凛は落ち着いて前を見つめ、「あのゴシップは全部デマよ。あなたもあの世界にいるんだから、芸能ニュースサイトがデマを飛ばすのが好きだって知ってるでしょ。面白がって騒ぎ立てるのが大好きなんだから」と言った。「そうなの?」志穂は顎に手を当て、「確か昔、霧島さんが記者の前で告白したんじゃなかったっけ?」と言った。「......」凛は一瞬言葉を失い、「それには事情があるの。とにかく、あなたたちが考えているようなことはない」と言った。志穂はそれ以上問い詰めることはせず、腕を組んで独り言のように、「そうね、もし本当に霧島さんと何かあったなら、あなた、今頃私の隣に座ってないわよね」と言った。「加賀家
スタジオ。「お疲れさま!良い週末を!」「今日は早く上がれたな!新記録だ!」「凛さんのお心遣いのおかげだな!」「......」皆が談笑しながら片付けをしている。スタジオ全体が楽しい雰囲気に包まれている。凛は皆に挨拶をしてから、笑顔で志穂の方へ歩いて行った。「志穂、待たせてごめんね」「ううん、別にずっと待ってたわけじゃない」志穂は凛の手を取り、微笑んだ。「さあ、行こう。もう、みんなにはちゃんと指示出しといたから。 今日は誰にも邪魔させない。今、私は社長じゃなくて、ただあなたの志穂よ。素敵なレストランを予約したの。美味しいものを食べて、ゆっくり話しよう」「わかった。じゃあ、ちょっ
「本当に鈴木エンタ一テイメントの社長なの?」凛は信じられない様子で尋ねた。志穂は頷いた。「どう?社長の私のお願いだから、私の事務所のタレントに素敵な写真を撮ってくれない?」「あなたじゃなくても、精一杯撮るよ」「相変わらずね」志穂は軽く笑った。「頭の中はカメラの事ばかりで、全然世渡り上手じゃないんだから」凛は微笑んで、志穂を上から下まで見回した。記憶の中と違い、志穂はずいぶん大人っぽくなり、目元には凛とした気品が漂っていた。彼女のショートヘアに視線を落とし、少し残念そうに言った。「志穂、あんなに綺麗な髪を切るなんて、もったいない」志穂は軽く眉を上げた。「あなたを見習ったのよ。昔のあな
1時間が経ち、会議が終わった。凛は額に手を当てて目を閉じ、他のメンバーが会議室を出ていく足音を聞いていた。次第に、室内は静かになった。「明日、本当に仕事に行きますか?」問いかける声を聞き、凛は目を開けて視線を向けると、渚が少し離れたところに立っていて、奇妙な目つきでこっちを見ていた。凛は軽く笑い、「明日は平日よ。仕事しないで、休みを取るの?」「明日......」渚は眉をひそめ、言葉を濁した。凛は書類を片付けながら、何気なく言った。「明日は霧島家と加賀家の顔合わせだってことは知ってる」渚はハッとして、思わず口にした。「じゃあ、叔父さんに会いに行かないんですか?」「会いに行って
聖天の答えは至ってシンプルだった。凛は軽く息を吐いた。「ということは、ずっと寝ていたってことですね?」「いや、半分は車の中で騒いでいた」聖天は淡々と言った。「騒いてました?」凛は唾を飲み込んだ。「どんな風に?」聖天は凛を見つめ、目尻に笑みが浮かび、気だるげな口調で言った。「金持ちになる、大金持ちになって、名家になるって」凛は再び息を吐いた。「お金を稼ぐことですか......やっぱり、私は欲の皮が突っ張った人間ってことですね......」「君は俺と結婚すると言った」それを聞いて、凛は目を丸くし、信じられないといった様子で「私が言ったのですか?」と聞き返した。「ああ」「.....
翌日。凛は日差しの中で目を覚ました。頭が割れるように痛む。思わず息を吸い込む。「うっ......」彼女はこめかみを強く押さえながら、もう一方の手でスマホを探り当て、画面を点灯させる。すると、美雨からの不在着信とメッセージが表示された。時刻は既に午前10時半。なんと24時間近くも寝てしまっていた。凛は呆然とした。あの甘ったるいお酒は、こんなにも後を引くものなのか。完全に記憶が飛んでしまっている。個室を出て、翠と話したところまでは覚えているが......何を話したかすら思い出せない。どうやって家に帰ってきたのかも、全く記憶にない。凛は頭の中がぐちゃぐちゃだ。苛立ちを抑えきれず髪をかき