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118.啓介の挨拶、解きたい誤解

last update Last Updated: 2025-07-18 19:03:29

会社の創立を祝う映像が終わり会場には温かい拍手が響き渡った。これでパーティーは終わりのはずだった。

しかし、どこからともなく「最後に社長の言葉で締めてください!」という声が聞こえた。

その声に呼応するように周りからも拍手が起こる。「社長!」「社長!」と数人が声を上げ、気づけば会場のほとんどの社員たちが俺に視線を向け言葉を求めていた。こうなっては挨拶せざるを得ない状況だ。

俺は壇上に上がりマイクを握った。

「えーっと、本来は予定していなかったので手短になるのですが……今日はお集まりいただきありがとうございます。ここまで来ることができたのも、ここにいる社員みんなの力があってこそです。本当にありがとう。そして、ご家族の皆様、社員が毎日仕事で力を発揮できるのも家族の支えがあってこそだと思います。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございます。」

そう挨拶すると社員もその家族も真剣な顔で、でも笑顔を浮かべてこちらを見ていた。彼らの温かい視線に俺の胸は熱くなる。

俺はチラリと佳奈の方へ視線を向けた。会場の隅で佳奈も小さく微笑んでいる。彼女の顔には、このパーティーの成功への安堵と俺への優しい眼差しが浮かんでいた。俺は小さくうなずき微笑み返した。

そして、その視線を会場の一番奥の中央にいる凛にも一瞬だけ向けた。凛は、俺を見つめ返していたが、すぐに凜から視線を逸らし両親の方を見た。父は誇らしげに微笑んでいたが、母は俯いていた。母の様子に少しだけ胸が痛

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