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第1399話

Author: 夜月 アヤメ
頭がガンガンする。昨日はかなり酒を飲みすぎた―

気分が沈んでいたせいで、ついグラスを重ねてしまった。

ベッドの上の若子は、まるで魂の抜けた人形みたいに、虚ろな目をして横たわっている。

西也はそっと彼女の髪に手を伸ばして優しく撫でると、そのまま浴室へ向かった。

昨夜は帰宅して、そのまま風呂も入らず寝てしまったから、今朝は歯を磨き、シャワーを浴びる。

体を拭いて、ベッドに戻り、若子を再び抱きしめた。

「若子、もうここまで来たんだから、何をしても変わらないよ。

せっかく来たんだから、ここで落ち着いて暮らしたらどう?この国も意外と綺麗だよ。一緒に外へ散歩しよう」

その声は、まるで恋人に囁くように甘かった。

でも、若子は反応しない。

まるで死んだみたいに、じっと動かない。

西也はさらに続ける。

「ずっとベッドに縛られたまま過ごすつもり?どこまで意地を張るつもりなんだ?

若子、洗面所で顔を洗って、歯を磨いて、ランチでも食べよう。そのあと外に連れて行ってあげる。今から手の紐を解くから、変なことはしないでくれよ?」

若子が何も答えないので、勝手に了承されたことにして、西也は手早く紐を解いた。

彼女の手首の傷跡を見たとき、西也の胸がぎゅっと痛んだ。

以前、手錠で繋いだときにできた傷が、まだ治りきっていないのに―今度は紐で縛ったせいで、余計にひどくなっていた。

こんなこと、本当はしたくなかった。でも、彼女は大人しくしてくれない。

もし少しでも言うことを聞いてくれたら、こんな乱暴なことはしなくて済むのに―

西也は、痛む胸を抑えるように目を伏せた。

苦しくて、申し訳なくて、けれどそれでも、彼はこれをやめるわけにはいかなかった。

手を解いた瞬間、若子はベッドから逃げ出そうとした。

だが西也がすぐさま腕を掴み、ベッドに押し戻す。

「若子、落ち着いてって言ったろ?紐を解いた途端、逃げるなんて。そんなことしたら、また縛ることになるだろ?」

若子は何も言わず、顔をそむける。

西也は片手で若子の手首を押さえ、もう一方でスマホを取り出した。

ある動画を開き、それを彼女の目の前に突きつける。

画面には、あの可愛い随くんの笑顔。

地面に座って、手を叩いて笑っている。

その瞬間、死んだようだった若子の目に、ようやく命が戻った。

西也は動画の音量を最大
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Comments (4)
goodnovel comment avatar
nami
荒れたコメ欄! 何度も同じ様な文句を延々タラタラと長文で書くんだったら読まなきゃいいのに…
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barairose88
治外法権へと逃れた西也… 正直、どうぞお連れください!もう帰ってこないで!が今の心境です。 そして若子、自業自得、あなたさえ身を引けば一切問題ない! このまま優しい修と無垢な暁ちゃんに一切関わらないでください。 この2人の微に入り細に渡るやり取り…気持ちが悪く、まったくまったく興味がありません。  後悔だの、憎しみだの、2人揃ってのその独りよがりの心情など延々と続き、辟易!もう読みたいとも思いません。 でも書き手の方は、過去の流れからすると、まだまだ暫く西也ターンを書き続けるのでしょうね。 この展開も限界かな…
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シマエナガlove
修と暁ちゃんに危害加えて欲しくないから 遠藤はどうぞ若子拘束して自殺しないように しっかり見張りつけて 絶対帰国するなよ
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