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米糠
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Novels by 米糠

『復讐の転生腹黒令嬢は溺愛されたので天下を取ることにしました』

『復讐の転生腹黒令嬢は溺愛されたので天下を取ることにしました』

数多の男を魅了し、弄び、捨ててきた石黒麗子は、死後に閻魔大王から無慈悲な「無限ギロチンの刑」を宣告される。次に目覚めた時彼女は、異世界の公爵令嬢イザベラ・ルードイッヒとして転生していた。未来の王妃として厳格な教育を受け、完璧な淑女として生きてきたイザベラは、ある日突然、婚約者である王子から婚約破棄を告げられ、その場で命を奪われる――はずだった。だが転生した麗子は、従順な令嬢ではない。悪女として培った知略と策謀を武器に、自らを踏みにじった者たちへの復讐を誓う。彼女は微笑み、宣言する。「この世界で一番の悪女になってやる」。贖罪ではなく、悪として生き抜く復讐譚が、今ここに始まる。
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Chapter: 2 忍び 1
   牢の中、イザベラの記憶をひたすら探る。 冷たい鉄格子が無機質な檻を作り出し、重苦しい空気が肌にまとわりつく。  湿り気を帯びた石壁からは、鼻をつくカビと血の入り混じったような臭いが漂っていた。  底冷えする牢獄の中で、イザベラは膝を抱え、じっと己の内側へと沈み込んでいく。 ーーこの世界の情報を整理しなければ。  ーー自分に与えられた力を把握しなければ。  ーー何としてでも、この絶望的な死刑宣告を覆さなければならない。 思考を巡らせれば巡らせるほど、脳裏に浮かび上がるのは否応なしに突きつけられる現実。  それは、まるで刃のように鋭く、逃げ場を許さぬ残酷な事実だった。 ーーやはり私は、イザベラ・ルードイッヒなのね。 牢獄の冷気に縮こまる身体とは裏腹に、頭の奥が焼けるように熱い。  麗子としての人生が確かにあったはずなのに、今の自分は間違いなくこの異世界の公爵令嬢。  だが、与えられたのは美しい容姿と高貴な身分ではなく、婚約破棄と死刑宣告ーーそして、無実の罪。 ふっと力が抜け、思わず肩を落とす。  瞳を伏せ、唇を噛み締めながら、重く沈む溜息がこぼれた。 頑張るのよ、麗子! 心の中で叫ぶ。それは炎を灯すような言葉のつもりだったが、その声は霧の中に消え、まるで水底に沈んでいくように、焦燥と虚無感が絡みつき、心の灯は小さく揺らめくばかりだった。  それでも、ここで立ち止まるわけにはいかない。 ぎゅっと両手を握りしめる。  痛みが現実を繋ぎ止める鎖となることを願いながら、深く息を吸い込んだ。 ーー私は、私を救わなければならない。 意識を研ぎ澄ませ、記憶の断片を拾い集める。  かつてのイザベラが何を知り、何を手にしていたのか。  それを理解し、活かさなければ、この世界の中で朽ち果てるだけだ。 するとーー まるで霧が晴れるように、脳裏に鮮明な映像が浮かび上がった。 イザベラは”忍び”を使い、あの女、カトリーヌを影から探らせていた。 忍び。  それは、闇の中で生まれ、闇を纏い、闇と共に生きる者。  主に従い、主のために動き、主のためにその刃を振るう存在。 小太郎ーー その名を思い出した瞬間、心の奥で何かが疼いた。 ーーそうだ、あの少年がいた。 三つ年下の、生意気な小僧。  かつ
Last Updated: 2025-12-17
Chapter: 転生
 人は死に直面すると、生前の記憶がまるで走馬灯のように目の前を駆け巡り、過去の一瞬一瞬が鮮明に浮かび上がると言われている。しかし今、私の脳裏を占めているのは、確かに私の記憶ではない。まるで別人の記憶が無理矢理押し寄せてきているかのようだ。 そう、私は死んだのだ。ほんの少し前、目の前に現れたのは、まるで地獄の番人を彷彿とさせる真っ赤な肌を持ち、ギョロリとした目が不気味に光り、鋭い牙を覗かせる異形の大男――閻魔大王だ。彼は私の生前の悪事を裁き、『無限ギロチンの刑』と冷徹に告げ、深いため息をついた。ため息は、まるで私を極邢の運命に突き落とすように、重く、冷たかった。その瞬間、私の意識は闇に呑み込まれた――地獄に送られるはずだったのに、何故か今、私はここにいる。 私の脳裏で展開する走馬灯の物語は、公爵令嬢イザベラ・ルードイッヒの幼少期から始まった。柔らかな陽光に包まれて育ち、贅沢な衣装と優雅な食卓に囲まれて――美しく、わがままに、そして少しだけ頑固に育てられた彼女の姿が映し出される。次に訪れるのは、あの王子との婚約の知らせ。王子ヘインズ・クラネルはまさに王子様そのもの、豪華な外見と高貴な血筋を持ちながら、イザベラの心を魅了していった。イザベラは過酷な王妃教育を受けながら未来の良き女王を目指して寸暇を惜しんで努力する。だが、彼女の未来は、あっけなく崩れ去る。王妃教育で時間に余裕のないイザベラにヘインズ王子の不満は高まり、王子は公然と浮気するようになったのだ。そして卒業パーティーで婚約解消を発表する。王子に抗議したイザベラは王子に殴り飛ばされ、仰向けに倒れる……その瞬間で走馬灯は途切れた。 これはイザベラの記憶だ。私はそう理解してイザベラという人間を考察した。 この子、美しいけれど、ちょっと負けん気が強すぎるわね。でも、頑張り屋さんで、素直に言うと、本当は良い子なんだ。王妃教育も真面目に受けていて、時間がない中でも一生懸命やっていた。でも、王子は……あんな公然と浮気をして、挙げ句の果てに婚約を破棄だなんて……。 もしこの子が、黙って耐えていたら――泣き寝入りしていたら、こんなことにはならなかったのに。死ぬこともなかったのに……こんなに騒ぎを大きくしてしまったから、きっとこの後は処刑台に送られる運命だったはず。でも、あの一撃で――もう後頭部を強打して死んじゃったのね。
Last Updated: 2025-12-16
『男装の令嬢は男になりたい』

『男装の令嬢は男になりたい』

グレイヴ騎士爵家の一人娘セリーナは、男児として「セリウス」を名乗り跡取りとして育てられる。八歳で父に伴われ訪れたリヴィエール公爵家で、同年代の嫡男アランと出会い、その気品と美しさに心を揺さぶられる。秘密を抱えたまま学問と剣術を共に磨き、二人は互いを支える存在となる。やがて性別を変える秘宝が眠る古代ダンジョンの噂を知り、真実を隠さず生きるため、セリウスはアランと共に危険な冒険へ挑む決意を固める。 これは、少女でありながら、少年として、将来の騎士爵家の跡取りとしての運命を背負ったセリーナの学園冒険ファンタジーです。
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Chapter: 第2話 フィオナ・ド・ヴェルメール
 初めての授業(ホームルーム)を終え、セリウスたちは学舎の男子寮へ向かった。騎士養成学校《ヴァルロワ学舎》は全寮制である。 石造りの廊下には、荷物を抱えて右往左往する新入生や、容赦なく声を張り上げる上級生たちの姿があった。  窓の外には練兵場が広がり、槍を振るう上級生たちの掛け声と、陽光をはじく金属音が爽快に響いている。 セリウスは自室に荷物を運び入れ、ふと息を整えたそのとき――背後から、不意に声をかけられた。「初めまして。お隣さん」 振り向いた瞬間、息を呑む。  そこに立っていたのは、長い黒髪を背に流し、宝石のように澄んだ蒼の瞳と白磁の肌を持つ“絶世の美女”だった。 (……は? 男子寮に女?) 一瞬そう思ったが、声にはわずかに低音が混じっている。  年齢は同じくらいに見える。寮母にしては若すぎるし。……ドレス姿でここにいるってことは? 「……あの、あなたは?」「自己紹介が先ね。フィオナ・ド・ヴェルメール。一年生よ。お見知りおきを」 彼――いや、彼女?――は優雅にスカートの裾を摘み、舞踏会さながらのカーテシーをしてみせた。その仕草は女王に謁見する淑女のように完璧で、しかも自然。  視線がセリウスを上から下までさらりと流れ、値踏みするように止まる。その口元に、意味深な笑みが浮かんだ。 (男子校の生徒ということは……やっぱり男? いや、女にしか見えないけど……それにしても美形すぎる! なんで男子寮に、こんなのが……。私、女なのに、完全に負けてるんだけど!) セリウスは心の中で頭を抱えつつも、表情には出さずに一歩前へ。  胸に手を当て、努めて落ち着いた声で名乗った。「セリウス・グレイヴです。初めまして。これからよろしくお願いします」  声がわずかに裏返りそうになるのを、必死に押し殺す。「あなた、随分と整った顔立ちね。しかも……肩幅が私より狭いわ。ふふ、もし私みたいに女装したら――間違いなく見惚れるほどの美人になるでしょうね」 心臓が跳ね上がる。  (なっ……!? 一
Last Updated: 2025-12-17
Chapter: 第1話  男装の令嬢、騎士養成学校へ
   ここはレーヴァンティア王国。  豊かな麦畑とワインの産地で知られるが、近年は北方のガルド帝国との国境で緊張が高まっている。  そのため、王都アルヴェーヌでは若き騎士候補の育成にかつてない熱が注がれていた。 王都アルヴェーヌ――王国の政治と文化の中心であり、華やかな宮廷と広大な市街を抱く。春、セリウスとアランは、この都へと到着した。 石畳の大通りには商人や旅人が行き交い、街角には大道芸人や吟遊詩人の姿まである。領地では見たこともない光景に、セリウスは思わず馬車の窓から身を乗り出した。(……ここが王都……。アラン様と共に学ぶ新しい日々が、ここから始まるんだ) やがて馬車は、壮麗な学舎へと辿り着く。  騎士養成学校《ヴァルロワ学舎》。王国屈指の武門の誉れであり、貴族子弟と有力市民の若者が剣と学問を競い合う場所。白大理石で築かれた校舎は堂々たる威容を誇り、広大な練兵場や図書館を併設していた。その門をくぐるだけで、胸が高鳴る。 入学初日、広間には全国の有力貴族や騎士の子弟が一堂に会していた。  セリウスは思わず周囲に気圧される。煌びやかな家紋を刺繍した制服を誇らしげに着こなす者たち。長剣を下げて自信に満ちた目を光らせる少年たち。「緊張してるか、セリウス?」  アランが優しい視線をセリウスに向けて笑った。彼は王都南方の大領地リヴィエール公爵領の嫡男。  金糸のような長髪を後ろで束ね、黒地に銀の縁取りが入った制服のマントを翻している。道行く村娘たちが一斉に振り向くほどの美貌だ。「緊張? してない。むしろ……むしろ、やっと剣を振るう場に立てるのが楽しみだ」  そう答えたが、誰が見ても緊張しているのが丸わかりだ。 アランはセリウスの肩に手を置き、小声で囁き微笑む。 「私もだ」「ここに集うのは皆、将来の王国を背負う者ばかりだ」  式辞に立った教頭の言葉が、空気を一層引き締めた。 セリウスは隣に立つアランの姿をちらりと見る。  彼は涼しい顔で広間を見渡し、緊張する素振りすらない。 (……やっぱりアラン様は堂々としていらっしゃる。私は……私も、負けていられない!) やがて新入生たちはそれぞれのクラスに振り分けられた。  セリウスとアランは幸いにも同じ組になったが、そこにはすでに個性豊かな面々が待ち受けていた。 無口で大剣を背負う巨躯
Last Updated: 2025-12-17
Chapter: プロローグ 1
  レーヴァンティア王国グレイヴ騎士爵領。「セリウス! 準備はできたか?」「はい。|お父様《おとうさま》。準備はできております」「お父様ではない。お前は、立派な騎士爵家の跡取りとしての作法を身につけよ! これからは、|父上《ちちうえ》と呼ぶように」「はい! 父上!」「よろしい!」 『セリーナ・フォン・グレイヴ』―「セリウス」と呼ばれたこの少女の本名である。彼女は、グレイヴ騎士爵家の一人娘で、幼児期は魔除けのため男児の服装で、その後は、爵位存続のため、男として育てられていた。  八歳となりグレイヴ騎士爵家が仕える|王都《アルヴェーヌ》南方の大領主・リヴィエール公爵家に、父に連れられ、グレイヴ騎士爵家の跡取りとして公爵様に初めての挨拶に伺う所である。「セリウス! 決して女であることを悟られてはいかんぞ。騎士爵家の位は男でなければ継げんのだ。跡継ぎに男子がいないとわかればグレイヴ家は断絶なんだ」「分かっております。父上」 *** レーヴァンティア王国|王都《アルヴェーヌ》南方に広がるリヴィエール公爵領。その館の正門をくぐると、広大な石畳の中庭に噴水があり、白亜の館が陽光を受けて輝いていた。幼いセリウス――いや、セリーナは、その威容に息を呑んだ。「気を抜くな、セリウス」 父の低い声に背を押され、彼女はぎこちなく胸を張る。 やがて、館の大扉が開かれる。 現れたのは、セリウスと同じくらいの背格好の少年。深い蒼の瞳に長い睫毛、陽光を浴びて金色に煌めく髪――その姿はまるで絵画から抜け出した美少年だった。「グレイヴ騎士爵殿、よくぞお越しくださいました」 柔らかな声で礼を述べるその少年こそ、リヴィエール公爵家の嫡男、アラン・リヴィエール 八歳である。「おお、アラン様。ご健勝そうでなにより」 父が膝を折り、恭しく頭を垂れる。セリウスも慌てて倣い、膝をついて小さく礼をした。 だがアランは近寄ると、屈んでセリウスを覗き込んだ。蒼い瞳が、幼き「少年(女)」を射抜く。「君が、セリウス殿か。グレイヴ騎士爵家の跡取りだと伺っている」「は、はい! アラン様!」 声が少し裏返り、慌てて咳払いをする。 アランはふっと微笑んだ。「……緊張しているの? 大丈夫だよ。僕も最初に父の隣で挨拶をしたときは、手が震えて仕方がなかった」 その微笑は、幼いながらも気
Last Updated: 2025-12-16
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