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第8話・謎深き王の秘密 その5

Auteur: さぶれ
last update Dernière mise à jour: 2025-05-13 23:00:41

 それから部屋を出て、この前連れて来てくれた同じホテルにやって来た。玄さんに案内されたのは蓮見リゾートホテルで、例のTakaさんと食事に行ったホテルだ。

「あの…ここって高いホテルなんじゃ……」

「気にしないでくれ。ここのオーナーと知り合いだから、格安で部屋を借りれることになったんだ。前回の時もそうだから、宿泊費用とか、そういうのは気にしなくていいよ」

 でもこのホテルは一般のホテルとは違う。リゾートホテルだから、一泊十万円はくだらない。そんなホテルに幾ら空き部屋があるからと言って、格安でも相当な金額になると思う。

「玄さん、そこまで頼れないよ。私、カプセルホテルで十分だし、せめてビジネスホテルで…自分のことだし、お金もちゃんと返したいから」

「眞子」

 私を諭すように玄さんが言った。「君は被害者なんだ。今は迷惑とか考えず、お金のことなんか気にしなくていい。けれど遠慮がちな君のことだ。滞在期間は引っ越し先が見つかるまでにしよう。なるべく早く見つける。これならいいだろう?」

「うん…」

 すぐに見つかるのかな。

「それにここは俺の店に近いから、なにかと便利なんだ。だから店が終わったら会えるし、俺も助かる」

「玄さんのお店ってこのホテルから近いの?」

「ああ」

 彼が近くにいる――不鮮明だった実態に少し近づいた気がした。

「じゃあ玄さんの経営しているお店って、この辺りの飲食店なの?」

「そうだ」

「――!」

 玄さんは嘘は言わないと言っていた。当てたらきちんと教えるって。

 もっと近づきたい。一体どんなお店を経営しているの?

「じゃあ、どんなお店か言ったら答えてくれる?」

「いいよ。でも今日はタイムアップ。夜から店があるから。だからもう帰る。あと、今日は夜に予定があるから、また明日会いに来る。それでもいい?」

「ええ。ありがとう」

「今日は多分電話できないと思う。予約がいっぱい入っているんだ。店も遅くなるし」<

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  • 婚活アプリで始まる危険な恋 ~シンデレラは謎深き王に溺愛される~   第8話・謎深き王の秘密 その2

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