滅びの王国と記憶の継承者

滅びの王国と記憶の継承者

last updateLast Updated : 2026-01-09
By:  米糠Updated just now
Language: Japanese
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滅びた王国の最後の生き残り——セリス・エルセリア。 幼い彼女は、父王の命によってすべての記憶を封じられ、名もなき村で静かに育てられた。 しかし、その穏やかな日常は、突然の襲撃によって一瞬で崩れ去る。 「王の娘を捕らえろ!」 燃え上がる村、響き渡る悲鳴。 そのとき、忘れ去られた記憶が疼き出す——己が誰であるのかを。 追っ手に命を狙われ、逃亡の果てに出会った謎の青年。 彼は敵か、味方か? 失われた王国の秘密、帝国の陰謀、そして彼女自身の運命—— すべてを知るとき、歴史は再び動き出す。 これは、記憶を奪われた少女が己の運命を取り戻すために戦う物語。 滅びの中から希望を紡ぐ、壮大な冒険譚がいま幕を開ける——!

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Chapter 1

@1 プロローグ — 記憶の残響 —

プロローグ — 記憶の残響 —

 冷たい風が荒れ果てた大地を吹き抜ける。

 かつてそこには、栄華を極めた王国があった。しかし、今や残るのは崩れた城壁と、風に舞う塵ばかり。

 エルセリア王国。

 古の叡智を受け継ぐ王家が統べる、誇り高き魔法の王国。

 だが、それはすでに歴史の闇へと消え去った。

 燃え盛る城、響き渡る剣戟。

 帝国の軍勢が押し寄せ、城門が無惨に打ち砕かれる。

 血飛沫が舞い、石畳を濡らす。王族の悲鳴が夜の闇に溶けていった。

「この記憶を……決して失ってはならぬ……!」

 父王の震える手が、幼き王女の肩をしっかりと掴む。

 焦燥と悲哀に満ちた瞳が、娘の姿を焼き付けるように見つめていた。

「許せ、セリス……。だが、お前を生かすためには、これしかない……」

 父王はそっと額に手を当て、静かに呪文を紡いだ。

 震える唇からこぼれる言葉は、柔らかく、それでいて強い意志を宿している。

 指先から淡い金色の光が広がり、精緻な魔法陣が空中に浮かび上がる。

 光の粒が舞い、セリスの額へと吸い込まれていく。

 彼女の視界がぼやけた。

 まるで霧の中に迷い込んだように、現実と記憶が溶けていく。

「……お父さ……ま?」

 声を発しようとしたが、口から出たのはかすれた音だった。

 遠のく意識の中で、父王の最後の囁きが耳に届く。

「生きろ……我が娘よ……。いつか、この世界の真実を思い出せ……」

 次の瞬間、彼女の周囲がまばゆい光に包まれた。

 ——目を開けたとき、そこは見知らぬ村の片隅だった。

 頬に冷たい風が触れ、かすかに草の香りが漂っていた。

 遠くで鳥のさえずりが聞こえる。

 だが、彼女はすべてを失っていた。

 王国も、家族も、そして自らの名すらも——。

 だが、その胸の奥には消えぬ残響があった。

 それは、滅びの中に残された最後の灯火。

 ——その名は、セリス・エルセリア。

 失われた王国の最後の生き残り。

 彼女はまだ知らない。

 己の運命が、再び歴史を動かすことになることを。

 だが、彼女は何も覚えていなかった。

 己が何者かすらも。

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@1 プロローグ — 記憶の残響 —
プロローグ — 記憶の残響 — 冷たい風が荒れ果てた大地を吹き抜ける。  かつてそこには、栄華を極めた王国があった。しかし、今や残るのは崩れた城壁と、風に舞う塵ばかり。 エルセリア王国。  古の叡智を受け継ぐ王家が統べる、誇り高き魔法の王国。  だが、それはすでに歴史の闇へと消え去った。 燃え盛る城、響き渡る剣戟。  帝国の軍勢が押し寄せ、城門が無惨に打ち砕かれる。  血飛沫が舞い、石畳を濡らす。王族の悲鳴が夜の闇に溶けていった。「この記憶を……決して失ってはならぬ……!」 父王の震える手が、幼き王女の肩をしっかりと掴む。  焦燥と悲哀に満ちた瞳が、娘の姿を焼き付けるように見つめていた。「許せ、セリス……。だが、お前を生かすためには、これしかない……」 父王はそっと額に手を当て、静かに呪文を紡いだ。  震える唇からこぼれる言葉は、柔らかく、それでいて強い意志を宿している。 指先から淡い金色の光が広がり、精緻な魔法陣が空中に浮かび上がる。  光の粒が舞い、セリスの額へと吸い込まれていく。 彼女の視界がぼやけた。  まるで霧の中に迷い込んだように、現実と記憶が溶けていく。「……お父さ……ま?」 声を発しようとしたが、口から出たのはかすれた音だった。  遠のく意識の中で、父王の最後の囁きが耳に届く。「生きろ……我が娘よ……。いつか、この世界の真実を思い出せ……」 次の瞬間、彼女の周囲がまばゆい光に包まれた。 ——目を開けたとき、そこは見知らぬ村の片隅だった。 頬に冷たい風が触れ、かすかに草の香りが漂っていた。  遠くで鳥のさえずりが聞こえる。 だが、彼女はすべてを失っていた。  王国も、家族も、そして自らの名すらも——。 だが、その胸の奥には消えぬ残響があった。  それは、滅びの中に残された最後の灯火。 ——その名は、セリス・エルセリア。  失われた王国の最後の生き残り。 彼女はまだ知らない。  己の運命が、再び歴史を動かすことになることを。 だが、彼女は何も覚えていなかった。 己が何者かすらも。
last updateLast Updated : 2026-01-06
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@2  — 追われる少女 —
   セリスは、この村を故郷だと思っていた。  物心ついたときには、すでにここにいたからだ。  朝になれば、パンとチーズの香ばしい匂いが漂い、農家の人々が畑へ向かう姿があった。子どもたちは川辺ではしゃぎ、夕暮れ時には囲炉裏の火が赤々と燃えていた。そんな穏やかな日常が、彼女にとってすべてだった。  小さな農村。名もない谷間の集落。  彼女を拾い育ててくれたのは、老婆のマルタだった。 「お前は私の孫さね。……ちょいと変わった目をしてるがね」  セリスは幼い頃から、自分が村の他の子供たちとは違うことを感じていた。  白銀の髪。透き通るような青い瞳。  村人たちは優しかったが、どこかよそよそしくもあった。大人たちは彼女に微笑みかけるが、視線が髪や瞳に向けられると、一瞬の躊躇いが見えた。そして何かを言いかけては、そっと口をつぐむことがあった。  それでも、セリスにとってこの村は大切な居場所だった。  特に、マルタの存在は彼女にとって唯一無二だった。  夜になると、マルタはセリスの髪を梳いてくれた。その手の温もりが、彼女にとって何よりの安心だった。 「セリス、お前は特別なんだよ」  マルタはふと、そんな言葉を漏らすことがあった。  その夜も変わらず、村は穏やかだった。  遠くでフクロウが鳴き、囲炉裏の火が静かに揺れる。  セリスは、マルタが作ったスープの余韻を舌に感じながら、毛布を引き寄せた。  ——突然全てが引き裂かれる。  村の夜を引き裂く悲鳴と、鋼がぶつかり合う甲高い音。  闇に包まれた集落を、紅蓮の炎が揺らめきながら照らし出していた。  家々が次々と爆ぜるように燃え、夜空に炎の舌が伸びる。  黒い影が剣を振り下ろし、血飛沫が夜の闇を赤く染めた。  黒い甲冑を纏った兵士たちが、怒号を上げながら村を蹂躙していく。 「エルセリア王家の血を引く娘を探せ!」 「どこにいる! 王の娘はどこだ!」  王の娘?  セリスには何のことか分からなかった。  だが、本能が告げていた——見つかれば、殺される。 「逃げて、セリス!」  マルタが叫び、セリスを突き飛ばした。  その直後、鋭い閃光とともに槍が老婆の体を貫く。 「おばあちゃん……?」  時が止まったように思えた。  そして——  セリスの脳裏で何かが弾けるように走っ
last updateLast Updated : 2026-01-06
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@3 ライルとの出会い
 どれほど走ったのか分からない。  息が荒く、膝が震える。  森の湿った土の上に転がるように倒れ込んだ。 「……はぁ……っ、はぁ……っ……」  足がもう動かない。  鼓動が激しくなり、視界がぼやけていく。  (このままでは、捕まる……!)  だが、もう走れなかった。  この森で、追っ手が来るのを待つしかないのか——?  森は鬱蒼と茂り、月明かりすら遮られていた。  冷たい夜気が肌を刺し、背後から聞こえる足音がますます恐怖を煽る。  肺が焼けるように痛み、足は鉛のように重い。それでも、立ち止まれば終わりだと、本能が叫んでいた。  そのとき。  ザッ——!  木々の間から何かが飛び出してきた。  セリスは反射的に身をすくめる。  ——剣を持った男だった。 「……誰だ?」  低く、鋭い声。  黒髪の青年。赤い瞳が月明かりに光る。  背には大剣を背負い、無骨な鎧をまとっていた。  (帝国兵……? いや、違う)  彼の鎧は帝国のものではない。  見たことのない紋章が彫られている。  青年はじっとセリスを見つめ、眉をひそめた。 「……お前、追われているのか?」  セリスは震えながら、小さく頷いた。 「帝国兵……村が……!」  それだけ言うのが精一杯だった。  青年はわずかに表情を動かしたが、すぐに真剣な眼差しに戻る。  周囲の気配を探るように、鋭い視線を走らせた。 「追っ手はどこまで来ている?」 「……すぐ、そこに……!」  セリスがそう答えた瞬間——  ガサッ!  森の茂みが揺れた。  そして、帝国兵たちが姿を現した。 「いたぞ! そこだ!」 「王の娘を捕らえろ!」  セリスの心臓が跳ね上がる。  兵たちは無駄なく散開し、まるで狩りを楽しむかのようにじりじりと包囲網を狭めていく。 「王の娘だと? 本当にこんな小娘が……?」  彼らの言葉に、青年は短く舌打ちすると、大剣を抜いた。 「……チッ。厄介ごとに巻き込まれたな」  剣閃が閃いた。  影に紛れるように立つ青年の剣が振り下ろされると、衝撃波のように空気が震えた。  鋭い一撃が帝国兵の槍を弾き、重々しい金属音が森に響いた。 「ぐっ……!」  弾き飛ばされた兵士が地面に転がる。  だが、残る兵たち
last updateLast Updated : 2026-01-06
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@4 最後の王女の名
  夜の静寂の中、草を踏む音と、かすかに吹き抜ける風の音だけが響く。 帝国兵たちの追跡はひとまず振り切ったようだが、それでも緊張は解けない。 ライルの戦いぶりは尋常ではなかった。 ただの傭兵とは思えないほどの剣の腕前、そして冷静な判断力— それに、彼がセリスに向ける視線には、どこか探るような鋭さがあった。 しばらく歩いたところで、ライルが足を止めた。「ここなら、少し休める」 視線の先には、大きな岩壁がそびえていた。 その影にひっそりとした洞窟が口を開いている。「この辺りは知ってる。傭兵時代に何度か使ったことがある場所だ」「……ありがとう」 セリスは少し警戒しつつも、疲れた身体を休めるために洞窟の中へと入った。 洞窟の内部は意外にも広く、壁には古びた焚き火の跡が残っていた。 ライルは慣れた手つきで薪を積み上げ、火打石を使って火をつける。 ゆらめく炎が洞窟内を淡く照らし、ようやく少し安心できた気がした。 セリスはそっと腰を下ろし、深いため息をついた。「……今日は色々ありすぎた」「だろうな」 ライルは焚き火を見つめながら、静かに言った。「帝国に追われる理由、聞いてもいいか?」 セリスは一瞬、口ごもった。 (この人に、どこまで話していいんだろう……) 彼は助けてくれた。でも、完全に信用できるわけではない。 それに、自分の正体を明かせば、彼がどう反応するかも分からない。「……言いたくないなら無理に聞かない」 ライルは肩をすくめて、あっさりと話を切り上げた。 その態度がかえって意外だった。「だがな、一つだけ忠告しておく」 彼は炎の揺らめきを見つめたまま、低い声で言った。「お前、自分がどれだけ危険な立場にいるのか、本当に分か
last updateLast Updated : 2026-01-07
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@5  — 追跡者の影(1)—
— 追跡者の影(1)— 夜が明ける頃、セリスとライルは森の中を抜け、東へと歩を進めていた。「次の街は?」 セリスが問いかけると、ライルは地図を広げながら答える。「ここから北東に二日ほど進んだ場所に《ルーヴェン》という町がある。交易が盛んな町で、情報が集まりやすい」「……そこで手がかりを探すの?」「そうだな。まずはお前の“記憶”に関わる情報があるかどうか調べるのが先決だ」 セリスは小さく頷いた。 ——エルセリア王国の滅亡の真実。 ——王族に受け継がれる記憶の力。 それらを知るための手がかりを求め、彼女たちは旅を続ける。 だが、その背後には確実に追跡者の影が迫っていた。 *** 帝国軍拠点・指令室「……逃げられた、だと?」 低く冷たい声が響く。 ヴァルガルド帝国軍の指令室。 そこには、漆黒の軍服をまとった男が立っていた。「申し訳ありません、ヴァルドリッヒ将軍……」 報告に来た兵士は額に汗を浮かべながら頭を下げる。 ヴァルドリッヒ・カインツ。 帝国最強の将軍と称される男。「傭兵風の男に邪魔され、捕縛に失敗しました。しかし、相手はおそらく……」「ライル・フェンリス……か」 ヴァルドリッヒは小さく呟いた。「ゼルヴァニアの“狼”……なるほど、厄介な相手だ」 その名を知っているのかと、兵士は驚いたように顔を上げる。 ヴァルドリッヒは椅子に座り、指を組みながら静かに続けた。「だが、今はそれよりも重要なのは……“あの娘&rdqu
last updateLast Updated : 2026-01-08
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@6   — 追跡者の影(2)—
  — 追跡者の影(2)— 戦いの余韻が、森の静寂に溶けていく。 セリスは肩の傷を押さえながら、荒い息をついていた。 ライルも剣を収め、周囲を警戒する。「とりあえず、ここを離れるぞ」 ライルが短く告げた。 戦いの音が響いた以上、他の帝国兵が気づいていないとは限らない。 早く森を抜け、次の目的地へ向かう必要があった。「セリス、歩けるか?」「……大丈夫、行こう」 痛みはあるが、今は止まっている場合ではない。 セリスは剣を握りしめ、ライルの後を追った。 *** 森を抜けた先には、小さな町《ルーヴェン》があった。 石畳の道が整備され、木造の建物が立ち並ぶ。 町の広場には噴水があり、行き交う人々の活気が感じられた。「ここならしばらく身を隠せるかもしれないな」 ライルは町の様子を見回しながら呟く。 黒鴉の兵士たちは全滅したが、彼らが報告を済ませていた可能性は高い。 帝国が次の追っ手を送り込むのは時間の問題だろう。「まずは宿を探そう。それから情報を集める」「うん……」 セリスは小さく頷きながら、胸に手を当てた。 あの戦いの最中に甦った記憶——あれは一体何だったのか。 ほんの一瞬だったが、まるで別人になったような感覚があった。 剣を握る手が、自然に動いたあの瞬間—— (……もしかして、王国の誰かの記憶?) 自分の中にある《記憶の継承》の力。 その意味を知るためにも、もっと多くの記憶を取り戻す必要がある。 (エルセリア王国の過去……そして、私の使命……) 深く考え込むセリスの横で、ライルが歩みを止めた。
last updateLast Updated : 2026-01-09
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