Share

Author: 美桜
last update Huling Na-update: 2025-06-24 16:15:30

「悠一」

奥のVIP個室。

直也が部屋に入ると、自然と皆が振り返り、ペコリと頭を下げる。

部屋の奥にあるバーカウンター近くの大きなソファは、彼の親友 那須川悠一の専用のようになっている。

直也が声をかけると、悠一は軽く手を上げた。

今日も彼はアルコール度数の低い酒を飲んでいる。

酔わない為でもあり、最近は子供の為でもある。

「今、1階に雪乃さんがいたぞ」

「……は?」

直也の言葉に悠一の片眉がピクリと動いた。

「誰といた?」

端的に訊かれて、直也も迷いなく答える。

「雪乃さんと、白川麻衣、あともう一人知らない女が一人と、男が2人」

「は?」

最後の言葉に過剰に反応する友人が可笑しくて、直也は言った。

「見に行くか?」

「いや…」

すごく気になるくせに、〝しつこくして嫌われたくない〟という心情が、実によく表れた表情をしていた。

悠一はポケットからスマホを取り出して、どうやら彼女にメッセージを送るようだ。

『楽しんでるか?飲みすぎるなよ』

何度か消しては入力して…を繰り返し、結局無難に送った。

しばらく待ってー

ピロン

着信の音にすぐさま確認した。

『ストーカーは犯罪よ!』

「………」

横目で全部見ていた直也がプッと吹き出した。

「ストーカーって……。雪乃さん、最高!」

くくくと肩を震わせて笑い、それを見て悠一はグラスを煽った。

「なになに?なんすか、楽しそうっすね〜。」

そこへ弟分の並木廉が近づいて来て、珍しく涙が滲むほど笑っている直也を見て、首を傾げた。

「何でもない」

悠一は不機嫌な声音だったが、雰囲気は悪くなかった。

「直也さん、なんスか?教えてくださいよ〜」

焦れったくて、弟分の特権で甘えてみた。

それに対して直也は頭を小突いてきて、悠一は無視していた。

いや、ちょっと拗ねてるっぽい。珍しい!!

廉は憧れの兄貴である悠一の、滅多に見ない表情に大興奮した。

「仲間外れはなしっスよ〜」

教えて教えて!何があってこんな感じに!?

急かす廉に、直也はやっと笑いを抑えて言った。

「悠一の奥さんが、悠一に〝ストーカー〟てー」

そこまで言って、直也の笑いがまた再燃した。

腹筋死ぬ…っ。

だがそれを聞いて、廉はムッとした。

「なんスか、ストーカーって。奥さん、酷いっスよ!自惚れてんスか!?」

そう本気で文句を言うと、途端にその場の空気がピリッとした。

「何だ?お前が雪乃の文
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • もう一度あなたと   ㉞

    『着いたわよ』メッセージが届いた事に気がついた並木廉が、VIP個室を出た。今日、彼と一緒に集まりに参加する予定の女が店に着いたというので、1階まで迎えに降りる為だ。彼は階段を降りながら、さっき耳にした長谷直也の言葉を思い出した。確か白井麻衣と、他にもいるって言ってたな…。廉がサッと1階フロアーを見渡すと、そのグループはすぐに目についた。今日の雪乃は最近までの姿と違っていて、長い黒髪を片側に寄せて一つに緩く纏め、その白くて細い首筋を露わにしていた。耳には派手すぎないピアスが煌めき、軽く揺れている。服もいつも着ていたような落ち着いた色あいのひらひらしたワンピースなどではなく、ミディアム丈の艶のある、黒のボディコンシャスワンピースだった。そこから伸びる細い脚は形も良く、彼女の引き締まったウエストラインから脚までの流れるような曲線は、そのスタイルの良さを際立たせていた。そこへ聞こえてきた白井麻衣の言葉に、面倒くさそうに答える雪乃。心配するなとただメッセージを送ることがそんなに面倒なのかよ!廉の苛立ちは舌打ちという形で表れた。それに反応して振り向いた彼女たち。だが廉の予想に反して、雪乃はじっと自分を見つめただけで次の瞬間、ふいっ…とその顔を背けたのだった。いい度胸じゃないかよっ。並木廉にとって〝那須川悠一〟という存在は神にも等しい憧れの、絶対的なものだった。そんな彼の弟分である自分もその他大勢の仲間たちからは特別に扱われる存在で、彼女たちのように無視していいものではなかった。廉は雪乃が悠一の〝妻〟であっても、まだ自分の方が敬われる存在であると信じていた。「まさか無視されるとはね。雪乃さん、あんた悠一兄の女だからってずいぶん調子に乗ってるみたいだけど、結婚早々こんなとこに男と遊びに来るなんて、呆れてものも言えないよ。まったく、ただのビッチじゃねぇか。あんたなんか、悠一兄に相応しくないよっ」「……」ざわついていたフロアー内が、BGMを残してシン…とした。雪乃は廉を冷めた瞳でただじっと見つめていた。麻衣は「こいつ終わったわね…」と思っていた。友香と男たちは、この突然の暴言にびっくりして目を瞬いていた。「なんも言い返せないのか?はっ!そりゃそうだよな!」廉は意地悪な目つきで雪乃を馬鹿にしていた。彼女があまりにも静かなので言いたい

  • もう一度あなたと   ㉝

    ピロン「……」メッセージを受け取った雪乃がまたもや顔を顰めているのを見て、麻衣は首を傾げた。「どうしたの?」「この人、本当にしつこいっ」そうブツブツ言いながら、雪乃は彼女にスマホの画面を見せた。「わ〜。優しい〜!いいじゃないっ。なにが腹立つの?」「わかんない?これって、私が今ここにいるって分かってて送ってきたってことでしょう!?」「ああ…」確かに。なんで知ってんの?監視でもつけてんのって感じね…。麻衣は苦笑した。「でも、愛されてるじゃん?」「……」愛?…ふん、冗談じゃないわっ。単に所有物扱いしてる女が自由にしてるのが気に入らないだけでしょ!雪乃は怒りを込めて、ダダダっと返信を打ち込んだ。『ストーカーは犯罪よ!』「………」やり過ぎじゃない……?麻衣は雪乃の返信内容を見て、ちょっとだけ悠一が可哀想になった。報われないなぁ…。学生時代、雪乃の親友だった麻衣は悠一の取り巻きに加わることなく、彼の周りの人たちのはしゃぎっぷりに、冷ややかな視線を向けていた。その頃の悠一は雪乃との接点がほぼなく、殆どの人が彼らに関係性などないと思っていた。だが、麻衣は気が付いていた。悠一は雪乃に対して無関心を装っていたが、いつもその視界に彼女の姿が入るようポジションを取っていた。噂になっていたのは彼女の妹の春奈とだったが、皆が何を見てそんな風に言っているのか、麻衣には分からなかった。だって、どう見ても悠一は春奈のことなんか無視していたし、視線すら合わせていなかった。例え彼女が背後霊のようにいつも悠一の後ろに付き従っていても、2人の間には山よりも高い壁があるように見えた。逆に、雪乃のことは常に意識していた。悠一にとって特別だったのはいつだって雪乃で、春奈なんかは友人ですらなかった。ただ家族同士の付き合いがあるだけの幼馴染。それだけだった。それに気が付いていたのは麻衣と、悠一の親友の長谷直也だけだったかもしれない。いや、もしかしたら春奈も気が付いていたのかもしれない。彼女の雪乃を見る瞳には、はっきりと憎しみが宿っていたから。「とにかくさ、帰りはうちの運転手に送らせるから、心配ないってメッセージ送っときなよ」「いいって、そんなのー」チッ!いきなり背後で舌打ちの音がして、雪乃たち全員が振り返った。そこにはどこかで見たことがあるよう

  • もう一度あなたと   ㉜

    「悠一」奥のVIP個室。直也が部屋に入ると、自然と皆が振り返り、ペコリと頭を下げる。部屋の奥にあるバーカウンター近くの大きなソファは、彼の親友 那須川悠一の専用のようになっている。直也が声をかけると、悠一は軽く手を上げた。今日も彼はアルコール度数の低い酒を飲んでいる。酔わない為でもあり、最近は子供の為でもある。「今、1階に雪乃さんがいたぞ」「……は?」直也の言葉に悠一の片眉がピクリと動いた。「誰といた?」端的に訊かれて、直也も迷いなく答える。「雪乃さんと、白川麻衣、あともう一人知らない女が一人と、男が2人」「は?」最後の言葉に過剰に反応する友人が可笑しくて、直也は言った。「見に行くか?」「いや…」すごく気になるくせに、〝しつこくして嫌われたくない〟という心情が、実によく表れた表情をしていた。悠一はポケットからスマホを取り出して、どうやら彼女にメッセージを送るようだ。『楽しんでるか?飲みすぎるなよ』何度か消しては入力して…を繰り返し、結局無難に送った。しばらく待ってーピロン着信の音にすぐさま確認した。『ストーカーは犯罪よ!』「………」横目で全部見ていた直也がプッと吹き出した。「ストーカーって……。雪乃さん、最高!」くくくと肩を震わせて笑い、それを見て悠一はグラスを煽った。「なになに?なんすか、楽しそうっすね〜。」そこへ弟分の並木廉が近づいて来て、珍しく涙が滲むほど笑っている直也を見て、首を傾げた。「何でもない」悠一は不機嫌な声音だったが、雰囲気は悪くなかった。「直也さん、なんスか?教えてくださいよ〜」焦れったくて、弟分の特権で甘えてみた。それに対して直也は頭を小突いてきて、悠一は無視していた。いや、ちょっと拗ねてるっぽい。珍しい!!廉は憧れの兄貴である悠一の、滅多に見ない表情に大興奮した。「仲間外れはなしっスよ〜」教えて教えて!何があってこんな感じに!?急かす廉に、直也はやっと笑いを抑えて言った。「悠一の奥さんが、悠一に〝ストーカー〟てー」そこまで言って、直也の笑いがまた再燃した。腹筋死ぬ…っ。だがそれを聞いて、廉はムッとした。「なんスか、ストーカーって。奥さん、酷いっスよ!自惚れてんスか!?」そう本気で文句を言うと、途端にその場の空気がピリッとした。「何だ?お前が雪乃の文

  • もう一度あなたと   ㉛

    バー『Shangri-La』「雪乃!友香!ほら、こっち!」店の中に入るとBGMに流れるジャズが耳に心地良く、雪乃は彼女と友香を呼び出した麻衣を探して、視線を彷徨わせた。そして2人を呼ぶ麻衣を見つけた時、彼女に侍る2人の男たちと目があった。一人はイケメンマッチョ。もう一人はアイドル系。2人共礼儀正しくはあるようで、雪乃たちにも軽くだが頭を下げて挨拶をした。「どうしたの?こんな所に呼び出して」尋ねると、彼女は「ん〜?」と首を傾げ、いたずらっぽく笑った。「たまにはいいじゃないよ〜。私たちには潤いが足らないわ!」「潤い……確かに」麻衣の言葉に友香が呟く。「何言ってるの?酔ってるの?」男たちは確かに粗暴な感じではなかった。だからといって、信用できるかといえば、それはまた別の話だ。雪乃が眉を顰めると、麻衣がふふっと微笑った。「大丈夫っ。この子たちはね、弟の友人なの。さっき、ここで偶然会っちゃって。ボディガード役やってもらってたの」「こんばんは」麻衣に紹介されて、アイドル系の彼がニコッと微笑って挨拶をした。「こんばんは」友香はそれを受けて、親しみやすい笑顔で挨拶を返す。マッチョな彼は無言で頭を下げただけだった。「心配しないで。彼らとどうこうしようなんて考えてないから。さっきのは冗談」「えぇ~冗談なんですか?」友香はけっこう本気だったらしく、残念そうに口を尖らせた。「当たり前でしょ。なんかあったら、あなたたちの旦那さまに顔向けできないわっ」麻衣が友香の頭をコツンと叩いて言った。「別にいいのに」「こらこら」どうやら友香にも何か夫婦間であるらしい。麻衣は知っているようだが、雪乃はそれを問いつめる気はなかった。自分も訊かれたくないから、訊かない。誰にでも事情はあるものだ。雪乃は、麻衣と友香、それから男の子たちが親しげに話しているのを黙って見ていた。『Shangri-La』この店は、1階から2階に行くのにエレベーターもあれば階段もある。白く美しい螺旋階段には足下に赤絨毯が敷かれ、ここを美しく着飾って優雅に歩くのが好きな女性もいる。その時は当然、彼女たちをエスコートする男性もいて、バーでありながら、どこか社交パーティーの会場を思わせる趣きだった。今その階段を上がって行く男が何気なく下を見回して、そこに親友の愛して止ま

  • もう一度あなたと   ㉚

    ピロンメッセージの着信を告げる音に、雪乃はスマホの画面を開いた。『マンションの住心地はどうだ?』その一文を見て、彼女は唇をひくつかせた。「やだ、ストーカー??」雪乃の呟きに、麻衣と友香は興味津々で彼女の手元を覗き込んだ。「あら~、旦那さんじゃないっ。やっぱ心配なのね〜」「いいですねぇ…。うちの旦那にも見習ってほしいです」友人2人に羨ましがられても、雪乃はちっとも嬉しくなかった。「だから、旦那じゃないってば…」「はいはい。そうやって冷たくしてると、いつか捨てられちゃうわよ〜」「……」もう捨てられたし…。雪乃はどうしても、前世での結婚生活を忘れることができなかった。わかってる。今の悠一は前とは違うって。でも前世あれだけ尽くしたのに、彼は自分に対して一瞬たりとも優しくなかったのだ。春奈に対しては何でも好きにさせてたみたいで、これでもかってくらいの溺愛っぷりだったのに、自分は彼にとってただの家政婦で子守りだった。そんな人生、もう繰り返したくない。今はもしかしたら少しは自分を好きになってくれているのかもしれない。でも、これからもそうだとは限らない。なんせ、今世もあの子たちがいるのだから…。彼は自分の子じゃないって言ったけど、どうだか…て感じだ。だって、自分の子供でもないのに籍に入れるなんて、それこそ愛してなければできない芸当だわ。雪乃はふんっと鼻を鳴らした。春奈たちが言い争いをしていた日、小野真里が仮眠を摂りに行っている間に悠一が子供部屋を訪ねてきた。「雪乃…?」そこにいた彼女に一瞬足を止めて、それから彼はそっとドアを閉め、子供たちの寝顔を見つめた。「雪乃、ちょっと話せるか?」そう言うと、彼女は「ええ…」と目の前にあるもう一つの椅子を指し示した。「起きないか?」眉を寄せると、彼女は小さく微笑んだ。「大丈夫よ。小声なら起きないわ。泣き疲れて深く眠ったから」「……」悠一はそう言う雪乃の優しい眼差しを見て、ふと思ったことを口にした。「ずいぶん、子育てに慣れてるんだな」「……たまたまよ」「……」答える気はなさそうで、悠一はため息をついてとにかく言わなければならない事を言う事にした。「雪乃、信じてほしい。まだ事情は言えないが、この子たちは俺の子じゃない。春奈とある男の子だ。」雪乃はちらと悠一を見て、小さく「そ

  • もう一度あなたと   ㉙

    「どうしたの?」去って行く母親の後ろ姿をじっと見送っていた雪乃に、麻衣が声をかけた。「ううん…何でもない……」気にはなるが彼女が言わないのなら、わざわざ問いつめる必要はない。雪乃は、自分だけが春奈や双子の事を知らされずにいた事を少なからず怒っていたので、あえてこれ以上彼らと関わろうとは思わなかった。「次は何を見る?」「ん~とりあえず、お茶しない?のど渇いちゃった」麻衣がレストラン街の方を指差しながら、ニコッと微笑った。「いいわね」雪乃は彼女と友香と連れ立って、最上階にあるレストラン街へとエレベーターに乗った。「雪乃の居場所はわかったか?」「はい。以前、結納品とされましたマンションにいらっしゃいます」「ふむ……」悠一は執事の小高だけでなく、秘書の真木にも雪乃の行方を捜させていたので、それも間もなくわかるだろうと思っていたのだが…。「あそこか…。ふっ、結納品を受け取るつもりはあったんだな」独り言のように呟いて、どこか嬉しそうに目を細めた。「迎えに行かれますか?」真木の問いに彼は「いや…」と答え、椅子の背にもたれかけた。「双子が寂しがるからな、出来れば戻って来てもらいたいが…。これ以上情を移されても困る。しばらくは好きにさせておけ」「わかりました。あ、でも……。」言いかけた言葉に、悠一が視線を上げた。「なんだ?」「はい。奥さまですが、どうやら仕事を始められるようです」「仕事?なんの仕事だ?」ピクリと眉が上がる。悠一は自分の妻が誰かに使われたり、苦労させられたりする事を良しとしなかった。彼女の身分を知らないからこそそんな風に扱われるのだから、早く彼女が自分の妻であり、最愛の女である事を知らしめたかった。自分の保護下で、好きなように生きてほしかった。つまり、彼女には自由でいてほしいが、だからといって遠くへ行ってほしくはなかったのだ。「デザイン事務所を作られました」「……?」パチパチと瞬きをした悠一の顔を見て、真木はほんの僅か微笑ってしまった。「なんだ?」「いえ」訝しげに眉を顰める表情も、以前とは違って凶悪ではない。いい傾向だ。最近の社長はとても人間味があってイメージもいいし、そのうち奥さまとメディアに出られるのも良いかもしれないな。真木は満足気に口角を上げた。悠一は真木にコーヒーを頼むとポケットから携

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status