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番外編②〈第3話〉

last update Last Updated: 2025-05-06 16:03:59

「藍がやりたいのなら、俳優のお仕事も絶対にやったほうがいいよ!」

「萌果……。でも……」

藍の表情が、わずかに曇る。

「萌果は、嫌じゃない?」

「何が?」

「俺が、テレビで女の子と共演するのがさ。俺は、萌果が嫌って思うのが嫌なんだよ」

私が……?

「事務所で俳優をやってる先輩が恋愛ドラマに出たら、付き合ってる彼女に『他の女の子と、抱き合ったりキスしないで!』って、言われたらしくて。結局、それが原因で別れたって聞いたから」

「大丈夫だよ」

私は、藍の頬をそっと両手で挟む。

「そりゃあ私だって、自分の彼氏が他の女の子とキスしてたら嫌だって思うよ?でも、それは仕事だって思えば、全然大丈夫」

「萌果……」

「もし藍が私のことを気にして引き受けないって言うのなら、そんな遠慮いらないから。私のせいで、藍のチャンスを奪いたくないし。藍には、やりたいことをどんどんやって欲しい」

「……ありがとう!」

藍が、私のことを正面から力いっぱい抱きしめてくる。

「前にも言ったけど。私は、久住藍のファンだから。モデルだけでなく、俳優としての藍も見てみたいし。頑張る藍を見られる機会が増えるのは、素直に嬉しいよ」

私は、藍の背中に腕をまわす。

「私は藍のこと、一番に応援してるから」

「ありがとう。萌果ちゃんのおかげで、決心がついたよ。俺……頑張ってみる」

藍の目が細められ、端正な顔が近づいてくる。

そして、私の鼻先にチュッと唇を押しつけた。

「萌果ちゃん、大好きだよ」

「私も、大好き……んっ」

唇に、ついばむようなキスが繰り返し降ってくる。

藍の唇、柔らかくてキスすると気持ち良い。

「口、開けて」

「ふ……ぁ」

言われるがまま隙間を開くと、すぐに舌が入り込んでくる。

「は……、っん」

口内を深くまでむさぼられ、呼吸が上手くできなくなっていく。

「はぁ、やばい。キス止まんない……。俺、今夜は萌果を寝かせられないかも」

「っ、ええ!?」

ね、寝かせられないって……!

「んっ」

再び唇が重ねられ、またすぐに深く絡められる。

「ここで同居してる間は、イチャイチャし過ぎないって萌果と決めてたけど。今夜はふたりだけだから……いいよね?」

私の首筋にキスを落としながら、藍が妖艶に微笑む。

「うん。いいよ……今日は特別」

私も、藍ともっ
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