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13.お茶会

Auteur: 伊桜らな
last update Dernière mise à jour: 2025-05-08 19:44:17

ドラマ撮影が始まって一ヵ月が経ち、放送第一回目が始まる日を迎えていた。宣伝で、茉縁さんと舜也さん二人が朝から有名な情報番組【月→(から)金までmorning】にゲストで出演していた。

『本日から始まるドラマ、“花明かり”から里谷茉縁さんと舜也さんがきてくださいました――』

アナウンサーが二人を紹介し二人も「おはようございます」と挨拶をしている。こうやってみると、本当に今日からドラマが始まるんだなぁと実感する。

『どんな話なんですか?』

『えー……私が演じる美咲は普通にいるOLは求婚され入籍直前で婚約破棄をされるのですが、日本舞踊に出会って日本舞踊に魅せられていく話です』

それから予告映像が流れる。

「百合ちゃん、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。郁斗さん」

私のいるテーブルの前にコーヒーの入ったマグカップが郁斗さんによって置かれる。さっきまでコーヒー豆の挽く音がしていたから彼が淹れてくれたのだろう。いつもならいい香りだと思うのに、今日は何故か香りがきつい、気がする。どうしてだろうか……

「このコーヒー百合ちゃん好きだって言っていただろう? だから買ってきたんだ」

「ふふ、ありがとうございます」

私はマグカップに口をつけ、一口飲む。香りは苦手だけど、相変わらず美味しい。

「そういえば、今日はお祖母様と約束してるって言っていたよね? 本家に行くのかい?」

「はい。もうドラマのお仕事終わっているのでテレビ局には今日は行かないので。それにお祖母様にお誘いをいただいて……ドラマが放送されるお祝いだって言っていました。でも郁斗さんはお昼はお仕事なんですよね?」

「うん。結婚式を挙げたホテルでパーティーがあるから会場ディスプレイを頼まれてね」

「そうなんですか、頑張ってくださいね」

郁斗さんはツアーが終わっても大忙しで、会場ディスプレイや展覧会の花に家元としてのお稽古とお仕事がたくさんある。本当は私が付いて支えるべきなんだろうけど私も忙しかったのは言い訳か……だけど、ドラマが終わったら師範の仕事は引き継いでもらい華道の方に力をいれていこうと思っているし彼のお手伝いもできるようになるだろう。

「本家行くなら俺が送って行くよ。顔を見せようと思ってるんだ」

「ありがとうございます、郁斗さん」

「全然。それより、百合ちゃん。調子悪
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