Share

第51話

last update Last Updated: 2025-07-16 16:46:38

この沈黙が、私には永遠のように感じられて。

やっぱり……伊月くんとのことは、許してもらえないのかな?と、不安でいっぱいになる。

「陽菜、あなたがそんなに強い気持ちでいるなんて……お母さん、知らなかった。あの小さかった陽菜が……」

ハッとして俯いていた顔を上げると、お母さんの目には涙が浮かんでいた。

「父さん、俺も陽菜と同じ気持ちだ。いくら反対されても、俺たちの気持ちは絶対に変わらない。俺は、これからもずっと陽菜と一緒にいたいんだ」

伊月くんの言葉に、光佑さんは静かにメガネをかけ直す。

「そうか……伊月、お前がそんなふうに本気で話す姿は、初めて見たよ。伊月の気持ちは分かった。だけど、陽菜ちゃんを幸せにできるのか?世間からの目もあるし、そんなに簡単なことじゃないぞ」

伊月くんの瞳が光った。

「父さん……俺、陽菜を絶対に幸せにしてみせる。たとえ世間にどんな目で見られたとしても、陽菜の笑顔を守るために、俺はどんなことでもする」

伊月くんの声には、かつての女性不信を乗り越えた強さが宿っていた。

「あなたたちが、こんなにも真剣に、私たちに話してくれたこと。その勇気と、お互いを思いやる気持ちが、どれほど本物か……私にはちゃんと伝わったわ」

お母さんの言葉に、光佑さんが微笑む。

「伊月、陽菜ちゃん。君たちの気持ちが本物なら、父さんはもう反対はしない。だけど、ちゃんと責任を持って、二人で乗り越えてほしい。世間体よりも何よりも、君たちの幸せが一番大切だ」

込み上げた涙の粒が、頬を滑り落ちた。

「お母さん、光佑さん……ありがとう」

伊月くんの手が、私の肩をそっと抱き寄せる。

「父さん、翔子さん、ありがとう。俺、陽菜を絶対に幸せにするから」

伊月くんの決意にお母さんが微笑み、ケーキを切り分ける。

「それじゃあ、このケーキ、みんなで食べましょうか?家族みんなで、こうやって笑い合えるのが一番よね」

「そうだな、翔子さんの言うとおりだ。陽菜ちゃん、伊月、これからも家族として、恋人として、ちゃんと支え合ってくれよ」

「はいっ」

私は伊月くんの手を握りしめ、笑顔で頷いた。

リビングの窓から見える夜空には、星がキラキラと瞬いている。

伊月くんと恋人になれたこと、家族に認めてもらえたこと……全部、夢みたい。

でも、これからもっと彼と幸せになるために、私……頑張るよ。

テーブルを囲む四人の笑い声が、リビ
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • この度、元カレが義兄になりました   第53話

    「ねえ、伊月くん。今日のデートの記念に……良いでしょ?」私は、小首を傾げてみせる。「っ、そんなふうに可愛くされたら、嫌だなんて言えないだろ……」「えっ?」「いや……写真、良いよ。撮ろう」「ありがとう!」やっぱり、伊月くんは優しい!それから伊月くんとツーショット写真を何枚か撮って、私たちは再び園内をまわった。お化け屋敷に行ったり、メリーゴーランドでメルヘンの世界に浸ったりと、遊園地を思う存分に楽しんだ。そして、夜。帰る前に、観覧車に乗ろうということになった。観覧車の高度が上がっていくにつれ、眩しい夜景が広がっていく。「うわあ、キレイ!」有名な巨大観覧車というだけあって、見える景色も迫力がある。「……っ!」うっかり真下を見下ろしてしまい、その高さに足がすくんだ。「大丈夫だよ」伊月くんが、優しく肩を抱き寄せてくれる。狭い空間の中、隙間なくぴったり寄り添うと、伊月くんの爽やかな香りがふわっと漂って、距離の近さにドキッとした。「ねえ、伊月くん。今日は楽しかった。家族にも認めてもらって、こうやってデートができて……夢みたい」私は、伊月くんの肩に頭を預ける。「陽菜、俺もだよ。今日、陽菜と一緒にここに来られて本当に良かった」伊月くんが私の手を握り、目を細める。「陽菜……俺、あの頃、母さんが家を出て、家族が壊れたことをずっと引きずってた。父さんの笑顔が消えたのも、俺のせいなんじゃないかって思っていたときもあった」伊月くんの声が、少し震える。「でも、陽菜と暮らして、お前の笑顔や頑張る姿を見て、俺も変われた。父さんや翔子さんの幸せも、陽菜のおかげで守ることができたんだ」私は、伊月くんの頬に手を当てて微笑む。「伊月くん、私もだよ。中学の頃は自信がなくて、いつもビクビクしてた。でも、伊月くんと家族になって、あなたをもっと好きになって……メイクや勉強を頑張って。最近は、自分のことも好きになれた。伊月くんのおかげだよ」伊月くんが、私の額にそっとキスを落とす。「陽菜、好きだよ」「私も、伊月くんが大好き。これからもずっと、一緒にいようね」私たちのゴンドラがちょうど天辺に差し掛かり、自然と二人の唇が重なった。観覧車の窓の外には、キレイな星空が広がっている。遊園地のネオンも星空もきっと、私たちのことを祝福してくれている。そんなふうに思えた

  • この度、元カレが義兄になりました   第52話

    両親に交際を認めてもらった、次の週末。私は、伊月くんと初めて“恋人としてのデート”に出かけることになった。行き先は、地元の遊園地。昔、お父さんが生きていた頃、お母さんとお父さんと三人で来た場所だ。遊園地の入り口は、色とりどりの風船や子どもたちの笑い声で賑わっている。「今日の陽菜、すげー可愛いんだけど」「えっ、ほんと!?」伊月くんに唐突に褒められ、思わず顔が赤面してしまうのを感じながら答える。︎︎︎︎︎︎今日の私は白のワンピースに、ナチュラルメイク。髪は、いとこで美容師の明里ちゃんにアドバイスをもらって、ハーフアップにしてみた。ちなみに伊月くんは、カジュアルなシャツにデニムというシンプルな格好だ。「い、伊月くんも……すごくかっこいいよ」「陽菜、もしかして緊張してる?」伊月くんが、私に手を差し出しながら笑う。「う、うん、ちょっとだけ。今日は、伊月くんとの初めてのデートだし……それに、世間の目とか少し気になるかなって……」正直に言うと、伊月くんがクスクス笑った。「陽菜は真面目だな。世間の目とか気にする必要ないよ。ここには俺らが義理の兄妹だってことを、知ってる人なんていないんだから。今日はめいっぱい楽しもう」ニコッと笑いかけてくれる伊月くんの顔は、まるで太陽みたいに眩しくて、私の不安を溶かしてくれる。「うん、そうだね!」私は彼の手をぎゅっと握り、遊園地の中へと駆け出した。◇最初に向かったのは、園内でも人気のジェットコースター。──プルルルル。発車のベルが鳴って、ジェットコースターが動き始めた。お父さんたちと来たときは、まだ幼稚園生で乗れなかったから。ここのジェットコースターに乗るのは、今日が初めての私。下から見ていたときは、そんなに高いと思わなかったけど。実際に乗って頂上に向かってみると、結構高いんだ……。私は、今になって少し怖気づいてしまう。「陽菜……もし怖いのなら、こうし

  • この度、元カレが義兄になりました   第51話

    この沈黙が、私には永遠のように感じられて。やっぱり……伊月くんとのことは、許してもらえないのかな?と、不安でいっぱいになる。「陽菜、あなたがそんなに強い気持ちでいるなんて……お母さん、知らなかった。あの小さかった陽菜が……」ハッとして俯いていた顔を上げると、お母さんの目には涙が浮かんでいた。「父さん、俺も陽菜と同じ気持ちだ。いくら反対されても、俺たちの気持ちは絶対に変わらない。俺は、これからもずっと陽菜と一緒にいたいんだ」伊月くんの言葉に、光佑さんは静かにメガネをかけ直す。「そうか……伊月、お前がそんなふうに本気で話す姿は、初めて見たよ。伊月の気持ちは分かった。だけど、陽菜ちゃんを幸せにできるのか?世間からの目もあるし、そんなに簡単なことじゃないぞ」伊月くんの瞳が光った。「父さん……俺、陽菜を絶対に幸せにしてみせる。たとえ世間にどんな目で見られたとしても、陽菜の笑顔を守るために、俺はどんなことでもする」伊月くんの声には、かつての女性不信を乗り越えた強さが宿っていた。「あなたたちが、こんなにも真剣に、私たちに話してくれたこと。その勇気と、お互いを思いやる気持ちが、どれほど本物か……私にはちゃんと伝わったわ」お母さんの言葉に、光佑さんが微笑む。「伊月、陽菜ちゃん。君たちの気持ちが本物なら、父さんはもう反対はしない。だけど、ちゃんと責任を持って、二人で乗り越えてほしい。世間体よりも何よりも、君たちの幸せが一番大切だ」込み上げた涙の粒が、頬を滑り落ちた。「お母さん、光佑さん……ありがとう」伊月くんの手が、私の肩をそっと抱き寄せる。「父さん、翔子さん、ありがとう。俺、陽菜を絶対に幸せにするから」伊月くんの決意にお母さんが微笑み、ケーキを切り分ける。「それじゃあ、このケーキ、みんなで食べましょうか?家族みんなで、こうやって笑い合えるのが一番よね」「そうだな、翔子さんの言うとおりだ。陽菜ちゃん、伊月、これからも家族として、恋人として、ちゃんと支え合ってくれよ」「はいっ」私は伊月くんの手を握りしめ、笑顔で頷いた。リビングの窓から見える夜空には、星がキラキラと瞬いている。伊月くんと恋人になれたこと、家族に認めてもらえたこと……全部、夢みたい。でも、これからもっと彼と幸せになるために、私……頑張るよ。テーブルを囲む四人の笑い声が、リビ

  • この度、元カレが義兄になりました   第50話

    「……」リビングは、水を打ったようにシンと静まり返る。お母さんの目は大きく見開かれ、光佑さんはメガネを外して額を押さえた。「……え。陽菜、伊月くんと付き合ってるってどういうこと?」お母さんの声は、震えていた。いつも優しいお母さんの顔が、こんなふうに硬くなるなんて……私の胸が、チクンと刺されたみたいに痛んだ。「そのままの意味だよ。私は中学生の頃から今もずっと、伊月くんのことが好きなの。最初は、妹として彼のそばにいられればいいって思ってたけど……やっぱり無理だった」涙が滲みそうになるのをこらえ、私は言葉を続ける。「最初はずっと黙っていようと思ってた。でも、お母さんも光佑さんも大切な家族だからこそ、ちゃんと話したかったの」伊月くんも、静かに口を開く。「父さん、翔子さん。俺も、陽菜のことが好きだ。妹としてじゃなく、これからは恋人としても陽菜を幸せにしたいと思ってる」彼の声は落ち着いていたけど、その瞳には揺るがない決意が宿っていた。「ちょっと待ってくれ」光佑さんが低く呟き、眉間に皺を寄せる。「陽菜ちゃん、伊月。君たちが……付き合ってる?こんな話、いくら何でも急すぎるよ。だって君たちは、義理の兄妹なんだぞ?」「そうよ。陽菜……血が繋がっていないとはいえ、あなたたちは兄妹なのに、恋人だなんて。世間にどう思われるか、考えたことある?」お母さんの声が鋭く響いた。「私たち家族が……バラバラになっちゃうかもしれないじゃない。陽菜、こんな大事なことを、どうして急に……」その言葉に、涙がこみ上げた。お母さんがそんなふうに言うなんて、想像していなかったわけじゃない。でも、実際に聞くと、心が締め付けられるように痛んだ。「お母さん……ごめん。でも、私……」言葉が詰まり、うつむいてしまった。涙が、ぽろりと膝に落ちる。「陽菜」伊月くんの手が、私の手をぎゅっと握り直す。その温もりが、今の私の唯一の支えだった。「父さん、翔

  • この度、元カレが義兄になりました   第49話

    翌日の昼休み。教室の窓から差し込む陽光が、机の上をキラキラと照らしている。でも、私の周りだけどんよりと、少し空気が重い。「はあ……」「陽菜ーっ!ため息なんかついて、どうしたの?」お団子ヘアを揺らしながら、羽衣が私の席に駆け寄ってきた。「羽衣……実は、近いうちにお母さんと再婚相手の人に、伊月くんとの交際をカミングアウトしようと思ってて」「なるほど。それで元気がなかったんだ。最近の陽菜、すごく可愛くなったし。成績も上がって、色々と好調だから。きっと大丈夫だよ!」羽衣のくりっとした目が、私をまっすぐ見つめる。その笑顔に、胸のモヤモヤが少し軽くなった。◇放課後。体育館の扉からバスケ部の練習を覗くと、私に気づいた麻生さんがタオルを手に近づいてきた。「菊池さん!最近の佐野くん、絶好調よ。もうシュートがバンバン決まって……やっぱり、菊池さんがいつもそばにいてくれるからよね」麻生さんが、ウィンクをしながら笑う。「やっぱり、恋の力ってすごいのね」「麻生さん……ありがとう。私、伊月くんのバスケが大好きだから」「ふふ。そんなふうに言ってもらえて、佐野くんは幸せ者だね。これからも変わらず、佐野くんのことを支えてやってね!佐野くんには、菊池さんが必要だろうから」麻生さんの言葉に、胸が熱くなる。すぐそばのコートでは、伊月くんがボールを手にシュートを放つ。シュッと弧を描いたボールが、ゴールに吸い込まれていった。「おー!ナイス、佐野!」亜嵐くんの元気な声が響き、伊月くんが軽く手を上げる。その横顔を見ていたら、勇気が湧いてきた。羽衣や麻生さん、みんなが応援してくれてるから。その声に応えられるよう、怖気ずに頑張って両親に伊月くんとのことを話したい。◇それから数日後の週末。佐野家のリビングは、夕食後の穏やかな空気に包まれていた。窓の外では、夕暮れの空がオレンジから深い藍色に変わっていく。テーブルの上には、私と伊月くんが作ったチョコレート

  • この度、元カレが義兄になりました   第48話

    こちらを見つめる伊月くんは、何かを決意したような、そんなふうに見える表情だ。「陽菜……お前にはまだ、昔のことはちゃんと話せてなかったよな?」「え?」「さっきは、取り乱して悪かった。これを、陽菜に見て欲しくて」伊月くんが私に渡してきたのは、少し色あせた古い便箋。「えっ、これ……私が読んでもいいの?」「ああ」私はさっそく、便箋に目を通す。︎︎︎︎『伊月へ。ダメな母親で、本当にごめんね。母さんは出ていくから、父さんと二人どうか幸せにね』えっ、母さんって……もしかしてこれ、伊月くんの実のお母さんからの手紙!?伊月くんの実のお母さんの話は、ほとんど聞いたことがなかったけど。うちみたいに死別とかじゃなく、お母さんが家を出て行ってたなんて……。「陽菜、俺……お前に昔のことを話したいんだけど、聞いてくれるか?」「うん、聞きたい」「それじゃあ、来て」伊月くんが部屋の中へと入り、腰かけたソファの隣をポンと叩く。「し、失礼します……」私も、彼の隣に腰をおろした。「俺の母親は、昔から男癖が悪くて。父さんと結婚してるのに、他の男とずっと浮気してたんだ。父さんが仕事でいないときは、家にもしょっちゅう男を連れ込んでてさ」私は黙って、伊月くんの話に耳を傾ける。「ある日、仕事が早く終わった父さんが昼間に帰宅して、母さんと浮気男が部屋で一緒に寝ているところに出くわしたんだ」光佑さんに、昔そんなことが……。そういうのって、ドラマや映画だけの話だと思ってた。「もちろん父さんは激怒して。それからすぐ母さんが家を出て、両親は離婚して……父さんはそれ以来、全然笑わなくなってしまって。家族が壊れたんだよ」伊月くんの顔が、苦しげに歪む。「そこからは、ずっと父さんと二人きり。母さんがいなくて寂しかったけど、辛そうな父さんを見てたら、そんなことはもちろん言えるわけなくて……」私は、震える伊月くんの手を取った。

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status