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5 預かり証が呼び寄せたトラブル

Author: 缶小豆
last update Petsa ng paglalathala: 2026-07-16 20:30:51

ミレイユがまだ取り調べを受けていた時間まで遡る。

レオンハルトは、あの見合い話の時に、ダリウスから妙なお願いをされたことを思い出していた。

「俺さ、こういう立場だろ? いつ何があってもおかしくないんだよ」

ダリウスは、少し遠くを見るような目で呟くようにレオンハルトに話しかけた。

「……まあ、総司令官ですからね」

自身も、武勲を立てて第一騎士団長に推薦を受けた過去から、この立場はいつ何があってもおかしくないことはわかっていた。

この国は、力を持った大国が北にある。

今は停戦状態だが、いつ戦いが再開してもおかしくない。

「で、実は、恋人にプロポーズする指輪はもう買って預けてある。もし俺に何かあったら、代わりに取りに行って渡してくれ」

「いや、普通に彼女に言えばいいじゃないですか?」

「お前、わかってないなあ。そんなの言ったらサプライズ台無しだろ。ネタバレだよ」

「何かあったときに指輪だけ残されるほうが嫌でしょうよ」

かつての体験から、帰りを待ち侘びている人に「死」を告げることが、どれだけ過酷で悲惨なことかを、レオンハルトは知っている。

ましてや、長く愛し合って結婚を考えているような人に、ダリウスの悲報を伝えにいくのは嫌だ。

レオンハルトは、それだけは嫌だと断固拒否したが、ダリウスも引かない。

そして、そんなくだらない押し問答の末――

「見合いしないならこれが預かり証だ」

そう言って、紙を無理やり押し付けられた。

……強引すぎる。

しかも貴金属なんて預かりたくない。

でも上司命令は絶対だ。

◇

そう思っていたけど……予想していた展開とは違うとは言え、これはまさに【俺に何かあったら】だ。

――さて、これ、本当に取りに行くべきなのか?

でも、恋人は一緒に姿を消したよな?

指輪も持っていったんじゃないか?

……でも、もし残っていたら?

彼女と同時期に消えただけで、彼女と一緒に絶対に消えたという保証はない。

だけど……仮に残っていても、渡す相手はもういないだろう……

まずは店に確認するしかない。

 

紙の封を開けて店の名前を見ると、思わず首をかしげた。

「……魔道具店?」

宝石屋じゃないのか。

ああ、そういえば彼女は錬金術師だったな。

普通の宝石じゃ満足できなかったのかもしれない。

騎士団でも魔道具はよく使う。

攻撃、防御、生活用まで幅広く活用される。

ただ、魔道具に加工するのが錬金術師じゃなかったか?

そこで買った指輪.....?

……もしこれが彼女の手作りだったら――

 

「君が作った指輪を君にプレゼント?」

まさか、開けた瞬間、仕掛けがあって爆発したりしないよな?

ダリウスが何を考えていたのか、レオンハルトには予想もできなかった。

更に、そのダリウスが失踪中ということもあり、少し不安がよぎる。

◇

店は、飲み屋街の薄暗い脇道から更に逸れたところにあった。

その脇道は、じめっとした空間に、カビ臭いような、どこから出てきているのかわからない匂いが混じり合い、足を踏み入れるのを躊躇してしまう。

だが、そんな街の街の脇道でも、夜になると飲み屋街を練り歩く騎士や労働者が騒ぎ声が、その脇道の奥まで賑やかに響いてくる。

レオンハルトは、それらの音を背に、道を奥に進んでいった。

脇道から更に逸れた建物と建物の間にある路地裏は、壁に落書きが多く、時折、えさをもらいにくる猫がこっそり歩いていた。

「この辺りだが?」

キョロキョロ見回すが、看板はもちろん出ていない。

「総司令官、こんなところで指輪を買うなんて間違ってますよ……」

レオンハルトは、帰りたくなりため息をつく。

普段はこういう場所に来ない。

騎士団でも実力はもちろんのこと、顔が良いことでも知られている。女性を求めるというより、相手から求められる方が多いのだ。

今まで、男女問わず何度も絡まれたし、既成事実をつくられそうになったり、とにかく面倒なことに巻き込まれたことが多すぎて、深い関わり合いになりたくないのだ。

それなのに、こんな街を歩いていたら……

細い路地に入ると、香水臭い客引き女性に追いかけられる。

それを巻くために、再び道を逸れる。

そんな状態で、まるで迷路のような脇道の中を抜けて、ようやくレオンハルトは店の扉を開けた。

中は薄暗く、壁に剣や槍が乱雑に掛けられている。

(武器屋?)

カウンターの後ろにいる店主は、大きくて無骨な男。髭は剛毛で、髪もボサボサ。眉間には深い皺が刻まれている。

(これは、どうみても宝石屋の店主にはみえない。魔道具店だからか?)

レオンハルトはおそるおそる店主に声をかけた。

「すまない、ここは魔道具店だよな?」

どうみても武器屋に見える

「そうだ。魔道具も武器も売ってるから、求めるものによって言い方は変わるが、どちらも付与を錬金術師に頼んでいる」

レオンハルトは聞いたことがあった。

この裏路地の武器屋は、客の注文に合わせて属性を付与することで有名だ。

ただし、その高度な技ゆえに、一見さんお断りで値段も高い。

金を積むなら、国宝級のレベルまでのものを作るとか……

そんな店で、ダリウスが、なぜここでプロポーズするための指輪を買ったのか、ますます謎が深まる。

「これ、預かってるって聞いたんだが」

恐る恐る胸ポケットから預かり証を出して見せると、店主は無言で奥へ引っ込んだ。

沈黙が長く続き、不安になる。

戻ってきた店主は、指輪と魔獣の黒革のケースに入った短剣を抱えていた。

「これを娘に渡せって頼まれている」

「娘……?」

レオンハルトは目を見開く。

恋人に指輪を代わりに渡すんじゃないのか?

話が違うじゃないか。

第一、娘って誰の娘だ?

彼女の……娘……しかいないよな?

まさか、あの縁談の子か?

レオンハルトの心は動揺して、バクバクと胸の音が聞こえるようだった。

頭の中には、かつてみたピンクブロンドの髪で、真面目に客の対応をしていた彼女の娘の姿が思い出される。

そんなレオンハルトの様子など微塵にも気にしない様子で、店主は、さらに店の奥から、美しい黒鞘の剣も出してきた。

「お前のはこれだな。外に出たら、これを買ったフリをしろ。金はダリウスから預かってる。お前の剣よりも上等だ。怪しまれるなよ」

「いや、俺は何に巻き込まれてるんだ?」

短剣と指輪は服の中に隠し、渡された剣を手に店を出る。

全然話が違うじゃないか!

だが、ここで騒げばもっと人目に付く恐れがある。

無表情で足を立てずにそっと脇道に戻るが、尾行されている気配はなかった。

ただし、店の外には依然として客引きが待ち構えている。

だが、レオンハルトの持っている剣の袋を見て、自分の客ではないという様子で帰りは声もかけてこなかった。

この武器屋は、路地裏の店でも比較的まともな方らしい。

店には適度な知名度があり、更に客は目的を持った客だけで、女を目的にしていないのだろう。

それなら、俺が利用しても怪しまれなさそうだ。

レオンハルトは自然に装いながら歩き、騎士団の宿舎に戻った。

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