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56話

Author: さいだー
last update Huling Na-update: 2025-08-12 21:26:35

 なにやら面倒なことになった。

 俺も推しについて発表をしなければいけなくなってしまった。

 以前、凛に推しを考えておくようにと偉そうに言ったことがあったが、そんな簡単なことではないと思い知らされた。

 でも意外なことに、目の前で推しについて書き物をしている凛は、次々と方眼紙のマス目を埋めていく。

 その横に座るエマも、たまに考えるような仕草をみせるが、少しづつ書き進めているようだ。

 もちろん俺の前の方眼紙はまっさら。なにも書かれてはいない。

「なあ凛。そんなにテキパキ書くって何について書いているんだ?」

 そう聞いた直後に不意にエマと、目があった。そこでピンときた。

 って、まさか……こいつ、エマについて書いているわけじゃあないよな?

 推しなのはたしかだろうがそれはやめておいたいいと思う。

「本当だ。凛ちゃん凄いねー。ちょっと見せてっ」

 そう言うとエマは、凛の方眼紙を覗き込んだ。

 凛はそれを振り払うような素振りはみせない。

 絶対にこれはやばいやつだ。

 そう思って俺は、咄嗟に凛の方眼紙を奪い取った。

 当然、凛もエマも啞然とした様子だった。

 でもさ、せっかくできた友達がいなくなるのは可哀想じゃないか。

 距離は徐々につめていかないと。

「ちょっと桐生くん、急にどうしたの?」

 心底びっくりしたと言った感じで、エマはそう聞いてきた。

 そんなのバカ正直に答えられる訳もない。

「せっかくだったら俺が代読してやろうと思ってさ」

 もちろん、ここに書かれているだろう、エマについてのことを読み上げるつもりはない。

 かわりになにか適当なものをでっち上げて、読み上げている風にしてやろうと思ったのだ。

 これも凛に対する親心みたいなものなのだろうか。

 あまりに不器用すぎて不憫になるからな。こいつは。

 俺のそんな気持ちは本人は知る由もなく、首を傾げてこちらを見ていた。

「いいの?凛ちゃん」

 そんな凛を心配してエマは声を掛けるが、凛は飄々とした態度で答えた。

「う、うん。別にいいよ」

 本当にいいのかよ。絶対に良くないよなあ。

 はあ。心の中ででかいため息を吐いてから、凛に向き合った。

「じゃあ、俺が何を言おうと文句はなしな?」

 これは予防線ではない。あくまでも凛を守るための絶対防衛線なのだ。

「うん」

 本人はにこやかに微笑んでいるつもりなのだろうが、上手く
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