滅びの王国と記憶の継承者

滅びの王国と記憶の継承者

last updateLast Updated : 2026-02-05
By:  米糠Ongoing
Language: Japanese
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滅びた王国の最後の生き残り——セリス・エルセリア。 幼い彼女は、父王の命によってすべての記憶を封じられ、名もなき村で静かに育てられた。 しかし、その穏やかな日常は、突然の襲撃によって一瞬で崩れ去る。 「王の娘を捕らえろ!」 燃え上がる村、響き渡る悲鳴。 そのとき、忘れ去られた記憶が疼き出す——己が誰であるのかを。 追っ手に命を狙われ、逃亡の果てに出会った謎の青年。 彼は敵か、味方か? 失われた王国の秘密、帝国の陰謀、そして彼女自身の運命—— すべてを知るとき、歴史は再び動き出す。 これは、記憶を奪われた少女が己の運命を取り戻すために戦う物語。 滅びの中から希望を紡ぐ、壮大な冒険譚がいま幕を開ける——!

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Chapter 1

@1 プロローグ — 記憶の残響 —

プロローグ — 記憶の残響 —

 冷たい風が荒れ果てた大地を吹き抜ける。

 かつてそこには、栄華を極めた王国があった。しかし、今や残るのは崩れた城壁と、風に舞う塵ばかり。

 エルセリア王国。

 古の叡智を受け継ぐ王家が統べる、誇り高き魔法の王国。

 だが、それはすでに歴史の闇へと消え去った。

 燃え盛る城、響き渡る剣戟。

 帝国の軍勢が押し寄せ、城門が無惨に打ち砕かれる。

 血飛沫が舞い、石畳を濡らす。王族の悲鳴が夜の闇に溶けていった。

「この記憶を……決して失ってはならぬ……!」

 父王の震える手が、幼き王女の肩をしっかりと掴む。

 焦燥と悲哀に満ちた瞳が、娘の姿を焼き付けるように見つめていた。

「許せ、セリス……。だが、お前を生かすためには、これしかない……」

 父王はそっと額に手を当て、静かに呪文を紡いだ。

 震える唇からこぼれる言葉は、柔らかく、それでいて強い意志を宿している。

 指先から淡い金色の光が広がり、精緻な魔法陣が空中に浮かび上がる。

 光の粒が舞い、セリスの額へと吸い込まれていく。

 彼女の視界がぼやけた。

 まるで霧の中に迷い込んだように、現実と記憶が溶けていく。

「……お父さ……ま?」

 声を発しようとしたが、口から出たのはかすれた音だった。

 遠のく意識の中で、父王の最後の囁きが耳に届く。

「生きろ……我が娘よ……。いつか、この世界の真実を思い出せ……」

 次の瞬間、彼女の周囲がまばゆい光に包まれた。

 ——目を開けたとき、そこは見知らぬ村の片隅だった。

 頬に冷たい風が触れ、かすかに草の香りが漂っていた。

 遠くで鳥のさえずりが聞こえる。

 だが、彼女はすべてを失っていた。

 王国も、家族も、そして自らの名すらも——。

 だが、その胸の奥には消えぬ残響があった。

 それは、滅びの中に残された最後の灯火。

 ——その名は、セリス・エルセリア。

 失われた王国の最後の生き残り。

 彼女はまだ知らない。

 己の運命が、再び歴史を動かすことになることを。

 だが、彼女は何も覚えていなかった。

 己が何者かすらも。

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@1 プロローグ — 記憶の残響 —
プロローグ — 記憶の残響 — 冷たい風が荒れ果てた大地を吹き抜ける。  かつてそこには、栄華を極めた王国があった。しかし、今や残るのは崩れた城壁と、風に舞う塵ばかり。 エルセリア王国。  古の叡智を受け継ぐ王家が統べる、誇り高き魔法の王国。  だが、それはすでに歴史の闇へと消え去った。 燃え盛る城、響き渡る剣戟。  帝国の軍勢が押し寄せ、城門が無惨に打ち砕かれる。  血飛沫が舞い、石畳を濡らす。王族の悲鳴が夜の闇に溶けていった。「この記憶を……決して失ってはならぬ……!」 父王の震える手が、幼き王女の肩をしっかりと掴む。  焦燥と悲哀に満ちた瞳が、娘の姿を焼き付けるように見つめていた。「許せ、セリス……。だが、お前を生かすためには、これしかない……」 父王はそっと額に手を当て、静かに呪文を紡いだ。  震える唇からこぼれる言葉は、柔らかく、それでいて強い意志を宿している。 指先から淡い金色の光が広がり、精緻な魔法陣が空中に浮かび上がる。  光の粒が舞い、セリスの額へと吸い込まれていく。 彼女の視界がぼやけた。  まるで霧の中に迷い込んだように、現実と記憶が溶けていく。「……お父さ……ま?」 声を発しようとしたが、口から出たのはかすれた音だった。  遠のく意識の中で、父王の最後の囁きが耳に届く。「生きろ……我が娘よ……。いつか、この世界の真実を思い出せ……」 次の瞬間、彼女の周囲がまばゆい光に包まれた。 ——目を開けたとき、そこは見知らぬ村の片隅だった。 頬に冷たい風が触れ、かすかに草の香りが漂っていた。  遠くで鳥のさえずりが聞こえる。 だが、彼女はすべてを失っていた。  王国も、家族も、そして自らの名すらも——。 だが、その胸の奥には消えぬ残響があった。  それは、滅びの中に残された最後の灯火。 ——その名は、セリス・エルセリア。  失われた王国の最後の生き残り。 彼女はまだ知らない。  己の運命が、再び歴史を動かすことになることを。 だが、彼女は何も覚えていなかった。 己が何者かすらも。
last updateLast Updated : 2026-01-06
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@2  — 追われる少女 —
   セリスは、この村を故郷だと思っていた。  物心ついたときには、すでにここにいたからだ。  朝になれば、パンとチーズの香ばしい匂いが漂い、農家の人々が畑へ向かう姿があった。子どもたちは川辺ではしゃぎ、夕暮れ時には囲炉裏の火が赤々と燃えていた。そんな穏やかな日常が、彼女にとってすべてだった。  小さな農村。名もない谷間の集落。  彼女を拾い育ててくれたのは、老婆のマルタだった。 「お前は私の孫さね。……ちょいと変わった目をしてるがね」  セリスは幼い頃から、自分が村の他の子供たちとは違うことを感じていた。  白銀の髪。透き通るような青い瞳。  村人たちは優しかったが、どこかよそよそしくもあった。大人たちは彼女に微笑みかけるが、視線が髪や瞳に向けられると、一瞬の躊躇いが見えた。そして何かを言いかけては、そっと口をつぐむことがあった。  それでも、セリスにとってこの村は大切な居場所だった。  特に、マルタの存在は彼女にとって唯一無二だった。  夜になると、マルタはセリスの髪を梳いてくれた。その手の温もりが、彼女にとって何よりの安心だった。 「セリス、お前は特別なんだよ」  マルタはふと、そんな言葉を漏らすことがあった。  その夜も変わらず、村は穏やかだった。  遠くでフクロウが鳴き、囲炉裏の火が静かに揺れる。  セリスは、マルタが作ったスープの余韻を舌に感じながら、毛布を引き寄せた。  ——突然全てが引き裂かれる。  村の夜を引き裂く悲鳴と、鋼がぶつかり合う甲高い音。  闇に包まれた集落を、紅蓮の炎が揺らめきながら照らし出していた。  家々が次々と爆ぜるように燃え、夜空に炎の舌が伸びる。  黒い影が剣を振り下ろし、血飛沫が夜の闇を赤く染めた。  黒い甲冑を纏った兵士たちが、怒号を上げながら村を蹂躙していく。 「エルセリア王家の血を引く娘を探せ!」 「どこにいる! 王の娘はどこだ!」  王の娘?  セリスには何のことか分からなかった。  だが、本能が告げていた——見つかれば、殺される。 「逃げて、セリス!」  マルタが叫び、セリスを突き飛ばした。  その直後、鋭い閃光とともに槍が老婆の体を貫く。 「おばあちゃん……?」  時が止まったように思えた。  そして——  セリスの脳裏で何かが弾けるように走っ
last updateLast Updated : 2026-01-06
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@3 ライルとの出会い
 どれほど走ったのか分からない。  息が荒く、膝が震える。  森の湿った土の上に転がるように倒れ込んだ。 「……はぁ……っ、はぁ……っ……」  足がもう動かない。  鼓動が激しくなり、視界がぼやけていく。  (このままでは、捕まる……!)  だが、もう走れなかった。  この森で、追っ手が来るのを待つしかないのか——?  森は鬱蒼と茂り、月明かりすら遮られていた。  冷たい夜気が肌を刺し、背後から聞こえる足音がますます恐怖を煽る。  肺が焼けるように痛み、足は鉛のように重い。それでも、立ち止まれば終わりだと、本能が叫んでいた。  そのとき。  ザッ——!  木々の間から何かが飛び出してきた。  セリスは反射的に身をすくめる。  ——剣を持った男だった。 「……誰だ?」  低く、鋭い声。  黒髪の青年。赤い瞳が月明かりに光る。  背には大剣を背負い、無骨な鎧をまとっていた。  (帝国兵……? いや、違う)  彼の鎧は帝国のものではない。  見たことのない紋章が彫られている。  青年はじっとセリスを見つめ、眉をひそめた。 「……お前、追われているのか?」  セリスは震えながら、小さく頷いた。 「帝国兵……村が……!」  それだけ言うのが精一杯だった。  青年はわずかに表情を動かしたが、すぐに真剣な眼差しに戻る。  周囲の気配を探るように、鋭い視線を走らせた。 「追っ手はどこまで来ている?」 「……すぐ、そこに……!」  セリスがそう答えた瞬間——  ガサッ!  森の茂みが揺れた。  そして、帝国兵たちが姿を現した。 「いたぞ! そこだ!」 「王の娘を捕らえろ!」  セリスの心臓が跳ね上がる。  兵たちは無駄なく散開し、まるで狩りを楽しむかのようにじりじりと包囲網を狭めていく。 「王の娘だと? 本当にこんな小娘が……?」  彼らの言葉に、青年は短く舌打ちすると、大剣を抜いた。 「……チッ。厄介ごとに巻き込まれたな」  剣閃が閃いた。  影に紛れるように立つ青年の剣が振り下ろされると、衝撃波のように空気が震えた。  鋭い一撃が帝国兵の槍を弾き、重々しい金属音が森に響いた。 「ぐっ……!」  弾き飛ばされた兵士が地面に転がる。  だが、残る兵たち
last updateLast Updated : 2026-01-06
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@4 最後の王女の名
  夜の静寂の中、草を踏む音と、かすかに吹き抜ける風の音だけが響く。 帝国兵たちの追跡はひとまず振り切ったようだが、それでも緊張は解けない。 ライルの戦いぶりは尋常ではなかった。 ただの傭兵とは思えないほどの剣の腕前、そして冷静な判断力— それに、彼がセリスに向ける視線には、どこか探るような鋭さがあった。 しばらく歩いたところで、ライルが足を止めた。「ここなら、少し休める」 視線の先には、大きな岩壁がそびえていた。 その影にひっそりとした洞窟が口を開いている。「この辺りは知ってる。傭兵時代に何度か使ったことがある場所だ」「……ありがとう」 セリスは少し警戒しつつも、疲れた身体を休めるために洞窟の中へと入った。 洞窟の内部は意外にも広く、壁には古びた焚き火の跡が残っていた。 ライルは慣れた手つきで薪を積み上げ、火打石を使って火をつける。 ゆらめく炎が洞窟内を淡く照らし、ようやく少し安心できた気がした。 セリスはそっと腰を下ろし、深いため息をついた。「……今日は色々ありすぎた」「だろうな」 ライルは焚き火を見つめながら、静かに言った。「帝国に追われる理由、聞いてもいいか?」 セリスは一瞬、口ごもった。 (この人に、どこまで話していいんだろう……) 彼は助けてくれた。でも、完全に信用できるわけではない。 それに、自分の正体を明かせば、彼がどう反応するかも分からない。「……言いたくないなら無理に聞かない」 ライルは肩をすくめて、あっさりと話を切り上げた。 その態度がかえって意外だった。「だがな、一つだけ忠告しておく」 彼は炎の揺らめきを見つめたまま、低い声で言った。「お前、自分がどれだけ危険な立場にいるのか、本当に分か
last updateLast Updated : 2026-01-07
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@5  — 追跡者の影(1)—
— 追跡者の影(1)— 夜が明ける頃、セリスとライルは森の中を抜け、東へと歩を進めていた。「次の街は?」 セリスが問いかけると、ライルは地図を広げながら答える。「ここから北東に二日ほど進んだ場所に《ルーヴェン》という町がある。交易が盛んな町で、情報が集まりやすい」「……そこで手がかりを探すの?」「そうだな。まずはお前の“記憶”に関わる情報があるかどうか調べるのが先決だ」 セリスは小さく頷いた。 ——エルセリア王国の滅亡の真実。 ——王族に受け継がれる記憶の力。 それらを知るための手がかりを求め、彼女たちは旅を続ける。 だが、その背後には確実に追跡者の影が迫っていた。 *** 帝国軍拠点・指令室「……逃げられた、だと?」 低く冷たい声が響く。 ヴァルガルド帝国軍の指令室。 そこには、漆黒の軍服をまとった男が立っていた。「申し訳ありません、ヴァルドリッヒ将軍……」 報告に来た兵士は額に汗を浮かべながら頭を下げる。 ヴァルドリッヒ・カインツ。 帝国最強の将軍と称される男。「傭兵風の男に邪魔され、捕縛に失敗しました。しかし、相手はおそらく……」「ライル・フェンリス……か」 ヴァルドリッヒは小さく呟いた。「ゼルヴァニアの“狼”……なるほど、厄介な相手だ」 その名を知っているのかと、兵士は驚いたように顔を上げる。 ヴァルドリッヒは椅子に座り、指を組みながら静かに続けた。「だが、今はそれよりも重要なのは……“あの娘&rdqu
last updateLast Updated : 2026-01-08
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@6   — 追跡者の影(2)—
  — 追跡者の影(2)— 戦いの余韻が、森の静寂に溶けていく。 セリスは肩の傷を押さえながら、荒い息をついていた。 ライルも剣を収め、周囲を警戒する。「とりあえず、ここを離れるぞ」 ライルが短く告げた。 戦いの音が響いた以上、他の帝国兵が気づいていないとは限らない。 早く森を抜け、次の目的地へ向かう必要があった。「セリス、歩けるか?」「……大丈夫、行こう」 痛みはあるが、今は止まっている場合ではない。 セリスは剣を握りしめ、ライルの後を追った。 *** 森を抜けた先には、小さな町《ルーヴェン》があった。 石畳の道が整備され、木造の建物が立ち並ぶ。 町の広場には噴水があり、行き交う人々の活気が感じられた。「ここならしばらく身を隠せるかもしれないな」 ライルは町の様子を見回しながら呟く。 黒鴉の兵士たちは全滅したが、彼らが報告を済ませていた可能性は高い。 帝国が次の追っ手を送り込むのは時間の問題だろう。「まずは宿を探そう。それから情報を集める」「うん……」 セリスは小さく頷きながら、胸に手を当てた。 あの戦いの最中に甦った記憶——あれは一体何だったのか。 ほんの一瞬だったが、まるで別人になったような感覚があった。 剣を握る手が、自然に動いたあの瞬間—— (……もしかして、王国の誰かの記憶?) 自分の中にある《記憶の継承》の力。 その意味を知るためにも、もっと多くの記憶を取り戻す必要がある。 (エルセリア王国の過去……そして、私の使命……) 深く考え込むセリスの横で、ライルが歩みを止めた。
last updateLast Updated : 2026-01-09
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@7  — 追跡者の影(3)—
  — 追跡者の影(3)— 翌朝、セリスとライルは《ルーヴェンの町》の図書館を訪れた。 図書館は石造りの堂々とした建物で、町の中央広場に面していた。中に足を踏み入れると、古い書物の香りと静寂が広がる。天井まで届くほどの本棚がずらりと並び、かすかな蝋燭の灯りが影を作り出していた。「ここなら、何か手がかりが見つかるかもしれないな」 ライルは辺りを見回しながら呟いた。 セリスは図書館の奥へと進む。 歴史書や王国の記録が収められている棚を探しながら、ふと気づいた。 ——古い時代の記録が、ほとんど抜け落ちている。「ライル……これ、見て」 セリスが手に取った本のページを開くと、エルセリア王国の記述が不自然に途切れていた。 まるで、誰かが意図的に削除したかのようだった。「……やっぱり、王国の記録は抹消されているのか」 ライルが眉をひそめる。 エルセリア王国の滅亡から十年以上が経過している。 その間に、帝国によって歴史が改竄されたのだろう。 だが、それでも完全に消し去ることはできないはずだ。 セリスは慎重にページをめくりながら、小さな手がかりを探した。 そしてしばらくして、セリスは一冊の古びた本を見つけた。 『失われた王国とその遺産』 表紙に刻まれた題名を見て、彼女は胸が高鳴るのを感じた。 (もしかして……エルセリア王国についての記述が?) 急いでページをめくると、そこには驚くべき内容が記されていた。 ——《王の書庫》、エルセリア王国の王族が代々守ってきた知識の宝庫。 ——王国の歴史、魔法、技術、すべての記録がそこに眠る。 ——だが、王国滅亡と共に、その在処は歴史から消え去った。
last updateLast Updated : 2026-01-10
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@8 — 追跡者の影(4)—
  「……逃げられたか」 ライルは悔しげに剣を納める。 セリスも息を整えながら、周囲を警戒した。 (帝国の追っ手……やっぱり、どこかで監視されていたんだ)「セリス、大丈夫か?」 ライルが振り向いて尋ねる。「うん……大丈夫。でも、たぶんこれからもっと追われることになる」「ああ……それに、あいつらが逃げたってことは、すぐに増援が来るかもしれねぇな」 セリスはギュッと拳を握った。 (このままでは、どこにいても帝国に追われ続ける) (だけど……私は、逃げるだけじゃなくて、真実を探しに行かないといけない) 彼女は決意を新たにし、ライルを見つめた。「ライル、《王の書庫》を探しに行こう」「……ああ。そのつもりだったさ」 ライルが微笑む。 次の目的は、王国の知識の宝庫——《王の書庫》の手がかりを見つけること。 だが、その前に……「一旦、町を離れよう。このままじゃ、また敵が来る」「うん!」 二人は図書館を後にし、すぐに町を抜けるために動き出した。 *** セリスたちの進む獣道は、鬱蒼と茂る森の奥へと続いていた。木々が風にざわめき、遠くで鳥の鳴き声が響く。だが、その静寂を破るように、木の上から乾いた声が響いた。「そこまでだ、旅人ども!」 木々の間から十数人の男たちが姿を現す。肩に皮の鎧をまとい、粗野な布で顔を隠した盗賊たちだ。手には刃こぼれした剣や棍棒を握りしめ、殺気を露わにしている。 セリスはすぐに状況を理解した。 待ち伏せ──ここは奴らの縄張りだ。「おいおい、物騒じゃないか。せめて話し合いってもんがあるだろ?」
last updateLast Updated : 2026-01-11
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@9 知識の塔
   *** ゼルヴァニア王国・首都エルデンブルク 幾つもの街を抜けて、セリス達はやっとゼルヴァニア王国・首都エルデンブルクに辿り着いた。 エルデンブルクの街は、石造りの建物が整然と並び、風格ある街並みを形作っている。ゼルヴァニア王国の首都にふさわしく、広場には行商人が店を広げ、獣人やエルフといった多種族の人々が行き交っていた。街の中央に「知識の塔」がそびえ立っているのが見えた。 陽が傾き始めると、活気のあった街も徐々に静まり、昼間の喧騒が嘘のように消えていく。セリスたちは人の流れに逆らうようにして、街の中央にそびえる「知識の塔」へと向かった。 ***  知識の塔・内部 塔の中はひんやりとしており、古びた書物の香りが漂っている。壁一面に並ぶ書棚には、ゼルヴァニアの歴史や魔道に関する書物がぎっしりと詰まっていた。高い天井に取り付けられたランプが柔らかな光を灯し、淡い橙色が書架をぼんやりと照らしている。「おぉ……ここは相変わらず壮観だな」  ライルが感嘆の声を漏らす。 セリスは一歩、また一歩と足を踏み入れた。まるで過去の記憶がこの場所に染み付いているかのように、どこか懐かしさを感じる。ここで自分の探している答えが見つかるのかもしれない──そう思うと、胸の奥がざわめいた。「お探しの本は?」  低く落ち着いた声が響いた。 奥から現れたのは、知識の塔の管理者 エドガー だった。「『王の書庫』について知りたいの」 セリスが切り出すと、エドガーは静かに目を細めた。 彼は壮年の学者らしく、灰色の髪を背中まで伸ばし、深い皺の刻まれた顔に知識の重みを宿している。長いローブを纏い、指先には無数のインクの染みがついていた。書物の山に囲まれた書斎の奥、薄暗い蝋燭の光の下で、彼はゆっくりと息をつく。「それを求めるとはな」 静かに呟きながら、エドガーは古びた本の山を一瞥した。室内には乾いた紙の匂いと、微かにインクの香りが漂っている。壁一面の書棚には、時間の重みに耐えかねたかのように歪んだ背表紙が並び、その中に
last updateLast Updated : 2026-01-12
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@10 帝国の密偵との遭遇──知識の塔の戦い
   @帝国の密偵との遭遇──知識の塔の戦い エドガーから『王の書庫』の情報を得た直後、塔の外で微かな異変が生じた。 空気が張り詰める。 ライルが素早く顔を上げ、鋭い目つきで扉の方を見据える。「……誰かいる」 セリスの胸がざわついた。誰かが、自分たちの動きを監視している──そんな感覚が肌に突き刺さるようだった。 直後、塔の扉が勢いよく開かれた。「エルセリア王国の亡霊め……ここで消えてもらおう」 低く冷たい声が、静寂を切り裂く。 入り口から忍び込むように現れたのは、黒装束に身を包んだ男たち。顔の半分を覆う布の下、鋭く研ぎ澄まされた目がセリスたちを射抜いている。ヴァルガルド帝国の密偵──暗部に属する刺客たち。 彼らの目的はただ一つ。セリスが『王の書庫』へ到達するのを阻止すること。 セリスの背中に冷たい汗が伝う。 彼らの気配には、隙がなかった。訓練を積んだ暗殺者──殺意だけを帯びた無機質な存在。 ライルが無言で剣を抜いた。鋭い音が静寂を裂く。「セリス、後ろに」 彼はセリスの前へと踏み出し、密偵たちを睨みつけた。「……どうやら、逃げ道はなさそうね」 セリスは深く息を吸い込む。緊張が全身を包むが、ここで怯えている場合ではない。 密偵たちが一斉に動いた。 彼らの刃が月光を反射し、細く鋭い弧を描く。 ──だが、それよりも速く、ライルの剣が閃いた。 金属がぶつかり合う甲高い音。 ライルは敵の一撃を受け流しながら、鋭い突きを繰り出す。密偵の一人が咄嗟に後退するが、その動きを追うようにライルの大剣が振り下ろされた。 セリスもまた、敵の刃を間一髪で躱し、床を蹴って距離を取る。「っ……!」 一人の密偵が、音もなく彼女の背後に回り込んでいた
last updateLast Updated : 2026-01-13
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