「スティール!!」
「なんですか、父上?まさか、もうナターシャが産気づいた?」
「そうだったらどんなに気が楽か。私はもう胃に穴が開くかと思った。この文を見ろ」
ルー侯爵は胃が痛かった。ついでに頭も痛くなってきた。
「なんですか?この文。いたずらですか?そんなわけないじゃないですか」
「お前はその目で見たのか?」
「ナターシャが“緑化”した美しい景色を見ました」
なんだか得意気にどんなにその景色が美しかったかを語り出しそうだったので、ルー侯爵は遮るように話し始めた。
「……はぁ、それが問題なんだ。何故勝手に税率を上げたりしたんだ?」
「それは、ナターシャが“緑化”を進め土地が増え、納税率があがったからですよ」
「ばかもん!!」
「ただ、土地が緑に覆われただけで、降水量は変わらないのだ。つまり、また砂漠にもどっている。どこにも肥沃な大地などない!加えて無尽蔵に“緑化”をするから、関係ない土地の水が不足し、領民が他の領地に移住している。隣はダマスス公爵家の領地だから何も言えない。
どうしてくれるんだ?」
「まさかそんなことになるとは……」
「ナターシャはどこにいる?お前との婚約など無効だ!」
「しかし!父上!ナターシャは私の子を妊娠しています」
「はぁ、お前はどこまで愚かなのだ。うちの子供がお前しかいないからお前は嫡男なんだが―――陛下と相談しようか……」
ルー侯爵は淑女のように気絶できたらどんなにいいかと思うが、この問題とは必ず向き合わなくては家門の存続に関わる。もう胃も頭も痛い。
「……陛下」
ついにスティールは事の重大さに気付いた。
旦那様は特に軍事に関わっているわけではないのに、なんであんなに逞しいのかしら?あんな抱きとめてもらうなんて…。……事故よっ、事故!「何を一人で赤面してるの?」「あ、サーラ。ちょっと気になる事があったのよ!」(さすがにサーラにも「どうして旦那様があんなに逞しいのか考えてた」とは言えない。そして、どうして逞しいのか聞きたいけど…ハズカシイ)「今日は夕飯までどうすれば?」「旦那様付きの侍女だもの。旦那様がいないんじゃお休みね。旦那様が帰ってくる前に起きれば昼寝だってできるわよ!」そういってサーラは私にウインクした。そっかぁ、昼寝、しばらくしてないなぁ。あれ?したことあったかな?よし、昼寝チャレンジ!!私は初☆昼寝☆をすることにした。まさか、翌朝まで寝てると思わなかったけど。旦那様が、疲れているのだろうってそのままにしてくれたらしい。朝、小鳥の囀りで目が覚めた。「マズい…昨日の夕飯前に起きる予定だったのに」「おはようございます、旦那様」「おはよう、リンドラ」朝からキラキラしい爽やかな顔ですね。「申し訳ありません!昨日から今朝まで寝てしまい侍女として恥ずかしい。やはり首なんでしょうか?」「人間味があるじゃないか。慣れない仕事で疲れていたんだろう?」旦那様はいつでも優しいなぁ。合掌。「コラコラ、拝まないでおくれ。今日は家での仕事になるから、よろしくな」わりと慣れ親しんだ仕事だから、わかる!動こう。そして体力をつけねば!今日も剣術の鍛錬ですね。これは何のためなんでしょう?「サーラ。なんで旦那様は剣術の鍛錬を日課にしてらっしゃるの?」「ここ、ダマスス公爵家は武術、特に剣術に特化した家なので、旦那様は幼少の頃より鍛錬を続けているのです」はぁ、なるほど。いやぁ、近いうちに戦争があるのかとか悪いことばかり考えちゃってた。それにしたって一朝一夕じゃ、剣術は上達しないよね~。はっ、仕事仕事。えーっとタオル準備オッケー。お風呂準備オッケー。着替えの支度もサーラがしてくれたみたいでオッケー。いつでも大丈夫です!まーた、色気全開で旦那様が鍛錬終了。旦那様って汗臭いとか、思わないんだよなぁ。汗が臭くない(ただし、イケメンに限る)なのかしら?「サーラ~、鍛錬終了直後の旦那様は水も滴るいい男って感じで色気がすごいですよね~。ただでさえイケメンな
サーラに聞いた。旦那様の鍛錬は日課なので、毎日風呂と着替え・タオルの準備をしなくてなならない。他には、執務に当たっている、旦那様に紅茶を入れて差し上げる。等。多岐に渡るものだった。紅茶を上手く入れる方法は正直わからないので、サーラに個人授業を受けることとなった。「茶葉の状態は見てわかりますけど、気温と湿度は経験です。こればっかりは回数をこなす以外にないですね。基本的な事は指導しますけど…」と、サーラの指導を受け、なんとか人並みにはうまく紅茶を淹れられるようになったと思う。旦那様の評価をいただこう。旦那様は今日も鍛錬をしている。色気が2割増し…。いいんだろうか?女として色気で旦那様の方がありそうだ。見惚れてしまった…。いけないっ。「旦那様!タオルをどうぞ!邸の方では既に風呂・着替えの支度が済んでおります」「おぉっ」旦那様に優秀な侍女だと思われたい!「風呂で疲れた時には紅茶でも必要な時は呼んでください」(侍女として有能だが、俺を男として見てくれているんだろうか?)私としたことが…躓いてしまった。ハズカシイ。「危ないじゃないか!大丈夫か?」「ハイ、ダイジョウブデス!」(胸板ー!筋肉逞しい!!旦那様は所謂細マッチョなの??)「今日は王宮から呼び出しがあったからそっちで仕事あるから。夕飯はここで食べる」「「わかりました。行ってらっしゃいませ」」はて?なんかあったのかなぁ?***********王宮には俺、ギジマクス伯爵、ルー侯爵が陛下に呼び出されていた。「陛下の助言通りに愚息のしでかし、ギシマクス伯爵の娘とうちの愚息は離れさせ、愚息は廃嫡しました。ギシマクス伯爵の娘との間には男児が生まれたのでその子を嫡男として育てています」へー、廃嫡したんだ。婚約も白紙にして。 「恐れながら、陛下この場になぜダマスス公爵がいらっしゃるのですか?」「ほう、そなたは知らないのか?そなたのもう一人の娘はダマスス公爵家にいる」「へ?」「元婚約者の行く末と今後どうなるのかという公爵家。とりあえず呼んだ。おかしいか?」「いえ、私が把握していなかっただけの事です」「話によると、娘を着の身着のまま邸から追い出した所を公爵が拾ったと聞いているのだが?」「めめめ、めっそうもございません」「そうなのか。まあいい。そのうち明らかになるだろう」「ル
ナターシャは無事男の子を産んだ。嫡男として、男の子は侯爵家に保護され、大事に育てられている。廃嫡されたスティールは貴族籍に残っているものの自分の息子の父親だが決して自分は嫡男にはなれない。そのままルー侯爵家に在籍している。ナターシャはギジマクス伯爵家に帰った。「なんで戻ってきた?出来損ないのリンドラなら着の身着のまま追い出した。侯爵家と縁戚関係になったと思ったのに」「なんかぁ、ナターシャのスキルでぇ、侯爵家に損害を与えたとかでぇ、妊娠してたんだけどぉ、子供は侯爵家に奪われて、スティール様は廃嫡されたしぃ、このまま侯爵夫人になれないなら意味ないから、帰ってきちゃった♡」「はぁ?侯爵家に損害?なんてことをしたんだ!ああ、謝罪に行かなくては!お前はこれ以上余計な事するなよ?」「リンドラいなくてつまらないし?マウントとって遊んでたんだけどなぁ」**************「この度は我が家から嫁に出した、ナターシャが侯爵家に損害を与えたそうで、誠に申し訳ございません!」「徐々に元に戻っては来ているが、元に戻るには何年かかるやら…」「そんなにひどい損害を…」「あ、こら、アーノルド!」「このしとだぁれ?」「アーノルドのもう一人のじぃじだよ」「じぃじ?」「そう、じぃじ」「私などが祖父を名乗っていいのですか?」「あなたに罪はありません。時々遊びに来てやってください。正直この子の体力に私一人だとついていけないんですよ。ははは」「じぃじ、えほんよんで~?」「その本、私はもう気が遠くなるほどの回数読みました」アーノルドと二人のじぃじはうまく生活していました。この輪にはスティールは入る事はできないのです。アーノルドが成人した際に紹介することになっている。
「は?私の領地内に『聖女様』がいると?」私は陛下に呼び出されて驚いた。リンドラのことだろうか?「なんだか噂によると、そのものが祈ると雨が降り、砂漠化していた土地が豊かになったという話なんだが?」「私の領地ですか?最近砂漠化していた領地が元の作物を作れるようになったという話を聞いたが、それは領民に灌漑事業を指示したからでは?」「しかし、肝心な雨が降らなくてはなぁ…」リンドラの許可なく彼女のスキルについて勝手に話すことはできないな。「噂ですから、陛下がまに受ける話ではないのではないでしょうか?」「うーむ、公爵がそういうならなぁ」**********「リンドラをここへ」私は急ぎリンドラを執務室に呼び出した。「リンドラ、先日砂漠化した領地をなんとかしただろう?それがなぁ、なんと俺の領地内に『聖女様がいる』という噂になっているという話を陛下から聞いた。もちろん、陛下にリンドラのスキルについて話してはいない」「『聖女様』ですか…。それはまた。ただのスキルなんですけどね」「しかしだなぁ、国がそのスキルを認めると利益のために使われる可能性が出てきた。軽々と使わせて申し訳なかった。今後はそのような事が無いように、仕事をしてもらおうと思う」「本当に掃除・洗濯でいいんですよ!」「あ、では私付きの侍女として働いてもらおう!俺はこれから、剣術の鍛錬を行うからタオルの準備、それから鍛錬後の風呂・着替えの準備を頼む」「わかりました!」なんて嬉しそうに仕事に取り組もうとするんだろう?魅力的だと思う。「旦那様」「うわっ、サーラか…。なんだ?」「なんだじゃありません。着替えの準備ってうら若い乙女に旦那様の下着などを準備させるのですか?」これは失態。「サーラ、急ぎ代わりに準備を頼む!」「旦那様、これでも一応うら若き乙女なんですが。はぁ、わかりました」サーラは急ぎ準備をした。「サーラも旦那様に仕事を?」「まぁ、そんなところね」「お風呂の準備ってどうすればいいのかしら?サーラ、教えてもらえる?」「いいですよ、そのための私でもありますから」その後お風呂を準備し、タオルも準備した。タオルの場所も把握。後は旦那様の側に行くのみ!「お疲れ様です!旦那様!」なんか旦那様は汗で濡れて、水も滴るってやつなんですけど。いつもより色気が2割増し!「きっちりお風
「リンドラ様の最初の仕事が決まりました!」「サーラ…。ここの所ずーっと仕事が無くて暇だったのよ?私は掃除でもなんでもするつもりなのに……」「リンドラ様の最初の仕事は、旦那様の領地に砂漠化してしまったところがあるんですけど、そこに行って、雨を降らすことです。同時に砂漠化によって仕事を失った人達に灌漑事業も進めるので、砂漠化が起こらないようにするのです」「雨を降らせてる間、その領地に私もいなきゃいけないんだけど?」「もちろん、このサーラもお供しますし、護衛もつきます!」公爵家の護衛は最強です!なんせあの旦那様直属の部下ですから!後日、私とサーラと護衛達は砂漠化してしまった土地へ行った。「あー、太陽が照り付けていますねぇ、これは干上がりますよ~」と、のん気な護衛さんが言う。「鎧がアツイ。鎧で目玉焼きが出来そう……」兵士さんって大変だなぁと思った。 「では、リンドラ様。お願いします!」「スキル“降水量調節”。土地が潤えばいいなぁ」スコールのように雨が降り出した。焼け石に水のように護衛さんが装備している鎧からジュ―っと水蒸気を上げている。しばらくして、護衛さんの装備からも音がやんだ頃、砂だった大地が土になった。「これでいいかな?“灌漑事業”が終わるまで、滞在した方がいいわよね?また干上がってはいけないし」サーラは超特急で灌漑事業を進めるように指示を出した。護衛の方も数人灌漑事業の方に借りだされていた。私は天候を調整しながら、土壌の状態と灌漑事業の進み具合を見て降水量も調節していた。数日後、本当に突貫工事という感じで灌漑事業が終わった(というか終わらせた)。試しに、試運転という事で、降水量が全くない状態をつくってみたりしたが、大地に影響はなかった。これなら、大丈夫かな?という事で私とサーラと護衛達は帰路に着いた。灌漑事業はより完全なものにするために続けるらしい。まだまだ作物を育てるって感じの土地ではないし。そうだよね。「公爵様、ただいま帰還しました」と、帰還報告と私の仕事具合の報告をした。「それから、私は掃除とか洗濯とか使用人がすることで構わないんですけど?」「俺が構う」うーん美しい顔の人に言われると、勘違いしそうです。「そうですか」「ご苦労様。疲れただろうから、部屋でゆっくり休むように!」「ありがとうございます」
「リンドラは元気になったか?」「はい、おかげさまで。ひいてはこの御恩、私は行く当てもありませんし、是非この邸で雇っては頂けないでしょうか?」リンドラの容姿はストレートの黒髪で深い緑の瞳。真っ直ぐな瞳で言われると断りにくい…。「そのストレートな髪と同様の真っ直ぐに意志の強そうな瞳で言われると断れないなぁ。では、サーラについて仕事をするといい。サーラ!」公爵はリンドラに仕事をさせる気などさらさらなかった。「サーラ、リンドラは私に好意を持ってくれないだろうか?」「そうですね。今はリンドラ様が伯爵家で、旦那様が公爵家という爵位の差でまったくそのような感情は持ち合わせていないかと思います」「そうかぁ」公爵は肩を落とした。「旦那様、そのように目に見えて気を落とされては今後リンドラ様が旦那様を狙う刺客に狙われかねません。気を付けて下さい」「あぁ。俺もガードしよう」「旦那様はお強いですからね」「さて、リンドラ様にはどのような仕事をしてもらえばよいのでしょう?」「困ったなぁ。領地で、砂漠化しちゃったところがあっただろう?そこに雨を降らせてもらえないかな?」「単純に緑化事業ですと、ルー侯爵家と同じことになりますけど?」「同時進行で、砂漠化により仕事を失った領民に灌漑事業をしてもらう。それにより、降水量に関わらず水源を確保できるようにしたい」「なるほど。そのようにリンドラ様に伝えたいと思います」「あ、ルー侯爵家の話はしないように頼む」「わかっております。まずは旦那様、尊敬の念を持っていただけるといいですね」
クリスデン=ダマスス公爵はルー侯爵が陛下に相談をする場に同席していた。(やはり…令息のスティールがやらかしたのか…)「もう私はどうしたらいいものかと陛下に奏上している次第です」その時点でお家おとり潰しだと思うんだけどなぁ。「まず、スティールは嫡男として相応しくないと考える」「はっ、廃嫡をします」「しかしだ。ルー侯爵家自体は昔から王家に忠誠を誓ってくれているよい家臣だと考えている」「もったいなきお言葉」「その女の子供だけをルー侯爵家に残すことはできないのか?」「まだ産まれていませんので、なんとも……」「その子供はルー侯爵家の血筋を引いている子供に間違いはない。男の子なら即嫡男に、女の子ならよき婚約者に侯爵家を継いでもらうのが良いと思うのだが?」「そのように動きたいと思います。一家臣の相談に乗っていただき誠にありがとうございました!」しかし、リンドラの義妹も共にしでかしたことだな。リンドラには言わないようにしよう。ルー侯爵家の今後も注視しよう。ルー侯爵は自宅に帰ると即外部から鍵のかかる部屋にナターシャを押し込めた。「父上!あまりにひどいのではないのですか?」「陛下のお考えだ。お前は廃嫡する。もう、嫡男ではない」「では、この家は誰が継ぐのですか?」「ナターシャの腹の子が男の子なら、その子が継ぐ。女の子なら、その子が優秀な男を輿入れさせる。これは陛下のお考えだ。間違ってもナターシャと駆け落ちみたいな真似はするな。これ以上この家に泥を塗るな」そう言ったのに、夜中にナターシャの部屋の前に鍵の束を持ってスティールは現れた。「この鍵も違う、この鍵も違う、この鍵も違う…………」中では「え?ドアがガチャガチャ言って超コワイ。軟禁されてるけど、この部屋はこれはこれで快適なんだけど。侍女がいないのがなぁ」「あ゛ー、全部鍵が合わないんだけど何でだよ?」当然スティールの行動の先を呼んで侯爵が肌身離さず鍵の束を持っていた。扉の前の声を聞いて、「ああ、スティール様?どうしてこんなことになったんでしょう?」「俺にもよくわからない。俺達がやった緑化事業が裏目に出たようなんだ」「なぜかしら?」(私のスキルは完璧なのに!)「このままだと、君は子供を産んだ後子供を侯爵家に取り上げられる。俺はそれが納得いかないから君と家を出ようと思っている」「え?ステ
「スティール!!」「なんですか、父上?まさか、もうナターシャが産気づいた?」「そうだったらどんなに気が楽か。私はもう胃に穴が開くかと思った。この文を見ろ」ルー侯爵は胃が痛かった。ついでに頭も痛くなってきた。「なんですか?この文。いたずらですか?そんなわけないじゃないですか」「お前はその目で見たのか?」「ナターシャが“緑化”した美しい景色を見ました」なんだか得意気にどんなにその景色が美しかったかを語り出しそうだったので、ルー侯爵は遮るように話し始めた。「……はぁ、それが問題なんだ。何故勝手に税率を上げたりしたんだ?」「それは、ナターシャが“緑化”を進め土地が増え、納税率があがったからですよ」「ばかもん!!」「ただ、土地が緑に覆われただけで、降水量は変わらないのだ。つまり、また砂漠にもどっている。どこにも肥沃な大地などない!加えて無尽蔵に“緑化”をするから、関係ない土地の水が不足し、領民が他の領地に移住している。隣はダマスス公爵家の領地だから何も言えない。どうしてくれるんだ?」「まさかそんなことになるとは……」「ナターシャはどこにいる?お前との婚約など無効だ!」「しかし!父上!ナターシャは私の子を妊娠しています」「はぁ、お前はどこまで愚かなのだ。うちの子供がお前しかいないからお前は嫡男なんだが―――陛下と相談しようか……」ルー侯爵は淑女のように気絶できたらどんなにいいかと思うが、この問題とは必ず向き合わなくては家門の存続に関わる。もう胃も頭も痛い。「……陛下」ついにスティールは事の重大さに気付いた。
う…うーん、私は確か路上で倒れて……。ん?ここはどこなの?ふかふかのベッド。天蓋付きだし。そこらに無造作に置いてある調度品もおそらく一つ一つが高級品。いったいここはどこなの?「目覚めましたか?お嬢様。こちらはダマスス公爵家となります。私はそこの侍女のサーユと申します」ダマスス公爵家……ひえぇーっ、私なんかが足を踏み入れるようなおうちじゃない。超名門じゃない!確か、現当主様は銀髪で緑眼。二つ名が“氷に生きる新緑の貴公子”。早くお暇しないと…あ、私は帰る場所がないんだ。―――ここで雇ってもらえないだろうか?「目覚めたかな?」うわー!本物現る!!噂に違わぬ美貌!肖像画はないの?「俺の名前はクリスデン=ダマスス。この屋敷の当主をしている」「はい。私は…ギジマクス伯爵家の長女のリンドラ……だったんですけど……お父様から出ていけと言われ、着の身着のまま放り出されました」「雨にさらされなくて運が良かったな。雨に当たっていたら、肺炎などにかかっていたやもしれんぞ」ギクッと体がこわばった。のを公爵様は見逃さなかった。「雨に当たらなかった理由でもあるのか?」―――この人なら大丈夫!―――「実は、私はスキルで降水量を調節できるのです」「ほう」「これは自然の摂理に逆らっているので、多用するべきではないと亡くなった母に言われていて、私はスキルを持っていないことにして今まで生活してきました。私のスキルを悪用しようとする輩がいるかもしれませんから」「なぜ、俺に話したのだ?」「何故でしょう?公爵様は私のスキルを悪用するような方ではないと思ったからです。路上で倒れている私を親切にも屋敷内に入れてくれましたから。スパイの可能性だってあったでしょう」ボロボロの服でお腹を鳴り響かせているスパイっているのかな?「今日のところはここまででいい。体力も落ちているだろうし、食の方はまずはお粥からだな。突然固形物をお腹に入れるのはお腹に悪いからな」私は少しづつ体力を回復させていった。その間にどうやら公爵様はギジマクス伯爵家での私の扱いを探偵に調べさせていたみたい。「報告書を寄越せ」【ギジマクス伯爵家では数年前に連れ子付きでの再婚をした。それからというもの、妹のナターシャが家族に可愛がられ、姉のリンドラは虐げられていた。理由は「ナターシャはスキル持ちだから」。リンドラは自分