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羽馬タケル
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羽馬タケルの小説

ワンダーパヒューム

ワンダーパヒューム

5月上旬、季節外れの夏到来でエアコンの故障に気付いた高畑瑞穂は、上司である和田マネージャーのはからいで、とある電器屋を紹介してもらう。 古田と名乗ったその男は、格安でエアコンを提示し、この出来事がキッカケで瑞穂は和田マネージャーと古田の二人と距離を縮めていく事になるのだが……。 29歳アラサー、彼氏ナシ、ちょい個性的、香水大好き、イケメン上司、風変わりの無愛想電器屋。 過激描写アリ? 等身大のオトナ女子の恋愛模様を描いた、甘酸っぱい恋愛小説。
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Chapter: Chapter(2) ドキドキ
地獄のような連日の熱帯夜に耐え、ようやく迎えた土曜日。瑞穂は、国道沿いのドトールのテーブル席でアイスコーヒーを飲みながら、待ち人である和田マネージャーを、チラチラと入口に目をやりながら待っていた。自動ドアが開く。「いらっしゃいませ」と、型通りの言葉を発する店員。朝焼け前の夜空を想起させる、蒼いシャツ。ディッキーズのチノパン、vansのスニーカー。普段見る、ポール・スミスのスーツ姿とはまた違った和田マネージャーが、そこにはいた。何気ない私服であったが、和田マネージャーが着るとそれは、瑞穂の心を捕らえて離さない、魅力的なモノへと変化する。時刻は、9時50分。待ち合わせ時刻の、10分前であった。「早いね。ゴメン、ひょっとして待ったんじゃない?」和田マネージャーは、ハムチーズとアイスコーヒーが載ったトレイを持ちながら歩み寄ってくると、開口一番瑞穂に尋ねた。「いえ、アタシも本当に今、来たトコでしたから」瑞穂は手を振り、和田マネージャーの弁を否定する。「それなら、良かった」和田マネージャーは安堵の表情を見せると、瑞穂の向かいの席に腰掛け、アイスコーヒーにシロップを入れる。「しかし、昨日も暑かったよね。高畑さん、大丈夫だった?」「ホント、最悪でした……」ふぅ、とため息をついた後、瑞穂はしかめっ面で言葉を継いだ。「一昨日はまだマシだったんですけど、昨日は昼間に雨が降った、っていうのがあったからですかね?部屋の中がサウナみたいにジメジメしてて、夜中に何回も目が覚めましたよ。で、少しでも何とかしようと、濡れタオルで身体拭いたりとか、冷感敷きパッドを買ってきたりとかしたんですけど、ホント『焼け石に水』って感じでした。汗、全然止まらなかったですし。明日から、また涼しくなるみたいですから、取り敢えず熱帯夜からは解放されるんですけど、夏、この状態がずっと続くと考えたら、頭が痛くなりましたよ。だから、電器屋を紹介する、って言ってくれた和田マネージャーには、感謝しています。また暑くなって、あの熱帯夜が来たら、この間和田マネージャーが言ってたみたいに『暑くて寝れなくて、仕事出来ませーん』って、ホント言いかねない状態でしたから」「そりゃ、危ないトコだったわ」ストローで、アイスコーヒーをかき混ぜていた和田マネージャーは、笑い声を上げる。·「
最終更新日: 2025-06-17
Chapter: ・Chapter(1) クロエは封印ッス
「おはよーございます」 抑揚を欠いた声で挨拶を述べて瑞穂は出社すると、入浴する親父のように緩慢な動作で自らのデスクへと腰掛けた。 パソコンの電源を入れ、ログインパスワードを入力すると、瑞穂は睡眠不足を少しでも解消させる為、組んだ両手の上に頭を載せ、仮眠をとる。 「眠そうだな」 その時、瑞穂の後ろから声が聞こえてきた。 「……はい」 瑞穂は寝ぼけまなこで、ゆっくりと後ろを振り返る。 見慣れた、ポール・スミスのスーツ。 くっきりとした二重まぶた、高くそびえ立った鼻。 嗅いだ人間の心を取り込むような、ブルガリ・プールオムの香り。 我が営業二課のエースである和田マネージャーが、口元を曲げながら瑞穂を見下ろしていた。 「眠いッス……」 仮眠を妨害された瑞穂は、唇を尖らせながら和田マネージャーに対して返答する。 「その様子じゃ、殆ど寝てないって感じだな。 なんか、変な事でもしてたのか?」 「してませんよ、そんな事」 和田マネージャーのブラックジョークに、瑞穂は苦笑いを浮かばせながら反論した。 「ウチの、エアコンが壊れたんですよ。 昨日、真夏みたいに蒸し暑かったでしょ。 だから、掃除はまだしてなかったんですけど、その場しのぎって感じで電源を入れたんですね。 けど、何か変な音が鳴るだけで、全然涼しくならなくて……。 何か、水漏れとかもしてましたし。 で、仕方ないから、昨日は扇風機だけで寝たんですけど、あまりにも暑くて殆ど寝れなくて……。 それで、今、こんな状態って訳ですよ」 「窓、開けたら、少しはマシになるだろ?」 「ウチ、二階なんですよ」 「なるほど」 アクビ交じりの瑞穂の弁を聞き終えた和田マネージャーは、納得した、といった様子で顎に手をあてた。 「まっ、朝礼までには何とかしますから、出来ればそっとしておいて下さいよ」 両腕を高く上げて伸びをしながら、瑞穂は和田マネージャーへと向き直る。 「朝にシャワー浴びたりとか、野菜ジュース飲んだりとか、柑橘系の香水つけたりとか。こっちも、気を引き締めるように、それなりに色々何とかしてますんで」 「あっ、そういえば確かに今日の高畑さんは、いつもとは違う匂いがするな」 和田マネージャーが、鼻をひくつかせる。
最終更新日: 2025-06-15
Chapter: ・プロローグ
· · · · · · ──この匂い、凄く落ち着く。 · · · · · · · ──────────────────── 「……ちょっと、勘弁してよ」 リモコンを握りしめたまま、瑞穂はため息をつくと、額に浮き出た汗を左手でおもむろに拭った。 引っ越し当初以来、ルームメイトのごとく瑞穂と共にこの部屋で生活を共にしてきた、エアコン。 しかし、寿命が来たのか、エアコンは電車の走行音のような物々しい音を立てながら、カビ臭い吐息を排出するのみであった。 まだ5月だというのに、NHKの集金みたく望まれていない、季節外れの真夏日到来。 汗まみれになりながら、就労。 カーディガンを着て出社した自分を激しく呪いながら帰宅し、心身共にリフレッシュとばかりに、スーパーで買った「ざるラーメン」をエアコンの効いた部屋で食べ、缶ビールを一杯。 発汗作用のある入浴剤を入れたお風呂でデトックスを行い、アイスで涼を得て就寝。 そんな、ささやかな野望を抱いていた瑞穂であったが、目の前で展開されている「エアコンの故障」という現実は、瑞穂のその野望を粉微塵にまで破壊した。 帰りの電車で見た、スマートフォンの天気予報によると、このふざけた真夏日はまだ3日も続くらしい。 ──となると、何も手を打たなかったら丸三日間。 ずっと、ビニールハウスみたいに蒸し暑いこの環境で、寝起きし続けなけりゃいけない訳? 「……あり得ない」 舌打ちをしながら、瑞穂はエアコンの電源を切ると、収納スペースとなっているクローゼットから扇風機を取り出し、カバーとなっているゴミ袋を力任せに引きちぎった。 そして、続く形でコンセントを挿し込み、扇風機のスイッチを押すと、生ぬるい温風を顔面に浴びながら、瑞穂は一人沈思する。 繰り返すけど、まだ5月だ。 この休みにリフレッシュ、とばかりにGWに旅行に出かけたものだから、貯金も心もと無い。 言うまでもなく、夏のボーナスはまだ先だから、エアコンを買い換えるという選択肢は極力取りたくない。 ──となると、修理か。 瑞穂はテレビの横に置かれているカラーボックスからクリアファイルを取り出すと、そこに入れてあるエアコンの説明書を探した。 エアコンの説明書は、程なくして
最終更新日: 2025-06-15
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