LOGIN凌太の作ったカレーは大変好評だった。それだからか皆の時間が合う日は集まって勉強をしてご飯は凌太が作ってくれるようになっていた。
凌太の父は飲食店を経営していて母は某アパレルの日本支店をまかされていて忙しく、彗と翔央の両親はTVの仕事が忙しく、亮哉の父は証券マン、仕事で帰宅は夜中になる事が多く、母は家事をしない人間だった。
それぞれ家だとご飯は適当な物になってしまうので4人には都合のいい状況だった。
海斗は普通に家でも食べられるけれど勉強をみてもらえるからと部活がよほど遅くならない限り率先して皆に付き合っていた。
「なあ、明日の土曜日親が法事に出かけてウチの店が休みなんだ。カレー以外作ってあげれるから店で勉強しない?」
海斗と翔央の部活が終わる午後からという事にし、提案は皆が賛成した。
「何て読むの?これ」
店の看板を見て海斗が頭をかたむける。
「Mi vient nostalgia(ミ.ヴィエネ.ノスタルジーア)、懐かしい思い出がやって来るって意味」
凌太が教えるけれど海斗にはやはり読みづらくて覚える事もやめた。
凌太が鍵を開けて木製のドアを開く。
「好きなテーブルに座っていてくれる?飲み物持っていくから」
「あぁ」
彗が返事をして先に入ると亮哉が続く。
「おじゃましまーす」
海斗が入ると最後に翔央が続きドアを閉めた。
キッチンからとりあえずオレンジジュースを入れたコップをトレーにのせて行くと亮哉がいつも来店すると座る奥のテーブルで壁側奥に彗、その隣に亮哉が座り彗の前の席には海斗、その隣の椅子に翔央が座っている。
彗と亮哉は既に教科書とノートを開いていたが海斗と翔央は先にスマホをいじりだしている。
対岸でまったく別れた光景だった。
「はい」
4人の前に飲み物を置いてから凌太もカバンから教科書とノートを取り出した。
「今日のご飯何を作ってくれるの?」
海斗がスマホをいじりながら聞いてくる。その質問は皆気になったようで4人が顔を凌太に向ける。
「やっぱりパスタでしょ、カルボナーラ!」
「オレ好き!」
海斗がやった!と喜んだ横で、
「カルボナーラって難しいんでしょ?大丈夫なんですか?」
翔央が敬語を使いながらも不審な目をしながら凌太にたずねる。
そんな翔央にフフっと笑って言う。
「イタリアではさ、彼女を家に誘うのにパスタを作ったり料理を材料にする事があるって言われて俺もオヤジからちゃんと教えてもらったんだ。自信あるから心配しないでよ」
「……」
翔央は言い返す事はしなかった。少しばかり口を尖らせながら再びスマホをいじりはじめた。
その様子に凌太はクスっと小さく笑ったけれどそれを感じた者は誰もいなかった。
「夕飯は6時頃でいい?」
現在の時刻が午後3時30分、夕飯前だけでかなり勉強ができるだろう。
「あぁ、それでいいよ」
「うん、俺もそれで」
彗と亮哉は答えると自分達の教科書に再び視線を落として勉強に集中しはじめた。
スマホを置いて問題集を開いた翔央も勉強をはじめるとさすがに海斗も教科書を開きだした。
しばらくの間店内は静寂に包まれた。
たまに海斗が彗へ、翔央が亮哉に質問をする声だけが静寂を消した。
自分の勉強をしながら凌太はそんな4人をみていた。
帰国したてで知り合いもいない高校生活と思っていたけれど、入学前に亮哉に出会った事でこうしてこの4人と一緒にいる事になった。
まだ1ヶ月経っていない高校生活がそれなりに楽しく過ごせているのであの日来店してくれた亮哉には感謝している。
そんな亮哉への印象はあまり出会った日から変わらない。
見た目が細身の銀縁メガネ、その奥にある目は一重のスッとした切れ長で涼しげな、それだけで優等生の雰囲気が出ている。表情筋が乏しいのか滅多に表情を変える事をしない。性格も冷静沈着とみせているせいか他の人に対して冷たい印象を与える。表情が和むのは多分彗といる時が1番多いのだろう。
その彗は、実は凌太自信はあまり好きではなかった。何でも一定以上に卒なくこなして誰に対しても面倒見がいい優しい優等生。見た目も高身長で顔もいい欠点が表に出ないタイプ。だけど多分皆より冷めた性格をしていると思うのは何となく同類だと思うからかもしれない。
そんな彗を憧れの目で見ているのが海斗だ。身長はまだ低めだがスポーツの名目とされる高堂で一応スポーツ推薦が通った元気印。多分彗がいなければ亮哉とは友達になっていなかっただろう。亮哉を大切にしている彗の為に亮哉と親しくしているが彗のいない時は無意識か亮哉と一定の距離をとっている。
それに対して亮哉への好意を隠そうともしていないのが弟クン、翔央だ。1学年下のまだ中学生だが体躯は既に高校生並みで彗が硬派なハンサムならば翔央はそれよりも柔和で相当モテるだろうと思う。
まあ、この弟クンには何となく嫌われている様だけど、と残念に思う凌太だった。
5人でいればバランスがとれているけれど、そのバランスが少し崩れたらどうなるのだろう?
まだ外側からみている方が多い凌太はそのバランスがどんなものか気になってしまった。
「さて、俺はそろそろご飯作ってくるね」
教科書とノートを閉じて立ち上がると凌太はキッチンへ向かった。
「勉強のせいで腹減った〜」
海斗がかたまりかけた腕を上げて背伸びをした。
身体を動かすより頭を使った方がお腹を減らすとはそれはとても海斗らしかった。
パスタ用の胴鍋に水を入れ火にかけると冷蔵庫から材料を取り出してきてテーブルに置いた。
グアンチャーレとパンチェッタは細切りにしてフライパンへ、そこでカリカリになる程度焼いていく。卵黄4:全卵1の対比で卵を混ぜ合わせその中にペコリーノ・ロマーノとパルミジャーノ・レッジャーノを削り入れてよく混ぜ合わせておく。
太めの麺スパゲットーニを沸騰した胴鍋に入れて数分、ザルにあげるとフライパンへ。
フライパンの中で卵ソースと絡め皿に盛りカリカリにしたグアンチャーレとパンチェッタをかけて最後に黒胡椒を挽く。
勉強しているテーブルとは違うテーブルにパスタとサラダに水を並べて4人に声をかけた。
「いただきます」
揃って言うとまだ熱いパスタをそれぞれ口に入れる。
「美味い!」
やはり感想は海斗が1番に口にした。
彗も亮哉も海斗の感想に頷きながら食べ進める。
「弟クンは?美味しい?」
黙々食べる翔央に聞いてみたのはただの揶揄い的なものだったが。
「美味い」
以外にも素直に美味しさを認めてくれる。
「本当に?」
なのでついつい追求してしまった。
眉根を寄せ不機嫌な顔にはなったものの。
「今まで食べたカルボナーラの中では1番美味い」
返事はやはり素直な感想だった。それが少し嬉しくて「ありがとう」と口にしながら右手の人差し指で翔央の口端についたソースを拭う。
「日本のカルボナーラは生クリーム使う事が多いからイタリアみたいなコクが出ないんだよ、まぁ日本人向けに食べやすさを重視すればクリーミーなカルボナーラも美味いとは思うけど」
拭ったソースがついた指をひきながらニコリ笑って説明してみせる凌太に翔央は顔を真っ赤にさせた。
「何してるんだよ!」
「何って、ただソースがついていたからとってあげただけだろ?」
ペーパーナプキンで指に付いたソースを落とす凌太は普通の態度で真っ赤になって怒鳴った自分だけが意識しているようだった。
「付いてるって、言ってくれれば自分で拭くから……」
口端に触れた指の感触が暫く残っていた。
凌太の作ったカレーは大変好評だった。それだからか皆の時間が合う日は集まって勉強をしてご飯は凌太が作ってくれるようになっていた。凌太の父は飲食店を経営していて母は某アパレルの日本支店をまかされていて忙しく、彗と翔央の両親はTVの仕事が忙しく、亮哉の父は証券マン、仕事で帰宅は夜中になる事が多く、母は家事をしない人間だった。それぞれ家だとご飯は適当な物になってしまうので4人には都合のいい状況だった。海斗は普通に家でも食べられるけれど勉強をみてもらえるからと部活がよほど遅くならない限り率先して皆に付き合っていた。「なあ、明日の土曜日親が法事に出かけてウチの店が休みなんだ。カレー以外作ってあげれるから店で勉強しない?」海斗と翔央の部活が終わる午後からという事にし、提案は皆が賛成した。「何て読むの?これ」店の看板を見て海斗が頭をかたむける。「Mi vient nostalgia(ミ.ヴィエネ.ノスタルジーア)、懐かしい思い出がやって来るって意味」凌太が教えるけれど海斗にはやはり読みづらくて覚える事もやめた。凌太が鍵を開けて木製のドアを開く。「好きなテーブルに座っていてくれる?飲み物持っていくから」「あぁ」彗が返事をして先に入ると亮哉が続く。「おじゃましまーす」海斗が入ると最後に翔央が続きドアを閉めた。キッチンからとりあえずオレンジジュースを入れたコップをトレーにのせて行くと亮哉がいつも来店すると座る奥のテーブルで壁側奥に彗、その隣に亮哉が座り彗の前の席には海斗、その隣の椅子に翔央が座っている。彗と亮哉は既に教科書とノートを開いていたが海斗と翔央は先にスマホをいじりだしている。対岸でまったく別れた光景だった。「はい」4人の前に飲み物を置いてから凌太もカバンから教科書とノートを取り出した。「今日のご飯何を作ってくれるの?」海斗がスマホをいじりながら聞いてくる。その質問は皆気になったようで4人が顔を凌太に向ける。「やっぱりパスタでしょ、カルボナーラ!」「オレ好き!」海斗がやった!と喜んだ横で、「カルボナーラって難しいんでしょ?大丈夫なんですか?」翔央が敬語を使いながらも不審な目をしながら凌太にたずねる。そんな翔央にフフっと笑って言う。「イタリアではさ、彼女を家に誘うのにパスタを作ったり料理を材料にする事があるって言われて俺も
まったく足りない給食を食べ終え。少ない時間でもと外に出て行く者達を横目に5限の数学で出されていた宿題を写させてもらおうとノートをひろげる。「須崎くん、なんか2年の子たちが呼んでる」机の前に立ったクラスの女子がそう伝えて教室後方の入口を指でさす。1度さされた入口に顔をむける。「おぉ。結構可愛い子達じゃねえ?いいな〜うらやましいな〜須崎ってばモテるなぁ」横に座っていた友人がひやかしをいれる。うらやましいと言われてもまったく嬉しくもない。ただただ面倒なだけだ。「早く行ってやれよ」立ち上がる気配がないので友人はニヤニヤと促してくる。ハァ…。わからない位の小さな溜息をついて立ち上がると視線の先の女の子達は赤くなって1人の子に何かを言いながらパンパンと肩などを叩いている。「何のよう?」前まで来て一言だけできく。さっさとそちらの用事を済ませて欲しい。「ほら、マリちゃん…」横の子に促された「マリちゃん」は真っ赤な顔で廊下に出て話ていいですか?ときいてきたので友人達から少し離れた場所まで移動する。「私…2-3の安藤真理子って言います。須崎先輩のコトが好きです!付き合ってくれませんか!」真っ赤になっての直球な告白にも微塵もココロは揺さぶられない。「ゴメン」返事の言葉に傷ついた瞳がみかえしてくる。「彼女いるんですか?」小さな声がたずねる。「いないよ」「…じゃあ、好きな人。いるんですか?」泣きそうな顔をしながら、でもたずねる。きっとここで「いないよ」と再び返事をしたらまだ諦めなくてもいい可能性はあるなどと思うのだろう。だからキッパリと言う。「いる」「…」涙が流れださないように必死にたえているのだろうか。流れだそうとした瞬間に「マリちゃん」はクルリと向きを変え廊下をかけていってしまう。少し離れた場所に取り残された友人達は慌ててその後を追いかけて行った。周囲にいた人の目も気にすることなく席に戻りノート写しを黙々とはじめる。「須崎ってモテるのに誰とも付き合わないよな、もったいねー」ノートの提供主は再び隣の椅子に座る。「可愛い子なんだから付き合っちゃえばいいじゃん。俺なら即OKする」「彼女いないってことは告白されたことないんだな湯浅くんは!」「うるせーっお前も告白されたことなんて無いだろ!」ノートの提供主、湯浅と俺も
KAITO KASE」いつもはまだ賑やかな放課後の教室。しかし今現在は重い空気に包まれたった3人が机を挟み対面していた。「はぁぁぁ」深い溜息に隣に座る制服姿の男子生徒はいたたまれずに頭を垂らした。対面に座るいつもよりも上品なスーツ姿の女性教諭は机に置かれた数枚の資料を手にとり。「お母さん、大丈夫です!」声をあげる。「公立でもギリギリ行けそうな高校はあります!諦めずに頑張りましょう!」「先生…」励ます女性教諭に母親は隣に座る息子をチラリと見やり、はあぁぁ…と再び溜息をはいた。「海斗は手先も両親に似て不器用で…機械音痴のおっちょこちょいなんです。工学なんかには通えると思えないんです!馬鹿な子の唯一のとりえがあるとすれば去年全国までいけたサッカーくらい…。一か八かでスポーツ推薦狙う事も…」「スポーツ推薦ですか…」女性教諭は少しばかり眉根を寄せた。去年の夏の大会で海斗が所属しているサッカー部は全国大会に出場した。そのサッカー部の中で海斗は1年から選手に選抜されてもいたし全国までフルで出場もしていた。しかし。1番肝心な高校からのスカウト推薦はもらえていない。自己推薦で受けるしかないのだ。「自己推薦になると学力テストも少しですが難度があがりますし受かったとしてもどの割合で免除されるかはわかりません。先ずは公立を一つ決めて…」生徒を思った発言である。「先生…半年も家庭教師をつけて今の成績なんですよ?行きたいと思わない高校を受けて通ったとしても海斗の為になるとは思わないですし」「…オレはできれば高堂を受けたいです」県内では文武に有名な私立、高堂学園。もちろんサッカー部も夏冬共に全国大会への出場経験を有している。平サラリーマンの父だけの収入では生活が成り立たない!と自らも薬局へパートに勤めている母の口からは絶対に高校は公立にいってもらわないと困る。と常日頃言われていた。憧れた高校のユニフォームは夢のまた夢だったのだ。母の口から先にそんな言葉が出てくるなど思いもよらなかった。ならばあとは自分が最大限の努力をするしかない。「オレ、高堂のスポーツ推薦受けます!」自ら宣言したものの。「おふくろ、いいの?」隣で歩く母に問うてみる。「もう1つ私立受けておかないと心配よねぇ。推薦で100%受かるわけじゃないもの」ウーンと頭を傾げて







