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第259話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
真夕の華奢な身体が床へと崩れ落ちそうになるのを、司の腕が彼女の柔らかな腰をしっかりと支えた。

彼の熱いキスの中で、彼女はとろけてしまいそうだった。

司は彼女の服のボタンに手を伸ばし、低くかすれた声で尋ねた。「ゴム、ここにあるか?」

真夕は首を振った。ない。

「千代田くんに持ってこさせる」と、そう言って司はスマホを取ろうとした。

真夕は慌てて彼を止めた。彼にとっては清にコンドームを頼むのは普通のことかもしれないが、彼女にとっては、それ以後清の顔をまともに見られなくなってしまうほど恥ずかしいことだった。

「やだ……」

司の薄い唇が彼女のうなじに落ち、さらにその下へとキスをしていった。「やだって、何が?」

彼の短い髪が彼女の顎に当たり、ちくちくとした痛みに混じってくすぐったさもあった。彼女は小さな両手で彼の髪を掴み、押し返すようにして言った。「司、ダメ……」

彼女は頭の中が混乱している。彼とまた関係を持つなんて、今日の出来事があまりにもめちゃくちゃだった。

司は彼女にキスしながら囁いた。「ほしい、真夕」

真夕。

あの夜も、彼はこんな口調で自分を呼んだ。真夕、と。

真夕の頬は赤く染まり、司の髪を掴んでいた手はゆっくりと力を失い、彼のしっかりした肩に落ちた。そのまま彼の首に腕を回し、抱きついた。

司は片手を伸ばし、スマホを取ろうとした。

「やだ……今は……安全日だから、妊娠はしないよ……」と、彼女のか細い声は今にも壊れそうだった。

司は唇の端を上げ、再び彼女をキスし始めた。

……

夜も更けた女子寮の廊下に足音が響いた。隣の子たちがデートから帰ってきたようだった。

「ねえ、なんか音聞こえなかった?」

「どんな?」

「ベッドがギシギシしてる音……みたいな?」

「えー?全然聞こえなかったよ、気のせいでしょ。早く入ろ」

皆クスクスと笑いながら部屋に入っていった。

桃色のハート柄のシーツの上に、司は清潔感のある白いシャツを羽織っていた。シャツのボタンは一つだけ止められており、緩く開いた隙間から彼の腹筋が覗いた。彼の細長い目元は赤く染まり、真夕は彼の上に座っている。司は大きな手で彼女の柔らかな腰を掴み、かすれた声で優しく囁いた。「大丈夫。もうみんな部屋に入った」

黒く長い髪は乱れており、真夕の白く柔らかな肌にまとわりつき、あまりにも艶やか
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