Chapter: 告白 ④ウィルモットで働くミユキこと黒田深雪(クロダミユキ)21歳はパシオンエンターテイメントに所属するモデルだ。175センチの長身がコンプレックスだった高校時代。修学旅行ではじめて行った原宿で事務所の人に声をかけられた。両親は賛成をしてくれたわけではないが反対もしなかった。自分で決めればいい、とだけ言われた。進学予定だった専門学校をやめて卒業と同時に事務所と契約、寮に住みながら事務所の育成カリキュラムを受けた。1年経ってモデルとしていくつか仕事がくるようになって寮も出ようかと思った時に事務所の野村から声をかけられた。「寮を出るなら少し離れるけど事務所所有の花塚のマンションにいかない?時間がわりと自由なバイト先も付けるよ。都内来るまで乗り換えなしで70分しかかからないし、いい話だと思うんだけど」花塚からなら上野へも新宿へも電車一本で70分しかかからない。都心より物価もだいぶ安いと聞く。事務所所有のマンション家賃は相場の7割程度で寮より自由が効く。更に時間がわりと自由なバイト先まで紹介してくれるなど、深雪が断る理由はなかった。そして紹介されたバイト先がオープンして間近のウィルモットだった。2つ年上の正木廉さん。野村がマネージャーをしていたアイドルグループエアネストのメンバーのひとりだった人。中学時代に好きだという友達がいて名前は知っている程度のアイドルグループ。1番人気のグループの顔的存在KEI、身長も高くてかっこいいTANI、ヤンチャで明るいYUZU、ツンデレ王子のHIROの4人に比べてイマイチパッとしなかったメンバーがMAKIだったと記憶していた。花塚駅前に建つ事務所所有のマンションへ引っ越しを終えると一応の面接の為に開店前の店へ足を運んだ。「すみません、面接に来た黒田です」店のドアを開けて声をかけると奥から男性が1人近寄ってきた。「黒田深雪さん、ですね。その手間のテーブルにかけて下さい。飲み物はコーヒー、紅茶どちらがよいですか?」自分より少しばかり背が高いだろうか。見上げるほどではないから180弱程度か。短めにカットされた硬質の黒髪は軽く流す様にワックスで固められている。あらわになた額から鼻筋の美しさが際立つ。整えられた髪と同じく硬質の眉と切れ長気味の目。--実物、めちゃくちゃカッコいいじゃん!深雪は心の中で叫び声をあげた。「
Dernière mise à jour: 2026-02-22
Chapter: 告白 ③舞がコーディネートした服を持って試着室で着替える。「フェミニンスタイルは本当はショートよりもセミロング位がいいんだけど…。春陽、切っちゃうし!」そこは舞にはかなり気に入らない部分だったらしい。天然パーマの春陽には短い方が楽ではあるのだが。これから湿度が上がってくる時期になれば尚更に。でも、さすがファッション学部 ファッションデザイン専攻で学んでいるだけはあって舞のセンスの良さは間違いない。舞が選んだ服を着た鏡の中の姿は別人に見える。カーキの薄手ニットセーターに若草色のシアーブラウス。下は8部丈のダークグレーのシフォンパンツ。「着れた?」試着室の外側から舞が声をかける。「着れた」試着室のドアを少し開き春陽が顔だけ出した。「着れたなら見せてよ、改善もできないでしょ」「そうなんだけど……」普段、お洒落をすると言っても持っている服の中でする程度だった。1番まともなお洒落でも先日着たワンピース程度なのだ。大人可愛いフェミニンスタイルなどハードルが高かった。「ほら!」舞が力まかせにドアを開ける。「……」「……」「やっぱり可愛いじゃない!」「に、似合わないよね!やっぱり!」「……」「……」「え?」結果、舞のコーディネートした服を購入、さらにそれに合わせたライトブラウンのショートブーツを購入した。「せっかくなら全部買ったモノに着替えてしまえばよかったのに」ランチ時の混雑回避の為13時を回ってからウィルモットへと向かった車内で舞が残念そうに言った。「きっとあの男も驚くと思うけど」「男って……正木さんのこと?」「だって、春陽に絶対気があるでしょ?あの男」ズバっと言った舞は自分の言葉に不機嫌になる。しかし、春陽が付き合う事を決めるならばあの男よりは正木廉の方が百倍位応援できると考える。春陽は苦笑いしながら気のせいだよ、と話を流す。「それに、やっぱり私は男の人はいい」「……」「嬉しい事に子供はもう桜がいるし。おばあちゃんも舞ちゃんもいるから今更誰かと付き合うとか考えなくてもいいの」ハンドルを握る手に僅かに力が入るのを舞が気づく。「何かあった?」「特に無いよ」笑って答える春陽だが、それが嘘だと言うことは舞にはすぐにわかることだった。「ほとんどの男を馬鹿だと思っている私ならまだしも、可愛くて性格もよくて、子連れだ
Dernière mise à jour: 2026-02-15
Chapter: 告白 ②舞との久々の電話から数日。『やっと時間空いた!明日のランチ一緒に食べよ!』舞から早々に連絡があった。「あら、久々に出かけてくるの?」「うん、明日のランチにウィルモットに行ってくるけど。おばあちゃんも一緒に行く?」「あら、誘ってくれるの?」ゆり子はでも今回はいいわ、と断ってさらに桜も置いていっていいわよ、と付け足した。金曜日なので朝はバイトに行ってしまう為早朝から昼過ぎまで桜を頼む事になる。「おばあちゃんが休めなくなっちゃうよ」春陽は心配で言ったが。「桜の面倒みている位がいいのよ。TVみてボーっとしていたら私がぼけちゃうわ。久々だからゆっくり話もしたいでしょ?」確かに、舞と話ができるのは久々なのでゆっくりとしたかった。「でも、次は私も連れて行ってね。彼の店なんでしょう?」「近いうちに絶対連れていく!」「なら、明日はゆっくりしてきなさい」何時も何時も、ゆり子の優しさに春陽は感謝する。10時少し過ぎた時間で退勤をおしてコンビニから舞のマンションへ向かう。来客用の駐車スペースに駐車してエレベーターで上がる。ピンポンを押すとすぐに玄関ドアが開けられる。「おつかれさま」一働きしてきた春陽に舞が労いの一言を言う。「言ってもらえるほどは働いてないよ」春陽は苦笑いを浮かべる。「働く気持ちが大事よ。それに朝のコンビニは大変でしょう?」朝のコンビニは確かに1番大変なのかもしれない。店舗によって時間が変わるがお弁当配達が1日3回ある内で1番大量の品が搬入される。その他パンの搬入も早朝だ。レジ横に並ぶチキンなども早朝が最初の準備となる。他10時迄に発注作業と精算作業がある中で接客があり、出勤時のピークはレジから中々離れる事はできない。「まあ、大変だけど短い時間だから」「少し休んでから出る?」気づかって聞いた舞に首を振る。「ランチの前に久々に舞ちゃんと買い物もしたいし」「そうだよね、春陽ってば会わない間にまた髪切っちゃうし……。お洒落から離れちゃっているから私が服をみてあげないと!」「髪はこの方が楽なんだけど」激安カット店で注文が「ただ短く」の髪型は舞には不評のようだった。「楽を優先しすぎて20歳の女盛りを捨てちゃダメ!春陽の可愛さがもったいない!」美人の舞にならわかるけれど、背が低めでパッとしない自分がそこまでお洒落にこだわ
Dernière mise à jour: 2026-02-06
Chapter: 告白 ①「あれ?廉さん、これは?」夕方のバイトにきてくれたスズカとニイナがレジに置かれていたブラウンのウサギのぬいぐるみに気づき可愛いと話しはじめる。「あ〜、昼前に甥っ子連れて動物園行った時にUFOキャッチャーやらされた」「え〜かわいい」「景品はこれだけなんですか?」「もう1つのウサギは知人にあげたし他は全部甥っ子がもって帰ったから」「えー、誰にあげちゃったんですか。欲しかったなぁ」「あ、でもウサギのぬいぐるみって事はその知人て女性ですか?」「……あぁ」「え〜、なんかありそうな返事ですよぉ」「もしかしたら彼女ができちゃったんですか?!」「マユやミユキさんとか絶対にショックだね!」「だよね、本気で廉さん狙っていたし」「でも廉さんまったくそんな気配なかったのに……」「ちょっと2人とも、俺に彼女なんていないから」「えー」「じゃあ知人って男の人?子供じゃ知人なんて言わないし」「……」「いや、女の子だけど……」「「ほら!」」「でも彼女じゃないから!」「まさか、廉さんが、片思い?!」「どんなヒトかな?」「廉さんのタイプなら美人かな?」「……」「ねぇ、廉さん!どんなヒトですか?」興味津々の2人の瞳が期待いっぱいで廉を見つめる。「……あ〜」2人の勢いにおされて少しばかり身を退く。視界の端にブラウンのウサギが入る。廉の脳裏にウサギのぬいぐるみを手にした春陽の笑顔が浮かんだ。「「……!」」一瞬、廉の口元が僅かに綻んでその瞳ははじめてみた優しさと色気がまざり合い、目にしたスズカとニイナは顔を赤く染めた。ドキドキ、ドキドキ。2人の鼓動がはやまる。「何、何、何!?今の廉さん!」「廉さんがマジで恋?!」「「っていうか!私が廉さんに恋する!」」2人は同時に心の中で叫んだ。「そろそろ店開けるからもうこの話は終わりだ。ちゃんと仕事してくれよ」廉が時計を確認するとすでに17時まであと5分をきっていた。2人に注意する。「はーい」2人は素直に返事をした。17時、この日もウィルモットは普段と変わらない夜の営業をはじめた。お風呂からあがり髪を乾かすと桜を抱っこして自室に戻る。と、ちょうどスマホが鳴る。発信者をチラッと確認するとスマホの画面に「舞ちゃん」と発信者の名が出ていた。桜をベビーベッドへ寝かせて通話ボタンを押した。
Dernière mise à jour: 2026-02-01
Chapter: ぬいぐるみの贈り物光瑠に連れられてペンギンやカピバラ、猛禽類もみてまわる。たどたどしくも一生懸命に説明してくれる光瑠が可愛くて春陽とゆり子はその話をきちんと聞いていた。「水族館も行こう」と言うので春陽は頭に魚が泳ぐ水槽を思い描いた。「中は暗そうだから桜とここで待っているわね」と言いベンチに腰をおろしたゆり子を残して3人で水族館の中へ入った。「……!」春陽はすぐさま心の中で悲鳴をあげた。「キオビヤドクガエルって言うんだよ」光瑠が指差した先には鮮やかな黄色と黒の蛙がいた。「光瑠くんは蛙も好きなの?」気力で笑顔を作ってみせる。「5歳の誕生日に図鑑を買ってあげたら何故か爬虫類両生類図鑑が気に入って凄い速さで覚えちゃったんだよね。この水族館も何度か来たみたいだからここにいるモノは覚えたみたいでさ」「ここにはねワニもいるよ」「……ワニ」「みに行こう」引っ張る光瑠に抵抗もできず、なされるがままに春陽は足を進め続ける。「大丈夫?」「大丈夫ですよぉ」数種類のトカゲ達に囲まれながらも必死にカチカチの笑顔を保っている。「こんなに丁寧に説明してくれているからちゃんと聞いてあげないと」「お姉ちゃんも嫌いなの?」春陽の様子に光瑠が気づく。「ママもあーちゃんも、女の子はみんな蛙や蛇が嫌いでキャーキャー叫ぶんだ」「き、嫌いではないよ。苦手ではあるけど……」「お姉ちゃんは嫌いじゃないの?」光瑠は不安そうに聞いた。「渡辺さん、無理しなくていいよ」廉は心配して言った。「大丈夫、触れって言われたら流石に悲鳴あげるかもしれないけど。見てれば可愛いコもいるし……」 実際、色にはビックリしたけれど蛙は中々可愛い顔をしている。光瑠は無理に引っ張る事をやめ「あっちの水槽にはカクレクマノミがいるよ」と春陽の様子をうかがう様に手を握って言った。「カクレクマノミって映画になった魚ね。オレンジ色の」「僕も映画観たよ」「本物がいるの?」「いるよ、あっちに」春陽も繋いだ手に力を入れる。「正木さん、カクレクマノミ観に行きましょう」「あぁ」今度は3人並び歩いてカクレクマノミのいる水槽へ向かった。広さはないが満足度の高い水族館を堪能して外に出る。ベンチではゆり子が桜に飲み物を与えていた。「やっと戻ってきたのね、楽しかった?」「だいぶ待たせてしまってすみません」廉が慌
Dernière mise à jour: 2026-01-26
Chapter: いい感じじゃない「何、このサル」駆け寄り、蓮の足にしがみ付いた男の子は桜を見て言い放った。「こら、そんな言い方しちゃダメだろ」廉が男の子の頭を軽くポンと叩きながら注意する。「……だって、サルみたいじゃん」それでもボソッと言った言葉に廉はため息をついた。「ごめんね、最近反抗ばかりなんだコイツ」「コイツじゃない!正木光瑠(まさきひかる)だよ!」男の子が名乗る。「光瑠は兄の子なんだ。今日の午後までこの子の面倒をみるために店は休みにしてあるんだ」「そうだったんですか。……それにしても、こんな場所で会うなんて凄い偶然ですね」花塚の何処かでならば買い物中など偶然会う事もあるだろうけど、まさか遠くないとは言え県外の動物園で会うとは思わなかった。「兄の家がこの近くなんだ。家に戻る前に動物園へ行きたいって言うから連れて来たんだけど、渡辺さんは?」「私は車がきたので祖母を誘ってドライブに来たんです。祖母がこの動物園をリクエストしたので」「渡辺さんが運転してきたの?」「はい、初めてのドライブでドキドキでしたけど」「無事に免許はとれたんだね」春陽が舞と共にウィルモットへ行ったのはまだ教習所へ通っている時だった。「はい、やっと自分でも自由に動けそうでワクワクしてます。今日はその1日目ですね」「確かに、車がないと不便だからな」駅周辺に住んでいるとはいえ、花塚では電車で何処かへ行けるとかバス路線が沢山ありバスが頻繁に走っているわけではない。したがって花塚辺りに住む人は高校卒業と共に免許を取り車を買うという車社会だった。「そうですね、桜がいて不便だと実感しました」ハハっと笑いながら話をしていると。「ねー、早くライオンの所に行こうよ!」飽きてきた光瑠が廉のズボンを引っ張り催促した。光瑠の邪魔をしないように「それじゃあ」と春陽はゆり子と桜の元へ足を向けたが。「あ」廉の手が春陽の手首を掴んだ。「よかったら、少し一緒に回らない?」「……」まさかの申し出に春陽は困惑してゆり子の方を向いた。「私は別に構わないわよ、賑やかになるのは歓迎よ。光瑠くんさえよければ」大人達を見上げている光瑠にゆり子は「一緒にいてもいい?」と聞いた。「おばちゃん達と観るの?」「光瑠くんがよかったらね」光瑠はゆり子と春陽を交互に見上げベビーカーの桜を覗き込むと少しばかり考え。「
Dernière mise à jour: 2026-01-21
Chapter: 須崎翔央の恋act2クラブチームへの愛着はなくなったが今更チームを変えるのも面倒だと思った。だからこのクラブに所属を続けてはいたが、U12の成績はクラブ創設以来の最低記録を更新していた。勝つために翔央を出しはするが翔央のプレーに意思疎通ができず、負ければ翔央のせいにされる。メンバー間の信頼など皆無だった。つまらない。このままU15に上がってもあのメンバーなら更につまらないだろう。そんな事を思っていた夏のユース選手権大会直前で彗がU15チームから抜けた事を知った。練習にはずっと行っていなかった事は知っていたがチームを抜けるどころか、サッカー自体をやめてしまうとは思っていなかった。「夢は兄弟でJリーガーなること」などと幼い頃から夢みていたものがだいなしにされて少しの間は彗に散々悪態をついた。彗の話を聞く事もなく責めたてた翔央を止めたのは亮哉だった。彗が亮哉には辞めた経緯を話していたのか、彗を責めないで欲しいと言う亮哉に翔央は否を言えなかった。彗の事を心配する亮哉、亮哉に話や相談はするが心配されるのは嫌がる彗。翔央は普段は冷たく見える亮哉が彗を心配する姿が気に入らなかった。「亮哉は兄貴の心配しかしてくれないの?」ある日、ボソッとそんな事を口にした。彗にみせるように心配してほしい。亮哉が自分に対して些細なことでも気にかけて欲しい。彗に対するように。「何だ、それ」亮哉は呆れた様に返す。「僕の心配はしてくれないの?」「翔央にも心配しないといけない事があるのか?」「沢山」真面目に答えたけれど亮哉はプッと小さく吹き出した。ここは普通なら怒る場面だろうけれど亮哉の笑い顔が見れたので翔央も笑った。「でも、そうだな。翔央は皆の期待値が高いから悩みは多いよな」「……」「勝手に期待されても困るよな……」「僕たち似てるよね」亮哉の両親も祖父母も「亮哉」に関心など全く持たずにいるけれど亮哉の成績だけには期待が大きい。赤の他人達に期待されているだけの自分よりも普段は愛情もみせない両親達から成績だけ期待される亮哉の方が悩みは大きいかもしれない。「俺と亮哉は似ている、か」うんうんと頭を縦に振りながら亮哉は亮哉なりにそれに納得したらしい。「そうだな」ポンポン、と頭を軽く叩かれる。「今度はゆっくり聞いてやるよ、翔央の悩みを」亮哉の顔は普段より幾分柔らかな
Dernière mise à jour: 2026-01-11
Chapter: 須崎翔央の恋act1かっこいいプロサッカー選手の父。何でもできるヒーローの兄。翔央にとって2人は憧れだった。2人の様になりたい、そう思って背中を追いかけていた。現在。父は元人気サッカー選手、元日本代表のバラエティータレントとなっている。たまに試合の解説をするけれど最早「かっこいい」ではなかった。兄はただただ平凡な学生となっていた。翔央にとって大事な家族だったが。2人の様にはなりたくない、そう思ってひたすらに努力をしていた。心変わりしたのは小学6年になった時。彗と共に強豪で知られた地元クラブチームに通っていた。彗はU15に、翔央はU12に所属しそれぞれチームの主力として期待されていた。6年になる直前の春休み。翔央に声をかけたのはクラブの上層部の1人だった。「春休みの間U15に体験で練習参加しないか?」翔央は舞い上がった。上のカテゴリーで練習できる事も嬉しかったが何よりも彗とボールが蹴れる事が嬉しかった。U15への練習参加初日。先日までU12で一緒にプレーしていた彗も含めた1つ上の知り合いとボールを蹴り楽しく過ごした。U15への練習参加2日目。U15の選手に混じりミニゲームをした。負けたくなくて必死に食らいつきプレーした。U15への練習参加3日目。紅白に分かれてのTRM。主力が出るはずの1本目、MFで翔央の名が呼ばれた。U15への練習参加4日目。「おはようございます」彗の後に続き挨拶しながらクラブハウスに入るとザワザワしていた室内が静まりかえった。U15への練習参加5日目。「親が代表選手だったからって生意気なんだよ!」キレた先輩の1人がそう声を荒らげた。翌日は練習が休みの日だった。悪い事をした覚えはなかったのにも関わらず言われた言葉は翔央の心に重く積まれた。U15への練習参加6日目。その日は彗が練習を休んだ。1人で行った翔央に話しかける人はおらずボールを蹴り合う相手すらいなかった。見かねたコーチの1人がパートナーになってくれた。U15への練習参加7日目。「今日も行かないの?」翔央の問いかけに「行かない」と素っ気なく返して彗はソファに寝転がり漫画本を開いた。「僕も行きたくない」そう言いたかったが口からでたのは「行ってきます」という言葉だった。U15への練習参加8日目。最終日。近隣で活動している複数チームが集まりTRMがおこ
Dernière mise à jour: 2025-12-30
Chapter: 恋心は誰に?凌太の作ったカレーは大変好評だった。それだからか皆の時間が合う日は集まって勉強をしてご飯は凌太が作ってくれるようになっていた。凌太の父は飲食店を経営していて母は某アパレルの日本支店をまかされていて忙しく、彗と翔央の両親はTVの仕事が忙しく、亮哉の父は証券マン、仕事で帰宅は夜中になる事が多く、母は家事をしない人間だった。それぞれ家だとご飯は適当な物になってしまうので4人には都合のいい状況だった。海斗は普通に家でも食べられるけれど勉強をみてもらえるからと部活がよほど遅くならない限り率先して皆に付き合っていた。「なあ、明日の土曜日親が法事に出かけてウチの店が休みなんだ。カレー以外作ってあげれるから店で勉強しない?」海斗と翔央の部活が終わる午後からという事にし、提案は皆が賛成した。「何て読むの?これ」店の看板を見て海斗が頭をかたむける。「Mi vient nostalgia(ミ.ヴィエネ.ノスタルジーア)、懐かしい思い出がやって来るって意味」凌太が教えるけれど海斗にはやはり読みづらくて覚える事もやめた。凌太が鍵を開けて木製のドアを開く。「好きなテーブルに座っていてくれる?飲み物持っていくから」「あぁ」彗が返事をして先に入ると亮哉が続く。「おじゃましまーす」海斗が入ると最後に翔央が続きドアを閉めた。キッチンからとりあえずオレンジジュースを入れたコップをトレーにのせて行くと亮哉がいつも来店すると座る奥のテーブルで壁側奥に彗、その隣に亮哉が座り彗の前の席には海斗、その隣の椅子に翔央が座っている。彗と亮哉は既に教科書とノートを開いていたが海斗と翔央は先にスマホをいじりだしている。対岸でまったく別れた光景だった。「はい」4人の前に飲み物を置いてから凌太もカバンから教科書とノートを取り出した。「今日のご飯何を作ってくれるの?」海斗がスマホをいじりながら聞いてくる。その質問は皆気になったようで4人が顔を凌太に向ける。「やっぱりパスタでしょ、カルボナーラ!」「オレ好き!」海斗がやった!と喜んだ横で、「カルボナーラって難しいんでしょ?大丈夫なんですか?」翔央が敬語を使いながらも不審な目をしながら凌太にたずねる。そんな翔央にフフっと笑って言う。「イタリアではさ、彼女を家に誘うのにパスタを作ったり料理を材料にする事があるって言われて俺も
Dernière mise à jour: 2025-12-17
Chapter: 春まったく足りない給食を食べ終え。少ない時間でもと外に出て行く者達を横目に5限の数学で出されていた宿題を写させてもらおうとノートをひろげる。「須崎くん、なんか2年の子たちが呼んでる」机の前に立ったクラスの女子がそう伝えて教室後方の入口を指でさす。1度さされた入口に顔をむける。「おぉ。結構可愛い子達じゃねえ?いいな〜うらやましいな〜須崎ってばモテるなぁ」横に座っていた友人がひやかしをいれる。うらやましいと言われてもまったく嬉しくもない。ただただ面倒なだけだ。「早く行ってやれよ」立ち上がる気配がないので友人はニヤニヤと促してくる。ハァ…。わからない位の小さな溜息をついて立ち上がると視線の先の女の子達は赤くなって1人の子に何かを言いながらパンパンと肩などを叩いている。「何のよう?」前まで来て一言だけできく。さっさとそちらの用事を済ませて欲しい。「ほら、マリちゃん…」横の子に促された「マリちゃん」は真っ赤な顔で廊下に出て話ていいですか?ときいてきたので友人達から少し離れた場所まで移動する。「私…2-3の安藤真理子って言います。須崎先輩のコトが好きです!付き合ってくれませんか!」真っ赤になっての直球な告白にも微塵もココロは揺さぶられない。「ゴメン」返事の言葉に傷ついた瞳がみかえしてくる。「彼女いるんですか?」小さな声がたずねる。「いないよ」「…じゃあ、好きな人。いるんですか?」泣きそうな顔をしながら、でもたずねる。きっとここで「いないよ」と再び返事をしたらまだ諦めなくてもいい可能性はあるなどと思うのだろう。だからキッパリと言う。「いる」「…」涙が流れださないように必死にたえているのだろうか。流れだそうとした瞬間に「マリちゃん」はクルリと向きを変え廊下をかけていってしまう。少し離れた場所に取り残された友人達は慌ててその後を追いかけて行った。周囲にいた人の目も気にすることなく席に戻りノート写しを黙々とはじめる。「須崎ってモテるのに誰とも付き合わないよな、もったいねー」ノートの提供主は再び隣の椅子に座る。「可愛い子なんだから付き合っちゃえばいいじゃん。俺なら即OKする」「彼女いないってことは告白されたことないんだな湯浅くんは!」「うるせーっお前も告白されたことなんて無いだろ!」ノートの提供主、湯浅と俺も
Dernière mise à jour: 2025-12-05
Chapter: プロローグKAITO KASE」いつもはまだ賑やかな放課後の教室。 しかし今現在は重い空気に包まれたった3人が机を挟み対面していた。 「はぁぁぁ」 深い溜息に隣に座る制服姿の男子生徒はいたたまれずに頭を垂らした。 対面に座るいつもよりも上品なスーツ姿の女性教諭は机に置かれた数枚の資料を手にとり。 「お母さん、大丈夫です!」 声をあげる。 「公立でもギリギリ行けそうな高校はあります!諦めずに頑張りましょう!」 「先生…」 励ます女性教諭に母親は隣に座る息子をチラリと見やり、はあぁぁ…と再び溜息をはいた。 「海斗は手先も両親に似て不器用で…機械音痴のおっちょこちょいなんです。工学なんかには通えると思えないんです!馬鹿な子の唯一のとりえがあるとすれば去年全国までいけたサッカーくらい…。一か八かでスポーツ推薦狙う事も…」 「スポーツ推薦ですか…」 女性教諭は少しばかり眉根を寄せた。 去年の夏の大会で海斗が所属しているサッカー部は全国大会に出場した。そのサッカー部の中で海斗は1年から選手に選抜されてもいたし全国までフルで出場もしていた。 しかし。 1番肝心な高校からのスカウト推薦はもらえていない。 自己推薦で受けるしかないのだ。 「自己推薦になると学力テストも少しですが難度があがりますし受かったとしてもどの割合で免除されるかはわかりません。先ずは公立を一つ決めて…」 生徒を思った発言である。 「先生…半年も家庭教師をつけて今の成績なんですよ?行きたいと思わない高校を受けて通ったとしても海斗の為になるとは思わないですし」 「…オレはできれば高堂を受けたいです」 県内では文武に有名な私立、高堂学園。もちろんサッカー部も夏冬共に全国大会への出場経験を有している。 平サラリーマンの父だけの収入では生活が成り立たない!と自らも薬局へパートに勤めている母の口からは絶対に高校は公立にいってもらわないと困る。と常日頃言われていた。 憧れた高校のユニフォームは夢のまた夢だったのだ。 母の口から先にそんな言葉が出てくるなど思いもよらなかった。 ならばあとは自分が最大限の努力をするしかない。 「オレ、高堂のスポーツ推薦受けます!」自ら宣言したものの。 「おふくろ、いいの?」 隣で歩く母に問うてみる。 「もう1つ私立受けておかないと心配よねぇ。推
Dernière mise à jour: 2025-12-05