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第508話

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一方で、月子はそう言って、復讐の快感に浸ることはなかった。ただ、当然のことだと思っただけだ。

静真がよりを戻したがっている?また家政婦代わりにされるために戻れだと?自分だってバカじゃないんだから、そんなの、絶対に嫌よ。

離婚しただけでは、静真は諦めないだろう。だって彼女はまだ独身だし、隼人とは結衣のために付き合ってるフリをしてるだけだから、この先公表することもないだろう。しかし、月子は静真に対して我慢の限界にきていた。

静真には権力でかなわない。彼が使える人脈は彼女にはない。だから、彼に対抗できる人と組むのが一番の近道だった。それで隼人に協力を頼んだ。

それは、静真と比べたら、彼女は完全に不利な立場に立っていたから、命を守れる方法は限られていたのだ。だから、彼女もせっかく見つけた命綱を、逃すわけにはいかない。

もしかしたら、隼人は最初から彼女を狙っていたのかもしれない。

でも、彼女からすれば、それも結果的には狙い通りなわけだ。

静真をこれほどまでに苦しめる男は、他にいないのだから。

隼人が静真に対して抱く嫌悪感は、彼女が関わっていなくとも、変わらないだろう。

それを考えると、彼女が今、隼人とこうして付き合うようになったのも必然なことなのかもしれない。

そう思うと月子は幾分か心強くなった。自分は一人じゃない、隼人がいるのだ。

だから、静真が偏執的だろうと、もう関係ない。月子も我慢せずに、意地悪を言ってみたかった。それも、とことんね。

長い間、月子はずっと自分を抑えてきた。でも、静真がついに彼女の中の何かを解き放ってしまった。

車はきらびやかなG市の街を走り続けていた。最終目的はどこなのか、月子には分からなかった。しかし、今の彼女は何かが変わったように、静かな顔で黙っていた。

きっと無事にここから離れられる。彼女はそのチャンスを待てばいいだけなのだ。

一方、静真は大きなショックを受けていた。

月子は彼を罵ったわけでもなかったし、入江家の屋敷で見せたような攻撃的な態度でもなかった。しかし、その言葉は今までにないほど鋭く、静真の心に深く突き刺さった。

あまりにもの衝撃で、彼はとっさに反応できなかった。

これは本当に、あの月子が言った言葉なのか?

激しい苦痛に静真は耐えられなかった。それは、今のこの出来事だけではない。幼い頃からずっと、隼
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