author-banner
ミカイノ宙
ミカイノ宙
Author

Novels by ミカイノ宙

霊聴古物商 槻島蓮の怪異ファイル

霊聴古物商 槻島蓮の怪異ファイル

【霊聴×古物商×怪異バトル!】 「鑑定料は高くつくぞ?」 貧乏古物商・槻島蓮の特技は、物に宿る霊の声を聴く「霊聴」。イヤホンで死者の声を遮断する彼の元には、今日も“いわくつき”の厄介な依頼が舞い込む。 民俗学専攻の女子大生・薫、そして元・最恐怨霊の忠犬「菊千代」と共に、蓮は呪われた事件の核心へ! 廃村での配信者失踪、魂を喰らう「匣」、異界の迷宮――。 時に推理し、時に妖刀で怪異を斬る! 金欠古物商が挑む、痛快オカルト・アクション開幕!
Read
Chapter: ファイル3 第10話:黒い遺産と、夜明けの脱出
 黒い人魂――ゼロが去り、静寂を取り戻した研究所。 俺たちは氷室が陣取っていた制御室に戻り、手がかりを探した。 |主《あるじ》を失ったメインコンソールは沈黙していたが、奥の壁に埋め込まれた、見るからに頑丈そうな隠し金庫が目に止まった。「……これだな」 俺は商売道具のピッキングツールを取り出し、鍵穴に差し込んだ。氷室のような性格の人間は、最も重要なものを肌身離さず、かつ物理的に隔離して保管したがるものだ。 カチリ、という微かな音と共に重い扉が開く。 中に入っていたのは、一本の旧式の大容量ハードディスクと、数冊のファイルだった。ファイルの背表紙には『Project Akasha - Original Log / Kuga』とある。「久我教授の、オリジナルの研究記録か……」 パラパラとページをめくる。そこには、非人道的な実験の数々と共に、それに異を唱えた研究員たちの「処分記録」も冷徹に記されていた。「……あった」 俺の手が止まる。『監視強化対象:主任研究員・槻島修一、および妻・玲子』の項目。 そこには、実験の停止を訴える父の上申書と、それが却下された経緯だった。「……先生、これ」 薫がファイルの間からこぼれ落ちた封筒を拾い上げた。 封筒には『押収品:槻島修一 私物』と事務的なスタンプが押されている。中に入っていたのは、一枚の色褪せた家族写真と、ボイスレコーダーだった。 俺は震える手でレコーダーの再生ボタンを押した。ノイズ混じりに、父の声が流れる。『……もし、私が死に、このテープが誰かの手に渡っているなら、私の研究者としての良心は敗北したということだ。だが、これだけは遺しておきたい』 父の声は、死を覚悟したように静かで、力強かった。『私も初めは久我教授の理想に共鳴した。しかしこの研究の犠牲の多さは異常だ。ことが事だけに動物実験ができないとはいえ、次の実験を最後にできるよう教授を説得するつもりだ。私が
Last Updated: 2026-02-13
Chapter: ファイル3 第9話:捕食する虚空と、解き放たれた災厄
『キカセテ……モラッタ……ゾ……!』 空気を震わせるその声は、鼓膜ではなく、脳髄に直接響くようだった。 氷室の隣に開いた黒い裂け目。そこから這い出した「それ」は、人の形を模してはいたが、中身は空っぽの闇だった。輪郭が陽炎のように揺らぎ、周囲の光を貪欲に飲み込んでいる。「な、なんだこれは……!?」 氷室が狼狽し、後ずさる。「私のセンサーには何の反応もなかったぞ! どうやって侵入した!」『シンニュウ? チガウナ……』 黒い影が、嘲笑うように歪んだ。『オレハ、ズットココニイタ……。ココハ……ミオボエ……アル』「見覚えが……ある……だと? まさか、君は……『被検体ゼロ』なのか?」 氷室の表情が、驚愕から歓喜へと劇的に変わる。「そうか! 成功していたのか! これこそが、肉体を捨て、情報体へと進化した人類の姿……神の領域!」 氷室は狂気に取り憑かれたように両手を広げ、黒い影へと歩み寄ろうとした。「素晴らしい! さあ、私にデータを見せてくれ! 君の中で何が起きているのかを!」 だが、黒い影――ゼロは、氷室の歓喜など意に介さず、低い声で唸った。『……久我(クガ)ハ、ドコダ?』「え……?」 氷室が足を止める。「久我……教授のことか?」『ソウダ。オレタチヲコンナ姿ニシタ、諸悪ノ根源……。久我ハドコニイル?』 ゼロの身体から、どす黒い殺気が噴き出し、氷室へと向けられる。その物理的な圧力に、氷室はたじろぎ、腰を抜かしたように後退った。「く、久我先生はもういない!」
Last Updated: 2026-02-13
Chapter: ファイル3 第8話:狂気の継承者と、虚空からの帰還者
 ウィィィィン……。 正門の分厚い強化ガラス扉は、俺たちが近づくとセンサーが感知し、滑らかに左右へ開いた。外見は蔦に覆われた廃墟のはずなのに、自動ドアの機能は生きていたのだ。「……空調が効いています」 薫が身震いして言った。一歩足を踏み入れると、そこは外界とは隔絶された別世界だった。 外の湿った熱気とは無縁の、冷たく乾燥した空気。磨き上げられた大理石の床。天井にはモダンなLED照明が煌々と輝き、広々としたエントランスホールを無機質に照らし出している。『――ようこそ、神去島へ』 突然、ホールに設置されたスピーカーから、理知的だが冷ややかな男の声が響いた。外にいたゾンビたちのようなノイズ混じりの声ではない。明確な殺意と知性を孕んだ声だ。『待っていたよ、侵入者諸君。……さあ、奥へ来たまえ。話し合おうじゃないか』「……話だと?」『そうだ。君も、ただ暴れに来たわけではないだろう? 知りたいことがあるはずだ』 ホールの奥へと続く廊下の照明が、誘うように順に点灯していく。「……どうしますか、先生」「行こう。どのみち、親玉を叩かないことには始まらない」 俺は妖刀の柄に手をかけ、警戒しながら廊下を進んだ。 突き当たりの重厚な扉が開くと、そこは巨大な観察室だった。正面の強化ガラス越しに見下ろせるのは、数々のカプセルと複雑な配線がのたうつ、地下実験場だ。 さらに奥へ進むと、壁一面がガラス張りになった広いオフィスのような空間に出た。 そのガラスの向こう側――制御室とおぼしき場所に、一人の男が立っていた。白衣を纏った痩身の男だ。神経質そうな眼鏡の奥で、感情の読めない冷たい瞳が俺たちを見下ろしている。 ガシャーン! 入ってきた扉が、背後で重々しい音を立ててロックされた。「私がこの施設の管理者、|氷室《ひむろ》だ」 氷室は、ガラス越しに俺たちを見下ろした。それは人間を見る目ではない。シ
Last Updated: 2026-02-13
Chapter: ファイル3 第7話:青き業火と、不動の結界
 日が落ち、森は漆黒の闇に包まれた。 俺たちは詰め所の外、少し開けた広場の中央に、枯れ木や油分を多く含んだ松の枝を積み上げ、即席のキャンプファイヤーを組み上げていた。 朔也が重い枝を引きずりながら、顔を引きつらせる。「おい、山火事にでもなったらどうするんだ。延焼したら、詰め所に逃げ込んだ俺たちも酸素欠乏で死ぬぞ」「この島は湿気が多い。それに今は海側へ風が抜けている。……たぶんな、延焼はしないさ」「『たぶん』で放火するな! まあいい、そっちは俺が何とかしてやる」「何とかって、どうするんだ?」「ふっふっふ。俺を連れてきたことを、涙を流して感謝させてやるさ」 若干の不安はあったが、悲観的になられるよりはマシだ。「期待してるぜ、お坊ちゃん」 文句を言いながらも、朔也は真面目に動いた。こういう局面で手を抜かないのは、育ちの良さゆえの生真面目さだろうか。薫も手際よく、投げつけるための松明(たいまつ)を何本も作ってくれた。「よし、準備完了だ」 俺はライターを取り出し、枯れ葉の山に火をつけた。 パチパチと音を立てて、オレンジ色の炎が燃え上がる。闇夜に浮かぶ焚き火は、この不気味な島において、獲物を誘う強烈な「餌」となった。 ガサガサッ、ガサッ……! 森のあちこちから、枝をへし折るような不気味な音が近づいてくる。「……来たぞ。薫、お前は先に詰め所の中へ! 菊千代もだ!」「ひっ……! き、来やがった!」 朔也が俺の後ろに隠れる。「ビビるな。もっと引きつけろ。奴らが密集するまで待つんだ」 俺と朔也は、詰め所の入り口脇に身を潜め、松明を手に機を伺った。 炎に照らされ、十体、二十体とゾンビ共が広場に集結していく。奴らが互いの肩が触れ合うほどに焚き火を囲んだ、その瞬間だ。「……今だ!」 俺は叫ぶと同時に、火のついた松明を、奴らの中心――一番密集してい
Last Updated: 2026-02-13
Chapter: ファイル3 第6話:錆びついた休息地と、反撃の狼煙
「……おい、あそこに小屋があるぞ!」  逃走の最中、朔也が指差した。背後からは、あのゾンビ共の無機質な足音が執拗に追いすがってきている。  森の少し奥まった場所に、蔦に覆われたコンクリート造りの平屋が見えた。かつての警備詰め所か、資材倉庫の成れの果てだろう。「……待て、真っ直ぐ行くな」  俺は朔也の肩を掴んで引き止めた。 「おそらく、あいつらの索敵は視覚と音響に依存している。一度大きく迂回して死角に入り、視線を切ってから滑り込むぞ」 俺たちは藪の中を這うように進み、建物の裏側へと回った。  追っ手のゾンビ共は俺たちの姿を見失い、そのまま森の奥へと直進していく。やはり知能は低い。プログラムされた単純な索敵行動しかできないようだ。「今だ」  俺たちはその隙を突き、音もなく廃墟へと滑り込んだ。  朔也が慌ててドアを閉め、錆びついた閂(かんぬき)をそっと降ろす。  室内は重苦しい静寂に包まれた。外からは、遠ざかっていく唸り声と、草木を踏みしめる乾いた音だけが聞こえる。「はぁ……はぁ……撒いた、のか……?」  朔也が埃っぽい床にへたり込み、声を潜めて言った。 「ああ。だが油断はするな。……薫、大丈夫か?」 「はい。……それより先生、左手を見せてください!」  薫が救急セットを取り出し、俺の手を強引に取った。 「……かなり深く切れています。血は何とか止まったようですが……」 「平気だ。骨まではいってない」 「平気なわけないでしょう! あんな……自分の手を刀に突き出すなんて……」 薫の手が微かに震えている。彼女はテキパキと消毒をこなし、包帯を巻きながら、今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げた。 「もう、あんな無茶はしないでください。……怖かったです」 「ああ……悪かった」  潤んだ瞳で見つめられ、俺はバツが悪くなって視線を逸らした。「……おい、睦まじいところ悪いが」  朔也が、顔を青くして口を挟んだ。その言葉に薫が肩を跳ねさせ、弾かれたように俺から離れた。暗がりでも分かるほど、彼女の頬が朱に染ま
Last Updated: 2026-02-13
Chapter: ファイル3 第5話:妖刀の偏食と、死せる操り人形
『血だ!! 血をよこせ!』 鞘から抜いた妖刀は、いつものように血を求め、耳元でわめき始めた。 ヒュンッ! 風を切る音とともに、男の腕が俺の目の前を掠めた。速い。だが、その程度の速度では、この妖刀の敵ではない。妖刀を手にした俺の身体は、剣の達人にも比肩する精度で、最適解の軌道を描く。「先生!」 薫の悲鳴を背に、俺は小手調べとばかりに男の腕を一閃した。 ズバッ! 妖刀がその腕を斬り飛ばす。だが、切り口から飛散したのは鮮血ではなく、どす黒く濁った防腐液のような液体だった。『不味い! 何だこれは! 腐っているぞ!』 脳内に、妖刀の露骨な不満と嘔吐感が流れ込んでくる。『ア……ガ……』 しかし、男は止まらなかった。痛覚など存在しないかのように、残った片腕で俺を掴もうと肉薄してくる。「なっ……!?」 俺は紙一重でその手をかわし、返す刀で|頸《くび》を薙いだ。 ズシャァァァ!!!「ゾンビだか何だか知らないが、首を落とせば動けまい!」 頸椎ごと断たれた頭部が転がると、男の身体は今度こそ活動を停止した。「ひぃぃぃっ! こ、こっちに来るな! 汚らわしい!」 ふと気づくと、別の個体が現れ、朔也に向かって突き進んでいた。朔也は腰を抜かしそうになりながら、無様に逃げ惑っている。『ヴヴヴ……』 菊千代が低く唸るが、飛びかかろうとはしない。どうやら菊千代も、この「死体の臭い」を本能的に嫌がっているらしい。「チッ!」 俺は朔也を狙うゾンビへ向け、一気に間合いを詰めた。『あの血は不味い!! 寄越すな!!』 斬りつけようとした瞬間、妖刀が強烈な拒絶反応を示した。振りかぶった刀が、見えない力に阻まれたように空中で静止する。「くっ、この偏食家め! 贅沢言ってる場合か!」「おい朔也! お前のお得意の術で動きを止めろ!」「き、貴様に命令される筋合いは
Last Updated: 2026-02-06
AIDA:残響のオービット

AIDA:残響のオービット

軌道戦記シリーズ 第1弾 軌道戦争で荒廃した世界 。借金まみれのジャンク屋ザックが見つけたのは、コールドスリープから目覚めた美しいアンドロイド「エイダ」だった 。 彼女は単なる「遺物」ではなく、世界の運命を左右する戦略兵器制御ユニット 。エイダを巡り、謎の女エージェント、巨大企業、傭兵部隊が激しい争奪戦を繰り広げる 。果たしてザックは、エイダとこの理不尽な世界を守り抜くことができるのか? 命がけの逃避行の果てに待ち受ける、衝撃の真実と切ない決断 。ハイスピードSFアクション、開幕! 本作はAIによる校正・表現の調整を行っております。
Read
Chapter: エピローグ
――数年後。「とうちゃん! とうちゃん! おはなし、きかせて!」  小さな手が、俺の服の裾をくいくいと引っ張る。ベッドに入る時間だというのに、息子のアレックスは、キラキラした目で俺を見上げていた。今日はたっぷり昼寝をしたらしく、夜だというのに元気いっぱいだ。「……アレックス、悪いけど今日は父ちゃん、疲れてるんだよ」  俺、ザック・グラナードは、苦笑しながら息子の頭を撫でた。  あの軌道エレベーターでの事件から、色々あった。イリスからの強い推薦もあり、俺はかつて敵対した地球再生局の、今ではその一員……査察官《エージェント》として世界中を飛び回っている。昨日までアフリカでとある「遺物」絡みの事件を追っていて、今日、二週間ぶりに我が家に帰ってきたばかりなのだ。身体の節々が、休息を求めて悲鳴を上げていた。「アレックス、お父さんは帰ってきたばかりなんだから、お話は明日にしなさい」  キッチンから、妻になったイリスの声がした。彼女にそう言われ、アレックスは少しだけ不満そうに唇を尖らせたが、すぐに何かを思いついたように顔を輝かせた。 「じゃあ、あしたね! あした、また、えいだのおはなし、きかせて!」 「……ああ、分かったよ」その無邪気な言葉に、俺は胸の奥が少しだけチクリと痛むのを感じながら、それでも笑顔で頷いた。アレックスは、俺が時折話して聞かせる、銀色の髪と蒼い瞳を持つ、勇敢で心優しいアンドロイドのお話が大好きなのだ。「明日、必ずお話を聞かせてやるから、今日はもう寝なさい」 「やったぁ!」  アレックスは満足そうに笑うと、自分の部屋へと駆けていった。 静かになったリビングで、俺は使い慣れた革張りのソファに深く身を沈めた。床には、アレックスが遊びっぱなしにしたのだろう、ブロックの玩具がいくつか転がっている。イリスが、温かいコーヒーの香りと共にマグカップを二つ持ってきて、俺の隣にそっと腰を下ろした。 「お疲れ様、ザック」 「ああ、ただいま」  俺たちは、多くを語らず、ただ静かにコーヒーを飲んだ。大きな窓の外には、ジャンクション・セブンのようなけばけばしいネオンはない、穏やかで温かい街
Last Updated: 2025-11-05
Chapter: 第20話 夜明け
 ――エクアドル地球連邦軍本部  深夜を過ぎた時間にも関わらず、エクアドル地球連邦軍本部の司令室は、怒号と耳障りな警告音が絶え間なく飛び交い、戦場さながらの混乱に陥っていた。オペレーターたちは青ざめた顔でモニターを睨みつけ、懸命にキーボードを叩いている。「ゼータ・プライムからの違法な信号を追跡しろ! 発信源はどこだ!」 「太平洋上の無人環礁が消滅! 衝撃波による津波が発生、周辺航路に警報を!」 「緊急会議のメンバーはまだそろわないのか!」 「こんな時に、悠長なことを言っている場合か!」 制服を着た士官たちが、怒鳴り合うように報告を交わしていた。  世界中のモニターが、ローウェル・ケインと名乗る男によってジャックされ、彼が軌道上から行った「デモンストレーション」という名の破壊行為を見せつけられたのだ。世界は、たった一人の男によって、再び軌道戦争時代の恐怖へと引きずり込まれようとしていた。 そんなパニックの最中、一人のレーダー監視員が、信じられないといった声で叫んだ。 「ゼータ・プライムからの信号が……途絶! 発信が停止しました!」  さらに、量子インターネット回線を監視していた職員も、驚きの声を上げる。 「旧時代の兵器ネットワークへの、ゼータ・プライムからの不正なアクセスも、全て停止しました!」 「……何が起きたんだ? ……まさか、奇跡でも起きたというのか……?」  司令室の誰もが、何が起こったのか理解できず、ただ沈黙したモニターを見つめるしかなかった。 ――同時刻、低層ステーション・宇宙港  俺とイリスは、管制室の巨大な窓から、静かに浮かぶ青い地球を、ただ黙って眺めていた。 「ザック……。これで、うまく行ったのかしら?」イリスが、不安そうに俺の横顔を見上げた。 「さあな、でも地球を見る限り、まだ派手な戦争は起きてないようだ」  俺は、蒼く美しい地球を見ていると、なぜか、エイダのあの蒼い瞳を思い出し、ふと涙がこぼれそうになった。  どれだけそうしていただろう。大した時間ではないのかもしれない。しかし、ふと気づくと、地球の縁
Last Updated: 2025-11-04
Chapter: 第19話 別れ
 光学迷彩をまとったローウェルの影が、銃弾を受けて崩れ落ちる。静まり返った宇宙港に、俺の荒い息遣いだけが響いていた。 俺は、床に倒れているイリスに駆け寄った。 「……ザック。やったのね。……また、助けられたわね」 「お互い様だろ。それより大丈夫か? 良かったら肩を貸すぜ」 「ええ、なんとか。さっき薬も飲んだから大丈夫よ。……ところで、プラムは? 大丈夫なの?」  イリスの視線の先では、マダム・プラムが肩を撃たれたらしく、傷の痛みに顔をしかめ、呻いていた。 「まぁ、呻けるくらいの体力はあるってか」 「……あんた……ここで私が死んだら……借金は……チャラには……ならないわよ!」 「こんな時にも金かよ」俺は、その執念に苦笑いを浮かべながら、イリスに聞いた。「イリス、何か持ってないか?」  イリスは、ポケットから銀色のチューブを取り出した。「ほら、これを飲んで。リペア・ジェルよ」  プラムは、リペア・ジェルの味に顔をしかめつつも、そのジェルを飲み干した。 「……ありが……とう」 「少しここで休んでいれば、直に起き上がれるくらいには回復するわ」 「プラム、全部片付けてくるから、そこで待っててくれ」  プラムが頷いたのを確認すると、俺とイリスは、明かりの漏れている部屋──管制室へと向かった。管制室は一つ上の階にあり、俺たちは階段を駆け上がり、そのドアを開けた。 管制室は壁面に大きな窓があり、外──漆黒の宇宙や、眼下の青い地球──を見渡すことができた。部屋には複数のモニターやキーボードが並べられた机があり、大型の通信設備らしき装置も置かれている。しかし、エイダの胴体はここにはない。俺たちは、管制室の入り口とは別の、奥へと続く扉を開けて進んだ。 その部屋の中央。アームレスト付きの椅子に、エイダの胴体は座らされていた。そして、その首の上には、無機質なカメラレンズがいくつもついた、機械的な頭部のような物が乗せられている。これが、本来のエイダの頭部の代わりをしているであろうことが察せられた。 俺は、嫌悪感を隠しもせず、吐き捨てた。 「悪趣味な事をしやがる
Last Updated: 2025-11-03
Chapter: 第18話 決戦
「イリス!!!」 俺の絶叫が、静まり返った宇宙港に響き渡った。後ろから聞こえた銃声。俺を庇うように覆いかぶさったイリスが、ゆっくりと俺の横に崩れ落ちる。彼女のアッシュカラーの髪の間から、赤い血が流れているのが見えた。「くそっ!」  俺は、彼女を抱えながら、銃撃があった方向──通路の入り口──を睨みつけた。だが、敵の姿は見えない。  その間にも、マダム・プラムはアサルトライフルを構え、銃撃のあった方向に向かって、牽制射撃を繰り返していた。 「くそっ! どこにいやがる! プラム! やつの姿を見たか?」俺はイライラしつつ、プラムに尋ねた。 「いいえ! アタシにも見えなかったわ!」(まさか、光学迷彩か?) 「プラム! ヤツは光学迷彩で姿を消しているかもしれん! 気をつけろ!」 「気をつけろって、どうすりゃいいってのよ?!」 このままでは、なぶり殺しにされるだけだ。俺は、気を失ったイリスの脈があることを確認すると、そっと彼女を壁際に寝かせた。そして、覚悟を決める。 (今ヤツを倒せなければ、妹の時のように、イリスまで死ぬ! 集中しろ! ザック!)  俺は自分の頬を両手で強く叩き、気合を入れた。「プラム、頼む! 牽制射撃をしてくれ!」 「って、どっちによ!?」  俺は目をつむった。  ……プラムの荒い息遣いも、遠くで響く電子音も、全てが遠ざかっていく……。意識の奥底で、神経が一本の研ぎ澄まされた針のようになっていくのを感じる……。  ほんの一瞬、闇の中に、人の形をした、熱の揺らぎのような「何か」の気配を感じ取れた気がした。「あっちだ!」俺は、銃撃が来た方向とは正反対の通路を指さした。「牽制射撃をしたら、その方向に走り出してくれ。その都度、俺が牽制射撃の指示を出す!」 「もう訳分かんないわね。まぁいいわ。このままじゃなぶり殺しにされるだけだしね。女は度胸よ!」 「それを言うなら、男は度胸だろ?」俺が呆れて言う。 「いちいちウルサイわね! やるの? やらないの!?」 「やるぞ……今だ!」  俺の声を
Last Updated: 2025-11-02
Chapter: 第17話 低層ステーション
 メンテナンス用エレベーターのドアが閉まると、俺たちを乗せた箱は静かに、しかし確かな速度で上昇を始めた。ガシュレーとジン、そしてイージス・セキュリティの仲間たちを残し、向かう先は軌道エレベーターの低層階層。そこには、ローウェル・ケインと、奪われたエイダの胴体が待っているはずだ。 エレベータの中は、駆動音以外は静かだった。俺は、リュックサックに入れたエイダの頭部を胸に抱き、壁に寄りかかる。イリスは、その隣にそっと腰を下ろした。「ザック、さっきはありがとう」彼女は、少し顔を赤らめつつ、礼を言った。「あなたの勘には、助けてもらってばっかりだわ」 その心からの言葉に、俺も照れくさくなった。「いやぁ、昔から勘は良い方でさ。ジャンク屋なんてヤクザな商売で生き残ってこれたのも、この勘あってのものだよ」「そういえば……」俺は、ずっと気になっていたことを尋ねた。「なんでイリスは地球再生局に入ったんだ? 何か事情があったみたいだが」 俺の問いに、イリスは少しだけ遠い目をして、静かな駆動音だけが響くエレベーターの中で、ぽつりぽつりと語り始めた。その声は、いつもより少しだけ低く、抑揚がなかった。「……私は古い鉱山町、レッドウォーター・クリークというところに生まれたの。少し汚染の影響が強いところで、原因不明の病に苦しんでいる人が多かったわ。十五歳だったかな、親友が『遺物』に触れて、それが爆発したの。それも、私の眼の前で……」 彼女の視線は、エレベーターの冷たい壁の、何もない一点を見つめていた。「親友はそれで亡くなって、私はしばらく塞ぎこんでいたわ。それから一ヵ月くらいして、この事故のために地球再生局の調査チームが来たの。私はできる限りその調査に協力したわ。それで、そのリーダーに言われたの。『君、このままこんな町で埋もれていていいのか? 君のその知識と覚悟があれば、もっと多くの人を救えるかもしれんぞ』って……。それで、地球再生局のエージェントになることを決意したの」「そうか……。イリスも、大切な人をなくしてたんだな&he
Last Updated: 2025-11-01
Chapter: 第16話 軌道エレベータの攻防
 不本意ながらプラムをチームに再び加えた俺たちは、息つく暇もなく、巨大な塔の入り口へと向かった。  内部は、空港のターミナルのように広大だった。だが、その静寂を破るように、警報と共に無数の戦闘ドローンが姿を現した! 犬型や、電磁リフトファンで浮遊する球状のドローンが、通路の奥から波のように押し寄せてくる!「くそっ! やはり待ち伏せか!」ガシュレーが叫ぶ。 「隊長、ここは俺たちに任せて先に進んでください! 奴らを食い止めます!」 「そうです! 早くメンテナンス用エレベータに向かってください!」  ガシュレーの部下であるライカーとソーニャが、ドローンの群れとの間に立ちはだかった。「こっちよ、ザッキー!」プラムが叫ぶ。彼女のガイドで俺たちはドローンの攻撃を掻い潜り、メンテナンス用エレベータへと走った。  エレベータを待つ間もドローンは執拗に襲いかかってくる。だが、ジン、イリス、そしてガシュレーの三人が、的確な射撃でそれらを次々と撃ち落としていく。 「早くエレベータに入れ!」ジンは最後まで俺たちを庇うようにドローンを迎撃し、最後に自身もエレベータに飛び込んだ。 上昇を始めたエレベータの中で、ガシュレーが悔しそうに呟いた。 「やはり、待ち伏せられていたか」 「そうだな。くそっ!」俺は悪態をついた。 「ザック、焦っても今は何もできないわ」イリスが、俺の肩にそっと手を置いた。「乗り換え地点まで、まだ40分以上ある。今は体を休めましょう」  彼女はそう言うと、壁を背に座り込んだ。 「……取り乱してすまない。俺も少し休む」俺は壁を背に座り、目を閉じた。 やがてエレベータが終点に着く。俺たちは待ち伏せを警戒し、扉が開くタイミングで銃を構えていたが、そこには誰もいなかった。静かな乗り換え用のステーションだ。 「で? どっちなんだ?」俺がプラムに聞くと、 「さぁ? 最初のエレベータでローウェルの野郎が裏切って私を撃ってきたから、私が知ってるルートはもう終わりよ」  その言葉に、俺たちは呆れるしかなかった。ガシュレーが、プラムの顎に銃口を突きつける。
Last Updated: 2025-10-31
フォートレス・フロンティア・オンライン

フォートレス・フロンティア・オンライン

軌道戦記シリーズ 第2弾 高校生リクが率いるのは、旧式装備の落ちこぼれeスポーツチーム『ジャンク・キャッスル』。 彼の秘密兵器は、ゲームの深淵で出会ったAI少女ユイとの絆と、常識外れの「ガラクタ」クラフト戦術だ 。 快進撃の果て、絶対王者に不正を疑われ、最大の武器であるユイとの連携を封じられてしまう。絶体絶命の決勝戦。少年とAIの絆は、エリートの支配を打ち破れるか。熱血SFクラフトバトル、開幕! 本作はAIによる校正・表現の調整を行っております。
Read
Chapter: 第23話 ガラクタの王冠
 スタジアムの非常用ランプが消え、やがて、メインの照明が一つ、また一つと、温かい光を取り戻していく。スクリーンに映し出されたアップタウンの街並みにも、再び命の灯が宿っていた。 誰からともなく上がった歓声は、やがてスタジアム全体を揺るがす、割れんばかりの大歓声へと変わっていった。それは、eスポーツの勝者を称えるものではない。コロニーの危機を救った、名もなき若者たちへの、心からの感謝と賞賛の叫びだった。 僕たちのブースでは、駆けつけた救護班が、ヴィル爺さんの応急処置を行っていた。幸い、骨に異常はなく、打撲だけで済んだらしい。 その喧騒の中、|コロニー防衛軍《CDF》の兵士たちが、壇上へと駆け上がってきた。しかし、彼らが確保に向かったのは僕たちではなく、その場に崩れ落ち、完全に機能停止したモードレッドのアンドロイドだった。 やがて、会場の巨大スクリーンに、ニュース速報のテロップが流れる。『速報:テロの首謀者、モードレッド・ブラックウッドの身柄を確保』 キャスターが、興奮した様子で続ける。『……モードレッド・ブラックウッドは、決勝戦終了直後のブラックアウトの混乱に乗じ、本物の彼と、あらかじめ用意していたアンドロイドを入れ替え、スタジアム近隣に父の会社が借りていたプライベートルームから、テロ行為の指揮を執っていた模様です。CDFの特殊部隊が、先ほど、その部屋に突入し、身柄を確保しました』 画面には、無表情のまま、兵士に連行されるモードレッドの姿が映し出されていた。 ブースの隅では、ランスロットが、CDFの司令官らしき人物と、険しい表情で言葉を交わしていた。彼は、自らの家の醜聞と、チームメイトの凶行の責任を、全て一身に背負う覚悟を決めているようだった。彼のその気高い姿が、僕たちが不当な疑いをかけられることから守ってくれる、最初の盾になってくれていた。 数日後の、『シュミットの工房』。 工房のモニターで、事件の顛末を伝えるニュースを、僕たち全員が見ていた。『……今回の事件で、テロウイルスの鎮圧に貢献したとされる「所属不明の自己進化型AIプログラム」について、
Last Updated: 2025-11-29
Chapter: 第22話 あなたの力を貸してください
 アンドロイドが完全に沈黙し、ひとまずの脅威が去ったことに、会場の観客たちも、安堵のため息をつく。誰もが、これで事件は解決に向かうと、そう思った瞬間——。 スタジアムのメインスクリーンに、再び、あのピエロのような仮面が、今度は大写しで映し出された。その口元は、明らかに嘲笑の形ではなく、激しい怒りに歪んでいた。『やってくれたな、老いぼれ! お前らもだ! もう容赦しない!』 その声は、もはやふざけてはいない。底冷えのするような、純粋な憎悪が込められていた。『クエンティン・ミラー。俺はここまでやるつもりはなかった。だが、ことごとく邪魔をしたお前らが、この決断をさせた。悪いのは、お前らだ!』 モードレッドは、コロニー中に向け告げる。 彼が仕掛けたウイルスの、恐るべき第二段階の存在を。「電力テロは、二段階で実行されるようにプログラムされていた。第一段階は、今お前たちが目にしている、アップタウンのブラックアウト。そして、お前たちが俺の人形を止めた、今この瞬間が、第二段階への引き金だ」 スクリーンに、コロニーの電力供給網の模式図が映し出される。そして、アップタウンを制御する複数の「電力ノード」が、次々と危険を示す赤色に点滅し始めた。「俺が仕掛けたウイルスは、今この瞬間から、各ノードの冷却システムを停止させ、制御不能な熱暴走――超電導クエンチを引き起こす。クエンチが発生すれば、超電導電磁石に蓄えられていた膨大なエネルギーが、一気に熱や衝撃波となって爆発的に放出される。あと10分もすれば、ノードは連鎖的に、物理的に溶け落ち、コロニー全体の電力網は、二度と修復不可能なダメージを受ける!」 絶望的な宣告に、会場全体が本当のパニックに包まれる。もはや、なすすべはない。誰もが、ただ、終末へのカウントダウンを見守ることしかできなかった。 僕は、腕の中のフィグモに、祈るように叫んだ。「ユイ! これをなんとかする方法はない!?」『……今、やってる。でも、ウイルスの進行が速すぎる。私の計算能力だけじゃ、とても足りない……』 ユ
Last Updated: 2025-11-28
Chapter: 第21話 ダウンタウンの誇り
 アップタウンから光が消え、一部では火災まで起きている。その地獄のような光景を背景に、モードレッドは恍惚とした表情で、自らの行いを語った。「おい、ちょっと待て!」 最初に我に返ったのは、クエンティンだった。その声は、怒りと、それ以上に焦燥に染まっていた。「停電ってことは、病院にも電力が行かないってことだな!」「もちろんそうだ」 モードレッドは、さも当然というように答える。「ふざけるんじゃないぞ! お前の勝手な復讐に、無関係な人まで巻き込むな!」「おや? クエンティン・ミラー。君たちのことは、少し調べさせてもらったよ。君の父親が、宇宙放射線病なんだって?」「……それがどうした!?」「そこのランスロットの父、ハワード・エインズワースは、コロニーのモノレール会社の、トップだよ」「えっ!」 クエンティンが、息を呑んだ。僕も、耳を疑った。親父さんを苦しめた会社の、トップ。それが、ランスロットの父親……?「そうだ! 良いことを思いついた。取引をしないか?」 モードレッドは、手に持っていたマシンガンを、こともなげにクエンティンへと差し出した。「は?」「なに、簡単なことさ。この銃で、あの来賓席にいるハワード・エインズワースを殺してくれば、ウイルスを止めよう。そうすれば電力は回復するし、僕は自ら手をくださないですむし、君はダウンタウンの英雄になれるかもしれないぞ。一石三鳥じゃないか」「何を馬鹿な! ふざけるな!」「おや? 条件が悪かったかな」「そこまでだ! モードレッド・ブラックウッド。銃を下ろせ!」 その時、僕たちとモードレッドの間に、3名の警備員が割って入った。その銃口は、真っ直ぐにモードレッドに向けられている。だが、彼は、全く意に介していないようだった。「いやいや、給料安いんでしょ? 無理しない方が良いと思うな」「いいから銃を下ろせ!」 警備員たちが、じりじりと包囲を狭めてきた。 すると突然、モードレッドの身体が、ブレた。そう思った瞬
Last Updated: 2025-11-27
Chapter: 第20話 裏切り者の告白
 ミミ先輩の手から放たれた爆弾が、美しい放物線を描き、がら空きになった敵のコアの中心に吸い込まれていく——。  勝利を、確信した。  その、瞬間だった。  世界から、全ての光と音が、突然消えた。[CONNECTION LOST] ヘッドセットから音が消え、現実世界に戻った僕の耳に、観客たちの混乱した声が、大きなうねりとなって押し寄せてきた。勝利を祝うはずだったスタジアムが、どよめきと不安に満たされている。  どこか投げやりな、しかしスピーカーを通して増幅された声が、その喧騒を切り裂いた。 「静粛にー、静粛にー、……静粛にって言ってんだろうが!」 次の瞬間、乾いたマシンガンの発砲音が、三発、立て続けにスタジアムに鳴り響いた。  悲鳴が、会場を埋め尽くす。これは、もうゲームじゃない。 パッと、非常用の赤いランプが点灯し、薄暗い闇の中に、僕たちのブースと、巨大なメインスクリーンがぼんやりと浮かび上がった。そして、そのスクリーンに映し出されたのは、不気味に笑う、ピエロのような仮面だった。『いやぁ~、まさか君たちが勝つとはね』その声は、甲高く、どこかふざけているようだった。『ランスロット、手を抜いたんじゃ無いだろうね? 君、弱者に同情するとこあるじゃない? そう言うの、本当に失礼だからね?』 「何をバカな!」ブースから飛び出したランスロットが、スクリーンに向かって叫んだ。「我々は全力で戦った! ただ、彼らの戦略と執念が、我々を上回っただけだ!」 『ん~~、良いことを言うね。“執念”、そう“執念”だ。僕にも、執念って奴があってね、そのために今、こんな事をしてる』「アンタなんなの!? 決勝戦を滅茶苦茶にして、何が楽しいの!?」  目に涙を浮かべたミミ先輩が、ブースから飛び出していきそうなのを、リョウガ先輩が、その巨体で必死に抑えつけている。『あ~~、ゴメン、ゴメン。ほら、コッチにも都合って物があってさ。今この瞬間なら、コロニー中の人間が、この放送を見てるだろ? なんたって、この試合の一番良い所だったんだからな』 「お前は一体、何をしたいんだ!」  リョウガ
Last Updated: 2025-11-26
Chapter: 第19話 決勝戦 - 後編
 がら空きになった、僕たちのコアへと向かう敵のアタッカー。  その光景を、僕は、壊された砦の陰から、ただ見ていることしかできなかった。 この時ほど、ユイとの高速連携を封じられたことに、苛立ちを感じたことはなかった。  リョウガ先輩のリスポーンまで、約9秒。敵のアタッカーが、コアのある場所に辿り着くまで、恐らく12〜13秒。その差、わずか数秒。  そして、僕たちの周囲には、まだ敵のアタッカーが二人もいる。僕たちは、装備の性能差もあって、一対一の戦闘では勝ち目が薄い。それを補ってきたのが、僕とユイの連携による、常識外れの超高速ビルドだった。  ユイがいれば、どんなピンチからだって、きっと形勢逆転ができた。でも今、それは出来ない——。 ——でも、本当にそれでいいのか? クエンティンと交わした、未来を変えるという約束。  ユイが、これからも安心して暮らせる、僕たちの居場所。  決勝戦の前にぶつけられた、「チート野郎」という不当な汚名。  今、ここで、負けるわけにはいかない——! 覚悟を決めた、その瞬間だった。  僕の世界から、音が消えた。  あれほど激しかった心臓の鼓動が嘘のように鎮まり、時間の流れが緩やかに引き伸ばされる。まるでサードパーソン・シューティングゲームのように、自分自身の姿と戦場全体を冷徹に俯瞰する、不思議な感覚に支配されていた。心なしか、時間の流れも、ゆっくりに感じられた。  これが、いわゆる「ゾーンに入った」って感じなのかもしれない。「みんな、30秒間だけ、耐えてほしい。その間に、逆転のための一手を作る」  僕の声は、自分でも驚くほど、冷静だった。 『おう!』『了解!』『任せろ!』  仲間たちの、信頼に満ちた声が、即座に返ってきた。『リク選手、絶体絶命のこの状況で、一体何を作るというのでしょうか!』「ユイ! 近くにある『ハンドル』と『推進ファン』を探して!」 『了解!』  ユイが、僕の視界の中で、必要なパーツをハイライト表示してくれる。良かった! すぐ近くにあった! 後は、スキ
Last Updated: 2025-11-25
Chapter: 第18話 決勝戦 - 中編
リョウガ先輩の雄叫びと共に、陸上戦艦『ヤマト』と名付けられた僕たちの城は、その巨体に見合う咆哮を上げて、敵陣へと進撃を開始した。  三門の『大砲』が一斉に火を噴くたび、『アヴァロン・ガーディアンズ』が築いた前線拠点が、いとも簡単に粉砕されていく。「やった! いいぞ、リョウガ先輩!」 「このまま押し切れ!」 クエンティンとミミ先輩の、興奮した声がヘッドセットから響く。『チーム「ジャンク・キャッスル」の陸上戦艦ヤマト、止まりません! アヴァロン・ガーディアンズの拠点を次々と粉砕していく!』 しかし、これだけの巨体と武装だ。重量ゆえに進む速度は、どうしても遅くなる。僕はその時間を無駄にはしなかった。『ヤマト』が敵の拠点を破壊するたび、僕はその後方に残り、まだ使えるパーツを回収していく。『見てください! ジャンク・キャッスルのクラフター、リク選手! 破壊した敵の拠点からパーツを奪い、その場に砲台を設置し直しています! これは……進軍した道がそのまま自軍の支配領域となる、恐るべき戦術だ!』 勝利は、盤石かと思われた。  だけど、僕の心の中の、あの言いようのない不安は、まだ消えてはいなかった。最強の王者である彼らが、このまま無抵抗に、意気消沈するとは到底思えなかった。 敵のプレイヤーたちは、とっくにリスポーンしていた。だが、下手に出てきても各個撃破されるだけだと判断したのだろう。彼らは、フィールドの中央、自陣のコアを守る最後の境界線となっている拠点に立てこもり、僕たちが来るのを待ち構えているようだった。 そして、ついに『ヤマト』が、その最後の拠点への射程距離に近づいた頃。  王者の、本当の反撃が始まった。 『リク、高速接近物体を複数確認!』  ユイの警告と同時に、敵の拠点から、5、6機の小さな影が、一斉にこちらへ向かって飛び出してきた。『ここでアヴァロン・ガーディアンズ、動いた! 自爆ドローンだ! 数は6機か!? 残っていた爆弾ダルを全て投入したか!? 圧倒的な攻撃力を誇るヤマトを止めるには、これしかないと判断したか! チャンピオン、ここで全てを賭けた総攻撃で
Last Updated: 2025-11-24
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status