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出産

Auteur: 伊桜らな
last update Date de publication: 2025-08-13 22:51:30

 入院して一ヶ月、私はやっと退院が決まった。

「清瀬先生、お世話になりました」

 無事に二十四週、妊娠七ヶ月となりお臍のあたりまでふっくらと丸みを帯びてきていて重みも感じられるようになった。ずっとお友達だったこのベッドともお別れだ。

「はい、次の検診待ってますね。そういえば清水川先生は?」

「今、車を取りに行っていて……そろそろ来ると思います」

 そんな話をしていると病室に本人が入ってきた。

「花耶ちゃん、車ロータリーに停めてきたよ。車椅子持ってきたから乗ろうか」

 伊誓さんは車椅子を持ってきていてそれをベッドの近くに置きロックをしてステップを外した。

「……ゆっくりでいいからね」

 背中を支えられながら車椅子に乗り移った。

「ねぇ清水川先生、それって自前の車椅子……だったり?」

「はい、もちろんです。家用も買いました」

「あはは、そうなのね? うん、まぁ先生がいれば安心よね」

 清瀬先生が苦笑いをしているのを見ながらも伊誓さんと一緒に病室を出た。病室から出て車が停まっているというロータリー近くに行くと前とは違う車が停まっていた。

「伊誓さん、車……」

「あぁ。変えたんだよ、高いと花
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    朝の光が障子を通して柔らかく差し込む。 花耶はまだうとうととしたまま、隣で寝息を立てる伊誓さんを見つめていた。寝顔は穏やかで、どこか少年のようなあどけなさを残している。 「……おはよう、花耶」 低い声で囁かれ、花耶は目を開ける。 伊誓さんはすでに起き上がり、窓の外の景色を眺めていた。 「おはようございます……」 花耶が小さく返事をすると、伊誓さんは振り返り、にっこりと微笑む。 「君と一緒にいると、朝の空気も特別に感じるな」 「私もです……伊誓さんと一緒なら、毎日が幸せです」 花耶は布団の中で体を伸ばし、伊誓さんの腕に触れる。手を絡め合い、互いの温もりを確かめるその瞬間、まるで時間がゆっくりと流れているように感じられる。 「……花耶、今朝は何を食べたい?」 「えっと……旅館の朝食、楽しみです」 「そうか。じゃあ一緒に行こうか」 二人は手をつなぎ、まだ静かな旅館の廊下を歩く。廊下の畳の感触や、朝の光に照らされる障子の温かさに、花耶は心が落ち着くのを感じる。 朝食の席で、二人は小さな笑顔を交わしながら食事を楽しむ。 「伊誓さん、昨日の夜……」 花耶は小さく言葉を切ると、恥ずかしそうに目を逸らす。 「うん? 何だい、花耶」 「昨日は……ありがとう、楽しかったです」 伊誓さんはにやりと笑い、花耶の手をそっと握る。 「俺もだよ。君と一緒にいると、何でもない時間さえ特別になる」 その言葉に、花耶は自然と頬を赤く染める。 朝食後、二人は旅館の庭を散歩する。 青空の下、花の香りが漂う庭園で、伊誓さんはそっと花耶の肩に手を置き、隣を歩く。 「こうやって二人で過ごす時間、もっと長く続けばいいのに」 「私も……ずっと、伊誓さんと一緒にいたい」 互いの言葉に笑顔を交わしながら、二人の距離はさらに縮まっていく。 そして、花耶は小さな声で「愛してます」と囁く。 伊誓さんは耳を赤くしながら微笑み、そっと唇を重ねた。 新婚旅行の朝は、甘く、柔らかく、そして濃密に二人の時間を包み込んでいた。  ***ラウンジでの穏やかな時間が落ち着きを見せる中、伊誓さんは花耶の手を取り、膝の上にそっと置いたまま、視線を深く合わせる。「花耶……今日、このまま君と二人きりでいられる時間を、もっと特別にしたい」その言葉に、花耶の心臓は跳ねる。胸の奥でじんわ

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    朝の光がカーテンの隙間から柔らかく差し込む。花耶は、まだ少し眠そうな目をこすりながら、隣で静かに寝ている伊誓さんの肩越しに小さく微笑んだ。陽咲はベビーベッドで眠っている。小さな胸が上下するたびに、花耶の胸も自然と温かくなる。 「……いいなぁ、この時間」 思わず呟くと、伊誓さんは眠ったまま小さな笑い声を漏らす。花耶は静かにベッドから抜け出し、陽咲のいるベビーベッドへ向かった。柔らかい毛布の中で小さく丸まっている娘を見つめると、胸の奥がじんわりと温かくなる。 「おはよう、陽咲……今日も元気だね」 そっと手を伸ばし、産毛の柔らかさに触れる。小さな手がふと花耶の指に絡まり、彼女は思わず笑顔になった。「もう、こんなに人を愛せるんだ……」と。 陽咲を抱き上げると、まるで小さな命全体を包み込むような気持ちになる。伊誓さんがまだベッドに横たわっている中、花耶は静かにリビングへと移動し、朝食の準備を始めた。パンを焼き、フルーツを切り、温かい紅茶をカップに注ぐ。そんな些細な日常も、今は愛おしい。 「花耶……起きてたのか?」 背後から低く柔らかい声が聞こえ、振り返ると伊誓さんが半分眠ったまま立っていた。少し髪が乱れ、まだ眠そうな瞳が愛おしくて、花耶は自然と微笑む。 「陽咲が起きちゃう前にちょっとだけ……朝ごはん作ってたの」 「そうか。ありがとう」 伊誓さんはそう言って、花耶の背中に手を回す。軽く抱き寄せられると、心がふわっと温かくなる。情熱的な愛というより、日々の小さな優しさが積み重なった穏やかな幸福感。それはまるで、ぬるま湯に浸かるような安心感だ。 「ねぇ、今日の予定って特にないよね?」 「そうだな……久しぶりに三人でのんびり過ごせそうだ」 伊誓さんはそう言うと、花耶の手を取り、自分の胸に軽く押し当てる。心臓の鼓動が伝わり、花耶は少し頬を赤らめる。「ぬるま湯のような愛……でも、これが一番心地いい」と、胸の中で呟いた。 朝食を済ませると、三人でリビングのソファに腰を下ろした。陽咲はすぐに母の腕の中で眠り、伊誓さんは花耶の手を握る。言葉は必要ない。ただ一緒にいるだけで、世界は完璧に思えた。 「花耶、今日はお昼に散歩に行くか?」 「うん、天気もいいし陽咲も気持ちよさそう」 小さな声で会話しながら、二人の手は自然と絡み合う。日常の些細な瞬間の中にある、互いを

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     出産してあっという間に一ヶ月が経った。そして今日は一ヶ月検診の日だ。「今日は検診の後、みんなここに来るって」「え、来てくださるんですか? お義母様もお義父様も?」「あぁ。兄さんも来るらしい。生まれてから写真しか見てない!って言っていた」 伊誓さんのご両親に会うのはこれで三回目だ。一度目は結婚の挨拶で、二回目は出産して数日後だった。それにお義兄さんとは安産祈願の後の食事会に会ったきりですごく久しぶりだから少し緊張する。だけど、よく考えたら望月家の親戚が集まる会のようだなと思う。「母も浩介さんも来てくれるって言っていたから会えるの楽しみです」「そうだな。じゃあ、検診に行こうか」 車の中で話をしながら病院に向かい、自分の診察券と陽咲の診察券を出して再来受付機に通すと先に陽咲の乳児検診のために小児科へ向かった。 一ヶ月の乳児検診では、身長や体重、頭囲、胸囲の測定に小児科医の診察だ。『清水川陽咲ちゃん、三番診察室にお入りください』 アナウンスが流れて、三人で入ると「こんにちわ」と言われた。「……こんにちわ。じゃあ測定していきますね」 小児科が終わると私の産後検診を受けるために産科外来に向かう。産科外来では妊婦健診の時のように尿検査と採血、体重測定をしてから中待合室で待った。はじめに清瀬先生の診察をしてもらう。「子宮も戻ってますね。花耶さん、これで産科は卒業になります」「そうなんですか。なんだか寂しいですね……」「私もとても寂しいです。だけどもし何かあったらいつでも来てくださいね」 診察後は助産師さんに母乳の出具合をチェックしてもらい、エジンバラ産後うつ病問診票というものを渡された。「これは皆さんにやってもらっているので、気軽に書いてみてね」 問診票というかアンケートのような感じで答えていくとすぐに終わり助産師さんに渡した。「じゃあ、もし何か不安なことがあればいつでも相談にきてね。赤ちゃんに関しては先生がいるけど、母体に関してはうちらの方が詳しいから。何かあったら、先生に連れてきてもらいなね」「はい。ありがとうございました」 順調に検診は終わり会計を済ませると、伊誓さんは車を取りに行くからとソファに座っているように言われて近くのソファに座る。「……よく寝てるなぁ」 陽咲は何度見ても可愛くて癒される。だけどこんな大きくなった子が自

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  • 結婚白紙にされた新幹線パーサーは、再会した御曹司ドクターに求婚されました。   絶対安静

     清水川さんとミナさんの言われるがまま、私は検診が数日前にあったクリニックに来ていた。「じゃあ、エコー見させていただきますね」 本当ならさくらファミリー総合病院に連れていきたかった清水川さんだったが、ミナさんに普段診ているクリニックさんに行く方がいいと諭され最終的にここになった。「……うん、赤ちゃんの心拍はちゃんと動いてる。ただ、切迫流産だと思うわ」 せっぱく、りゅうざん……?「あ、あの先生。赤ちゃんは大丈夫なんですか? 流産って……」「えぇ、大丈夫よ。さっき一緒に来てくださっていた助産師さんと医師が言っていた通り、一週間は絶対に安静するべきね。だから念のため、大きな病院で診てもらおうか……さくらファミリー総合病院に貴女搬送されたことあるのでそこにしましょう。今、連絡してみるから待合室で待っていてくれる?」「は、はい。分かりました」 大丈夫だと言われたが、流産という言葉が頭の中でぐるぐると巡りながらも「ありがとうございました」と小さく呟いて外に出た。外にはまだ、ミナさんと清水川さんが待ってくれたみたいで待合室の邪魔にならない場所で立って待っていた。「あ……ま、待っていてくださってありがとうございます」「そんなのいいのよ。とりあえず座ろうか」「はい……」 私はミナさんに背中を摩られながら近くの空いていたソファに座るとミナさんは清水川さんに何かをコソッと告げる。すると、清水川さんは処置室と書かれた部屋で看護師さんに声を掛けて何かを話し始めた。そんな様子を見ていると、ミナさんは話しかけてきた。「こっちの先生も連絡してるだろうけど、清水川先生が先に連絡した方がいいし、救急で搬送されるよりうちらが連れていった方が早いからね」「そうですか」「ええ、そうよ。それに安心して、清水川先生は今は新生児科医をしてるけど前は産科医だったんだよ」 ……え?「彼が研修医だった頃だけど。あの病院は周産期医療センターとしても認定されてるから、設備は万全。医師も看護師も助産師だってちゃんとしてる。大丈夫だからね」「で、でも私……」「今は不安かもしれないけど、まずは病院に行こう」 励まされても私の心は軽くならないまま、私は彼らに促されるままに先生から紹介状を貰い清水川さんの運転で病院へと向かった。 病院に到着すると、悪阻の時でもお世話になった佐倉先生が車椅子

  • 結婚白紙にされた新幹線パーサーは、再会した御曹司ドクターに求婚されました。   食事のお誘い

     あの連絡からようやく食事会か実現し会えることになったのは二週間後のことだった。お医者さんはやっぱりお忙しいらしい。「わ〜、やっぱかわいいね。そういう服!」「ごめんね、桃花。朝早く来てもらっちゃって」「ううん。久しぶりに花耶のことを着飾れてよかったよ」 今日は仕事用のメイクではなくちゃんとしたメイクをしようと桃花に来てもらいしてもらった。服もマタニティ服だけど、ブランドの可愛らしい服を買ってそれを着た。「でもやっと会えるね。今日は呼び出しとかないといいね」 本当にそうだよ。今まで、三回ほど約束したけどオンコールがあったり緊急手術で要請があったりと待ち合わせて一分で病院に行ってしまうこともあったし……今日こそはちゃんと話をしたい。「今日は迎えに来てくれるんだっけ」「うん、今日はちゃんと休み宣言してくるって言ってたから」「そっか。なら安心だね」 そんな話をしていると、スマホがピコンと鳴った。「来たみたいだから行くね」「じゃあ玄関まで送るよ」 彼女と一緒に部屋を出て下に降りると、この前よりラフの服を着た清水川さんがいた。「おはようございます、花耶さん」「おはようございます。今日は迎えに来ていただいてありがとうございます」「そんないいよ。俺のほうこそ、何度もドタキャンしてしまってごめんね」 挨拶を交わしていると、後ろにいた桃花も挨拶をした。「おはようございます。今日は花耶のことよろしくお願いしますね」「はい。お任せください」  一言二言話すと桃花は「行ってらっしゃい」と言い寮の中に入って行った。その後ろ姿を見ていると清水川さんにひとまず車に乗ろうかと誘われて車を停めてきたという場所に向かった。「車ってあれですか?」「うん、そうだよ。この前乗ったのは仕事用で、これはプライベート用」「そうなんですね……意外ですね、ファミリーカーなんて」「あはは、よく言われるよ。なんか好きなんだよね。後部座席倒すとベッドになるから旅行とかのとき楽だしいっぱい荷物詰めるんだよ。よくバーベキューとかキャンプやる時に重宝してる」 バーベキューするんだ……それも意外だ。それにキャンプも。すごいなぁ 清水川さんは車を開けると乗る時に手を出して支えてくれて楽に乗ることができた。「シートベルトはこれ。やってもいい?」「はい。お願いします」 そう言え

  • 結婚白紙にされた新幹線パーサーは、再会した御曹司ドクターに求婚されました。   両親への報告

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