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第50話

Author: 魚住 澄音
「ただライン交換したいだけなのに、それもダメなの?」

佳乃はがっかりしたような、それでいて期待を込めた目でことはを見つめる。その態度のあまりの変わりように、ことはは少し戸惑ってしまった。「杉浦さん、実は……」

「あなたに近づいて、それを口実に隼人に近づこうとしてるって思ってるでしょ?」佳乃は首をぶんぶん振る。「安心して、もう彼のことなんて好きじゃないから。お願い、ことは、本当に友達になりたいわ」

彼女の甘えるような口調に、ことはは思わずゆきを思い出した。

言われてみれば、少し似ている。

結局ことはは彼女の勢いに負けて、ラインを交換した。

満足げに追加し終えると、佳乃はまたもじもじしながら言った。「実はもう一つ、お願いがあって」

ことはが何か言う前に、佳乃は突然両手で彼女の手をぎゅっと握りしめた。その丸い目は、「お願い、助けて」の一心でいっぱいだった。

この様子を、芳川と隼人がちょうど目撃した。

二人は同時に、固まる。

芳川が空気を和ませようと口を開く。「恐らく……」

だが、うまく言葉が見つからないようだった。

そんな中、隼人が軽く笑って言った。「彼女、本当に男女問わずモテるんだな」

ことははその言葉を聞いて、きょとんとしながら佳乃に尋ねた。「どうしてそんなに私を信頼しますか?一番仲のいい友達に相談するんじゃなくて?」

「わからないけど、とにかくあなたに相談したかったわ。直感で、絶対あなただって思ったの」佳乃は嘘をついていない。彼女はいつも直感で動くタイプだ。

ことはは彼女の軽率な直感に呆れたが、一度話し始めた以上、自分なりの分析を伝えるしかなかい。「恐らく杉浦社長は、あなたを脅かしてるだけで、本気で政略結婚させようとは思ってないとはずですよ」

「どうして?」

「杉浦社長はあなたをとても可愛がっているから」

「可愛がってるって言っても、怒るとめっちゃ怖いのよ?」

「怒るのと、あなたの一生の幸せを奪うのは別問題」ことはは真剣な目で言った。「信じられないなら、一度試してみて。政略結婚に同意するふりをしてたら、きっと話を逸らして、もうその話をしなくなると思います」

佳乃はすぐに頷いた。「うん、あなたを信じるわ」

そう言われても、ことはは念のため、忠告を加える。「杉浦社長はあなたを大事に思ってるけど、無茶はしない方がいいと思います。彼
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