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空野瑠理子
空野瑠理子
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Novels by 空野瑠理子

月灯りの花嫁。

月灯りの花嫁。

月影と呼ばれる少女が、やがて最強魔術師に愛され姉と家を救う、溺愛シンデ レラストーリー! 怪異を祓う様々な魔術師達が存在する時代。 平民の妹として生まれたリリシアは、魔術を持つ姉に続くと期待されていた。 だが、儀式の最中に姉共々、怪異に呪いをかけられ、姉は病に 伏せ、リリシアは月の下を自由に歩けない体に……。 そのことから母に「月影」と呼ばれ、虐げられる生活を送っていた。 18となったある日、リリシアは冷酷無慈悲と噂される最強魔術師・ル ファルの邸宅へ「嫁ぐ」名目で売られることになる。 リリシアは姉と別れ、心に強く誓い旅立つ。 姉と家を救い、月の下を歩けるようになってみせる。絶対に幸せになることを 諦めないと――。
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Chapter: 7話-2 運命の人。
リリシアの思考は、氷の檻に閉じ込められたかのように凍結した。(ルファル様が……あの方と婚約……?)私室から姿を現したルファルが、月紐で一本に結った髪を微かに揺らし、長靴の音を重厚に響かせて階段を降りてくる。「ルファ様!」「ラズ」親密に呼び合うふたりの姿。リリシアはただ、石のように硬直してそれを見つめることしか叶わない。「あ、の……ルファル様……」消え入るような声を絞り出したリリシアをルファルの冷たい視線が射抜く。「茶も花も不要だ。お前は下がっていろ。……私は彼女を部屋へ案内する」有無を言わさぬ拒絶。ラズエラは満足げに深く頷き、ふたりはリリシアを置き去りにして、静まり返った階段を上がっていく。「……嘘でしょう?」「……リリシア様がいらっしゃるというのに、あんまりですわ」「……婚約をなさるということは、ラズエラ様を選んだということかしら……」周囲で渦巻く使用人達の囁き声すら、まるで遠い異国の言語のように意味をなさない。もしかしたら、ルファルと心を通わせられるのではないか。もしかしたら、ルファルと幸せになれるのではないか。もしかしたら、ルファルの花嫁になれるのではないか。ルファルへの恋を自覚して以来、胸の奥底で静かに抱いていた淡い期待。しかし、現実はあまりに非情だった。自分は“呪い月”という忌むべき宿命を背負った、ただの花嫁候補の一人に過ぎないのだ。だから。(……初めから、叶うはずなどないに決まっていた。それなのに、わたしは……)リリシアはただ立ち尽くしたまま、逃げるように視線を床へと落とした。* * *重厚な扉が閉まり、書斎はふたりきりの静寂に
Last Updated: 2026-03-28
Chapter: 7話-1 運命の人。
* * *「急ぎ、失礼致します」静寂に包まれた宮殿に、ルファルの硬質な声が低く響き渡った。程なくして宮殿入りした彼は、リリシアを伴い、重厚な装飾が施された皇帝の間へと足を踏み入れる。玉座へと続く階段の前でふたりが深々と跪くと、そこに座るシャイン皇帝が、すべてを見透かすような威厳に満ちた眼差しを向けた。「我は先程側近と共に公務から戻ったばかりだが……ルファルよ。帰還早々、いかがした? その様子では、ただの報告ではあるまい」「はい。任務である怪異の浄化を終えた直後、帝都の巨大な並木道、その遥か上空を旋回するイーグルの怪異を目撃致しました」「……そうか。降りてきた日の光により帝都で何かが起こることは分かっていたゆえ、任務を命じたのだが――やはり、我の予感は当たっていたようだな」シャイン皇帝の端整な顔に凍てつくような敵意が宿る。「イーグルの怪異、ついに姿を現したか」シャイン皇帝の瞳の奥で、光の炎が揺らめく。その圧倒的な威圧感に、ふたりの背筋に冷たいものが走った。「案ずるな。至急、他の魔術師達も向かわせよう」シャイン皇帝が日の魔術を使うと、光の粒子に導かれるように側近が姿を現した。「お呼びでしょうか、陛下」「魔術師ら全員に通達せよ。帝都の巨大な並木道の遥か上空にイーグルの怪異が出現した。直ちに追え、とな」「承知致しました」側近は恭しく一礼すると、すぐさま外へと出て行った。するとシャイン皇帝の視線がルファルの傍らで控えるリリシアへと移る。「して、リリシアよ。これよりルファルと直に話すべき儀がある。カイスと共に、しばし外で待っていてもらえるか?」「は、はい。かしこまりました」リリシアは深く頭を下げると、静かに皇帝の間を後にした。残されたルファルは、シャイン皇帝を見上げる。「それで、シャイン皇帝、お話とは?」ルファルの問いに、シャイン皇帝は一層深刻な面持ちで口を開く。「ラズエラ・セレスティアのことだ。お前も昔馴染みゆえ、良く知
Last Updated: 2026-03-26
Chapter: 6話-11 月のお方と、初めての帝都。
「……ルファル様。申し訳ありません。私としたことが不覚を取りました」静かに頭を垂れるハノに、ルファルはそれ以上の追及はせず、ただ鋭く命じた。「良い。……行くぞ」ルファルが鞘から剣を抜き、同時にハノもまた、腰に差した柄のようなものに手をかける。その瞬間、大気中の水分が渦を巻き、吸い込まれるように柄へと集い、透き通るような「水の刃」が形成された。「海の名において……還れ」詠唱後、一閃。ハノの剣が怪異を両断した。だが、切り離された翼が元の姿の怪異へと戻っていく。それを許さず、ルファルは冷酷な追撃をし、剣で間髪入れずに斬り落とす。怪異は浄化され光となり、すうっと異空間ごと霧散していった。辺りは巨大な並木道へと戻り、静寂を取り戻す。しかし、それも束の間。遥か上空を巨大な影が横切る。旋回しているそれは紛れもなく、かつて自分と姉に呪いをかけた、あの忌まわしいドラゴンに似たイーグル如き影。リリシアはその恐怖から眩暈に襲われ、ふらつきそうになるもぐっと堪える。「イーグルの怪異、来たか……!」「ここは私がお引き受けします。ルファル様はリリシア様を連れて、至急宮殿へ。……お急ぎ下さい」ハノは海風を纏うような速さで地を蹴り、空の影を追って姿が見えなくなっていく。リリシアは気分が優れないのを隠し、ルファルと共にカイスの待つ馬車へと戻った。そうして宮殿に戻る帝都への帰路に就く道すがら、リリシアはルファルに連れられ、ひっそりと広がる秘密の園のような花畑へと立ち寄る。「綺麗な場所……」「心を鎮めたい時に寄っている……少し、風に当たれ。ここは雑音が届かない。気分はどうだ?」不器用なまでの気遣いに、リリシアの胸が熱くなる。(ルファル様、わたしの為に……?)「もう、大丈夫です。ありがとうございま
Last Updated: 2026-03-22
Chapter: 6話-10 月のお方と、初めての帝都。
不意に、音もなく巨大な樹木の幹から、白き影のような怪異が姿を現す。半透明の白い体、顔を覆う禍々しい黒の仮面、そして背に広がる不吉な程に美しい翼。かつて邸宅の庭に現れた怪異とは一線を画す、上位の気配を纏う圧倒的な威圧感。その出現に呼応するかのように、樹木から零れた花びらが吹雪のように舞い上がり、飛散した。「っ……!」反射的にリリシア達が身構えた瞬間、世界から一切の光が消失する。気づけば、そこは底知れぬ静寂の暗闇だった。肌を刺す凍てつくような冷気、逃げ場のない閉塞感。ここはまるで――かつて実家で冷たく閉じ込められていた夜の「鳥籠の部屋」のようだった。(また、あそこに戻ってしまったの……?)記憶の奥底に澱(おり)のように沈んでいた、あの絶望の記憶が一人きりのリリシアの孤独な心を闇に染め上げるかの如く這い上がってくる。「……はぁ、はぁ……っ」耳元でうるさく打ち鳴らされる鼓動。浅くなる呼吸。恐怖が指先から心臓へと、まるで冷たい毒のように回っていく。「リリシア、惑わされるな」闇を切り裂く、峻厳でいて柔らかな響き。その凛とした声に弾かれたように、リリシアは正気を取り戻す。顔を上げれば、そこには月光を背負ったかのような、冷酷で美しいルファルの姿があった。「……ルファル、様……」「無事か」その短い言葉に、リリシアは震える胸を抑えて深く頷く。「はい……ルファル様も、ご無事で……本当に、良かったです……」安堵に喉を震わせ視線を巡らせると、数歩先で向こう側を見つめ立ち尽くすハノの姿が見えた。「良かった、ハノ様も……」言いかけて、リリシアは息を呑む。ハノの様子はどこか異様だった。足元はどろりとした黒い霧に絡め取られ、
Last Updated: 2026-03-19
Chapter: 6話-9 月のお方と、初めての帝都。
* * *ハノが優しく皿を差し出そうとした、その時。ルファルの周囲の空気が、一瞬で氷点下へと叩き落とされた。(……チョコレートケーキの方が感動しているだと? 私が見せた景色やあのブローチよりも、ハノと囲むこの菓子に心を奪われているというのか……?)内心の動揺を冷酷な仮面で隠し、ルファルは強引に割り込んだ。「ハノ、自分の分は自分で食べろ。――リリシア、足りないのなら私の分を分ける。私のを食べれば良い」「え、ルファル様!? そんな、お気遣いなく……っ」慌てるリリシアをよそに、ルファルの独占欲が静かに現れ、穏やかな表情を見せるハノとの間に、奇妙な均衡が流れる。だが、そんな流れを破ったのは、唐突に吹き抜けた不気味で冷ややかな「風」だった。その怪異の気配を感じ取った2人の魔術師の顔つきが、神魔隊の騎士のそれへと変貌する。「……来たか」ハノが座ったまま鋭い視線を向けると、海風のような清涼な気配が渦を巻き、街の隅に潜んでいた淀んだ影を一掃した。「じきに日も暮れる。任務を急いだ方が良さそうだ」ルファルはハノの言葉に頷く。「……ああ。では行こうか」* * *やがてリリシアはふたりとこの場を離れ、帝都の喧騒から巨大な並木道へと足を踏み入れた。そこは、先程までの賑わいが嘘のように静まり返り、鳥のさえずりさえも聞こえない。リリシアが不安に駆られ、後ろを振り返ろうとしたその時、ルファルの鋭い声が飛んだ。「決して振り返るな。……いいな」その厳かな響きに背筋を正し、リリシアは前だけを見つめる。一歩、また一歩と進むにつれ、辺りには濃い霧が立ち込め、白く、白く、白、白に。まるで包み込まれるように視界を白銀の世界へと染め上げていった。いつしか霧が晴れた瞬間、リリシアは息を呑む。そこは、まるで時が止まり眠りについた永遠の揺りかごのような、世界の境界が消失した異界の極致だった
Last Updated: 2026-03-15
Chapter: 6話-8 月のお方と、初めての帝都。
ハノの口から聞かされた「任務」という、場にそぐわない無機質な響き。その言葉が耳に触れた瞬間、リリシアの胸の奥で、言いようのない不安が小さく波立った。先程までの、甘く、溶けるような幸福な時間が、急速に現実味を帯びて引き剥がされていく。「え……、ルファル様のお約束というのは……その、任務のことだったのですか……?」困惑に揺れるリリシアの瞳を見つめ、ルファルはわずかに眉を寄せた。申し訳なさそうに、けれど神魔隊長としての威厳を崩さぬまま、静かに口を開く。「……黙っていてすまない。シャイン皇帝より、本件は秘匿せよとの伝令を受けていた……任務の前に、帝都で睦まじく時を過ごせ、とな」最後の一節を口にする際、ルファルはわずかに視線を逸らした。「睦まじく」という言葉が耳に触れた瞬間、リリシアの頬に熱が灯る。シャイン皇帝直々の伝令が、まさか自分達のデートを指していたなんて……。微笑むシャイン皇帝の顔が脳裏に浮かぶようで、リリシアはたまらず視線を落とした。「そ、そうだったのですね……。では、これからすぐに、その……任務へ?」リリシアが問いかけると、ルファルはハノと一瞬だけ音のない会話を交わすように見つめ合った。「――いや。まずは一息つこう。同席しても構わないか?」「勿論だ。こちらへ」ハノに促され、リリシアはルファルと共に椅子へと向かった。エスコートされるままハノと向き合う形で席に着くと、ハノが柔らかく問いかける。「今は任務ではありませんから、普段通りに接しても?」「ああ、好きにしろ」ルファルの許しを得て、ハノはふっと表情を和らげた。その瞳には、旧知の友に向ける揺るぎない信頼が宿っている。「今日のルファルは、真実(まこと)の皇子(おうじ)のように見える。……いや、そのものかな。先程のヴァイオリンでも腕は少しも鈍っ
Last Updated: 2026-03-14
一通の手紙から始まる花嫁物語。

一通の手紙から始まる花嫁物語。

一通の手紙から始まる、溺愛シンデレラストーリー! 魔を祓う力を持つ者が権力と地位を得る時代。 ボロ家の養女、フェリシアは伯母に虐げられながらも下級料理番としてお屋敷で働き、貧乏な地獄の日々を送っていた。 そんなある日、フェリシアの家に一通の婚約の手紙が届く。 お相手は現皇帝に仕え、軍の中で絶対的権力を持つ軍師長、エルバート・ブラン。 フェリシアは逆らえず、エルバートの花嫁になることを受け入れ、ブラン家に嫁ぐことに。 そんな彼女を待っていたのは、絶世の冷酷な美青年で――!?  異世界で地獄の日々を送ってきた貧乏無能少女の運命が変わり始める。
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Chapter: 34話-5 月明かりの幸せ。
月は今まで見た中で一番美しく、その輝きは穏やかな海面に降り注ぎ、波一つ一つを宝石のように煌かせ、遠くの水平線まで光の絨毯を広げていく。そして足元の岩場に咲く美しき花々は、月光を浴して白く輝き、まるで星々が地上に舞い降りたかのよう。と、美しき光景に心を奪われた時だった。後ろからエルバートに優しく包み込まれる。「ご、ご主人さま?」「今宵、お前とこのように美しき月を見られて本当に良かった」「はい。ご主人さま、月、綺麗ですね」「海も花も月の光で輝いています」こうしてしばらくの間、エルバートに包まれたまま月を眺め、やがてエルバートが手を離すと互いに向き合う。「ご主人さまにお伝えしたきことがあります。聞いて下さいますか?」「あぁ」「ご主人さまが家にご婚約の手紙を届けて下さらなければ、きっとこのような幸せな未来は訪れず、こんなに美しい月も見られなかったと思います」「だからご主人さま、ありがとうございます」「愛しております」(ご主人さまに、この感謝の想いが、愛がちゃんと伝わっただろうか――――)「フェリシア」「は、はい」「私もお前を愛している」「だからもう一度、あの時のように名前で呼んでくれないか?」あの時とは恐らく、初めての夜のことだろう。フェリシアは意を決し、エルバートを見つめる。「…………エルさま」月光の下で名を呼んだ瞬間、エルバートの唇が優しく触れる。とても温かいキスだった。エルバートが唇を離すと穏やかな笑みを零し、フェリシアも優しく微笑む。その後、フェリシアはエルバートと並んで浜辺の流木に座る。すると、どちらからともなく、自然に寄りかかり、肩が触れ合う。そして。(ご主人さまの、この暖かな温もりを、ずっと、ずっと、感じていたい――)と、心の中で思いながら、海を見つめた。どれだけそうしていただろう。フェリシアは昇る日の光で目を覚ました。いつの間にか眠
Last Updated: 2025-07-30
Chapter: 34話-4 月明かりの幸せ。
「あの、ご主人さま? 魔は?」フェリシアは戸惑いながら問いかける。「やはりそう解釈したか。騙した形になってすまない」「私が婚約の手紙を出さなければ、こうしてお前とは出会えなかった」「だから同じように手紙でお前を呼び出すことにした」「お前とここの別荘で今宵、月を見ながら過ごしたくて」(だからいつもと違うお洒落な軍服を着ていたのね)フェリシアが心の中で納得すると、エルバートはフェリシアを離し、近くの別荘に目線を向ける。フェリシアもまた別荘を見ると、朧げではあるが、3歳まで両親と暮らしていた家と同じくらいの大きさの別荘があった。フェリシアは思わず涙する。「フェリシア、その」「もうっ」「ほんとうにすまなかった」「いえ、違うのです。生まれ育った家に帰れたようで嬉しくて……」「そうか」エルバートは安堵したようで、こちらをじっと見つめる。「フェリシア、ビーフシチューを作ってくれないか?」「はい、喜んで」フェリシアは承諾し微笑む。するとクォーツの馬車が遠ざかっていくのが見えた。フェリシアはエルバートとしばしの間馬車を見つめ、やがて馬車が完全に見えなくなると、フェリシアはエルバートと共に別荘まで歩いていく。そして、すぐさま温かみのある厨房でビーフシチューを作り始め、しばらくして完成した赤ワイン煮込みのビーフシチューを居間の木製の椅子に座るエルバートにお出しし、その隣の椅子に座る。すると窓から海が見えることに気づき、横長の机に並んだ状態で座ったまま、窓から時々海を見ながらそれぞれビーフシチューをスプーンですくって食べる。「やはり、お前のビーフシチューは美味いな」「あ、ありがとうございます」「だが、食べさせてくれたらもっと美味く感じるだろうな」(ま、まさか、ご主人さまが、あーんをご所望されるだなんて!)「わ、分かりました。では……」フェリシアはビーフシチューをスプーンで一口
Last Updated: 2025-07-29
Chapter: 34話-3 月明かりの幸せ。
エルバートはユリシーズの封を解き、手紙を取り出し開く。エルバート帝爵、フェリシア嬢、この度はご結婚おめでとうございます。私はハロルドと共に牢を出て貧しい領土に追放され、その地の長と兵士として日々懸命に働いております。私共の命があるのはあなた方のおかげです。これからもおふたりの幸せを心より願っております。読み終わると、フェリシアの両目が潤む。「ユリシーズ殿下、ハロルド様と前を向かれていて良かった」「そうだな」エルバートはユリシーズの手紙をテーブルに置き、ローゼの封を解き、手紙を取り出し開ける。フェリシア、エルバート帝爵様とのご結婚おめでとう。あなたのおかげで毎日有意義に暮らせているわ。あなたは私の誇りよ。ラン、あなたの母もきっと喜んでいると思うわ。これからも頑張りなさいね。「これまでの謝罪もなしか」「良いんです、幸せに暮らせているのならそれで」「そうか、強くなったな」エルバートに頭をぽんと優しく叩かれ、フェリシアは微笑んだ。* * *そして、春が終わりを迎える日。エルバートをいつも通り玄関で待ち続けるも帰って来ない。隣のリリーシャに「エルバート様を驚かせましょう」と提案され、せっかく淡い色調の優雅なドレスを着てお洒落をしたのにこれでは意味がない。「フェリシア様、もうじき帰られますよ、きっと」「そうですね」リリーシャに言葉を返したその時。警備を兼ねながら庭の手入れをしていたクォーツが玄関から駆け入って来る。「只今、アルカディア宮殿の使いの者から手紙が」クォーツに手紙を差し出され受け取ると、その場で封を切って手紙を取り出し開く。至急、アルカディア宮殿付近の花海岸まで来て欲しい。手紙にはそのことだけが記されていた。(ご主人さまが手紙で助けを求めるということはよほどのこと)ルークス皇帝を乗っ取った魔よりも強い魔が現れ、窮地に立たされているとしか思えない。「クォーツさん、今からご
Last Updated: 2025-07-28
Chapter: 34話-2 月明かりの幸せ。
* * *新婚5日目の早朝――廊下を駆ける足音が響く。「ご主人さま!」フェリシアはあるものを手に持ち、居間にいるエルバートまで駆けていくと、エルバートがこちらを見る。「フェリシア、どうした?」「先程廊下でディアムさんから頂きました」フェリシアは手に持っているものを差し出す。するとエルバートは受け取り、その一面を見る。「私達のパレードの様子が書かれた新聞か。完成したのだな」「まだ勤めまで時間がある。ここで共に見よう」「は、はい」返事をし、エルバートとソファーに並んで座るとエルバートが新聞を広げる。新聞には、自分とエルバートの姿がまるで絵画のように美しく愛に満ちた雰囲気で描かれていた。それだけに留まらず、『アルカディア皇国を救ったエルバート帝爵様と祓い姫のフェリシア嬢、壮大かつ幸せなパレードを披露! 世界をも超える祝福に涙!』との事が書かれており、嬉しさと恥ずかしさでいっぱいになる。「あ、あのご主人さま、ずっと気になっていたことが……」「なんだ?」「この結婚指輪は金でなくても大丈夫なのですか?」「あぁ、本来、貴族の結婚指輪は銀より価値の高い金で作るのが普通だ」「しかし、お前が私の髪の色が好きだと言ってくれた。それに応える為、金を銀に変えたのだ」(ご主人さま、わたしの為に……。嬉しいけれど……)「金を銀に変えたら貴族の指輪ではなくなるのでは……?」「あぁ、その通りだ。だから銀を使わず金に銀を混ぜて私の髪色に近いシルバーになるように特注で作ってくれとデザインを聞かれた時に頼み、出来たのがこの指輪だ」「そして、ダイヤも普通は輪の上に乗せるのだが、それだと引っ掛けたりして仕事にならない。よって指輪の中に埋め込むデザインにした」「それで満月のような形になったのですね」フェリシアは納得し、ふとエルバードから目線をずらすと、テーブルに置かれた2通の手紙に気づく。
Last Updated: 2025-07-27
Chapter: 34話-1 月明かりの幸せ。
* * *幸せなど訪れない。ましてや愛されることなどないと思っていた。けれど――――。「フェリシア、こちらを見ろ」フェリシアは玄関の外の扉前で頭を上げる。するとエルバートは優しく微笑み、早朝から手作りした昼食のサンドイッチが入った包みを受け取る。けれどそれだけに留まらず。頬に手をそっと触れられ、とろけるような甘い口づけをされた。その上、ディアム、リリーシャ、ラズール、クォーツに暖かな微笑みで見守られ、フェリシアは恥ずかしさでいっぱいになる。エルバートの唇が離れると、フェリシアは少し怒気を帯びた目でエルバートを見つめた。「も、もうっ! ご主人さま、朝からこんなところでっ」「夜だったら良いのか?」フェリシアは昨日の初めての夜のことを、抱き枕にされながら眠りに落ちていたことを思い返し、ますます顔が熱くなる。するとエルバートはふっと和やかな顔で笑い、昼食の包みを鞄の中に入れる。「では行ってくる」「行ってらっしゃいませ」微笑むと、エルバートに頭を優しくぽんされた。エルバートの瞳から愛されているのが伝わってくる。ご婚約の手紙を受け入れるしかなく、エルバートに尽すことを心に強く誓った日を懐かしいとさえ思う。(わたしは今、こうして、愛に、幸せに包まれている)* * *その晩のことだった。エルバートは朝とはまるで違い、不機嫌な顔でディアムを連れて帰ってきた。理由を聞きたいけれど、とても聞ける雰囲気では…………。「フェリシア様、大丈夫ですよ」「昼食が妻の手作り、しかもハムとチーズ、鹿の干し肉、ゆで卵、レタス、トマトを挟んだサンドイッチでさすが新婚さんは違うと、カイやシルヴィオ、メイド達に冷やかされただけですから」ディアムがスラスラと説明すると、エルバートがディアムに冷ややかな殺気を放つ。「いつものことですからどうかお気になさらず」ディアムが笑顔でフェリシアに向けて言うと、エルバートは
Last Updated: 2025-07-26
Chapter: 33話-5 花嫁の誓い。
「軍師長、ついに結婚したんですねー」「冷酷な鬼神のエルバートが結婚か。信じられないな」ふたりの言葉に続き、近づいて来たゼインとクランドールにまでも。「私も同感です。エルバート様、無事にご結婚出来て良かったですね」「全くだ。ほんとに結婚出来て良かったな」フェリシアは恐る恐るエルバートの顔を見る。するとエルバートは冷酷な表情をなんとか堪えていた。「エルバートよ、散々な言われようだな」ルークス皇帝がエルバートに声をかけ、側近と共に近づいてくる。「フェリシア嬢、ご結婚、おめでとう」側近があえて本当の父のように挨拶し、エルバートの表情が更に危うくなる。「あ、ありがとうございます」フェリシアが返すとルークス皇帝は、ふっ、と笑う。「ルークス皇帝、何が可笑しいのですか?」「エルバートよ、すまない。だが、本日はほんとうにめでたい」「我が本日この場に立つことが出来たのはお前達ふたりのおかげだ。感謝する」「そして、エルバート、フェリシア、おめでとう」「これからもふたり力を合わせ、光の道を歩んで行かれよ」フェリシアとエルバートは涙を堪えながら静かに頷いた。* * *その日の夜。ふたり用の部屋からバルコニーへ出て、月を見つめる。互いにお風呂は済ませたものの、エルバートの銀色の長髪は微かに濡れており、いつもよりも色香が増している。対して自分はただただ恥ずかしい。「フェリシア、疲れていないか?」「大丈夫です」「本当か?」フェリシアはこくんと頷く。するとエルバートは顔を近づけてくる。フェリシアもまた顔を近づけ、唇が優しく触れ合う。エルバートに髪を掻き分けられ、初めての深く長いキスが降り注がれる。倒れそうになるとエルバートが唇を離し、体を支えられる。「ここではやはり大丈夫ではないな」エルバートにお姫様抱っこをされ、フェリシアはエルバートに抱きつく。そして優しく部屋のベッドに座らされ
Last Updated: 2025-07-23
幸せな偽の花嫁。

幸せな偽の花嫁。

偽の花嫁が本物の愛を見つける、溺愛シンデレラストーリー! 聖姫の力が尊ばれる時代。 平民の長女シルヴィアは、能力を持たない「無能」として継母と継妹に虐げら れ、惨めな日々を送っていた。 そんなある日、継妹と間違われたシルヴィアは人攫いに遭い、命乞いの末、恐 れられる皇太子ハドリーの花嫁として身代わりを強いられる。 彼との出会いをきっかけに、シルヴィアは本物の愛を知り、奇跡が彼女の運命 を変えていく――。
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Chapter: 12話-5 幸せな偽の花嫁。
* * *幸せな婚礼の儀がつつがなく執り行われ、シルヴィアはハドリーに導かれるまま、宮殿のバルコニーへと移る。視界に飛び込んできたのは、夢の続きをそのまま色彩に写し取ったかのような、あまりに鮮やかな光景だった。傍らに立つ皇帝と皇后が、慈愛に満ちた眼差しをふたりへと注ぐ。「おめでとう、ハドリー。そしてシルヴィア、我が皇国へようこそ。……今日からそなたは、我の娘だ」重厚な皇帝の祝辞に続き、皇后もまた、春の陽だまりのような微笑みを浮かべた。「末永く、幸せにおなりなさい。あなた達は、この国の希望の光なのですから」ふたりが皇宮前広場を見下ろす手すり際へ歩み出ると、地鳴りのような大歓声が天を突いた。視界の限りを埋め尽くす民衆が、新しい皇太子夫妻を祝福し、熱狂の中で手を振っている。(ああ、皆が笑っている……)これ程までに、自分を祝福してくれている。かつての自分を拒絶し、蔑む者など、ここには誰一人としていないのだ。ただ、純粋な祝福の熱だけがそこにあった。胸の奥から熱いものがせり上がり、シルヴィアの両目から大粒の涙が溢れ出した。それは悲しみではなく、あまりに眩い幸福に触れたゆえの雫だった。その後、色とりどりの花々に彩られた、荘厳な大階段へと移動する。ハドリーが恭しく差し出した掌に、シルヴィアは震える指先をそっと重ねた。皇帝と皇后が静かに見守る中、ふたりはゆっくりと一段ずつ、未来を確かめるように降りていく。柔らかな光を吸い込んで煌めくドレスの裾が、波のように優雅に流れる。「シルヴィア様、本当におめでとうございます」「殿下、どうかお幸せに」「ルファル……。ゆめゆめ、その手を離すな」「シルヴィア……心から、おめでとう」階段の傍らから親愛に満ちた眼差しを向けるベル、リゼル、フェリクス、フィオン……そんな愛する者達の声に背を押されるようにして、ふたりは宮殿の外へと踏み出した。
Last Updated: 2026-03-28
Chapter: 12話-4 幸せな偽の花嫁。
秋の夜が、静かに明けた。運命の朝が、訪れた。リンテアル宮殿の礼拝堂。その後方にある重厚な双扉が、衛兵の手によって厳かに、左右同時へと押し開かれた。高く穿たれた大きな窓から差し込む秋の陽光は、まるで神の祝福がこぼれ落ちたかのように、聖域を神聖な輝きで満たしている。豪華な装飾が施された内装に、高らかに響き渡るパイプオルガンの音色。その旋律に導かれるように、聖なる純白のドレスに身を包んだシルヴィアと白の正礼装を纏ったハドリーが、光の中へと同時に足を一歩踏み出した。列席した招待客や貴族達が一斉に立ち上がり、どよめきにも似た感嘆の吐息が漏れる。本来、この皇国の習わしでは、新郎は祭壇で花嫁を待つものだ。けれどふたりは、対等な愛の証として、共に歩む道を選んだ。シルヴィアは中央の祭壇へと続く長い絨毯の道を見据え、一歩ずつ、ゆっくり進んでいく。その先に待つ、唯一無二の光――ハドリーに向かって。やがて、左肩にマントをかけ内側にタスキをかけた凛々しい立ち姿のハドリーが、視界に鮮明に映り込んだ。(やっと、お顔が見られた……)中央で歩みを止めた瞬間、ふたりの視線が深く絡み合う。ハドリーの端正な顔に、一瞬の驚きと、それを塗りつぶす程の深い慈しみが滲んだ。「……やっと会えた。綺麗だ、シルヴィア」「……殿下……っ」差し出されたハドリーの大きな掌。シルヴィアは込み上げる熱いものを懸命に堪え、震える指先をそっと重ねた。(……温かい)手袋越しにも伝わるハドリーの温もりが、胸の奥に澱(よど)んでいた不安を優しく溶かし、凪のような安らぎを運んでくる。腕を組むよりも密やかに、添えられた指先から伝わるのは、何よりも強固な絆だった。導くような、包み込むようなエスコート。凛とした姿勢でシルヴィアが歩む度、柔らかなピンクの長髪が流れ、聖姫の力に呼応するかのように、レースのロングベールが光を弾いて優雅な軌跡を描き、リボンの下に何
Last Updated: 2026-03-27
Chapter: 12話-3 幸せな偽の花嫁。
* * * その夜、祝宴の喧騒を逃れ、シルヴィアはハドリーに導かれるようにして、月明かりが降り注ぐバルコニーへと抜け出した。 先程まで、華やかな光に満ちた広間でハドリーとダンスを披露した余韻が、熱が、未だに冷めず残っている。 「ようやく、ふたりきりになれたな」 夜風で僅かに翻るルファルの貴族衣装。月下に佇むその姿は、一幅の絵画のごとくあまりに美しく、シルヴィアは跳ねる鼓動を抑えることが出来ない。 それに傍らに立つルファルは先程までとはどこか違う気がした。 しばしの静寂に包まれた後、ルファルが決意を固めたかのように静かに口を開く。 「魔形の分身が帝都へ放たれたあの日、私は初めて己の動揺を知った。……そして、気付かされた。お前がもはや単なる『偽の花嫁』などではなく、私にとって代えがたい存在なのだと」 ハドリーは、逸らすことの出来ない真剣な眼差しでシルヴィアを見つめる。 「シルヴィア。世界の誰よりも、お前を愛している。……私の、真(まこと)の花嫁になってくれないか」 不意に溢れた愛の言葉と、あまりに切実な求婚。 視界が急激に潤み、熱いものが胸の奥からせり上がってくる。声を出そうとしても、零れるのは涙ばかりで言葉にならない。 けれど、この想いに応えたい一心で、シルヴィアはしがみつくようにハドリーを抱き締めた。 「はい……。私も、愛しております……殿下」 震える声で、けれど確かな意志を込めて応える。 するとそれを聞いたハドリーの腕に、いっそう強く抱き締められる。 まるで二度と離さぬと月に誓うかのように。 バルコニーに降り注ぐ月の光がふたりを優しく照らし出す。 夏の夜の、頬を撫でるような柔らかな風が、シルヴィアの髪飾りとハドリーの髪を結んだシルクのリボンを密やかに揺らしていた。 * * * そして、季節が移り変わり、秋。 婚礼の準備と聖姫や公爵令嬢としての教育に追われ、慌ただしい日々が過ぎていく。 最後にゆっくりと言葉を交わしたのは、あのプロポーズの夜のことだっただろうか。 シルヴィアがふと視線を向けた窓の外では、秋の澄み渡る月が、夜空を青白く、
Last Updated: 2026-03-26
Chapter: 12話-2 幸せな偽の花嫁。
* * *邸宅に戻った夜、食事室には思い出の料理が並んだ。無事の帰還を喜ぶ護衛と使用人全員に温かく迎えられた後に心を込めて作った、かつて、ハドリーが初めて口にし、出立前にも食べた、あのチーズと共にパンと玉ねぎと鶏肉を焼いたものの上に薬草の花を散りばめた特別なシルヴィアの手料理。シルヴィアはハドリーと共にそれを食べる。「――美味しい。今宵の味はあの時よりもずっと温かく感じる。……約束、守れたな」低く、慈しみに満ちたハドリーの言葉が、そっとシルヴィアの心に触れる。すると、堰を切ったように瞳から大粒の涙が溢れ出した。「シルヴィア?」「取り乱してしまい、申し訳ありません……。ほっとして、嬉しくて涙がつい……」「……泣きたいだけ泣けばいい」ハドリーの深くて穏やかな、けれど決して揺るぎない眼差しがじっとシルヴィアを見つめる。「シルヴィア、お前がいてくれたからこそ、私は帰るべき場所を見失わずに済んだのだから。……もう、何処へも行きはしない。これからは、ずっとお前の傍にいよう」ハドリーの大きな手が、シルヴィアの頭を優しく包み込んだ。* * *3日という月日が瞬く間に流れ、陽光が穏やかに降り注ぐ午後のこと。皇帝の間では荘厳な静寂の中、ハドリーの受勲式、そしてシルヴィアの聖姫認定と令嬢式の儀が執り行われた。列席した皇后や公爵、伯爵といった貴顕(きけん)の方々の見守る視線が中央へと注がれる。豪奢な正装に身を包んだハドリーが恭しく頭を垂れると、皇帝の手から、眩い光を放つ黄金の大勲章がその胸元へと授けられた。続いて、フェリクス、フィオン、リゼルの3名も次々に進み出る。彼らの功績を称えるべく、銀の大勲章、騎士の称号、国に貢献した証の銅の勲章を順に下賜(かし)され、その他の騎士達も表彰され、広間には厳かな拍手の音が波紋のように広がっていった。その後、吐息ひとつ分の空白を経て、場が更なる緊張感に包まれる。凛
Last Updated: 2026-03-21
Chapter: 12話-1 幸せな偽の花嫁。
* * * そうしてひとしきりハドリーと抱擁を交わした後。 目覚めたベルに抱きすくめられると、シルヴィアの強張っていた肩からようやく、はらりと力が抜ける。 「シルヴィア様……! ご無事で、本当に良かった……っ」 傍らではすでに意識が戻ったリゼルやフィオン、フェリクス、そして副騎士長と生き残った騎士達が安堵の溜息をついている。 「おふたりであの魔形を……」 「シルヴィア、聖姫になれたんだね。とても綺麗だ」 リゼルとフィオンが感嘆な声を零す中、フェリクスも静かに口を開く。 「ハドリー。……お前がいてくれて良かった」 「宮殿に向かうぞ」 副騎士長の号令に、生き残った騎士達が慌ただしく帰り支度を始め、ハドリーは自分の馬をリゼルに託し、シルヴィアの馬車へと乗り込む。 やがて、揺れる馬車の中、ハドリーの横顔を見つめる内に、シルヴィアの視界は次第に霞んでいく。 心地良い揺れに身を委ねるうちに、吸い込まれるような深い微睡みがシルヴィアを優しく包み込んだ。 * * * 宮殿に辿り着いたのはその、2日目の夕暮れ時だった。 黄金色の残光が回廊を照らす中、軍の家族や宮殿に仕える者 等が列をなし、音もなく深々と頭を下げる。 そんな静かな歓迎を受け、シルヴィアはハドリーと共に宮殿入りをし、皇帝の間へと向かった。 玉座につく皇帝とその隣に座る皇后の階段の前に、ハドリーが騎士の礼を取り、リリシアも同じく跪く。 「ハドリー・リンテアル、只今帰還致しました。当最終部隊、並びに聖姫の御力を似て、国境のゲートは無事に閉じられ、厄災の刻は収まりました。……フェリクスの部隊はほぼ壊滅、多大なる犠牲を払う結果となりましたが」 「そうか」 ハドリーの報告に皇帝は深く頷く。 「よくやった、ハドリー。お前に皇国の行く末を託した私の目に狂いはなかった」 「……勿体なきお言葉にございます」 「先のことは知れぬが、これでしばし、この皇国も安泰であろう」 皇帝の低く、重みのある声に続き、皇后が柔らかな笑みを浮かべ、シルヴィアを見つめた。 「シルヴィア、貴女もよく務
Last Updated: 2026-03-20
Chapter: 11話-4 愛を知る。
* * *月が――――。互いにそう思った直後だった。ハドリーの目の前で、シルヴィアの包み纏っていたドレスが音を立てて引き裂かれ、彼女の身体は凄まじい光の炎に呑み込まれた。「……っ!」抱き起こされていた温もりが、唐突に消える。シルヴィアの手も彼女の頬に触れていた手のひらの指先も無慈悲に引き剥がされた。ハドリーの身体は、力なく地面へと崩れ落ちる。――ハドリーよ、月には気をつけよ。シルヴィアの命が危うい。彼女を傍に置くと決めて数日。皇帝に急ぎ呼び出され、告げられたあの不吉な言葉が今、鮮明に脳裏をよぎる。シルヴィアが、死んだ……?絶望という名の暗い淵に沈みかけた、その時だった。「あ……、……う……」光り輝く炎の向こうから、消え入りそうな、けれど確かなシルヴィアの声が聞こえた。(シルヴィアは、まだ、生きている)ならば、私だけがここで終わる訳にはいかない。「シル、ヴィア……っ」ハドリーは身を焼くような光を厭わず、最後の一滴まで力を振り絞って立ち上がった。そして、荒れ狂う光の炎ごと、愛しい彼女を強く抱き締める。「まだ、死なれては困る。……お前は、正真正銘、私の花嫁となるのだから」* * *意識が遠のく苦しみの中で、シルヴィアはふと、ハドリーの自分を呼ぶ声と温もりを感じる。(殿……下……?)混濁する意識の底から、記憶の糸が手繰り寄せられる。――そうだ。期限の2日前。父が亡き母と共に、月の下で「聖姫」の力を封印したのだと、ハドリーから聞かされていた。だから、月明かりの日に聖姫の力が封印されたのであるならば、このまま月明かりを全身に浴びることで覚醒出来るかもしれない。シルヴィアは光の炎に身を焦がしながら、天に浮かぶ
Last Updated: 2026-03-07
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