斗くんは何事もなかったように席に戻る。

あ、あれ。海斗くん、何だかもうスッカリいつも通り?

さっきドキドキしていたのは、もしかして私だけだった?

唇には、まだわずかにキスの余韻があって。

先程まであんなにも彼と距離が近かったのに、今は遠くて。

離れていった海斗くんの腕が、温もりが、なんだか無性に恋しい。

海斗くん、もうキスはしてくれないのかな?

だってさっきのキス、すごく良かったから……って、何を考えてるの私!

これじゃあまるで……私が海斗くんのことを、意識してるみたいじゃない。

「……っ」

思い返してみれば、先程の海斗くんのあの少し強引なキスも全然嫌じゃなかったし。

最近は海斗くんの笑顔を見ると、ドキドキすることも増えていた気がする。

もしかして私、海斗くんのことを……?

「おい、希空。何やってるんだよ。テスト、まだ残ってるぞ?」

眉をひそめた海斗くんが、じっとこちらを見てくる。

海斗くんに見られてると思うと、また鼓動が速くなる。これってやっぱり……?

「テストちゃんと解かなきゃ、ご褒美は無しだからな?」

「わっ、分かってる!」

自分のなかでの違和感みたいなものを感じながら、私は海斗くんの向かいの席へと腰を下ろした。

それから海斗くん手作りの確認テストを解き終わった私は今、海斗くんに採点してもらっている。

「凄いな、希空。90点!頑張ったな」

『90』と赤ペンで書かれた答案を私に
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