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第676話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
真夕は立ち上がろうとした。

しかし、その瞬間、司は真夕を抱きかかえたまま数歩後ろに下がり、真夕の柔らかな腰が洗面台にぴったりと押し当てられた。司は真夕を洗面台と自分の胸の間に閉じ込めるように立った。

真夕はまつげを震わせながら抗議した。「堀田社長、何するつもり?放して!」

真夕は両手を彼のたくましい胸に当て、司を押しのけようとした。

しかし、司は真夕を抱きしめ、彼女の体を自分のほうに押し付けた。薄い服越しに、二人の体はぴったりと密着した。司はかすれた声で言った。「真夕、動くな」

真夕の体がぴくりと固まった。司の体の変化に気づいたからだ。

真夕の小さな清麗な顔が一瞬で真っ赤に染まった。「あなた……何をしてるの!」

司「俺は何もしてない。ただの生理現象だ!俺、男だろ。この三年間ずっと独り身で過ごしてきて、美人を目の前にして、反応がない方がおかしいだろ?」

真夕の顔はますます赤くなり、不安そうに身をよじって言った。「放してよ!」

「これ以上動いたら……俺、本当に何かしちゃうかもよ」

仕方なく、真夕は動きを止めた。

司は彼女の小さな顎を軽くつまむと、顔を近づけ、その赤い唇にそっとキスを落とした。

……んっ!

真夕はとっさに司を突き放した。「私たち、事前に決めたはずよね?お互い干渉しないって!これ以上続けるなら、今夜はもうここに泊まらないわ!」

真夕の強い抗議に、司はようやく彼女を解放した。「分かった、もう何もしない。シャワー行ってきて」

真夕はさっと数歩離れ、司と距離を取った。

その時、ノックの音がした。外から清の声が届いた。「社長、女性用品が届きました」

司は休憩室のドアを開け、清からある手提げ袋を受け取った。「ご苦労。下がっていい」

「はい、社長」

司はドアを閉め、袋を真夕に渡した。「ほら」

真夕はそれを受け取った。「どうも」

袋を開けると、中には新しい女性用アメニティが一式揃っている。真夕はまずパジャマを取り出したが、すぐに表情が変わった。

「あなた、これ何のつもりなの!どんなパジャマ買わせたのよ!」

司は何のことか分からなかった。「どういうこと?」

真夕は怒りに任せ、袋から取り出したパジャマを司に向かって投げつけた。「自分で見ろ!」

司はすぐにそれを受け取った。手にしたパジャマは、なんとセクシーランジェリーだった。布
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