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第679話

Author: レイシ大好き
まさにそのおかげで、あのチンピラたちはさらに一年、刑期を延ばされた。

清那は幼い紗雪の腰にぎゅっとしがみつき、嗚咽まじりの声で言った。

「紗雪がいてくれて、本当に良かった。

紗雪がいなかったら、私......どうしていいか......

こんなことに遭うなんて......あの時、私は本当に無力で......どうすればいいのか全然分からなかったの......」

紗雪は清那をしっかりと抱きしめ、何度も何度も優しく慰めた。

「大丈夫、清那。そばにいるよ。ずっと一緒にいるから。何があっても、離れたりしない」

清那は小さくうなずいた。

けれども、子猫のことを思い出すたびに胸が締めつけられる。

そして、ついに心の内を打ち明けた。

「......私、あの路地に入る時に、一匹の子猫に餌をあげたの。

でも......その子はそのあと、......私を助けようとして......あの人たちに......」

そこまで言うと、清那は言葉を詰まらせた。

どうしても、その先が口にできない。

あの悪魔のような連中が、あんなに可愛い子猫にした仕打ち。

その光景はまるでホラー映画のように、彼女の脳裏で何度もよみがえる。

子猫の亡骸の姿も、路地の中で起きた惨状も、清那には到底、直視する勇気などなかった。

十数年、平穏に生きてきた彼女にとって、あの夜の出来事は、人生最大の『災厄』と言ってよかった。

これまで経験したことのない恐怖に、清那の目には、あの男たちは青い顔に牙をむいた怪物にしか見えなかった。

清那は頭を抱え、子猫の死に様ばかりが頭に浮かんで離れず、息が詰まるほどだった。

あの子はまだ小さかった。

たまたま出会っただけなのに、命懸けで助けてくれた。

けれど、一部の人間は......人間と呼ぶ価値すらない。

そう思った瞬間、清那の頭の中は真っ白になり、紗雪の顔を見る気力すら残っていなかった。

紗雪は傍らに立ち、二人がしっかりと抱き合う姿を見つめ、胸の奥で静かに感慨を覚えた。

本当なら、あのまま警察署に残って黒幕を突き止めるつもりだった。

だが、後になって思う――

自分をここへ送り返したのは、ただ一箇所に張り込ませるためだったのか?

もう事件は起きてしまった。

今さら人を探そうとしても現実的ではない。

あれから何年も経っているのだ。

とっくに人
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