『男装の令嬢は男になりたい』

『男装の令嬢は男になりたい』

last updateLast Updated : 2026-01-29
By:  米糠Updated just now
Language: Japanese
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グレイヴ騎士爵家の一人娘セリーナは、男児として「セリウス」を名乗り跡取りとして育てられる。八歳で父に伴われ訪れたリヴィエール公爵家で、同年代の嫡男アランと出会い、その気品と美しさに心を揺さぶられる。秘密を抱えたまま学問と剣術を共に磨き、二人は互いを支える存在となる。やがて性別を変える秘宝が眠る古代ダンジョンの噂を知り、真実を隠さず生きるため、セリウスはアランと共に危険な冒険へ挑む決意を固める。 これは、少女でありながら、少年として、将来の騎士爵家の跡取りとしての運命を背負ったセリーナの学園冒険ファンタジーです。

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Chapter 1

プロローグ 1

 レーヴァンティア王国グレイヴ騎士爵領。

「セリウス! 準備はできたか?」

「はい。お父様おとうさま。準備はできております」

「お父様ではない。お前は、立派な騎士爵家の跡取りとしての作法を身につけよ! これからは、父上ちちうえと呼ぶように」

「はい! 父上!」

「よろしい!」

 『セリーナ・フォン・グレイヴ』―「セリウス」と呼ばれたこの少女の本名である。彼女は、グレイヴ騎士爵家の一人娘で、幼児期は魔除けのため男児の服装で、その後は、爵位存続のため、男として育てられていた。

  八歳となりグレイヴ騎士爵家が仕える王都アルヴェーヌ南方の大領主・リヴィエール公爵家に、父に連れられ、グレイヴ騎士爵家の跡取りとして公爵様に初めての挨拶に伺う所である。

「セリウス! 決して女であることを悟られてはいかんぞ。騎士爵家の位は男でなければ継げんのだ。跡継ぎに男子がいないとわかればグレイヴ家は断絶なんだ」

「分かっております。父上」

 ***

 レーヴァンティア王国王都アルヴェーヌ南方に広がるリヴィエール公爵領。その館の正門をくぐると、広大な石畳の中庭に噴水があり、白亜の館が陽光を受けて輝いていた。幼いセリウス――いや、セリーナは、その威容に息を呑んだ。

「気を抜くな、セリウス」

 父の低い声に背を押され、彼女はぎこちなく胸を張る。

 やがて、館の大扉が開かれる。

 現れたのは、セリウスと同じくらいの背格好の少年。深い蒼の瞳に長い睫毛、陽光を浴びて金色に煌めく髪――その姿はまるで絵画から抜け出した美少年だった。

「グレイヴ騎士爵殿、よくぞお越しくださいました」

 柔らかな声で礼を述べるその少年こそ、リヴィエール公爵家の嫡男、アラン・リヴィエール 八歳である。

「おお、アラン様。ご健勝そうでなにより」

 父が膝を折り、恭しく頭を垂れる。セリウスも慌てて倣い、膝をついて小さく礼をした。

 だがアランは近寄ると、屈んでセリウスを覗き込んだ。蒼い瞳が、幼き「少年(女)」を射抜く。

「君が、セリウス殿か。グレイヴ騎士爵家の跡取りだと伺っている」

「は、はい! アラン様!」

 声が少し裏返り、慌てて咳払いをする。

 アランはふっと微笑んだ。

「……緊張しているの? 大丈夫だよ。僕も最初に父の隣で挨拶をしたときは、手が震えて仕方がなかった」

 その微笑は、幼いながらも気品と余裕を漂わせる――だがセリウス(セリーナ)の心臓は、別の意味で大きく跳ねた。

(なんて……きれいな人……!)

 男として振る舞わねばならぬことを思い出し、慌てて背筋を伸ばす。

「わ、私は大丈夫です! ……立派な、騎士爵の跡取りとして!」

 アランはその言葉をじっと見つめ、少し口角を上げた。

「その意気だ。僕もいつか、この広い領地を継ぐ身。互いに励み合える仲になれるといいね」

 蒼い瞳に真っ直ぐに見据えられ、セリウスは思わず視線を逸らす。胸の奥に、得体の知れない熱がこみ上げていた。

 アランとアラン付きの執事の先導で館の奥へと通されると、重厚な扉の前で足を止められた。

 扉の両脇には槍を携えた近衛騎士が立ち、全身から張り詰めた気配を放っている。

「父上はこの先に」

 アランが静かに告げ、片手で合図すると扉が開かれた。

 そこは広々とした謁見の間。赤い絨毯が一直線に敷かれ、その先の玉座に、一人の威厳ある男が腰掛けていた。

 黒髪に混じる白髪、整えられた髭、鋭い鷲のごとき眼光――レーヴァンティア王国王都アルヴェーヌ南方最大の領地を治める大領主、リヴィエール公爵その人である。グレイヴ騎士爵家はリヴィエール公爵家の寄子であった。

「グレイヴ騎士爵殿。久しいな」

 低く響く声に、父はすぐさま膝をつき、深々と頭を垂れた。

「はっ! 公爵様のご威光の下、我が家も変わらずお仕えしております。本日は、嫡子セリウスをお目通り願いに参上仕りました」

 セリウスは、喉がきゅっと締め付けられるように感じた。小さな手を強く握りしめ、父の隣に並んで膝を折る。

「……セリウス・フォン・グレイヴ、でございます。初めての御前、恐れ多く存じます」

 公爵の視線が、少年を装った少女に注がれた。鋭いが、どこか試すような眼差しだった。

「ふむ。年の割には背筋が通っているな。目も曇りがない」

 公爵はゆるりと顎を撫で、やがて玉座から立ち上がった。

「グレイヴ家は代々、我がリヴィエール家を支える忠勇の家柄。お前がその跡を継ぐというなら、いずれ我が嫡子アランを助け、剣を取って共に戦場に立つことになる」

 セリウスは必死に胸を張った。

「はい、公爵様! この命に代えても、御家に忠義を尽くします!」

 父の視線が一瞬こちらを鋭く刺し、次いで安堵の色に変わった。

公爵はわずかに笑みを浮かべる。

「よい心構えだ。――アラン」

「はい、父上」

 アランが進み出て、隣に並ぶ。

「これよりは、折に触れてこのセリウスを屋敷に呼び、学問と武芸を共に学ばせよ。幼き頃より絆を深め、切磋琢磨することは、領地を治める礎ともなろう」

「承知いたしました」

 アランが一礼し、ちらとセリウスに目をやる。その瞳には、からかいでも軽蔑でもなく、まっすぐな好奇心と期待の色があった。

 セリウスの胸が、不思議な高鳴りに包まれる。

(わ、私が……この方と共に学ぶ……? 私が女だという秘密を隠しながら……! さ、悟られてはいけない…………)

「セリウス、これからは命を懸けて、アラン様に仕えるのだぞ」

「はい、父上! 私はアラン様を守る剣となり、傍らで共に修練し、共に学ぶことを、肝に銘じます!」

 ――その日、グレイヴ騎士爵家の一人娘は、未来を左右する大きな一歩を踏み出したのであった。

 それからというもの、セリウスは定期的にリヴィエール公爵家の館に通うことになった。

 大広間の奥に設けられた学習室で、アランと並んで机に向かう。

「この地方の地形を覚えていることは、領地を治める領主や、その補佐を務める騎士・文官にとって当然の務めだ。セリウス殿、ここは何と呼ばれている?」

 家庭教師の問いかけに、セリウスは緊張で汗ばむ掌を握りしめながら地図を覗き込む。

「……えっと、これは《メイユの谷》、です」

「よくできました」

 教師が頷く。隣のアランは涼しい顔で、さらに先の地名や名産品まで暗唱してみせた。

「さすが、アラン様」

「覚えてしまえば簡単だよ。君もすぐ慣れるさ」

 柔らかな笑みを向けられ、セリウスは胸の奥がくすぐったくなるのを誤魔化すように背筋を伸ばした。

「はい。アラン様の手となり、足となって働けるよう、次回までには地名や名産品を覚えてまいります」

 宣言どおり、セリウスは次の授業の日までに完璧に記憶してきた。その勤勉さには教師もアランも内心驚かされた。

 中庭では木剣を手に、互いに打ち合う稽古も行われた。

「もっと腰を落とせ、セリウス! 腕に力を入れるな、全身で振れ!」

「は、はいっ!」

 セリウスは小柄な体を必死に支え、汗を滴らせながら木剣を振り下ろす。打ち込むたびに、骨に響くような衝撃が腕を襲う。

 しかし、アランは一歩も引かない。軽く剣をいなすと、まるで舞うような身のこなしで次の構えに移っていた。

「悪くない。だが、剣先ばかり意識するな。視線を上げて、相手全体を見ろ!」

「くっ……!」

 セリウスは言われるままに視線を上げるが、その瞬間、アランの木剣が横から鋭く走る。

「うわっ!」

 ガツン、と音を立てて木剣がはじかれ、セリウスの身体は芝生の上に転がった。

「大丈夫か?」

 すぐに差し伸べられるアランの手。セリウスは息を荒げながらも、その手を掴んで立ち上がる。

「だ、大丈夫です……! も、もう一度お願いします!」

 アランは口元に微笑を浮かべる。

「その気概はいいな。じゃあ次は僕に斬り込んで来い。全力でな」

「は、はい!」

 セリウスは渾身の力で木剣を振り下ろす。しかし、打ち込んでも打ち込んでも、アランは軽やかに受け流すだけ。鋭い突きも、横薙ぎも、全て見透かされたようにいなされてしまう。

「まだ腕の力に頼ってる。腰から動きを繋げろ!」

「っ……!」

 歯を食いしばり、セリウスは必死に食らいつく。だが結果は同じ。何度も芝生に転がされ、肩や肘に擦り傷が増えていった。

 それでも、倒れる度にアランは必ず手を差し伸べてくれた。

「よし、今の踏み込みは悪くなかった。あと半歩、踏み込みが深ければ僕の体勢を崩せていたぞ」

「ほ、本当ですか……?」

「本当だ。君は筋力では僕に敵わないけど、動きの速さは僕以上だ」

 セリウスの胸の奥に、熱いものが芽生えていく。

「……次こそ!」

「その意気だ。来い!」

 剣戟の音が響く中庭に、二人の声と息遣いが重なっていく。

 やがて稽古が終わり、館を後にして帰路につく頃には、セリウスの身体は傷だらけで、全身から力が抜けていた。歩くだけでも苦痛を伴ったが――それ以上に、胸の奥では妙な誇らしさが燃えていた。

(アラン様は本当にすごい人だ。あんな方に仕えられる私は、なんて幸せなんだろう。……でも、私は「男」として振る舞わなきゃならない。女だという秘密を隠し通さなければ……。それでも、アラン様と共に学んでいられるのは嬉しい。アラン様を守れるくらい、もっと剣の腕を磨かなくては……)

 日々の授業と稽古の積み重ねは、次第に二人の距離を縮めていった。

 年は離れていない。だがアランは常に少し先を歩き、セリウスは必死にその背を追う。

 その姿を、公爵も、グレイヴ家の父も満足げに見守っていた。

 ***

 季節がめぐり、セリウスとアランの修練の日々は、いつしか子どもの遊びを越え、実戦を意識したものへと変わっていった。

 その頃――リヴィエール領の市井に、ある噂が流れていた。

 南方の山岳地帯に口を開ける古代のダンジョン。その最奥には「性別を変える力を秘めた秘宝」をはじめ様々な魔道具が眠っているという。

(……もしその魔道具が本当にあるのなら、私は男に生まれ変われる。そうすれば、隠してきた秘密そのものがなくなる。もう、アラン様に嘘をつき続けなくてもいい……いつも怯えながら過ごさずにすむ)

 セリーナは心の奥で、誰にも言えぬ想いを固く握りしめた。

 けれど、騎士爵家の跡取りとしての使命を考えれば、それを軽々しく口にするわけにはいかない。

 だから彼女は決意した。――表向きは「強くなるため」、内心では「秘宝を得て男になるため」に、ダンジョン攻略を目指すのだと。

 ある日の稽古の後、セリウスは木剣を収めると、汗を拭いながらアランに切り出した。

「アラン様。……私は、もっと強くなりたいと思っています。剣も学問も、まだまだ足りない。だから……ダンジョンに挑んでみようと思うのです」

 アランの表情がわずかに変わった。

「……ダンジョン、だって?」

「はい。危険な場所ですが、実戦でしか得られない経験もあるはずです。来年、騎士養成学校に入学しますよね。そこで仲間を募り、ダンジョンでの試練を越え、剣の技を鍛えたい。それに、ダンジョンには、不思議な魔道具が眠っているとか? ダンジョンの宝を探す――そうすれば、今よりずっとアラン様のお力になれるはずです」

 真剣な眼差しを向けるセリウスを、アランはしばし黙って見つめていた。

 そして、ふっと息を吐く。

「君は……本当に変わってるな。普通なら命を惜しんで避ける場所に、あえて踏み込もうだなんて」

 その声には、否定ではなくむしろ興味と高揚が混じっていた。

「ダンジョンの宝探し。……いいだろう。僕も同行する。どうせ行くなら、誰よりも信頼できる相手と組んだ方がいい」

「えっ、アラン様も……!? いけません。アラン様が危険なことなど――」

「なにを言ってるんだ、セリウス。……領主の嫡男として、危険を知り、恐れを乗り越えるのも、また積むべき経験、乗り越えておくべき試練だろう。それに……」

 アランは片眉を上げ、笑みを浮かべた。

「君だけ強くなるなんて許せないよ」

「で、でも……」

「それにセリウス、危なくなったら君が僕を守ってくれるんだろう?」

「はい。命に代えてもお守りします」

「なら、大丈夫じゃないか」

「く……」

「安全も考えて、実践を積むいい機会になると思うけどなあ」

「安全も考えて、実践を積む……わ、わ、分かりました。いつ潜るか、どこまで潜るか、どんな仲間を集めるか、――すべて私が計画を立てます。いいですね」

「任せるよ」

 その瞬間、セリウスの胸に熱が走った。

(アラン様……! アラン様はこんな私を信じてくださる。でも私は、この胸に秘めた本当の理由を絶対に言えない……! なんて卑怯な女なんだろう。それでも、アラン様のために、必ず安全で実りある修行にしてみせる……)

 ダンジョンは古代文明の遺構とも言われ、魔獣や罠が待ち受ける死地。当然、二人きりで潜るのは無謀だ。実力ある仲間を揃えなければ、一歩踏み込んだ瞬間に命を落とす。

 ……となれば、必要なのは、腕の立つ剣士や罠に精通した者、そして回復の術を扱える僧侶や魔術師。

 やがて二人は騎士養成学校に入学することになる。そこでよい仲間が見つかればよいのだが、騎士養成学校は盗賊や僧侶や魔術師を育てる場所ではない。

 騎士養成学校でそういった能力を持つ者を探し出すのが無理なら冒険者ギルドで探すことになるだろうが……。

(慌てることはない。これから騎士養成学校に入るんだ。探索できる時間も制限されるんだから、プロの冒険者はずっとは組んでくれないだろうし、その都度スポット的に同行する人間を探すのが限界だろう。できるだけ、騎士養成学校で探すことが望ましいな)

「騎士養成学校で仲間を探してから、ダンジョンでの探索を始めることにしましょう。騎士だけでのダンジョン探索は難しいです。罠を見抜ける者、回復ができる僧侶や、魔術師など……そうした特殊技能を持った生徒がいたら、仲間に勧誘しましょう。ただし、信頼できる人間に限りますが」

「分かった」

 こうして二人は、まず騎士養成学校で仲間を探すことを決めた。

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  レーヴァンティア王国グレイヴ騎士爵領。「セリウス! 準備はできたか?」「はい。お父様。準備はできております」「お父様ではない。お前は、立派な騎士爵家の跡取りとしての作法を身につけよ! これからは、父上と呼ぶように」「はい! 父上!」「よろしい!」 『セリーナ・フォン・グレイヴ』―「セリウス」と呼ばれたこの少女の本名である。彼女は、グレイヴ騎士爵家の一人娘で、幼児期は魔除けのため男児の服装で、その後は、爵位存続のため、男として育てられていた。  八歳となりグレイヴ騎士爵家が仕える王都南方の大領主・リヴィエール公爵家に、父に連れられ、グレイヴ騎士爵家の跡取りとして公爵様に初めての挨拶に伺う所である。「セリウス! 決して女であることを悟られてはいかんぞ。騎士爵家の位は男でなければ継げんのだ。跡継ぎに男子がいないとわかればグレイヴ家は断絶なんだ」「分かっております。父上」 *** レーヴァンティア王国王都南方に広がるリヴィエール公爵領。その館の正門をくぐると、広大な石畳の中庭に噴水があり、白亜の館が陽光を受けて輝いていた。幼いセリウス――いや、セリーナは、その威容に息を呑んだ。「気を抜くな、セリウス」 父の低い声に背を押され、彼女はぎこちなく胸を張る。 やがて、館の大扉が開かれる。 現れたのは、セリウスと同じくらいの背格好の少年。深い蒼の瞳に長い睫毛、陽光を浴びて金色に煌めく髪――その姿はまるで絵画から抜け出した美少年だった。「グレイヴ騎士爵殿、よくぞお越しくださいました」 柔らかな声で礼を述べるその少年こそ、リヴィエール公爵家の嫡男、アラン・リヴィエール 八歳である。「おお、アラン様。ご健勝そうでなにより」 父が膝を折り、恭しく頭を垂れる。セリウスも慌てて倣い、膝をついて小さく礼をした。 だがアランは近寄ると、屈んでセリウスを覗き込んだ。蒼い瞳が、幼き「少年(女)」を射抜く。「君が、セリウス殿か。グレイヴ騎士爵家の跡取りだと伺っている」「は、はい! アラン様!」 声が少し裏返り、慌てて咳払いをする。 アランはふっと微笑んだ。「……緊張しているの? 大丈夫だよ。僕も最初に父の隣で挨拶をしたときは、手が震えて仕方がなかった」 その微笑は、幼いながらも気
last updateLast Updated : 2025-12-16
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第1話  男装の令嬢、騎士養成学校へ
   ここはレーヴァンティア王国。  豊かな麦畑とワインの産地で知られるが、近年は北方のガルド帝国との国境で緊張が高まっている。  そのため、王都アルヴェーヌでは若き騎士候補の育成にかつてない熱が注がれていた。 王都アルヴェーヌ――王国の政治と文化の中心であり、華やかな宮廷と広大な市街を抱く。春、セリウスとアランは、この都へと到着した。 石畳の大通りには商人や旅人が行き交い、街角には大道芸人や吟遊詩人の姿まである。領地では見たこともない光景に、セリウスは思わず馬車の窓から身を乗り出した。(……ここが王都……。アラン様と共に学ぶ新しい日々が、ここから始まるんだ) やがて馬車は、壮麗な学舎へと辿り着く。  騎士養成学校《ヴァルロワ学舎》。王国屈指の武門の誉れであり、貴族子弟と有力市民の若者が剣と学問を競い合う場所。白大理石で築かれた校舎は堂々たる威容を誇り、広大な練兵場や図書館を併設していた。その門をくぐるだけで、胸が高鳴る。 入学初日、広間には全国の有力貴族や騎士の子弟が一堂に会していた。  セリウスは思わず周囲に気圧される。煌びやかな家紋を刺繍した制服を誇らしげに着こなす者たち。長剣を下げて自信に満ちた目を光らせる少年たち。「緊張してるか、セリウス?」  アランが優しい視線をセリウスに向けて笑った。彼は王都南方の大領地リヴィエール公爵領の嫡男。  金糸のような長髪を後ろで束ね、黒地に銀の縁取りが入った制服のマントを翻している。道行く村娘たちが一斉に振り向くほどの美貌だ。「緊張? してない。むしろ……むしろ、やっと剣を振るう場に立てるのが楽しみだ」  そう答えたが、誰が見ても緊張しているのが丸わかりだ。 アランはセリウスの肩に手を置き、小声で囁き微笑む。 「私もだ」「ここに集うのは皆、将来の王国を背負う者ばかりだ」  式辞に立った教頭の言葉が、空気を一層引き締めた。 セリウスは隣に立つアランの姿をちらりと見る。  彼は涼しい顔で広間を見渡し、緊張する素振りすらない。 (……やっぱりアラン様は堂々としていらっしゃる。私は……私も、負けていられない!) やがて新入生たちはそれぞれのクラスに振り分けられた。  セリウスとアランは幸いにも同じ組になったが、そこにはすでに個性豊かな面々が待ち受けていた。 無口で大剣を背負う巨躯
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第2話 フィオナ・ド・ヴェルメール
 初めての授業(ホームルーム)を終え、セリウスたちは学舎の男子寮へ向かった。騎士養成学校《ヴァルロワ学舎》は全寮制である。 石造りの廊下には、荷物を抱えて右往左往する新入生や、容赦なく声を張り上げる上級生たちの姿があった。  窓の外には練兵場が広がり、槍を振るう上級生たちの掛け声と、陽光をはじく金属音が爽快に響いている。 セリウスは自室に荷物を運び入れ、ふと息を整えたそのとき――背後から、不意に声をかけられた。「初めまして。お隣さん」 振り向いた瞬間、息を呑む。  そこに立っていたのは、長い黒髪を背に流し、宝石のように澄んだ蒼の瞳と白磁の肌を持つ“絶世の美女”だった。 (……は? 男子寮に女?) 一瞬そう思ったが、声にはわずかに低音が混じっている。  年齢は同じくらいに見える。寮母にしては若すぎるし。……ドレス姿でここにいるってことは? 「……あの、あなたは?」「自己紹介が先ね。フィオナ・ド・ヴェルメール。一年生よ。お見知りおきを」 彼――いや、彼女?――は優雅にスカートの裾を摘み、舞踏会さながらのカーテシーをしてみせた。その仕草は女王に謁見する淑女のように完璧で、しかも自然。  視線がセリウスを上から下までさらりと流れ、値踏みするように止まる。その口元に、意味深な笑みが浮かんだ。 (男子校の生徒ということは……やっぱり男? いや、女にしか見えないけど……それにしても美形すぎる! なんで男子寮に、こんなのが……。私、女なのに、完全に負けてるんだけど!) セリウスは心の中で頭を抱えつつも、表情には出さずに一歩前へ。  胸に手を当て、努めて落ち着いた声で名乗った。「セリウス・グレイヴです。初めまして。これからよろしくお願いします」  声がわずかに裏返りそうになるのを、必死に押し殺す。「あなた、随分と整った顔立ちね。しかも……肩幅が私より狭いわ。ふふ、もし私みたいに女装したら――間違いなく見惚れるほどの美人になるでしょうね」 心臓が跳ね上がる。  (なっ……!? 一
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第3話 初模擬戦訓練
   翌日。朝露に濡れた練兵場に、一年A組の生徒たちが集められていた。  石畳の上に立ち並ぶ木人形、槍や剣を収めた武具庫、そして砂の舞い上がる模擬戦用の円形広場。 教官グランツが厳しい声で告げる。 「本日よりお前たちは騎士としての修練を積む! まずは互いの力量を知るための模擬戦だ。怪我を恐れるな。命を落とさなければそれでいい!」 ざわり、と空気が張り詰めた。 最初に円形広場へ進み出たのは、背の高い少年だった。  分厚い肩と胸板、陽に焼けた肌に大剣を背負う姿は、すでに若き兵士のようだ。「オルフェ・ダラン」  ダラン辺境伯家の次男だ。その声は低く響き、揺るぎない自信に満ちていた。 「俺は将来、百人を率いる騎士になるつもりだ。だからここでも、力で皆を圧倒する」 宣言どおり、模擬戦では大剣を片手で振るい、相手の剣を力ずくで弾き飛ばした。 「おお……!」とざわめきが起こる。  豪放な笑みを浮かべる姿は、すでに「隊の先頭に立つ男」の風格を漂わせていた。 続いて、赤毛の少年が軽やかに駆け出す。「リディア・マルセル!」 弓と槍が得意な山の領地から来た赤毛の少年は 誰より速く走ってみせた。  声は明るく、どこか人懐こい。  短槍を手にひょいと跳ねると、相手の肩口を軽く突き、次の瞬間には背後へ回り込む。  その機敏な動きに観客から笑い混じりの感嘆が漏れる。「平民出のくせに」と囁く声もあったが、本人は気にも留めず、胸を張ってにかっと笑った。 「俺、小さいけど負けないからな!」 三人目は、王都の武官の家の出で、黒髪の細身の少年。  背筋は真っすぐに伸び、無駄のない所作で槍を構える。 「レオン・フィオリ」  静かな口調だが、堂々とした響きがある。  彼は、槍を通じて、己を磨きた思っているいる。 槍先が揺らめき、次の瞬間、彼は寸分の狂いもなく相手の急所を突いた。  その動作はまるで舞のように洗練されており、ただの槍術ではなく「美しさ」さえ感じさせた
last updateLast Updated : 2025-12-18
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第4話 「彷徨う鎧」事件
   セリウスとアランが大食堂でスープをすすっていると、背後から明るい声が割り込んできた。C組のフィオナが、トレイを片手にひょいと腰を下ろしてくる。「ねえ、ねえ、お二人さん、聞いた? 昨日の夜中、寮で“ガシャガシャ”って不気味な音が響いたって噂。 鎧が勝手に歩き回ってるみたいだったって」 セリウスとアランは顔を見合わせた。 「鎧が……勝手に歩く?」「そうそう」  フィオナは声をひそめ、宝石のような瞳をいたずらっぽく輝かせる。 「昨日の夜中、上級生の一人がトイレに行く途中で聞いたんですって。廊下の奥からガシャガシャ音がして、見に行ったら――飾り鎧みたいな影がひとりでに歩いていくのがちらっと見えたんですって」「飾り鎧……あの、廊下にずらっと並んでる奴か?」  アランが眉をひそめる。 「くだらん噂だ。見間違いか、誰かの悪戯だろう」「まあまあ、そう決めつけないの」  フィオナは指を振ってみせる。 「こういう古い学舎には、つきものよ。伝統ある場所には必ず『七不思議』のひとつやふたつあるんだから」「七不思議……」  セリウスは胸の奥がざわめくのを感じた。 (もしかして――悪霊が取り付いるとか、古代の遺物や魔道具の仕業……?)「セリウス?」  アランに呼ばれて、セリウスははっと我に返った。「……えっと、でも本当なら放ってはおけないね。夜中に鎧が歩き回るなんて危ないし」「セリウスは、そういう話を真に受けすぎだ」  アランは苦笑した。 「もっとも、動く鎧って魔獣の逸話も聞いたことがあるから、まるっきり嘘とも言い切れないか? ……確認するなら、夜中に見に行くしかないぞ」「でしょ! でしょ! そういうことになるわよねぇ」  フィオナは頬杖をつきながら楽しげに微笑んだ。 「……どうする? 私も一緒に行ってあげようか? 怖がりなセリウスの手、握ってあげるわよ」「べ、別に怖がってなんかないよ!」  セリウスは思わず声を荒げた。「面白いな。セリ
last updateLast Updated : 2025-12-19
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第5話 「呪われた肖像画」事件
   翌朝――。  模擬戦用の長剣を抱えて練兵場に向かう途中、私はひそひそ声を耳にした。「なあ聞いたか? 『彷徨う鎧』の正体を突き止めたの、A組の一年らしいぞ」 「セリウスってやつが、鎧に真っ先に近づいて解体したんだって!」 「おお、すげぇ。肝が据わってるな」 その会話が自分のことだと気づき、私は思わず足を止める。   ――ちょっと待って。あれ、そんな武勇伝みたいな話じゃなかったはず……!  頬が熱くなるのを隠そうと、うつむいて歩を早めた。「おーい! 噂の勇者さまじゃないか!」  背中をばん、と叩かれて、思わず前のめりになりかける。  赤毛のリディア・マルセルだ。 「ほんとにあの鎧に飛び込んでったんだろ? すげぇな! 俺なら腰抜かしてたね!」「鎧に飛び込んではいないって……。ただ、突然動かなくなったから兜を外して、中は確かめたけど。……ちょ、ちょっと誇張されてると思うよ」  私は苦笑いする。 そこへ、長身のオルフェ・ダランが腕を組んで現れた。 「度胸があるのは悪くない。だが、敵の正体も分からぬまま不用意に近づくのは無謀だ」  ――そうはいっても、絶対オルフェだって同じことをしたと思う。はっきり言えば、オルフェだけには言われたくない。言わないけど。 淡々とした声だが、その眼差しには真剣な評価の光が宿っている。「次からは俺を呼べ。大剣で一刀両断してやる」  ……やっぱり。 オルフェならやりそうだな。度胸ありそうだし。てか、度胸どころか無鉄砲の塊。私のは話が一人歩きしてるだけ。……実際三人の中で一番度胸がなかったのは私だ。 「は、はあ……ありがとうございます」「ふん、やはり注目を集めているな」  すらりとした黒髪の少年、レオン・フィオリが横から口を挟んだ。 「ただの悪戯にしても、冷静に仕組みを見抜いたのは評価に値する。……セリウス、君は思ったより観察眼があるな」 仕組みを見抜いたのは、アラン。私じゃない。
last updateLast Updated : 2025-12-20
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第6話 メンバー募集
   翌日・1年A組教室 朝の教室に足を踏み入れたセリウスは、途端にざわめきに包まれた。「おい、来たぞ!」 「二連続だってよ、怪談解決!」 「『彷徨う鎧』に続いて『呪われた肖像画』まで!」 どっと拍手と口笛が起こる。あっという間に人垣ができ、セリウスは逃げ場を失った小動物のように囲まれてしまった。(……またか。恥ずかしいなぁ)「すげえじゃんセリウス! 学園七不思議ハンターだ!」  赤毛のリディアが、悪戯っぽい笑みを浮かべ、力加減を考えない手のひらで私の背中をばんばん叩く。身体がぐらぐら揺れ、思わず情けない声が漏れそうになった。「『血の涙の肖像』に飛び込んで、額縁から仕掛けを取り出したんだろ?」 「いやあ、俺だったら悲鳴上げて逃げてたな!」「ち、ちがっ……そんな派手なことはしてないよ! ちょっと上を探ったら瓶が出てきただけで……」  必死に弁解するが、クラスメイトたちは耳を貸さない。「またまた~、謙遜しちゃって!」 「英雄は控えめなぐらいがちょうどいいってな!」 茶化す声に混じって、羨望や好奇の視線が突き刺さる。  セリウスの顔は真っ赤に染まり、居心地悪そうに頭を抱えた。 そんな中、長身のオルフェ・ダランが腕を組んで歩み出る。人垣が自然に割れ、彼の大柄な体躯と鋭い眼差しに一瞬空気が引き締まった。 「ふむ……度胸と観察眼は認めてやる。だがセリウス、次は俺も同行させろ。仕掛けを見抜く前に俺の大剣で叩き斬ってやる」「いや、それだと証拠が残らないだろ……」  セリウスは小声でつぶやく。 黒髪のレオン・フィオリは、何か舞台に立つ俳優のように髪をかき上げ、優雅な笑みを浮かべた。その仕草ひとつで周囲が静まるほどの余裕を漂わせていた。 「二度も悪戯を見破るとは、偶然ではないな。……セリウス、君は将来、探偵か魔道学者の道に進むべきじゃないか?」「えっ……僕、騎士志望なんだけど……」  しどろもどろに答えるセリウス。 その後ろから、気配もなくすっと現れたのはフィオナだった。まるで影から抜け出してきたかのように、彼女は当然の顔で輪の中に加わった。 「みんな忘れてるけど、私も一緒にいたのよ?」  腰に手を当てて胸を張る。 「つまり、今回の『怪談調査隊』は私とセリウスとアランの三人。……セリウスだけじゃなく
last updateLast Updated : 2025-12-21
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第7話  王都郊外・ミルリオ森林 魔獣討伐訓練 1
   6月の澄んだ青空の下、一年生たちは王都郊外のミルリオ森林へ向かった。  馬車を降りた一年生たちは、鬱蒼としたミルリオ森林の前に整列していた。  深い緑の向こうからは、どこか野生めいた唸り声が断続的に響いてくる。「うわぁ……これが訓練場所か。思ったよりも深い森だな」  腰に下げた長剣の柄に手をやりながら、緊張気味に周囲を見回す。「ふふん、びびってんのか? 英雄様」  リディアが短槍を肩に担いで、にやにや笑う。「び、びびってないよ!」  必死に否定するが、アランが小さく肩をすくめた。 「セリウスは、いつも始めは凄く警戒するんだ。周囲の状況をいち早くつかんで、危険がないか、状況に合わせて対応する。警戒心が強いのは良いことだと思うよ。油断して怪我するよりましだからね」 教官のガレスが一歩前に出て、生徒たちをぐるりと見渡した。 「よし、全員揃っているな。では改めて説明する。――今回の訓練は、このミルリオ森林に巣食う魔獣の討伐だ。主な目標は、牙猪だ」「ファングボア……」  ざわりと一年生の間に小さな緊張が走る。 ガレスは手にした指揮杖で地面に図を描きながら続けた。 「ファングボアは体高が一・五メートル前後、成獣は馬ほどの大きさになる。硬い毛皮と突き出た牙が武器だ。突進力は凄まじく、真正面から受け止めれば即死もある」「……真正面から受け止めるなってことだな」  オルフェが腕を組んで唸る。「そういうことだ。前衛は横に受け流し、中衛と後衛が横腹を狙え。よいか? 正面からぶつかりに行って斬り伏せられるのは、よほどの熟練騎士だけだ」  ガレスの目が鋭く光り、一瞬オルフェの方に向いた。「ぐっ……そ、そんなの俺だって分かってる!」  オルフェが慌てて顔をそむける。リディアが小声で「怪しいなあ」と笑った。「他にこの森で出る魔獣は?」  レオンが静かに手を挙げて尋ねる。「よい質問だ。――ファングボア以外には、森林狼の群れ、それから|毒蛇《
last updateLast Updated : 2025-12-22
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第8話  王都郊外・ミルリオ森林 魔獣討伐訓練 2
   牙猪を三頭仕留めたあと、セリウスたちは互いに息を整えつつ陣形を立て直した。 「ふぅ……これでひとまずは落ち着いたな」  アランが周囲を確認し、剣を納める。「おい、セリウス。今度は立ちすくむなよ!」  オルフェが大剣を肩に担ぎ、不機嫌そうに言う。「わ、分かってるよ……でも、あんな勢いで突っ込まれたから、体が動かなくなっちゃったんだ。次は大丈夫……」 「ははっ、そりゃ初めては、普通そうなるよなあ」  リディアが豪快に笑ってセリウスの背中を叩く。 「だから、俺らがいるんだって。チームってそういうもんさ。気にすんな!」「……まぁ、今回は連携で勝てましたし、それで十分ですよ。3匹の牙猪を相手に上出来です」  レオンが槍を拭きながら淡々と言い、班の空気を締めた。 しばらくして、森のあちこちに散開していた班が集合地点へ戻り始めた。戦果を背負って運んでくる者、傷を負った仲間を支えて戻る者、表情はそれぞれだ。 やがて全班が揃うと、教官ガレスが腕を組んで前に立った。 「……よし、全員戻ったな。死人も大怪我もなし。上出来だ」  低く太い声に、緊張していた一年生たちはほっと胸をなで下ろした。「では報告を聞く。――まずはA班」 各班が順に討伐数と行動を報告していく。失敗や混乱があった班には、ガレスの厳しい叱責が飛ぶ。 そしてセリウスたちの班の番になった。 「牙猪を三頭討伐。連携で仕留めました」  アランが代表して簡潔に報告する。「ふむ……三頭か。なかなかだ」  ガレスがゆっくりと頷き、班の面々を鋭く見渡す。 「正面から受け止めようとした無鉄砲が一人いたようだな?」「うっ……」  オルフェがたじろぐ。「だが、仲間が冷静に援護し、連携で倒した。評価すべきはそこだ。力任せに突っ込むだけでは命を落とす。今日の戦闘で、身に沁みただろう」「……はい」  オルフェは渋々ながら頭を下げる。「それと――」
last updateLast Updated : 2025-12-23
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第9話  冒険者ギルド
   休日の朝、寮の一室。  窓から差し込む陽光に、セリウスは寝癖を直しながら荷物を整えていた。  机の上には小さな革袋と、古びた短剣、磨き直した鎧の一部。「……いよいよか」  胸の奥が、妙にそわそわする。 (ギルドには、たくさんの人間がいるだろう。できるだけ他人との接触は控えめに……目立たないようにして、いや、騎士養成学校の生徒がギルドに登録に行けば注目を浴びないわけにはいかないだろうが、ギルドの人たちに、女だということが、ばれないように気を付けなくては……絶対にばれちゃいけないんだ) 軽く息を整えたところで、ドアが勢いよく開いた。「おーい! 準備できてるか、英雄さま!」  赤毛のリディアが元気よく顔を出した。 着替える時はドアの鍵は閉めるようにしているが、それでも突然ドアが開かれると心臓がびくりと跳ねる。「ちょ、ちょっと! ノックぐらいしてくれよ!」「ははは、細けぇこと気にすんな! 俺なんか、昨日のうちに装備磨いといたぜ。見ろ、このツヤ!」  リディアは胸当てをぴかぴかに光らせて自慢してみせる。「……眩しすぎる。猪と戦う前に光で目を潰せそうですね」  呆れたようにレオンが続いて入ってくる。「ふん。どうせ登録なんざ紙切れだろ? 準備に手間取るほどのことじゃねぇ」  大剣を担いで現れたオルフェは、すでに戦闘に行くかのような物々しい装備だ。「登録だけなのに……重装備で行く気?」  セリウスが呆気に取られる。「当たり前だ。俺の勇姿をギルドに刻むんだからな! ギルドの奴らに舐められるわけにはいかないだろ」「……格好から入るタイプなんだね」  アランが苦笑しながらまとめ役の顔で入ってきた。 「じゃあ、みんな揃ったし出発しようか」 *** 街の中心にある冒険者ギルドは、木造二階建ての大きな建物だった。  昼前にもかかわらず、中は冒険者たちで賑わい、酒場兼掲示板のスペースからは笑い声や依頼の呼び声が飛び交っている。「おぉ~!
last updateLast Updated : 2025-12-24
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