Masuk十歳の誕生日、うっかり真の魔女になりたいと口にして、異世界から日本へ飛ばされ早うん十年。優しい魔女とその夫に拾われて何不自由なく育った見習い魔女(男)は、なんと見習いのまま四十六歳に!! 異世界人だからか、性格が悪いのか、はたまた教育の賜物か、とにかく偽りだらけの見習い魔女(男)。果たして彼は真の魔女になれるのか……
Lihat lebih banyak俺の名前は竜胆白緑。
竜胆はそのまま読んで「りんどう」、白緑と書いて「みどり」。見習い魔女をやっているれっきとした男だ。
きっとこの世界の人たちからすると、男が魔女だなんて意味が分からないことだろう。でも俺はこことは別の世界から来た。だから男が魔女でもいたって普通。
目的は真なる魔女になるため。いわば修行だ。しかし現在、修行は難航……いや停滞している。
転移してきた少年時代、運良くその日のうちに優しい魔女たちに拾われ、超難関と言われる国立の魔女大学まで通わせてもらったのに、俺は相も変わらず見習い魔女のまま。
なぜなら俺の力の根源である魔力がこの世界には微々たる量しか存在しないから。それはつまり使える魔法も習得できる魔法も、ものすご~く限られるということ。
そしてこの世界の魔女が根源としている力は妖力で、ほぼ無限に存在する。お陰で実力差は開くばかり。
しかもこの世界の魔女は完全で強烈な女社会。
別に自称フェミニストや過激派ポリコレなる脳みそバーサーカー気味の魔物が男を排除しているわけじゃない。と思いたいが実際はどうなのだろう。未だ分からない。
とにかく男が魔女とバレようものなら恐ろしい目に遭わされること必至らしい。
ただ俺は種族的な能力でほぼなにも消費せずに変身できる。それで今までなんとかバレずにやってこれた。変身を魔法と偽り、あとは謀略のみで大学を卒業したのはちょっとだけ自慢だったりする。
けどやっぱり俺は見習いなのだ。ず~っと見習い。そんなもの十を数える辺りでさらりと卒業するのが当たり前にもかかわらず。
ああ、気が付けばもうすぐ四十六歳。
ずっとバイトと魔女の修行で稼ぎはほぼ無し。おまけに実家住まい。なんとかせねばと思う一方で、そんな生活も悪くないと感じる自分もいる。
どうしたものか……。
七環鳴神社の上空は思ったより静かだった。 ただ、眼下には年始の神社特有の神秘と活気の混じり合った景色が広がっている。 一の鳥居から続く参道の両脇にズラリと並んだ屋台の明かりは賑やかしいのに、ニ鳥居より先、拝殿へ続く階段に設けられた苔むした灯篭は厳かな雰囲気を醸していて、油断すると異世界へ迷い込みそうに感じる。 そのくせ三の鳥居の先にある拝殿の周りは再び活気を帯びはじめ、御守りや御朱印の授所だけでなく、甘酒やら名物の七つの環っかを模した七つ餅やリングポテトなんかの屋台に人が群がっている。 「おい、着いたぞ」 未だ決着のつかない話し合いを続けるシラーとベリーに声をかけ、金蔓――もとい、意思ある財布の良司さんを探すよう指示する。 良司さんは仕事終わりに部下たちと初詣へ来ているらしく、JRRの制服を着ているとマラインのメッセージには書かれていた。 『それにしても、まさか良司がJRR職員だったなんて驚きだね』 「本当に。こちら関係の人間だとは気付きませんでした」 なんてことない感じでシラーは言うけど、その顔には痛々しいアザがいくつもある。食が絡んだベリーの容赦のないことよ……。 「何駅勤務かにもよるだろ。JRRの表の顔しか知らないなら一般人だ」 JRRは国鉄の時代よりずっと、神々から幽霊、妖怪に至るまで、普通の人間にはなかなか視認できない存在の為の駅や路線も運営してきたのだ。 民営化するときに、そっち関係だけは国営のままにって声も多かったらしいが、普通の路線に混じってそれら用の駅も設置されているから、会社を分けると管理が難しいって理由でまるっと民営化されたという。 つまり皆が知らないだけで、実は神々や幽霊、ヤバい妖怪も日常的に同じ電車に乗ってたりするから、電車内の迷惑行為って文字どおり命がけの行為なのだ。 まあ見えなくとも、幼い頃から日本で育った人であれば、無意識にでも何かしら気配を感じ取ってる人が多いから問題はあまりないらしいし、そうじゃなくても常識ある人は普通は問題を起こさない。 だからたまに動画で流れてきたりする強烈な迷惑行為者はだいたい、後に悲惨な末路を辿ってるって話だ。 しかしあれだな。 JRR職員って儲かるんだな。 毎度毎度、良司さんは高額なご飯を御馳走してくれてお小遣いまでくれるんだから……あ、だからアイツは一時期JRR職員ばか
さて、仕事はどっぺる君に丸投げ……もとい依頼したからいいとして、神社巡りをするにおいて解決しなくちゃいけない重要事項がある。 お金よ。私だけなら御神木をに甘い言葉を囁いて誘惑し、樹液をチューチュー吸わせてもらえば無料で楽しめる。 でも使い魔たち、特にベリーは屋台の祭り飯を心いくまで食べるはず。当然、小学生レベルのお小遣いを渡したとて足りるわけもない。かといって私の財布も温もりを忘れていく久しい……。「良司さんに頼るか」 ぼそっとこぼれ出た言葉にシラーがまたも侮蔑の表情を見せた。「パパ活するんですか? また?」「人聞きの悪いこと言わないで。ただ同年代に奢ってもらうってだけよ」『同年代だけど良司は白緑より何個も下でしょ? 歳下にタカるなんて恥ずかしくないの?』 ほとんどベリーのための行為なのになんたるもの言いかしら。でもこいつの機嫌を損ねては寒空に下着一枚で放り出されるかもしれない。仕方ないからグッと堪えて回答する。「ひとっつも恥ずかしくないわ。今は歳なんて関係なく割勘や奢り奢られが普通の時代よ。もう昭和や平成じゃないんだから」『昭和や平成でも白緑が奢ってるとこ見たことないけどね~』「ああ情けない」 やかましいベリーとシラーは無視して良司さんへ連絡するためポケットからスマホを取り出す。 安全性は疑わしいけれど、すべての昨日が無料のマラインと書かれた緑色のアイコンをタップする。 片手でパパっと入力した『一緒に初詣へ行きませんか?』を見てしばし……削除ね。たぶん良司さんは『一年の始めは良司さんに会いたいです』とか言った方が釣れると思うのよ。「もうちょっと色気を出した方がいいじゃんないですか? 良司は男姿の白緑に興奮するわけですし、ア●ルが疼いて仕方ないとか書くべきですよ」「は? 俺と良司さんはそんな関係じゃないぞ」 偉そうな態度で蔑んてきたくせにスマホを覗き込み下品な提案をするシラーに、つい、男口調で応えてしまった……ていうか仕事に行かないんだ、このタイミングで俺に戻ろう。『でも良司は狙ってる思うんだよね、白緑のア●ル。だいたいさ、男盛りの真っ只中の中年からお金を巻き上げようってんだから色気は必須だよ?』 今度はベリーがシラーと似たようなことを言う。 なんだこいつら。変な文面を送って人格を疑われるのは俺だ
冬の満月をぼけぇっと眺めていると、つい欠伸がでてしまった。すると肩に乗っているシラーが大袈裟に嘆く。 「はぁ、情けない」 こんなのはいつものことだから気にしないわ。 「仕方がないじゃない。昼間にも働いてるんだもの」 「じゃあ、せめて見習いは卒業して生活費を稼げる魔女になって下さい。そしたら昼間は働かなくていいでしょう?」 「……それができれば困ってないわよ」 私たち以外誰もいないのに、私の姿に合わせた口調をしているのに褒めもされない。まったくなんだってこんな……いえ、愚痴は止めよ。辛くなるもの。仕事のことを考えるのよ仕事の……ん? まただ。またデジャヴだわ。 「ねぇシラー、私ね、今日はなんだかデジャヴがすごいのよ」 「はぁ? だから何だっていうんですか?」 「デジャヴって良くないことの前触れっていうじゃない?」 「……で?」 シラーがうっすら目を細めて私を蔑んでいる。きっとこれから何て言うかわかっているのね。 「仕事には行かない方がいいと思う」 案の定だった。 私の発言を聞いたシラーが、ぎゃあぎゃあ喚いて頬っぺたを突いてくる。こいつは木彫りの生き人形だからけっこう痛いのよ。 『白緑が夜食をたんまり奢ってくれるっていうなら、ぼくはそれでもかまわないよ』 羽織っているベリーが加勢してくれる。 けれど奢るなんてことはしないわ。明日には会費のバカ高い同期会があるのだから。 なら仕事に行って稼いでくればいいと言われそうだけど、どうせ依頼主は私が見習い魔女だと軽くみて、ギャラを買い手のつきにくい難ありの現物支給にするはずよ。 よくあることだもの。 魔女協会経由で何度抗議しても止めてくれない。きっと協会も黙認しているのよ。あのクソババアども。いつか痛い目見せてやるんだから。 「バックレなんて絶対に駄目です。これは白緑のために紫様が頼み込んで下さった仕事なんですから。もしバックレなんてしたらどんなお叱りにあうか考えただけでも恐ろしいですよ。立派な使い魔の私が言うんです。自重なさい」 なるほど。だからさっきの母さんの微笑みには迫力があったのね。 「でもなぁ……直感って大事にした方がいいって母さんもよく言ってるし、行かない方がいいと思うのよねぇ」 『神社をはしごしようよ。今日はど
――零時前にこの世界での両親、竜胆紫と勝蔵夫婦にリビングへ呼び出された。 古ぼけた時計が翌日を告げると同時に出されたのは、四十六本の蝋燭が綺麗に並べられた真っ白なケーキ。 それはテーブルの真ん中に置かれ、母がささっとお猪口を三つ配ると、父が辛口の日本酒を並々注いでいった。「お誕生日おめでとう、みどりちゃん」 「まあ、これから世話になるのは儂らの方かもしらんがの」「確かに。父さんはずいぶん老けたよな」「みどりちゃんはあんまり変わらないわよね。ずっと可愛いしカッコいいなんて羨ましい。吸血樹鬼っていいわね」 ……ん? この会話、なんだか前にもしたことあるような気がする。デジャヴか?「あ、ああ……まあいつまでたっても子供っぽいってだけだよ。不便の方が多い」 「変わらんものがあるのも悪くない。ほれ、お前の分だ」 勝手に蝋燭を吹き消し切り分けていた父が手を止め、七号のホールケーキからおよそ二人分を除いた残りをズイッと差し出してくる。「……多くない? ていうかなんで七号サイズなの?」 「あら、だって小さいと蝋燭並べるのが大変でしょ?」 母は何を言ってるんだと言わんばかりに俺を見てから、迷わずケーキを彩る苺にブスッとフォークを刺した。 これもだ。既視感の極み。 ただ、何かを思い出しそうで思い出せないもどかしさは、苺と生クリームのどちらを先に食べようかという難題の前ではどうでもよく、うんうん悩んでいると、風呂場の方から二つの気配が近付いてきた。 リビングのドアが小さな音を立て、冷たい空気が室内に流れ込んでくる。 嫌な予感に顔をしかめつつ振り向くと、そこには執事服を着た二十センチほどの青紫色のペンギンと、二メートル強はあるダークグリーンのローブが立っていた。 出掛けるから早くしろと言わんばかりに、バッチリ防寒してる。 ローブが防寒って変な話だが、そんな感じなんだから仕方がない。「ええ~? 今から? シラーもベリーも急すぎだよ」 急いでケーキを頬張って”今は無理感”を演出してみる。「万年見習いがお情けで頂くありがた~いお仕事なんですよ。時と場所なんて選べるわけありませんよね?」 そう言ってテーブルに飛び乗ったペンギンことシラーが目を細める。 命あるローブのベリーもドアの横でポフポフと音を出して肯定していやがる。「みどりちゃん、行って
拘束具は私とベッドを合体させるものだった。下半身をベッドに引きずり込まれ、私のか弱い爪先を犠牲にしながらマットや底板を突き抜ける。あっという間に直立状態で固定されてしまった。 海水浴で浮き輪がないからベッドを持ってきたよって言い出すような、やべぇ馬鹿みたいな格好だわ。「身動きできなくなるよりましであろう?」 これを身動きできなくなるよりまし、と断言するジジイはまともじゃない。拷問のしすぎなのでは?「痛いじゃない。女の子には優しくって教会では習わないみたいね?」「習わんのう。教会は性別で優しさを区別せんからの」「あらそう。じゃあ魔女には必要ないってだけなのかしら」「そんなことはな
今や三つ巴……と言いたいけど、実際は同期の魔女と男性教諭連合VS校長と遅れてやって来たマル魔三人&目を覚ました生徒たち。 私は戦闘が始まった瞬間に食堂の調理場へ駆け込み、鉄壁の防御を誇る大型冷蔵庫の中に隠れて様子を伺っている。『たたたたたた大変だよ白緑!』 そこへ、ベリーが戻ってきた。 どうせベリーのことだから、大変とか言いながら私を置いてトンズラかますと思ってたのに、不思議なこともあるものね。 しかしその理由はすぐにわかった。『くるくる蓑虫が蛹になってるよ!!』『さ……蛹!!? なんで!?』『なんでもなにも春じゃん! 蛹になる季節じゃん!』 やいやい喚きながらも素敵な防寒
あの短剣で燃やせば証拠は欠片も残らない。少し気が早いけれど、裏切り者の乱子共々校長を始末できて気分は上々。 あとはあの写真を出版社に売り付ければお小遣い稼ぎもできて、一石二鳥どころか三鳥だ。 少し癪に障るけど、あの童顔中年と私が変身していた被害者男子はよく似ていた。校長にイケナイ薬を盛られて襲われた挙げ句、オーバードーズで死にかけたところを”シスターの私”に救われた。良司さんの毒薬被害者も校長の仕業で……という筋書きよ。 今となっては私をシスターに仕立て上げた理由は不明だけど、せっかくだから利用させてもらおう。『いやぁ~白緑がぼくのために殺人だなんて、ちょっと感動しちゃったよ』『殺
校長は既に勝った気でいる。 人数のアドバンテージに加え、遥か格下の相手をしているという油断。加えて乱子が拘束魔法で私の動きを封じたのも要因だろう。 でも私は気付いたわ。やつらは勘違いをしている。 私に踏んづけられらて意識を失ったシラーは未だ夢の中。そもそもシラーに目眩を起こさせるような能力はない。 やったとすればベリー、もしくは―― 『白緑ぃ~! これ、これ!!』 ベリーが辛うじて動く袖の部分を繊維状にほぐし、こそっと中を見せてくる。 やっぱり! くるくる蓑虫だわ! すっかり忘れてたけど、私はあの頼りになる魔虫を召喚してたんだった。ああ、自分で自分を褒めてあげたい。グッジョ