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Novels by 173号機

見習い魔女竜胆白緑は四十六歳

見習い魔女竜胆白緑は四十六歳

十歳の誕生日、うっかり真の魔女になりたいと口にして、異世界から日本へ飛ばされ早うん十年。優しい魔女とその夫に拾われて何不自由なく育った見習い魔女(男)は、なんと見習いのまま四十六歳に!! 異世界人だからか、性格が悪いのか、はたまた教育の賜物か、とにかく偽りだらけの見習い魔女(男)。果たして彼は真の魔女になれるのか……
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Chapter: 第33話 見習い魔女と優しい男たち
 拘束具は私とベッドを合体させるものだった。下半身をベッドに引きずり込まれ、私のか弱い爪先を犠牲にしながらマットや底板を突き抜け、あっという間に直立状態で固定されてしまった。 海水浴に浮き輪がないからベッドを持ってきたっていうやべぇ馬鹿みたいな格好だわ。「身動きできなくなるよりましであろう?」 これを身動きできなくなるよりまし、と断言するジジイはまともじゃない。拷問のしすぎなのでは?「痛いじゃない。女の子には優しくって教会では習わないみたいね?」「習わんのう。教会は性別で優しさを区別せんからの」「あらそう。じゃあ魔女には必要ないってだけなのかしら」「そんなことはない。哀れな魔女にも優しさを持って接しておるぞ。ほれ、現にお前を魔女としてではなく、シスターとしてこの聖洞に招待しておる」 魔女としてここに招かれることは、死または永続的な拷問と同義じゃが? と続けるジジイ。 やっぱりか。この言い方、拷問が日常に組み込まれてやがるわ。仮に今のが冗談だとしても、それ自体が真実だと知っているせいでまったく笑えない。「白緑のためにシスターの実績だって作ってあげたのよぉ。ねぇ、杉村?」「はい。二ヶ月ちょっとで三百人、魔女を浄化しましたもんね。はぁ、戦う乱子さんも綺麗だったなぁ……」 牢の外から会話に入ってきたかと思えば、私にとんでもねぇ罪を擦り付けていたと自白した乱子と杉村が、TPOを考えずイチャイチャし始める。「夜鶯胤夫妻がお帰りじゃ。送って差し上げなさい」 わざとらしく「ごほん!」と咳払いをしたジジイの指示で、赤紫ボタンの聖職者服たち全員がかりで二人をどこかへ追いやっていく。 さっきまで乱子が立っていた辺りに、至極色の透け透け下着が落ちている。やっぱ頭沸いてるわねあの痴女。「さて、改めてじゃが、初めましてシスターロシティヌア。儂はローマとバチカンに広がるこの聖なるカタコンベの責任者、グラスルじゃ」 ジジイが微笑む。さっきからやたらボタンを触っているんだけど、癖なんだろうか。それと
Last Updated: 2025-05-04
Chapter: 第32話 見習い魔女と並行世界の夢
 今や三つ巴……と言いたいけど、実際は同期の魔女と男性教諭連合VS校長と遅れてやって来たマル魔三人&目を覚ました生徒たち。 私は戦闘が始まった瞬間に食堂の調理場へ駆け込み、鉄壁の防御を誇る大型冷蔵庫の中に隠れて様子を伺っている。『たたたたたた大変だよ白緑!』 そこへ、ベリーが戻ってきた。 どうせベリーのことだから、大変とか言いながら私を置いてトンズラかますと思ってたのに、不思議なこともあるものね。 しかしその理由はすぐにわかった。『くるくる蓑虫が蛹になってるよ!!』『さ……蛹!!? なんで!?』『なんでもなにも春じゃん! 蛹になる季節じゃん!』 やいやい喚きながらも素敵な防寒具になってくれるベリーは打算的だ。外も食堂も危険ときて、結局この冷蔵庫が一番安全と考えたのだろう。私のご機嫌を損ねて追い出されるのを危惧しての防寒具、だ。『放置して逃げるって手もあるけど……』『駄目だよ! ここが使えなくなっちゃう!』  ことを収めたとしても、この食堂を使い続けるのは不可能でしょうに。『どっちにしても戦いが収まらなきゃどうしようもないわ』 今はどちらが優勢とも言い難い。 校長はマル魔と連携しながら乱子たちを攻撃しつつ、生徒に指示を出している。騒ぎに気付いた教職員や生徒も続々と駆け付けており、数では圧倒的。 対して同期たちは、主に乱子が二十体の杉村型ホムンクルスと共に校長を相手取り、他は男性教諭と二人一組で乱子の補助とマル魔の相手、それから生徒たちの無力化を担っている。 ジズのパートナーは堕としがいのありそうな堅物顔の図書教諭、銀花は雅な雰囲気の養護教諭で、ヤスエはショタ顔の家庭科教諭と組んでいる。 そしてティティとメグミは、それぞれ刺青だらけの美術教諭とヲタクっぽい音楽教諭……皆、同期たちのタイプに突き刺さる若いイケメンだ。 彼らは普通の学校ならメイン扱いされず、お気楽仕事と揶揄されかねない悲しき教諭ばかり。しかしここは退魔師の学校。すべてメインの戦闘教科であり、大学でド級の実戦訓練を積んできた猛者に違いない。 現に図書教諭は聖書や魔術書を何冊も周囲に浮かべて凄まじい攻撃を繰り出しているし、養護教諭はチート染みた回復術と絶対使っちゃいけない恐ろしい薬品の散布や、養護理念違反甚だしい医療道具による急所狙いを仕掛けている。 家庭科もヤバい。毒
Last Updated: 2025-04-27
Chapter: 第31話 見習い魔女とアサガオの花言葉
 あの短剣で燃やせば証拠は欠片も残らない。少し気が早いけれど、裏切り者の乱子共々校長を始末できて気分は上々。 あとはあの写真を出版社に売り付ければお小遣い稼ぎもできて、一石二鳥どころか三鳥だ。 少し癪に障るけど、あの童顔中年と私が変身していた被害者男子はよく似ていた。校長にイケナイ薬を盛られて襲われた挙げ句、オーバードーズで死にかけたところを”シスターの私”に救われた。良司さんの毒薬被害者も校長の仕業で……という筋書きよ。 今となっては私をシスターに仕立て上げた理由は不明だけど、せっかくだから利用させてもらおう。『いやぁ~白緑がぼくのために殺人だなんて、ちょっと感動しちゃったよ』『殺人? 馬鹿言っちゃいけないわ』 私はそんなことしない。あれは正当防衛よ。それもとことん優しい。 だって校長は私がありもしない罪を着せようとするもっと前から、私をバチカン送りにしようと企んでいたのよ。完全に消しにきていた。 マル魔にしてもそう。奴らはこれまで何人もの魔女を屠っているし、私の大切なベリーに拳銃を向けていた。それにほら、まだ誰も屠ってなさそうな新卒君は助けてあげたじゃない。 だいたい、私はあの短剣をきちんと暴発させたわけで――『え、帰らないの?』 言いながら生徒教職員が倒れている廊下を進み、南校舎に差し掛かったところでベリーが聞いてきた。ずっと怠そうに無視していたから、話題を変えたかったんだろう。『阿叢先輩がトンカツ奢ってくれるって言ってたのよ』『ええ~? この状況じゃ無理なんじゃない?』『食券が欲しいの。一ヶ月有効なんだから』 きっと来月にはこの学校も通常通りになっている。 少しは騒ぎになるでしょうが、所詮校長なんてすげ替え可能な消耗品。どうせ次もそれなりの実力者が選ばれるんだから、誰がなろうと大差ない。 それに理事会とかが全力で不祥事を揉み消すに決まっている。大事にならないのは確実。『食券を回収したら食材もいただくわよ。今夜は豪華な食事でベリーの慰労&乱子の破談お悔やみ会よ』 あの堅牢な冷蔵庫を抉じ開けるのなら大変だけど、幸い私は正規の開け方を知っている。食堂のおばちゃんを何度も観察していてピンときたのよ。『あ、それいいね!』『そうだわ。同期の皆も招待しなきゃ。きっと大泣きしながら集まるわ』 悲しみではなく爆笑で、だけど。 にし
Last Updated: 2025-04-22
Chapter: 第30話 見習い魔女と聖剣ブルバディア
 校長は既に勝った気でいる。 人数のアドバンテージに加え、遥か格下の相手をしているという油断。加えて乱子が拘束魔法で私の動きを封じたのも要因だろう。 でも私は気付いたわ。やつらは勘違いをしている。 私に踏んづけられらて意識を失ったシラーは未だ夢の中。そもそもシラーに目眩を起こさせるような能力はない。 やったとすればベリー、もしくは―― 『白緑ぃ~! これ、これ!!』 ベリーが辛うじて動く袖の部分を繊維状にほぐし、こそっと中を見せてくる。 やっぱり!  くるくる蓑虫だわ! すっかり忘れてたけど、私はあの頼りになる魔虫を召喚してたんだった。ああ、自分で自分を褒めてあげたい。グッジョブ私! 肩も足も痛いけど銃創がなんだ。くるくる蓑虫さえいればこっちのものよ。覚悟してなさい。『ベリー、私が合図したら全力で回転するよう、くるくる蓑虫に伝えて」『ええっ、全力!?』『死ぬよりましでしょ!』『そりゃそうだけど……どうなっても知らないよ』『かまわないわ!』 あとは少しでいいから時間を稼がなくちゃ。 てなわけで披露してあげようじゃない。何十年と種族や性別を偽り続けた私の演技力ってやつを。「全部乱子の手の平の上だったってわけね……」 観念したように天井を見上げ、それからゆっくり目を瞑り、ため息と共に肩を落としてみせる。「まさか親友に売られるなんて。何だかんだで乱子とは死ぬまで楽しくやってくもんだと思ってたわ」「あら、私もよ。じゃあこのまま死ねたら白緑も本望ね。だって私、今と~っても楽しいもの」 ハートが何百と飛んできそうな語尾ね。ふんっ、ほざいてればいいわ。目にもの見せてやるんだから。「これが親友の会話とは。やはり魔女は醜い」 校長の嫌悪が凄い。よくもまあ人をそこまで蔑んだ目で見られるものだ。そこらの魔女よりこいつの方が、よっぽど魔女の素質がある。 「同感ね。生まれ変わったあと、この学校に入れば多少ましになるかしら」 ま、私は聖職者の半分は偏見を理由に魔女を志さなかっただけで、ベクトルは違えど中身の腐れっぷりは同じだと思ってる。阿叢なんかがいい例だ。 むしろ、きちんと悪事を働いている自覚のある私のような魔女の方が何億倍も誠実だわ。「残念だけどそれは無理よぉ。天使校長の聖剣で貫かれた魔女はぁ、魂が裏山の花畑にある御神木に封印されちゃうん
Last Updated: 2025-04-18
Chapter: 第29話 見習い魔女と知己友朋
 聖剣は私に当たらなかった。 突如、校長が片膝を付いたからだ。まるで貧血でも起こしたかのように大外れ。その結果、私の左にあった高そうなソファが真っ二つになった。「大丈夫ですか!?」 マル魔の一人、パリコレモデルのような碧眼の男が校長に駆け寄った。さっき私の肩を撃ち抜いたクソッタレだ。「貴様、何をした!」 間髪入れずもう一人、どこぞの王室近衛兵のような雰囲気の美丈夫が威嚇してくる。さっき私の足を撃ち抜いたクソ野郎だ。「何もしてないわ」 なんでもかんでも魔女のせいにしないで。どうせ老人性の貧血でしょ――ほら見なさい。目眩が、って校長も言ってるじゃない。お陰で助かったけど。 校長はパリコレモデルに肩を借りて立ち上がったけど、また直ぐにガクッとなった。「嘘をつくな!」 それを見た近衛兵がまた叫ぶ。同時にカリャリ、と引き金を引く音がした。「だから知らないわよ!」 ていうかちょっと黙ってて。あんたたちも無視できないけど、今はもっと重要なことが――「ローブのポケットを調べたらどうかしらぁ」 そう、乱子よ。さっき校長は言っていた。夜鶯胤家とは話が終わっている、と。 ”私”の姿で倒れていたくせにいつ戻ったのか、本来の姿で胸をゆさゆさ歩いてくる乱子。「んもう、天使(あまつか)校長ったらお口が軽いんだからぁ」 真っ二つになったソファを魔法で消し炭にし、もう一つのソファに校長を座らせた乱子が、私を見下ろしながらその隣に腰掛ける。 そのまま妖艶な仕草で組む足の動きは、かなり強い誘惑魔法だ。残念ね。銃創が痛すぎてちっとも効きゃしないわ。 乱子の登場でマル魔たちの表情がもう一段階険しくなった 。「あの竜胆家の者を浄化できると思うとつい、な。悪かった」「まあ白緑には招待状を送ってないからいいんだけどぉ」 校長の首に腕を絡ませながらこちらを見る乱子は物凄く得意気だ。まさか校長は籠絡済みなのか? 「ポケットにペンギン型の財布がありました!」 ずっとベリーに銃を向けていたマル魔二人のうち、新卒らしき坊主の方がシラーを校長に渡す。「ああん、やっぱりぃ。白緑の使い魔なのよこれぇ。きっと天使校長の目眩はこの子の仕業よぉ」 しかしあれね。乱子が喋る度にマル魔たちがイライラしてるわ。わからないでもないけど、出会して数秒でそうなら、五分だってもたないんじゃないかし
Last Updated: 2025-04-17
Chapter: 第28話 見習い魔女と校長先生
 私と乱子はそれぞれ”被害者の男子高校生”と”巨乳の私”に変身し、校長室のある東校舎の五階へやって来た。 昼休み真っ只中で生徒が溢れていた四階までと同様、ここにも妖力吸収機能付き監視カメラの他、妖力封じの罠や霊力の宿る聖句等が無数に設置されている。 しかしそのどれもが、数ヶ月通い続けた乱子によって”私”には反応しないよう改造されていた。北校舎を歩いているときにチラリと漏らしていたが、どうやら乱子も校長を疎んでいるっぽい。 そういう訳もあって乱子に”私”の姿を許したのだが、シスターとして頻繁に来校している”私”が、被害者を救済したと皆に見せ付けた方が効果的じゃない? と提案されたのも大きい。 とはいえ、さすがにすれ違うほぼすべての生徒に挨拶され、竜胆さんと呼ばれる乱子を見るのは背筋が冷たくなった。 おまけにボクサータイプのメンズパンツにレディースのジャケットというちぐはぐな格好の、一目で何かあったであろうとわかる”俺”には、弾けるような笑顔で「こんにちは」とか「学食以外で初めて会ったね」などと言うのだ。 あえて気遣う素振りを見せない気配りとでもいうのだろうか。性的に陵辱された者が救済される様子は、聖職者の卵には見慣れた光景らしい。嫌な学校だ。「思った以上にヤバいわねここ」「古今東西、未熟な聖職者が慰みものにされるのはよくある話よぉ。勿論その逆も」 哀れむように言う乱子だが、そういう原因を作ってるのは、たいていこいつみたいな性に奔放な魔女や色魔などの怪物である。 それにヤバいと言ったのは罠とかについてであって……は?「なんで私にはかけてくれないのよ」 乱子は自分にだけ強力な防御魔法をかけていた。霊力の影響を緩和する魔法もだ。「え~? だって頼まれてないものぉ」 一人だけ安全にこと進めようとはなんたることか。だいたい、まだ乱子の目的をちゃんと聞いてない。いったいあそこまで”私”を身バレさせて何をしようってんだ。 とはいえ、今問い詰めたとしても口は割らないだろう。燐粉と交換でなくては。乱子は――いや魔女とはそういうものだ。「あ、そうよね。五人も友達ができた乱子にはもう、昔からの親友なんかに優しくする理由がないわよね」 せめて嫌味でもとツンツンしたことを言ったら、逆に喜ばれた。「はぁ……もういいわ」 最悪、記憶に関しては姉かジズを頼ればい
Last Updated: 2025-04-15
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