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2 隠れ家から始まる生き残り計画

作者: 缶小豆
last update 公開日: 2026-07-15 14:25:40

錬金術師アリエルが用意してくれた隠れ家は、正確には家じゃなくて――塔だった。

降り立ったところは、魔力を含む森林の中で、その塔の前には誰かが手入れしたと思われる小さな畑がある。

「誰もいないみたいだけど……」

ミレイユは、周囲をキョロキョロと見たが、真っ暗で何もわからない。ただ、店とは違うところに来たということはわかった。

そっと、その塔の扉に手を触れると、「ぎぃっ」と木の軋む音。

「師匠の魔力に、これは師匠が作ったものだわ。ということは、この塔も師匠のものなのよね?きっと」

見た目は普通の木の扉だけど、アリエルの魔力が宿っていて、錬金術で強化されている。鉄より硬いはずだ。

でも、こんな塔を持っているなんて聞いたことがなかった。

「でも、とりあえずは、人間や獣の襲撃からは守ってくれそうな扉だわ」

更にミレイユは、扉から真っ暗な屋内に足を進める。

「だれか?……いませんか?」

だが、しばらくは使われてなさそうな様子だった。

入ってすぐに、石造りの螺旋階段がみえる。

ミレイユは、階段の壁に手を当てながら、まずは上まで歩いていく。

途中、部屋のような空間が見える。

(部屋の数から見て、五階建てだろうか?)

塔の最上階まで上がると、上に跳ね上げるような窓があり、そっとその窓を上に押し上げる。

「どこなんだろう?ここは?」

その押し上げた窓の外を見ると……

森の奥だけど、意外と街は近い。

遠くに知っている時計塔も見える。

国の外かと思ってたけど……これは、近すぎて逆に緊張する。

「師匠、なんでこんなに街の近くなんですか!?」

思わず声に出す。

隠れ家なら、もっと安全な場所がよかったのに。

しかも、ここは電気も水道もない。

外は魔力を含んだ森に見えたから、自然の魔力は頼れるかもしれないけど……

「正直、こんな魔力を含む森が近くにあるなんて知らなかったわ。森の入口に結界でもあるのかもしれないわね」

貴重な素材などがあって結界で守っているのだろうか?

森の中に灯りは全くない。

もちろん、人や家が周囲にある気がしない。

なんというか、現代機器がなにもない。

「師匠、せめてサバイバル術くらい教えてほしかった……それに、塔の中も真っ暗で何も見えないし!」

とにかく、食べるものをなんとかしないと。

錬金術は自然の力を借りる術だから、この森の環境なら、灯りや生活環境を整えるだけなら何とかなるはず。

もう一回下まで降りると、扉の死角になる場所に見慣れた錬金道具がある。

「師匠、栽培促成キットがあるじゃないの!これは、ここで作ってたべなさいということ?」

ご丁寧に、壊れかけた箱の中には、ジャガイモの種芋と豆の種まで置かれている。ちゃんと使えそうな種だ。

育成促進キットに、その種や種芋をセットし、畑に埋め込む。

「水は?」

外に出てみると、来た時には気づかなかったがどこかで水音がしている。その音を頼りに歩くと、塔から目と鼻の先に澄んだ湖がみえた。

畑に置いてあった桶に水を汲んで、種に水を注ぎ、ついでに自分の傷だらけの体に水を含ませて、畑のそばで一息ついた。

「魔力が土に染み込んでいくのを感じるわ。お水も魔力を含むのね。さすが師匠の隠れ家だけど、こんなすごい場所があるなんて知らなかったわ。

これだけ魔力があると、きっと野菜もよく育ってくれるとは思うけど……畑を耕す時間はないから、数日は様子見ね。落ち着いたら、きちんと整備しよう」

ふと、師匠のことを思い出す。

師匠は命の恩人で、私の親代わりだった。

小さな頃、貧しい農村で育ち、娼館に売られそうになっていた私を、全財産をはたいて買い取ってくれた。

「お金なくても、錬金術で野菜作ればなんとかなるんだ」

そう笑っていたわ。

まさに今がその状況だけど……

でも、あんなにお金に無頓着だった師匠が、お金を持って駆け落ちなんてするかしら?

それともダリウスさんが横領?

考えてもわからないわ

ミレイユは大きなため息をつきながら、再び、ミレイユは塔の中を調べていく。

「古くて壊れそうだけど、石造りだから、獣や風は防げそうだし、屋根はところどころ傷んでるけど、雨漏りはしなさそう。時間があれば直したいわね。

蔦がびっしり絡まってるから、このままでは、日の光が入らないのが惜しいわね」

大量の本らしきものや書類はあった。

だが、師匠の書き置きなどは、見当たらなかった。

「転移先まで作るぐらいだから、何か師匠の言葉を残してるかと期待したけど、何もないわ」

ミレイユは落胆して、肩を落とす。

いよいよ、一人になってしまった。

これからどうしよう。

お店ができる状態じゃないし、お金もない。

仮に再開できたとしても、錬金術は師匠と実力の差は歴然としている。

商品を揃えることができるかしら?

「師匠……なんで何も言わずに駆け落ちしたんだろう?」

ダリウスさんとの恋愛に反対なんてしていなかったのに、どうして私に何も相談してくれなかったの?

どんなに考えても答えは出ない。

とりあえず、自分が生きていくことを優先考えよう。

もしかしたら、師匠に事情があって匿う可能性だってあるんだから、早く私が居場所を確保しないと……

この塔には錬金道具が揃ってる。

形を変えて街に出れば売れるかもしれない。

でも、それは足がつくリスクもある。

どうすればいいか分からないまま夜の森を見つめる。

「なんとか街の人たちにバレないように、お金を稼がなきゃ……」

ミレイユは、震える自分の声を耳にしながら、心の奥の覚悟が少しだけ固まった気がした。

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