Chapter: 12.撮影とおかえり クランクインからひと月が経った。私は現在、撮影場所で日本舞踊監修としてのお仕事をしているが、今は見学中だ。準備期間は長かったのに撮影はもう半分は終わってる。 「なんとも贅沢だなぁ」 目の前で、俳優さんが演技をしている。普段の指導している時の彼らとは別人のようで、すごい。 本当は、日本舞踊のシーンがない時は来なくていいんだけど見たくて来てしまっている。迷惑にならないように隅っこだけれども。 「お疲れ様です! 鳳翠先生」 「茉縁さんもお疲れ様です。とっても良かったです」 「ありがとうございます。でも撮り直しですね、多分」 茉縁さんはそう言うと、監督がいる方を見た。 「納得してない顔してるから――」 「おーい里谷さん! ちょっとこっち来てー」 彼女の言う通り、監督が彼女を呼ぶ声が聞こえてそちらに行ってしまった。 それからも昼まで見学しているとスマホがブーブーと震えた。スマホの画面を見れば郁斗さんからメッセージ通知が出ていた。それをタップすると、LINEのトークページが開く。 【今、帰って来ました。テレビ局の近くにいるんだけど時間が合えば迎えに行くよ】 え!帰るの三日後って聞いていたけど早く終わったのかな。 【帰ってくるの三日後って言ってませんでした?】 【仕事は昨日のパフォーマンスで終わりだったんだ。他の仕事は急いで終わらせてきたんだ】 そうなのか。せっかくだし、迎えに来てもらおうかな…… 【じゃあ、お迎えをお願いできますか?一緒に帰りたいです】 そうメッセージを送ると、話し合いが終わった本郷くんに近づき声を掛ける。 「本郷くん、私帰りますね」 「月森さん。あ、わかりました。……じゃあ、下まで送りますよ」 「えっ、でも私勝手に見学に来た人ですし……本郷くん、さっきまで演出家の方とお話をしていましたよね?」 さっきまで監督の隣にいる演出の人と話し合いをしていたし、忙しいのではないだろうか。ただ声をかけただけなんだけどなぁ 「もう終わったから。それに早めの昼にしようと思って一階のカフェに行くから」 「それならいいんですけど……」 了承すると、本郷くんは荷物を持ってくるからと控え室に行ってしまったので私はスマホを見ると【良かった。近くに来たら連絡する】とメッセージが来ていた。 なので【了解です
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Chapter: 11.ドラマ指導 日本舞踊の指導が始まって本日二回目。 初回は挨拶と最終的の目標で踊る演目を見てもらって基本のお辞儀を稽古したので今日は、手の基本から始める。早く演目から練習した方がいいとプロデューサーの方に言われていたが、基本から覚えていった方が軸はブレないし安定感もある。基本的な動作ができていないといい踊りなんてできない。昔、コピーをすれば全然オッケーという生徒さんがいたけどその人はすぐに辞めてしまった。一度できても基本がわからないから少しずつズレが後からやってきた。とから入った基本からしっかり稽古していた同じ演目を練習している生徒に追い抜かれたことがきっかけだった気がするが、なんにせよ基本は大事だ。 「復習から始めましょうか、では、お辞儀から」 だが、彼らはさすが俳優さんと言うべきかもうすでに完璧だった。こんなすぐに習得できるなんて……うちに欲しくなる。それに礼儀作法やすり足の仕方と扇子の広げ方を指導して次は手の基本についてだ。 女の手、男の手があるがまずは基礎から始める。 「まず、しっかりと力を入れて伸ばして指がそり上がるようにします。親指に力は入るが反らないようにまっすぐに内側に、指は閉じます」 茉縁さんはダンスの経験と、舜也さんの方はバラエティ番組の企画で歌舞伎をやったことがあるらしく上手だった。普通のお稽古なら、女の手と男の手を両方やるがドラマで踊るのが主なので別々で教える。 まず、女の手からだ。 「先ほどやった基本の手から緩め、反った形から手の甲からまっすぐになるようにします。人差し指以外の中指、薬指と小指を軽く曲げる。そうすることで力を入れていないように見えます。これが胸元にあったり、何かを指すというときに使う動作なので自然な動きをするには大切です。握り手は、親指に人差し指が包み込むように曲げます」 「なかなか難しいですね……だけど、先生みたいに滑らかに出来ないですね。動画とってもいいですか? 練習したいので」 「もちろん大丈夫ですよ」 茉縁さんがスマホを持ってきて私にカメラを向けた。手の形の説明をしながらの見本をやってみせると「ありがとうございます」と言って練習を始めていた。 なので次は舜也さんの番だ。 「……では、男の手を。男の手は基本の形をさせて、親指を開く、指の間を少し開きます」 基本が出来ていれば男の手は簡
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Chapter: 10.偶然の再会 ドラマ監修の仕事を受けると決めてから一週間。今日は、テレビ局のドラマ制作部の方々と打ち合わせだ。 「郁斗さん、ごめんね。送ってもらっちゃって」 「俺も仕事が同じ方面だし、ついでだよ。可愛い奥さんを送るためなら車くらい何回でも出すよ……百合ちゃんはいいんだよ。なんで、蒼央はちゃっかり寛いでるかな。もっと乗せてもらうんだからなんかあるでしょ」 「いいじゃん。俺らの仲でしょ、義弟(おとうと)よ」 郁斗さんが近くにある出版社で取材があるらしく、一緒に行こうってなった。本当は私一人でもいいんだけど、兄がテレビ局行きたい〜と言ったためなぜか同行している。 それなのにこんな態度取って……もう。 「はぁ、本当に変わらないな。仕方ない、シートベルトはしっかりすること!」 「はーい」 兄は普段は立派に次期家元としてやっているけど、郁斗さんといる時は昔から子どもみたいだ……外面はいいからなぁ 「打ち合わせは何時までなの?」 「十時半から一時間前後って言われたよ」 「それじゃあ、お昼一緒に食べよう。近くにオムライスが美味しいお店があるんだ」 「わかりました。終わったら連絡しますね」 そんな会話をしているうちにテレビ局に到着して郁斗さんと別れた。 正面玄関から入って受付で約束があると伝えると、入館許可証を渡される。 「あちらのエレベーターから上がっていただき、八階で降りてください。降りてすぐ【コンテンツ制作局】という看板がありますのでそこの窓口にお声をおかけください」 「ありがとうございます」 兄と一緒にエレベーターに乗って八階のボタンを押した。するとすぐに到着して【コンテンツ制作局】という看板を見つけその横に窓口があった。 「このインターホン押せばいいのかな」 「そうだと思うが、誰もいないし」 コソコソ話をしてインターホンを押せば声が聞こえてきて名前を言う。すると、綺麗な女性が出てきた。 「お待ちしておりました、ではこちらへどうぞ」 女性に案内されるがままついていき、奥にある会議室と書かれた部屋に到着する。 「担当の者をお呼びしますのでお待ちください。では失礼します」 会議室は広くて二人だととても広い。オフィスって感じだ。 「なんか緊張するな、こんな畏まった場所初めてだ」 「そうね。私も、緊張する……」 絶対心
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Chapter: 9.新しいお仕事 「んー? 本当にこれでいいのか……」 私は今、レシピノートと鍋に入っているじゃがいもとお肉を睨めっこをしている。 「これを煮込むと、本当にできるんだろうか……肉じゃが。蓋をしたほうがいいのかな?」 レシピ本を見てこれなら料理初心者でもできるのではないかと思った私は、今日は午前中のみの仕事だったのでスーパーで材料を買ってきていた。 野菜たちを学校の家庭科で習ったのを思い出しながら切っていき、糸蒟蒻も茹でてみる。 下準備は万端にして現在夕方。この『サッと炒める』ってどういう意味だろう?これ、じゃがいもに火が通っているのか、どうなっているのか全くわからない。 「……どうしたんだ?」 「ちょっとよくわからなくて――って、え!? ふ、郁斗さん! いつ、お帰りに……っ」「もう十分くらい前かな。一生懸命作っている様子だったし、声を掛けなかったんだけど困ってるようだったからさ」 「全く気づきませんでした。ごめんなさい、少しはお役に立ちたくて夕食を作ろうとしたんですけど全然で」 郁斗さんが帰ってきたことも気づかなかったなんて、ダメダメじゃないか。 「それは肉じゃが、かな。うん、ちょっと任せてもらってもいい?」 「え、はい。大丈夫です」 私はポジションを変わると、郁斗さんは慣れた手つきで鍋に入れていたじゃがいもとにんじんに玉ねぎを違うお皿に分けて一つ一つ取り出した。そして、順番に電子レンジに入れてスタートを押す。 「まだ、出汁とか入れてない?」 「はい。まだ調味料も入れてないです」 「わかった。まず、野菜このまま煮ると柔らかくなるまでに時間がかかるから電子レンジである程度熱通しておいたほうがいい。大体、二分か多くて三分」「そうなんですね……」「あとで煮込むから、じゃがいもは煮崩れしない程度で竹串が少し入る方がいい」 慣れた手つきで、電子レンジと同時進行でまだ加熱していなかった牛肉をさっきの鍋で炒めると違うお皿に移す。 そのまま、鍋にお酒とだし汁を入れて火が通った野菜たちを鍋に入れた。 「とても慣れてるんですね、料理……プロみたい」 「まぁ、一人暮らしも長かったからね。ツアー中は外食じゃなくて小さなキッチンがついた部屋で作ったりしていたから。何度か作れば出来るようになるし、料理は好きなんだ」 「そうなんで
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Chapter: 8.決意と挨拶 新居から走ること三十分ほどの所に月森家の本家がある。 月森家のお屋敷は、何回か改築されているが築132年ほどで明治十年ごろに建てられた日本家屋だ。本邸と別邸が存在しており、お稽古したりする和室や初生け式などの行事を行う大広間があるのが本邸で、別邸が家元一族が暮らしている家だ。今から向かうのは、別邸である。 「さぁ、百合ちゃん。行こうか」 郁斗さんにエスコートされながら、私は結婚して初めて月森家の門を潜った。玄関を彼が開けると、見覚えのある家政婦さんが出迎えてくださった。 「おかえりなさいませ。郁斗様、百合乃様」 「ただいま帰りました」 確か、名前はアキさんだ。 「アキさん、ありがとうございます。これから末長くよろしくお願いします」 「名前覚えていてくださったんですね、光栄です。これからは、一家政婦としてよろしくお願いします。大奥様方は居間でお待ちしています」 玄関で履き物を脱ぐと、玄関を上がりリビングのような場所に案内される。 ずっとこのお屋敷には出入りしていたがこの居間には、初めて入るのでなんだか緊張する。 「緊張しなくても大丈夫だよ。百合ちゃんは元から両親とも祖母とも仲がいいんだから」 「そうなんですけど……違うというか」 アキさんに案内され、居間の襖を開けるとそこは和室と洋室がいい感じに合わさったお部屋だった。 「いらっしゃい、百合乃さん。結婚式ぶりだね」 「はい。サクラお祖母様、式ではありがとうございました」 入ってすぐ近くにサクラお祖母様がいたので挨拶をすると、奥からひょこっとお義母様とお義父様、義弟の(綾斗《あやと)さんがいた。 「いらっしゃい、百合乃さん。式にはいけなくてごめんね」 綾斗さんは月森家の次男だけれど、華道はしていない。小さい頃はお稽古もやっていたらしいが、自分は仕事にできそうにないとバッサリと大学生の頃にやめた彼は今は普通に会社員をしていると聞いている。 「いえ、お祝いの品もくださって嬉しかったです」 「良かった。たってないで座って。兄さんもこっちに座ってよ」 「ありがとう、百合ちゃんも座ろうか」 綾斗さんと郁斗さんに促されて皆が座る場所に一緒に座れば、アキさんがお茶と和菓子を出してくださった。 「ありがとうございます、アキさん」 「……いえ。ごゆっくり
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Chapter: 7.挨拶 朝、温かい朝の空気を感じ目が覚める。ふと時計を見ると、もう九時だった。いつもより一時間以上遅い朝だ。 「あ、百合ちゃん。おはよう、起こしちゃった?」 「いえ、そんなことはないです。起きるの遅くてすみません」 郁斗さんは、もう服を着ていて朝から完璧に出来上がっていた。だから私も準備をしなくてはと思い、起き上がろうとすると少し身体がだるさを感じる。 「百合ちゃん、体は大丈夫?」 「は、はい……少しだるいですけど、大丈夫です」 彼と目線を合わせるのが恥ずかしくて目を逸らす。昨夜のことを思い出してしまいそうで、顔が熱くなる。 「モーニングはルームサービスを頼んでいるんだけど、いつがいいかな?」 「私はいつでも大丈夫です。あ、でも着替えはしたいです」 「じゃあ、十時くらいがいいかな。俺は朝食を頼むから、百合ちゃんは着替えておいで」 私は頷いて彼がここから離れるのを見送り、ベッドの近くに置いてある下着の回収をするために足を床に付けて立ちあがろうとした時、ふらっとバランスを崩しそうになる。すると爽やかなフローラルで甘い上品な香りに包まれる。これは……ネロリの香りかな。 「……っと、大丈夫?」 「ありがとうございますっ、ご迷惑を」 体力はある方だと思っていたのに、こんな腰が抜けちゃうみたいになるなんて。世の夫婦ってすごい。 「昨日は少し浮かれてやりすぎてしまったと反省してるんだ……着替えはカバンにあるんじゃないかと思ってもってきたよ」 「えっ、ありがとうございます。すみません」 私はお礼を言い、カバンを受け取ると鞄の中の上の方に入れていたワンピースを取り出した。 下着を付けてワンピースを着た。パッと着られるワンピースにしておいてよかったと心の底から思いながら着替えをした。 「百合ちゃん、ルームサービスは頼んだからそれまでゆっくりしよう」 そう言って郁斗さんがテレビの電源をつけると、そこに映っていたのはまさかの私たちだ。 昨日の会見と共に私たちの紹介がされている。 こんなに詳しくやらなくても……と思うが、有名な郁斗さんが結婚だもの特集するよね。相手が私で世間が私に対してがっかりしてないといいんだけど。 「どこもかしこも俺たちだね、今日は日曜日だから特集組まれる覚悟はしていたけど」 そう、今日は
최신 업데이트: 2025-04-16