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いのか
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Novels by いのか

秘密の花

秘密の花

渡辺春陽は産まれた日に父と祖父母を亡くし、周囲からの扱いに耐えながらも日々過ごしていた。しかし大事な母が倒れた日悲しみに突き落とされた春陽が縋ったのはバイト先の大学生斉藤慶司だった。その一夜から再会までは数年が経っていた。再会した慶司は会社の社長、名前は九条慶司。春陽はシングルマザーになっていた。
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Chapter: 買う?レンタル?
久々に大きなスクリーンでの映画を楽しみながらも。「……」先程、誰かに呼ばれた気がしたことを思う。気のせいに違いない。渡辺という名字は多く、休日じゃなくてもこのシネコンには多くの人がいるのだ。だけど。懐かしい声だった気がして仕方がない。ここに来る前にコンビニへ行った。いつの何時から入って週何日働くのかを話す為に。仕事は先ずは火曜日から金曜日の週4日、朝6時から10時までという話しになった。少しだけ他愛ない話しをして、帰る間際に。「桜ちゃんの父親は慶司君?」店長が言った。「何も答えなくてもいいよ、僕は詮索はしないから」そう言っても店長の中では確信しているのだろう。なので固定の返事はあえてしないが春陽は静かに微笑んでみせた。「少し前にね、慶司君から電話をもらったんだ」「!」「渡辺さんに連絡とりたいけれど連絡取るのに僕しか頼れる人がいないってね」「斉藤さんが……」まさかの事に驚く。「日本を離れる時にそれまで使っていたスマホを失くしたらしくて、店にしか連絡できなかったそうなんだよ」「そう、だったんですか」「渡辺さんの事を話していいのかわからなかったから」「……」「その時はバイト辞めていたしね。だから慶司君には渡辺さんはお母さん亡くなった後引越ししたからここも辞めてしまったとだけ話したんだ」春陽は慶司と連絡取れなかった事を残念とも感じたが店長の対応にホッとした。「よかったかな?」店長は心配気に春陽に聞いた。「それでよかったです」慶司に会いたいけれど、勝手に彼の娘を産んだ事を彼にしれてしまうのが怖かった。慶司にとって春陽は一夜慰めで抱いた相手にしかすぎないから。桜の存在がきっと重荷になってしまうだろう。店長にはもしまた連絡があってもまた同じ対応をして下さいとお願いした。--斉藤さん、店長に私の事をたずねてくれたんだ……。そんな事を考えていたら2時間の映画が終わってしまった。内容をろくに覚えていなかった。ハァ。せっかく観に来てこれではとため息を吐いた。シネコンを後にしてショッピングモールへと移動する。まず足を運んだのはベビー服売り場だ。日に日に成長する為着る回数は少ないが、可愛い今の桜をめいいっぱい更に可愛くしたい。だからといって高い服は流石に買えない。--でもたまになら。少し位。と入った店で気に
Last Updated: 2026-01-06
Chapter: 見かけた
大丈夫。服は乱れて、胸元には跡があるけれど。大丈夫。下半身に違和感は無いから……。だから、大丈夫。微かに残る記憶の中。誰かに押し乗られて胸を触られ首筋や胸に口付けられていた。知らない男に。信じたくなくて首を横に振る。あの後、服を整え部屋を見回しメモ書きをみつけた。横には春陽のバッグも置いてあり、スマホも財布も無事入っていた。バッグを手にして部屋を出た。車が店に置きっぱなしなのかわからずホテルの駐車場へ行き一回りしてみると無事車をみつけることができた。運転席へ乗り込むと椅子の位置が後ろへずらされていた。席を前に戻してバックミラーを調整する。カーナビで現在地を確認し自宅までルート検索をすると車を発進させた。連絡もなく翌朝帰宅した春陽にゆり子が心配の声をかけた。「二次会まで付き合う事になって、そこで間違えてお酒飲んじゃったらしいの。気づいたら隅で寝ていたからそのまま車の中に行って寝ちゃった」苦笑いしながら連絡もしないでごめんなさいと謝る春陽にゆり子はため息をついた。「何かあったのかと思って心配したのよ、次からは連絡してね」「本当にごめんなさい」「服がシワシワよ、シャワーでも浴びたら?」「そうする」部屋で着替えを用意して浴室へ。熱いシャワーを浴びると身体の緊張が抜けていく。安心した為か、ポロッと目から涙が溢れた。「……」一度溢れはじめたら次から次へとこぼれ落ちる。「うっ、……うぅ」身体を震わせながらうずくまりその場でしばらく泣いた。シャワーから出るとゆり子が温かいお茶を淹れてくれた。「昨日食べられなかったから、少し炙ったの。朝ごはんはこれでいい?」--車の中にももらった柏餅があったな。そんな事を思い出したけれどまぁいいか、とゆり子の炙ってくれた柏餅を手に取った。パクっと一口頬張る。あんこと少しの焦げた餅がいい塩梅だった。温かいお茶と甘い柏餅をお腹に入れて気分がやっと落ち着いた、かと思ったのだが。ウワーン。桜の泣き声が部屋に響いた。「朝ミルク飲ませたから、オムツかしら」ゆり子が棚からオムツとおしり拭きを取り出して桜の元へ寄る。「おばあちゃん、私がやるから」ソファから立ちあがろうとした春陽をゆり子が止めた。「ゆっくり食べていて」ゆり子の言葉に甘え春陽は2個目の柏餅を手にする。「春陽は今日は予
Last Updated: 2026-01-04
Chapter: 5月5日、プラス
ニューヨークで再会した慶司は愛美のことなどまったく覚えていなかった。愛美が5歳の時だから慶司は9歳だっただろうか。九条グループの新年パーティーへ両親に連れられて行き、そこで一目惚れをした。愛美のその初恋がかわることはなかった。だから母からお見合いの話しを聞いた時は胸が高鳴った。慶司が帰国したら場を設けるという話しだったが無理にニューヨーク旅行をくみ、慶司と会えるようにセッティングしてもらった。ニューヨークでの慶司の態度は冷たく、愛美の期待とは大きくかけ離れたものだった。しかし、慶司がこの時買収合併の大詰めでかなり忙しい事はわかっていたので無理に時間を取らせた自分の否もあると思い冷静に待つことにした。慶司の帰国が決まり、その数日後改めてと両母親を伴い食事の場が設けられた。ただ黙々と食事をする慶司に、いつもチヤホヤしかされない愛美は不満を覚えた。茉莉花の問いかけにたまに短く返事をする程度しか口を開くこともしてくれず、またも予定があるからと途中で退席してしまった。慶司が去った席で茉莉花がボソッと言った。「あの子ってば、そんなに大事なコがいるのかしら」その声は愛美の耳に入ってしまった。その後茉莉花はそんな事を口にしたとは思えない程愛美を褒め称えた。ずっと。ずっとずっと、慶司だけを好きでいたのに。突然アイドルになって、周りにもKEIのファンだと名乗る人もいて。いい気分ではなかったけれど、アイドルのKEIしか知らない人達の声など気にしないようにしたのに。全てに釣り合うことができる人は私くらいなのだと、その為に努力もしてきた筈なのに。やっと見合い話しが出てチャンスが訪れたのに。慶司に好きな女ができたかもしれないなんて。--誰?そんな女を許せる訳がなかった。慶司は私のモノになるべき人なのだから。「調べて」興信所に依頼したのは4月に入ってすぐの頃だった。1週間程で最初の調査書類が手元に届いた。慶司が大学を変えた間に接した異性達の名前が並ぶ。「……」愛美の視線が留まる。渡辺春陽、コンビニの同僚。「わたなべ、はるひ……」聞き馴染みのある名前だった。慶司が通った大学は愛美も高校時代まで過ごした花塚。慶司が大学時代働いたと書かれたコンビニの住所には覚えもある。コンビニのすぐ近くには小学生の時に愛美が側においた子の家がある
Last Updated: 2025-12-27
Chapter: 5月5日、終
「今赤ちゃんいるって事は高校で妊娠したの?」「結婚していないって事は相手も高校生?」「否、高校生ては限らないだろ?」「親もシングルだったヤツだぜ?」「やり過ぎて父親がわからないとか?」「ひでぇ事言うな、おまえ」「まあ、でも」「あぁ、あいつ可愛くはあるからな」「相手位いてもおかしくないな」クスクス、ザワザワと。周囲の好奇な声が春陽の耳に届くが。「……」黙って耐える事しかできない。立ち上がって店を飛び出して帰ってしまいたい。「結婚してないだけで変な噂話になってしまうなんて嫌ね。大丈夫?渡辺さん」言う愛美の声音は優しいのに、その目だけはまったく優しさを宿してはいない。冷たく、どちらかと言えば憎悪が入り混じっている風に春陽には感じた。冷たく蔑む様な目を向けられた事があったのは事実だが、そこに憎悪などはなかった。だが今の愛美からは春陽に対しての憎悪が感じられる。--どうして?あの時からかかわった事も無かったのに。「赤ちゃん位でうるさいよね」小春が珍しく発言する。「高校教師とできちゃった婚している瀬奈の方が余程世間の目は冷たいとおもうけど?ねぇ、瀬奈」「私は自分の純愛を貫いただけよ。誰にも文句なんて言わせない」小春と瀬奈の会話に春陽がわずかに違和感を覚える。瀬奈の事情を知っている高橋小春。今日、高橋小春は愛美、麻里、由宇と共に来ている。--でも、まさか。あんな偶然的に遭遇するなんて事無いはず……。同窓会当日に春陽の家付近でたまたま旦那が乗せて行けなくなったと免許を取得して車を買ったばかりなのに同乗を頼み愛美達との同席に何も言わず受け入れて小春と親しげに話をしている、そんな偶然が。--ある筈無い。「井上さんは高橋さんと昔から親しかったの?」疑問を自分の中だけで燻らせているのはここでは不用、春陽は瀬奈にストレートに聞いた。「親しいっていうか、私と小春は従姉妹なんだよね」「私のお父さんは瀬奈のお父さんの弟だから」瀬奈の旧姓が高橋だったことを思い出す。「そうだったの」「……」ならば、今日の事は偶然なんかではなく必然的なものだったのだろうか。わざわざ春陽を同窓会に来させる為に。しかし何故そうしたかがわからない。同窓会に春陽が来て今のような誹謗中傷に晒したかったのだろうか?「ねぇ、せっかくなのにこの雰囲気は
Last Updated: 2025-12-26
Chapter: 5月5日、続
タンスの中の衣服をいくつか出したがどれも着古したものばかりで春陽はため息をついた。元々あまり服を買う方ではなかったが最近は桜の面倒をみるのに余計こだわりなく着古した服を着ていた為だ。これしかないか、と。もう2年も前に買った黒のワンピース、アイロンをかけシワを伸ばしておく。靴は更に悩む。車の運転もできる物でないといけない事めあり下駄箱の中の少ない靴をじっと見つめる。「これしかないか」手にとった靴は激安通販で知られるヒラタの680円で購入した黒のバレエシューズ。脱ぎ履きが楽で底もフラットなので桜の散歩にも重宝している靴だった。ワンピースに着替え、ゆり子の化粧品を少し借りて薄く化粧しカーディガンを羽織り重い腰をあげると必要最低限の物だけ入れたバッグを手にして靴を履く。「それじゃあ、遅くならずに帰ってくるから」本当ならばゆり子と柏餅を食べてゆっくり過ごすはずだった午後の時間を惜しみながら春陽は玄関を出た。駅の自家用車用ロータリー乗降口に立つ瀬奈を見かけてその前で停車する。「渡辺さん、ありがとう」助手席に乗り込んだ瀬奈が「これ、後で食べて」と渡してきたのは柏餅だった。「わざわざありがとう」断るわけにもいかず受け取ると後部座席へ置く。「渡辺さんて綺麗に車乗るねー。ウチの車なんて中は荷物がごちゃごちゃだよ」車内をキョロキョロと見回して言う。「今日の午前中に納車だったから綺麗なだけだよ」「えっ」驚いて目を丸くして春陽を見た。「本当に?納車されたばかりだったの?私、あんな頼み方したけどもしかして迷惑だった?」「大丈夫だよ」苦笑いを浮かべた春陽に「ごめんね〜」と謝る瀬奈に悪気があったわけではない。「本当に大丈夫だから」気にしないで、と伝えた。「でも……」春陽は横目で瀬奈を見て口にしてしまう。本当に中学までのイメージはまったくなくなってしまっていた。真っ黒で常に後ろで一つに束ねられていた髪はレッドブラウンに染められ化粧も「今時」といえる仕上がり、サーモンピンクのシフォン生地のチェニックに花柄模様のフレアスカート。見違える位に綺麗になっている。「変わりすぎてビックリ?」春陽の言いたい事を先に瀬奈自身が言う。「うん」「渡辺さんもだけど私もぼっち組だったからね。イメージだと暗いとか、良くて真面目しか皆にはなかったからねー」ハハハと
Last Updated: 2025-12-22
Chapter: 5月5日
なんとか卒検も無事に受かり。本検もGW直前で受けに行け無事に合格し免許証を手にできた。写真を撮る事を頭に入れていなかった春陽は日常通りの姿で行った為中途半端にのびてしまったおさまりの悪い髪とすっぴんの顔が証明写真となってしまい免許証は誰にも見せたくないと後悔した。そんな免許証を財布にしまう。午前はMBOXの納車予定。100万円を超えるはじめての買い物であるMBOX、春陽は車好きではないけれど意外にも気持ちはワクワクしていた。「それじゃあ、行ってくるね」「行ってらっしゃい、きをつけてね」桜を抱きあげながら少しばかり心配そうにゆり子が見送った。契約の時も隣にいてくれた舞だったが、大学のサークルで行うファッションショー準備から抜けられなかった為納車は1人で行くことになってしまった。最寄りのバス停までバスに乗り店まで行くと舞の母が出迎えてくれた。「どうぞ」2人が座るテーブルに女性店員がコーヒーを置いてくれる。「それじゃあ」いくつかの書類をテーブルに置くとそれぞれの説明をしていく。車検証、自賠責保険、などなど。「任意保険の方には前に車検証のコピーも送ってあるし、納車日も伝えてあるから今日からもう効くはずよ」車にまったく縁がなかった為任意保険も全て舞達に頼って契約をしていた。「色々とありがとうございます」春陽は頭を下げお礼をしたが。「いいのよ、私には車も保険も自分の販売成績になるんだから!」アハハと笑ってみせる。釣られて春陽もクスっと笑みが漏れてしまった。「車の準備もできたみたいだから行きましょうか」入口の方へ視線を向けると外には黒のMBOXが既に止まっている。「ナンバーは桜ちゃんの誕生日にしたの、これは私からのプレゼント」特にこだわりもなく希望がなかった春陽はナンバーは前のままでいいと思っていたが、些細なプレゼントだがとても嬉しいプレゼントだった。「1030」「1番覚えやすいでしょ」「はい」車を一周、傷などがないかを確認する。運転席のドアを開けてもらうと運転席へ乗り込む。「鍵はここにあるから」と言われたドアポケットから鍵をとりバッグにしまう。座席の高さと位置を調整してバックミラーを調整する。「大丈夫?」「大丈夫です」 一通りの調整を終えてハンドル周りを確認するとエンジンスタートのボタンを押す。ドアが閉められ
Last Updated: 2025-12-20
僕らの日常

僕らの日常

粕川亮哉(かすかわあきや)、加瀬海斗(かせかいと)、須崎彗(すざきけい)、田中凌太(たなかりょうた)、同じ高堂学園高等部に通うようになった4人と年下の須崎翔央(すざきしょう)。それぞれの日常の中で恋をして失恋をする。噛み合うものと噛み合わないものの中でそれぞれの10代の日常が過ぎていく。
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Chapter: 須崎翔央の恋act2
クラブチームへの愛着はなくなったが今更チームを変えるのも面倒だと思った。だからこのクラブに所属を続けてはいたが、U12の成績はクラブ創設以来の最低記録を更新していた。勝つために翔央を出しはするが翔央のプレーに意思疎通ができず、負ければ翔央のせいにされる。メンバー間の信頼など皆無だった。つまらない。このままU15に上がってもあのメンバーなら更につまらないだろう。そんな事を思っていた夏のユース選手権大会直前で彗がU15チームから抜けた事を知った。練習にはずっと行っていなかった事は知っていたがチームを抜けるどころか、サッカー自体をやめてしまうとは思っていなかった。「夢は兄弟でJリーガーなること」などと幼い頃から夢みていたものがだいなしにされて少しの間は彗に散々悪態をついた。彗の話を聞く事もなく責めたてた翔央を止めたのは亮哉だった。彗が亮哉には辞めた経緯を話していたのか、彗を責めないで欲しいと言う亮哉に翔央は否を言えなかった。彗の事を心配する亮哉、亮哉に話や相談はするが心配されるのは嫌がる彗。翔央は普段は冷たく見える亮哉が彗を心配する姿が気に入らなかった。「亮哉は兄貴の心配しかしてくれないの?」ある日、ボソッとそんな事を口にした。彗にみせるように心配してほしい。亮哉が自分に対して些細なことでも気にかけて欲しい。彗に対するように。「何だ、それ」亮哉は呆れた様に返す。「僕の心配はしてくれないの?」「翔央にも心配しないといけない事があるのか?」「沢山」真面目に答えたけれど亮哉はプッと小さく吹き出した。ここは普通なら怒る場面だろうけれど亮哉の笑い顔が見れたので翔央も笑った。「でも、そうだな。翔央は皆の期待値が高いから悩みは多いよな」「……」「勝手に期待されても困るよな……」「僕たち似てるよね」亮哉の両親も祖父母も「亮哉」に関心など全く持たずにいるけれど亮哉の成績だけには期待が大きい。赤の他人達に期待されているだけの自分よりも普段は愛情もみせない両親達から成績だけ期待される亮哉の方が悩みは大きいかもしれない。「俺と亮哉は似ている、か」うんうんと頭を縦に振りながら亮哉は亮哉なりにそれに納得したらしい。「そうだな」ポンポン、と頭を軽く叩かれる。「今度はゆっくり聞いてやるよ、翔央の悩みを」亮哉の顔は普段より幾分柔らかな
Last Updated: 2026-01-11
Chapter: 須崎翔央の恋act1
かっこいいプロサッカー選手の父。何でもできるヒーローの兄。翔央にとって2人は憧れだった。2人の様になりたい、そう思って背中を追いかけていた。現在。父は元人気サッカー選手、元日本代表のバラエティータレントとなっている。たまに試合の解説をするけれど最早「かっこいい」ではなかった。兄はただただ平凡な学生となっていた。翔央にとって大事な家族だったが。2人の様にはなりたくない、そう思ってひたすらに努力をしていた。心変わりしたのは小学6年になった時。彗と共に強豪で知られた地元クラブチームに通っていた。彗はU15に、翔央はU12に所属しそれぞれチームの主力として期待されていた。6年になる直前の春休み。翔央に声をかけたのはクラブの上層部の1人だった。「春休みの間U15に体験で練習参加しないか?」翔央は舞い上がった。上のカテゴリーで練習できる事も嬉しかったが何よりも彗とボールが蹴れる事が嬉しかった。U15への練習参加初日。先日までU12で一緒にプレーしていた彗も含めた1つ上の知り合いとボールを蹴り楽しく過ごした。U15への練習参加2日目。U15の選手に混じりミニゲームをした。負けたくなくて必死に食らいつきプレーした。U15への練習参加3日目。紅白に分かれてのTRM。主力が出るはずの1本目、MFで翔央の名が呼ばれた。U15への練習参加4日目。「おはようございます」彗の後に続き挨拶しながらクラブハウスに入るとザワザワしていた室内が静まりかえった。U15への練習参加5日目。「親が代表選手だったからって生意気なんだよ!」キレた先輩の1人がそう声を荒らげた。翌日は練習が休みの日だった。悪い事をした覚えはなかったのにも関わらず言われた言葉は翔央の心に重く積まれた。U15への練習参加6日目。その日は彗が練習を休んだ。1人で行った翔央に話しかける人はおらずボールを蹴り合う相手すらいなかった。見かねたコーチの1人がパートナーになってくれた。U15への練習参加7日目。「今日も行かないの?」翔央の問いかけに「行かない」と素っ気なく返して彗はソファに寝転がり漫画本を開いた。「僕も行きたくない」そう言いたかったが口からでたのは「行ってきます」という言葉だった。U15への練習参加8日目。最終日。近隣で活動している複数チームが集まりTRMがおこ
Last Updated: 2025-12-30
Chapter: 恋心は誰に?
凌太の作ったカレーは大変好評だった。それだからか皆の時間が合う日は集まって勉強をしてご飯は凌太が作ってくれるようになっていた。凌太の父は飲食店を経営していて母は某アパレルの日本支店をまかされていて忙しく、彗と翔央の両親はTVの仕事が忙しく、亮哉の父は証券マン、仕事で帰宅は夜中になる事が多く、母は家事をしない人間だった。それぞれ家だとご飯は適当な物になってしまうので4人には都合のいい状況だった。海斗は普通に家でも食べられるけれど勉強をみてもらえるからと部活がよほど遅くならない限り率先して皆に付き合っていた。「なあ、明日の土曜日親が法事に出かけてウチの店が休みなんだ。カレー以外作ってあげれるから店で勉強しない?」海斗と翔央の部活が終わる午後からという事にし、提案は皆が賛成した。「何て読むの?これ」店の看板を見て海斗が頭をかたむける。「Mi vient nostalgia(ミ.ヴィエネ.ノスタルジーア)、懐かしい思い出がやって来るって意味」凌太が教えるけれど海斗にはやはり読みづらくて覚える事もやめた。凌太が鍵を開けて木製のドアを開く。「好きなテーブルに座っていてくれる?飲み物持っていくから」「あぁ」彗が返事をして先に入ると亮哉が続く。「おじゃましまーす」海斗が入ると最後に翔央が続きドアを閉めた。キッチンからとりあえずオレンジジュースを入れたコップをトレーにのせて行くと亮哉がいつも来店すると座る奥のテーブルで壁側奥に彗、その隣に亮哉が座り彗の前の席には海斗、その隣の椅子に翔央が座っている。彗と亮哉は既に教科書とノートを開いていたが海斗と翔央は先にスマホをいじりだしている。対岸でまったく別れた光景だった。「はい」4人の前に飲み物を置いてから凌太もカバンから教科書とノートを取り出した。「今日のご飯何を作ってくれるの?」海斗がスマホをいじりながら聞いてくる。その質問は皆気になったようで4人が顔を凌太に向ける。「やっぱりパスタでしょ、カルボナーラ!」「オレ好き!」海斗がやった!と喜んだ横で、「カルボナーラって難しいんでしょ?大丈夫なんですか?」翔央が敬語を使いながらも不審な目をしながら凌太にたずねる。そんな翔央にフフっと笑って言う。「イタリアではさ、彼女を家に誘うのにパスタを作ったり料理を材料にする事があるって言われて俺も
Last Updated: 2025-12-17
Chapter: 春
まったく足りない給食を食べ終え。少ない時間でもと外に出て行く者達を横目に5限の数学で出されていた宿題を写させてもらおうとノートをひろげる。「須崎くん、なんか2年の子たちが呼んでる」机の前に立ったクラスの女子がそう伝えて教室後方の入口を指でさす。1度さされた入口に顔をむける。「おぉ。結構可愛い子達じゃねえ?いいな〜うらやましいな〜須崎ってばモテるなぁ」横に座っていた友人がひやかしをいれる。うらやましいと言われてもまったく嬉しくもない。ただただ面倒なだけだ。「早く行ってやれよ」立ち上がる気配がないので友人はニヤニヤと促してくる。ハァ…。わからない位の小さな溜息をついて立ち上がると視線の先の女の子達は赤くなって1人の子に何かを言いながらパンパンと肩などを叩いている。「何のよう?」前まで来て一言だけできく。さっさとそちらの用事を済ませて欲しい。「ほら、マリちゃん…」横の子に促された「マリちゃん」は真っ赤な顔で廊下に出て話ていいですか?ときいてきたので友人達から少し離れた場所まで移動する。「私…2-3の安藤真理子って言います。須崎先輩のコトが好きです!付き合ってくれませんか!」真っ赤になっての直球な告白にも微塵もココロは揺さぶられない。「ゴメン」返事の言葉に傷ついた瞳がみかえしてくる。「彼女いるんですか?」小さな声がたずねる。「いないよ」「…じゃあ、好きな人。いるんですか?」泣きそうな顔をしながら、でもたずねる。きっとここで「いないよ」と再び返事をしたらまだ諦めなくてもいい可能性はあるなどと思うのだろう。だからキッパリと言う。「いる」「…」涙が流れださないように必死にたえているのだろうか。流れだそうとした瞬間に「マリちゃん」はクルリと向きを変え廊下をかけていってしまう。少し離れた場所に取り残された友人達は慌ててその後を追いかけて行った。周囲にいた人の目も気にすることなく席に戻りノート写しを黙々とはじめる。「須崎ってモテるのに誰とも付き合わないよな、もったいねー」ノートの提供主は再び隣の椅子に座る。「可愛い子なんだから付き合っちゃえばいいじゃん。俺なら即OKする」「彼女いないってことは告白されたことないんだな湯浅くんは!」「うるせーっお前も告白されたことなんて無いだろ!」ノートの提供主、湯浅と俺も
Last Updated: 2025-12-05
Chapter: プロローグ
KAITO KASE」いつもはまだ賑やかな放課後の教室。 しかし今現在は重い空気に包まれたった3人が机を挟み対面していた。 「はぁぁぁ」 深い溜息に隣に座る制服姿の男子生徒はいたたまれずに頭を垂らした。 対面に座るいつもよりも上品なスーツ姿の女性教諭は机に置かれた数枚の資料を手にとり。 「お母さん、大丈夫です!」 声をあげる。 「公立でもギリギリ行けそうな高校はあります!諦めずに頑張りましょう!」 「先生…」 励ます女性教諭に母親は隣に座る息子をチラリと見やり、はあぁぁ…と再び溜息をはいた。 「海斗は手先も両親に似て不器用で…機械音痴のおっちょこちょいなんです。工学なんかには通えると思えないんです!馬鹿な子の唯一のとりえがあるとすれば去年全国までいけたサッカーくらい…。一か八かでスポーツ推薦狙う事も…」 「スポーツ推薦ですか…」 女性教諭は少しばかり眉根を寄せた。 去年の夏の大会で海斗が所属しているサッカー部は全国大会に出場した。そのサッカー部の中で海斗は1年から選手に選抜されてもいたし全国までフルで出場もしていた。 しかし。 1番肝心な高校からのスカウト推薦はもらえていない。 自己推薦で受けるしかないのだ。 「自己推薦になると学力テストも少しですが難度があがりますし受かったとしてもどの割合で免除されるかはわかりません。先ずは公立を一つ決めて…」 生徒を思った発言である。 「先生…半年も家庭教師をつけて今の成績なんですよ?行きたいと思わない高校を受けて通ったとしても海斗の為になるとは思わないですし」 「…オレはできれば高堂を受けたいです」 県内では文武に有名な私立、高堂学園。もちろんサッカー部も夏冬共に全国大会への出場経験を有している。 平サラリーマンの父だけの収入では生活が成り立たない!と自らも薬局へパートに勤めている母の口からは絶対に高校は公立にいってもらわないと困る。と常日頃言われていた。 憧れた高校のユニフォームは夢のまた夢だったのだ。 母の口から先にそんな言葉が出てくるなど思いもよらなかった。 ならばあとは自分が最大限の努力をするしかない。 「オレ、高堂のスポーツ推薦受けます!」自ら宣言したものの。 「おふくろ、いいの?」 隣で歩く母に問うてみる。 「もう1つ私立受けておかないと心配よねぇ。推
Last Updated: 2025-12-05
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