Chapter: 第11話 メロメロ大作戦完了ですわー!(15歳)(終) 私は大ホールに集まった人たちの前で、図らずもスパリオと結婚宣言をしてしまいましたわ。 会場が温かな祝福ムードに包まれる中、一人だけ真っ青な顔をした少女がいましたの。 それはスパリオと一緒に留学に行っているはずの――銀髪の聖女さんでしたわ。「エリザベス様、大変……、大変申し訳ありませんでしたっ……」 彼女は意を決したように私に近づいてくると、声を震わせながら深く深く頭を下げましたの。「え、あの、聖女さん? 一体、何を謝っていらっしゃるの?」「私のせいで、エリザベス様を不安にさせてしまい……。スパリオ王太子殿下は、いつも、何よりも、エリザベス様のことを気にかけていらっしゃったのに!」「ひゃううん」 彼女の謝罪を真面目に受け入れたいのに、そんなことを言われたら顔がにやけてしまいますわ! ――じゃなかった、いや本当に、どういうことですの?「ええと、まず、顔をお上げになって? どういうことか、説明してくださるかしら?」 私は努めて真剣な表情を作って、怯えている様子の聖女さんを怖がらせないように優しい声で問いかけましたわ。 彼女はしばらくすると、そろそろと顔をあげて、話し始めましたの。「スパリオ王太子殿下が隣国に留学されたのは、私のお告げのせいなんです」「お告げって、聖女さんだけが聞ける女神さまの声のことですの?」「はい、そうです。そして、その内容が――」 そこまで言うと聖女さんが表情を曇らせて、スパリオを見上げました。 彼は小さく頷くと、優しく私の肩を抱き寄せましたの。「女神さまのお告げは、未来の王妃――つまりエリー、君が将来、重い病気を患うというものだったんだ」「ええっ!?」 全くの予想外の内容に、私は目を丸くしましたの。 昔から健康が取り柄でしたのに……、不安になる私を落ち着かせるように、スパリオは続けましたわ。「聖女――カミラからその話を聞いた僕は、病気の解決方法を必死で探した。それでつい忙しくなって、君には寂しい思いもさせてしまったね」「入学後にスパリオがお忙しかったのは、私の為だったんですの!?」 王宮の仕事や聖女さんのお世話に奔走しているのだと思っていましたの。まさかの理由に、私は息を飲みましたわ。「事情を話すことが出来れば良かったんだけど――治療の目途がたつまでは、君にこのことは言えないと思ったんだ
Huling Na-update: 2025-12-01
Chapter: 第10話 結婚して差し上げますわー!(15歳)「うわああんっ、ひっく、うぇ、……婚約破棄なんて、嫌ですわー!!」 大泣きし始めた私に、スパリオは大慌ての様子でしたわ。 でも、私の涙は全然止まりませんでしたの。「びええん、うっく、嫌ですの! 私はスパリオが好きですの!!」「えっ、え、ちょっと待って、エリー?」「嫌です、待ちませんわっ!! 婚約破棄なんて、お待ちになって?」「婚約破棄ってなんのこと!?」「私は、ちゃんとスパリオをもう一度メロメロにするんですから! もう国を乗っ取るとかどうでも良いんですの! スパリオが好きなの! びええええんっ!!」「く、国を乗っ取るって!? え、と、というか、エリー……」 ずびずびと、淑女あるまじき勢いで泣きわめいてから、私はようやく我に返りましたの。 ――あれ、今、スパリオは、婚約破棄ってなんのことだと言ったかしら?「……」 「……」 私が泣きはらしたぼろぼろの顔でスパリオを見つめると、彼は見たことも無い位に真っ赤になっていましたの。 ……どうしてですの? い、意味が分かりませんわ?「ひっく、ぐすっ、あの、私、これから大ホールで、皆さんの前で婚約破棄宣言をされるのでは……?」「何がどうしたら、そんな発想になるんだい!?」 大真面目に問いかけた私を、スパリオは驚愕の顔で見つめていましたの。 そして、私は気づきましたわ。 大ホールの扉が、すでに半分開いていたことに。 中には沢山の人が集まっていて――後ろの方に横断幕が見えましたの。『エリザベス嬢、15歳のお誕生日おめでとう』 そこには、そう記されていましたわ。「??????」 私は自分の勘違いに気づいて、一気に頭が冷えていき――同時に頬が燃えるように熱くなるという特異体験をいたしましたの。「あっ、あのあの、これは……」 そして冷静に思い返してみれば、とんでもないことをスパリオに伝えてしまった気がしますわ? ――ああ、もう駄目、耐えられませんの。 お誕生日会を開いてくださっているのに申し訳ないですが、先程までとは別の意味で、ここにはいられませんわ!「き、今日のところは、これくらいにして差し上げますわー!!」 そう言うと私は全力で身をひるがえし、逃走を試みましたわ。 でも、それはあっけなく阻止されましたの。「ふふっ、駄目だよ。エリー!」 嬉しそうに声を弾ませ
Huling Na-update: 2025-11-30
Chapter: 第9話 婚約破棄なんて嫌ですわー!(15歳) 私はエリザベス・スパイシュカ、15歳になりましたの。 隣国にスパリオと聖女さんが留学してから、私の学園生活は皮肉にも平和なものとなりましたわ。 悪役令嬢なんて噂をする人たちもいなくなって――ときどき、婚約者に逃げられた女だと憐れむような視線は感じますけれど、直接何かを言われることもありませんし。「エリー、また王太子殿下から手紙が届いているよ」 「本当に見なくて良いの?」 王太子殿下からはここ半年間ほどで、100通近いお手紙を頂きましたの。 心配そうに訊ねてくるお父様とお母様に、私は首を横に振りましたわ。「ありがとうございます。でも、読みたくないんですの……」 王家からの手紙を開封しないのは、本来ならば重罪ですわ。 でも、私に届いているのはスパリオ個人からの手紙という扱いのようですの。だから読まなくても、少なくとも家が罪に問われることはありませんわ。(誠実に手紙を送ってくださるスパリオに、申し訳なくはあるけれど) 手紙の内容が怖くて、開封できなかったんですの。 だって彼の美しい文字で”婚約破棄”だなんて綴られていたら、それこそ立ち直れませんわ。(でも、こうして引き延ばせるのもあと半年ですわね) あと半年で、留学を終えたスパリオと聖女さんは国に戻ってきてしまいますわ。 そうなれば流石に、私も逃げ続けることは出来ないでしょう。 どこかで現実と――向き合う覚悟を決めなくてはいけませんわね。 私が深い溜息を吐きながら学園までの道を歩いていると、背後から声がかけられましたわ。 「やあ、久しぶりだね。エリー」 それは聞き間違えるはずもない、スパリオの声でしたわ。 私が驚いて振り返ると、今は隣国にいるはずの彼が私に微笑みかけていましたの。 留学で旅立つ前より、彼は少し元気そうで、背も伸びたようでしたわ。「すっ、す、スパリオ……王太子殿下。どうして、ここに?」 声を裏返しながら問う私に、彼は苦笑しましたの。「やっぱり、手紙は読んで貰えていなかったんだね」「あ……、そ、それはっ! ……ごめんなさい」「良いよ。君に不信感を持たせてしまった、僕がいけなかったんだ」 殊勝に謝る彼に、私は何も言い返せませんでしたわ。 どこまでも優しい人ね。 久しぶりに彼に会えて嬉しい。沢山、話がしたい。 でも、それ以上に恐怖
Huling Na-update: 2025-11-29
Chapter: 第8話 私は悪役令嬢なんですの?(14歳) 王宮の応接間に呼び出しを受けて参上すると、そこにはスパリオと聖女さんの姿がありましたわ。 二人は仲睦まじく腕を組んでいましたの。 やってきた私に、スパリオは微笑みながら言いましたわ。「エリー、僕は真実の愛を見つけたんだ。この聖女さんと結婚するよ」「えっ……スパリオ、急に何を言い出しますの?」「僕たちは、所詮は親同士の決めた婚約だからね。はっきり言わないと分からないかい?」 狼狽える私を見つめるスパリオの眼差しが、氷のように冷たく変わりましたわ。「エリザベス・スパイシュカ。今日をもって、僕は君との婚約を破棄する!」◇ ◇ ◇「いやあああああっ!!」 叫びながら飛び起きると、そこは自室のベッドの上でしたの。 どうやら夢を見ていたようですわ。とても恐ろしい夢。 目が覚めたはずなのに、夢の中のスパリオの冷たい瞳が忘れられませんの。 きっと、最近図書室で借りて読んだ小説の影響ですわね。 平民出身の娘が王子様と恋に落ちて、婚約者である意地悪な”悪役令嬢”の妨害にもめげずに真実の愛を勝ち取るお話。街でも流行しているんですって。 私とスパリオと聖女さんの関係をこの小説に見立てて、私を”悪役令嬢”みたいだと陰で噂する声があるのも知っていますわ。 勿論、見当違いなので気にしていませんけれど。 だって私は悪役令嬢ではなく、ハニートラップ令嬢なのですわ!「ああ、いけない。今日はスパリオと会う日でしたわね」 婚約者同士である私とスパリオは、学園で顔を合わせる機会が少ない代わりに、週末には必ず 一緒に過ごす時間を作っていましたの。 ――いつもは楽しみな時間なのに、夢のせいで今日は憂鬱に感じてしまいますわ。「駄目よ、エリー。私はスパリオをメロメロにするんだから。聖女さん相手でも、負けてられないわ!」 弱気になりかける自分の気持ちを奮い立たせて、私は支度をはじめましたの。◇ ◇ ◇「お待たせ、エリー。遅れてしまってごめんね」 スパリオは待ち合わせに10分程遅れてやってきましたわ。場所は王宮の中庭。テーブルにはいつかのように、お茶会の準備が綺麗に整えられていましたの。「おーっほっほっほ! 構いませんわよ。スパリオは毎日、お忙しく過ごしているようですもの」 ここ最近、端正な彼の顔に疲労の色が滲んでいるのは気になっていましたわ。何でも
Huling Na-update: 2025-11-28
Chapter: 第7話 ライバルの出現ですわー!(14歳) 私はエリザベス・スパイシュカ、14歳になりましたの。 この春から、王立学園に通うことになりましたわ。 婚約者である王太子殿下――スパリオをメロメロにして国を乗っ取ることを計画している私に、最近、大きな悩みが出来たんですの!「ほら、見てみろよ、聖女さまだぜ」「平民出身だけど凄く優秀だって話よ」「可憐で清楚で、長い銀髪が美しいわね。なんて素敵なの」「スパリオ王太子殿下と並んでいると、お似合いで絵になるわよね」 カフェテリアで他の生徒たちが交わす噂話に、私はこぶしを握り締めましたわ。 彼らの視線の先には、中庭の便利で仲睦まじく会話する、スパリオと銀髪の可憐な少女の姿がありましたの。「ぐぬぬぅ!」 この王立学園は基本的には貴族家が在席していますわ。 けれど、珍しい才能を持つ人間は特例として通学が認められますの。 その中でも一番特別なのが、聖女として認められた娘ですわ。 これは30年に1度現れる、女神様に認められた存在であるらしいんですの。 聖女は女神のお告げを聞く力があり、国に幸運をもたらすと言われているんですわ。「だからって、どうしてスパリオがそのお目付け役なんですのー!」 いえ、分かりますわ、分かりますのよ。 スパリオはとても優秀ですし、面倒見も良いですし、格好良いですし、何よりも王太子という立場ですし、国の要となる聖女さんのお世話役に任命されるのは当然かもしれませんわ。 聖女さんは平民出身ということで、貴族社会でこれから苦労することもあるかもしれませんの。 スパリオが傍について、しきたりなどを教えるというのも理にかなっているのかもしれませんわ。 でも、でも……。「折角、同じ学園に通えましたのに。これでは全然お話も出来ませんわ……」 こんなのあまりにも寂しい――ではなくて、このままでは、スパリオをメロメロにする計画に支障が出てしまいますわ! しょんぼりと一人で紅茶を飲む私に、三人の女生徒が近づいてきましたの。「あの、ちょっと宜しいでしょうか。エリザベス様」「……何ですの?」 見上げれば、上品ないでたちと仕草から、高位の貴族の娘さんたちであることはすぐに分かりましたわ。 三人の内の真ん中にいる、茶色の巻き毛の女生徒が丁寧にお辞儀をしてきましたの。「お初にお目にかかります。私はルアード侯爵家の長女、マリリンと申
Huling Na-update: 2025-11-27
Chapter: 第6話 ドキドキの舞踏会ですわー!(12歳) 社交界デビューの日には、王城の大広間で舞踏会が開かれることになっていましたの。 その日に向けて、私は礼儀作法やダンスの特訓を頑張りましたのよ。 素敵なドレスと洗練された動きで私の魅力を発揮して、スパリオに可愛いって思われたい――じゃなかった、これも彼をメロメロにして国を乗っ取る為ですの! ――そして舞踏会当日、私はスパリオが贈ってくれた薄い青色のドレスに身を包みましたわ。 栗色の長い髪は大人っぽく、お団子に結いあげて貰いましたの。ドレスの刺繍と同じ金色の、お星さまの髪飾りが素敵でしょう? お化粧だって、少しだけ施してもらいましたの。似合うかしら。 この姿を一刻も早くスパリオに見て貰いたかったのに、彼は他の公務ですぐには会えないんですって。 舞踏会の挨拶のときに合流すると、伝えられましたの。「そうですの。スパリオは他にもお仕事がありますのね……」「ほら、エリー、元気を出して? すぐにスパリオ王太子殿下にもお会いできるよ」 「少し会えないだけでも寂しいのよねぇ、ふふっ」「ち、違いますわっ! 私はただ、スパリオが間に合うかを心配しただけで!」 お父様とお母様の慰めるような言葉に、私はむきになって言い返しましたの。 スパリオがいないからって、寂しいだなんて、そんなこと!◇ ◇ ◇ 王族による挨拶が始まる前から、舞踏会の会場は既に華やかな賑わいを見せていた。 テーブルに並ぶワインや軽食を片手に、大勢の貴族や他国の要人たちが交流を深めている。「うううっ、寂しいですわ。早く会いたいですわー……」 早めに会場入りをはたしていた私は、しょんぼりと壁際に佇んでいましたの。 お父様とお母様は、大臣さんと難しいお話があるということで、何処かに行ってしまいましたわ。 私は巨大な会場で見知った顔も少なく、小さくなっていましたの。 時折、挨拶をしてくださる方はいらっしゃいましたが、すぐに通り過ぎてしまわれましたわ。 貴重な他国の方と交流できる機会ということで、皆さんお忙しそうでしたの。「……失礼、レディ?」 そんな中で聞こえてきた声は、最初、自分に向けられたものだと気が付きませんでしたわ。 けれど、見渡してもこんな壁際にいるのは私だけでしたもの。 だから恐る恐る、顔をあげましたの。「あの、わ、私のことですの?」
Huling Na-update: 2025-11-26
Chapter: 第50話 筋肉の女神様、今更大降臨!!(終) 世界が平和となり、私が忙しくも充実した生活を送るある日、私は不思議な夢を見た。 (コハル……)(コハル、起きなさい……) 誰かが私を呼んでいる気がする。 私は寝ぼけながら返事をする。「うぅん。筋トレもう1セットですかぁ?」(違います、コハル……)(筋トレではありません、起きなさい……)「……はっ!?」 呆れたような声に促されて、私はようやく意識をはっきりさせた。 とはいえ、起き上がってみたものの真っ暗な空間だ。 けれど以前に世界が崩壊しかけた時のような嫌な感じはしない。 むしろ、何となく懐かしいような……。(やっと起きましたね、コハル) その瞬間、再び声がして、一気に私の視界が開けた。「……っ!?」 私は唖然とした。 目の前に現れた光景は――いわゆる現実世界、現代の、トレーニングジムだった。 そしてその中に佇む、一人の荘厳なマッチョレディの存在に気が付く。「あ、貴女は!?」「はじめまして。私はこの世界の神……。今は『筋肉の女神』と名乗った方が良いかもしれませんね」「えええっ!? 神さま?? 異世界転生の最初によくある奴ですか!?」「そうです。転生の説明やスキルの解説などをおこなう、あれです」「な、なぜ今になって……。というかこの世界にも神さまっていたんですね」 疑問を口にする私に、筋肉の女神さまは清らかな微笑みを浮かべた。「ふふふ。神とは人の想いに宿るもの。現代世界で流行したAIゲームにも、沢山の想いが集まりました。そして生まれたのが、この私です」「な、なるほど!」「本当は最初に貴女とお話したかったのですが……この世界のバグ要素、ビルド・マッソの存在により、会話することができなかったのです」「ビルドさんが妨害していたということですか?」「いえ、あの子も私の存在は知らないはずです。しかし世界に馴染めない彼の存在自体が、私の力を不安定にしていたのです」「そうだったんですか。あ、でも、こうして話しかけてくださったということは!!」 私の言葉に、筋肉の女神さまはにっこり笑う。「その通り! 彼もようやく、この世界を自分の居場所だと認めてくれたようです」「よ、良かった!」 私は心から安堵した。 目指していたのは、全員揃ってのハッピーエンドだったから。 ほっとしたら、不意に疑問がわ
Huling Na-update: 2026-01-06
Chapter: 第49話 筋肉は全てを解決する!! 私とカイル大佐は、マッスル国立公園でのデート真っ最中だ。 人が一番集まっている中央広場に向かう道すがら、私はビルドさんの近況について話していた。「ビルドさんは転移魔法が得意ですし、この世界の状況把握能力も凄いですからね。プロテインの滝の水を各地に運ぶのは天職だったみたいです!」「適材適所ということか」「なんだかんだで、現地の方にも感謝されているみたいです」「……そうか」 大佐は小さく息を吐き出すと、空を見上げながら笑った。「奴にも、居場所が見つかると良いな!」 私は大佐の言葉に目を見開くと、表情を綻ばせる。「はい、大佐! それにグルメシアでの農業は、凄い成果もあったんですよ! ……ほら、こっちです、こっち!!」 公園の大広場は賑わっており、沢山の露店が並んでいる。 私はそのうちのひとつの屋台を指さした。「これは……」 その屋台に並んだ物を見て、大佐は息を飲む。「ここはグルメシアからの出張露店なんです! プロテインの滝の水を使ってグルメシアで農業を行った結果……筋肉とグルメが融合した食材が誕生したんです!!」 目玉商品として売り出されているのは、ゴールデンビーフトマトの串焼き。 キラキラと金色に輝くトマトは、噛めば何故か肉汁があふれだしてくる。 しかも驚きの、タンパク質含有率50%である!「むぅ、美味いっ!!」 ――パァンッ!! 串焼きを購入して食べた大佐の服の上半身が、美味しさのあまり弾けた。「そうでしょう、そうでしょう!」 私も同意しつつ自分のトマト串を頬張るが、ひとつ問題に気づいた。 いつもは大佐の半裸対策で替えの服を持ち歩いているのだが、今日はデートなので何も持って来ていない。「流石にずっと、この状態というのは……! あ、あちらのお店に、服が置いてあるみたいですよ。行ってみましょう!」 服や雑貨などが並ぶ露店の存在に気づいて、私はそちらに駆けていく。 そして近づいた結果、そこが『筋肉聖女&筋肉大佐グッズショップ』だったことを知る。 「いらっしゃいませ、カイル大佐、聖女さま!!」 にこやかに接客をしてくれたのは、筋肉風邪の時にお世話になった黒髪の軍医さんだった。「って、何故ここに!?」「いやぁ、大佐と聖女様のロマンス本の人気が好調で! 他のグッズも出してみたら売れ行き順調
Huling Na-update: 2026-01-05
Chapter: 第48話 大佐とデートです!! ダンベリアとグルメシアの戦争が終わって、国はすっかり平和になった。 そして私は見習いの立場を卒業し、晴れて正式な筋肉聖女に任命されることになったのだ!「うむ、めでたいな!」 軍の指令室で内示を伝えてくれた大佐が、感慨深そうに腕を組む。「なんだか、ちょっと照れますね、えへへ」 私は大佐の言葉に、頬をかきながら表情を緩めた。 平和になったので戦闘任務は殆どなくなったが、私は相変わらず元気にダンベリア軍で働いている。 今は農作業の手伝いや、グルメシアに続く道路の整備など、社会支援活動が主な仕事だ。「祝いもかねて、今度の休みに出かけるか!」「はい、大佐! ……はいっ!?」 反射的に返事をした後、私はハッとする。「え、た、大佐? それって、もしかして、もしかして……デートですか!?」 ここにきて、大変なイベントが発生してしまった! あたふたする私を、大佐は面白そうに眺めているのだった。◇ ◇ ◇ デートが決まってから、私はダンベリア王宮へと駆け込んだ。 以前お世話になった侍女さん達に、デートの相談をする為だ。「きゃーっ! 素敵じゃない!!」 みんな大はしゃぎで快く話を聞いてくれた。 その中でも、一番悩んだのは当日着ていく衣装だった。様々な案が出た。「可愛いめのワンピースが良いですよ!」 「いっそドレスを新調しちゃいます!?」 「筋肉映えを狙うなら、トレーニングウェアよね!」 わいわいと話し合いを重ねて、ようやく服装が決定する。 ――そして、大佐とのデートの日がやって来た。 場所はダンベリアの中心部にある、マッスル国立公園である。「大佐、おはようございます!」 私は結局、聖女服の白いローブをまとっていた。 裾の部分の金の刺繍は、侍女さん達が好意で追加してくれたものだ。 今日は筋肉聖女就任のお祝いでもあるのだし、この姿は自分の頑張りが認められた証みたいで、好きだったから。 服でおめかしする代わりに髪の毛は綺麗に整えて、マッスル菫の小さな花飾りを付けている。 少しは可愛いと思って貰えるだろうか。 私はドキドキしながら、大佐を見つめる。「ああ。おはよう!」 一方カイル大佐は、黒いタンクトップの上に軍用ジャケットをラフに羽織り、下はカーゴパンツという服装だった。 ――よく考えれば
Huling Na-update: 2026-01-04
Chapter: 第47話 圧倒的ハッピーエンド!! カイル大佐の筋肉が、暗闇を打ち払った。 中空に投げ出された私を、大佐はしっかりと逞しい腕で抱きとめてくれる。 世界が眩い光に包まれて、目を開けていられない。「た、大佐っ……!!」 果たして、この世界に何が起きているのか。 理解が追い付かないが、ただひとつ、私の中で確かなことがある。 ――もう、大佐と離れ離れになるのは嫌! 私は必死に大佐にしがみついた。「私……、私も、カイル大佐が大好きです! ずっと、ずっとずっと、一緒に居たいです!!!」 私が大きな声で叫んだ瞬間、すんっと光が静まり、かわりに温かい風が頬を撫でた。「ふぇ?」 おそるおそる目を開けてみる。大丈夫だ、全然眩しくない。 気づけば私はカイル大佐に抱きかかえられたまま、廃墟と化した大聖堂まで戻って来ていたようだ。 そして、その場にいる皆――ダンベリア・グルメシア両国の兵士や随行団、モンスター軍団たち、バルク3世様とグルメリアス王は、唖然とした様子で私たちを見つめている。 きっと、突然あらわれた私たちに驚いているのだろう。「……」 「……」 暫くの間、沈黙が流れた。 私とカイル大佐は、お互いに顔を見合わせる。 とりあえず、皆さんに何か説明をしなくては。 ええと、何か何か、言わなくてはいけないことは――「皆さん、お騒がせしました! 世界は無事です!!」 私の宣言に、一拍の間をおいてから、わあっと大きな歓声が上がった。「やったぜえええっ!」 「流石大佐だ!!」 「筋肉聖女さま、ありがとおおおっ!!」 「ご結婚おめでとうございますっ!!!」「――んっ!?!?」 声援の中に、聞き捨てならない言葉を拾い上げて、私は目を白黒させた。「ま、待ってください!! 色々と謝ったり説明もしたいところですけど……。結婚って、結婚って何ですか!?」 声を裏返らせながら叫ぶ私に、バルク3世様がにこやかに答える。「ええっ? だってコハル……。さっき、カイルとずっと一緒にいるって言っていたじゃないか」 皆も聞いたよねぇ、と周囲に問いかけるバルク3世様に、その場の兵士たちが全員にこにこと頷いている。「ひっ、ひぇっ、ま、まって……。あれを叫んだ時、まさか、もう、ここに戻って来ていて……!?」 私がカイル大佐に叫んだ言葉は、実はこの場の全員に届いてい
Huling Na-update: 2026-01-03
Chapter: 第46話 やっぱり、私はこの世界が大好きです!! 私は暗闇の中、目を閉じて揺蕩っていた。 ここはどこだろう。私は何をしていたのだろう。 ――ああ、そうだ、思い出した。 私、きっと夢を見ていたのね。 楽しくて、可笑しくて、ちょっとドキドキして、幸せな夢。 筋トレマシーンに潰されるというあんまりな死因。 それに同情した神さまが、少しだけ私に夢を見せてくれたのね。 ――そうね、でも、もう夢は終わり。 ぼろぼろと、涙が止まらない。 全部、壊れてしまったの。私は、きっと間違えた。 ――さようなら、みんな ――さようなら、この世界 ――さようなら、大佐 私の意識は、深く深く、落ちていく。 だけど、唐突に、それを引き戻す声が届いた。(コハル……! 聞こえるか、コハル……!!)「えっ!?」 私はハッとして目を見開く。 周囲は矢張り、漆黒の闇に包まれたままだ。 それでもはるか遠くに、煌めく光の筋を見つけた。 私は必死に其方へ向かって駆けだす。(コハル! ……戻って来い、コハル!!) 声と光を頼りに延々と走り続けると、急に視界がパッと開けた。「――っ、大佐!?」 私は暗闇でできた大きな浮かぶ球体の中にいた。 地上を見下ろすと、カイル大佐が筋肉を光らせながら、必死に私に呼びかけてくれている。「気が付いたか、コハル!!」「え、私、一体、どうして……!?」「君を探して国中を走り回った。ようやく、ここで見つけたんだ!」「ここ? ここ、は……」 よく見ると、そこは最初の森だった。 私とカイル大佐が出会った場所。「大佐、あの、ごめんなさいっ! 私、みんなを騙す心算は無くて、でも……っ」「コハル、私たちを見くびるな!!」「……っ!」 私はびくりと肩を震わせる。 叱責されたのだと思った。しかし、大佐は穏やかな笑みを浮かべて続けた。「君に悪意が無いことくらい、みんな分かっている。コハルがどれだけ頑張ってきたのかも、みんな知っている。ここがどんな世界だろうと、それは変わらない」「た、大佐……」「コハル、世界が壊れようとしているらしい。君が、この世界に絶望したからだそうだ」「えっ、世界が、壊れる? わ、私の、せいで……!?」「――君が本当に辛いのならば、私はそれでも良いと思う」「……っ!」「君がこの世界の人間ではないことは知っていた。その気
Huling Na-update: 2026-01-02
Chapter: 第45話 世界崩壊の音「ごめんなさい……っ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」 私は頭を抱えたまま、ひたすら謝っていた。 誰に? 大佐に? みんなに? きっと、この世界の全てに。 ――みしみし、みしみしみしっ。 空に大きな大きな亀裂が走って、どんどん広がっていく。 ひび割れた隙間から、漆黒の闇が差し込んで来る。 私の視界が真っ暗に染まっていく。私の世界から音が消えていく。 何も見えない。何も聞こえない。 周りがどんな様子なのかも、何も分からない。 ただただ、胸に広がるのは悲しい虚しい気持ちだけ。 ――みし、みしみしみし……パリンッ!! 亀裂はついに大空全てを覆い尽くし、そして最後に、空がガラスのように砕け散った。(ああ、大佐に、みんなに、せめてきちんと、謝りたかった……) 私は何も分からないまま、その場で意識を失った。◇ ◇ ◇ 突然、空に亀裂が入ったかと思うと砕け散り、あたりは不気味な暗闇に包まれた。 コハルも暗闇に呑まれて、姿を消してしまった。 周りの地面や建物の壁にもところどころにヒビが入り、闇が吹き出してきているのが見える。「大変だーっ……!?」 「世界が終わる!!」 「筋肉聖女さまは、何処に行ってしまったんだ!?」 動揺しながら騒ぎ立てる兵士たちを、私は一喝した。「落ち着け! 筋肉の強さは心の強さ!! 名誉あるダンベリア兵がこの程度で狼狽えてどうする! その筋肉に誇りを持て!」「「「は、はいっ!!」」」「不安であれば、指示があるまで筋トレをして待機だ! 心も落ち着き、筋肉も鍛えられ、一石二鳥だろう!」「さ、流石カイル大佐!」 「よーし、ダンベリア国王である私が筋トレの指揮を取っちゃうよ! グルメシアの皆も一緒に、どう?」 「この雰囲気で筋トレするのか?」 「こいつら、正気か……?」 「いや、でも、変に取り乱すよりは良いのかも……」 各国の兵士や随行団をひとまず落ち着かせると、私は取り押さえているビルド・マッソへ向き直る。「おい、貴様! これは一体、どういうことだ!?」 ビルドは不敵な笑みを浮かべながら、ふてぶてしい態度を崩さない。「はっ、全部さっき話した通りだよ! この世界は作り物なの! そして創造者であるあの女がこの世界に絶望したことで、崩壊を始めた。もう全員終わりだよ! 俺も、お
Huling Na-update: 2026-01-01