LOGINShare
第1120話
Latest chapter
拗れた愛への執着: 結婚から逃げた総裁に愛された 第1130話
「仕事の用事で」由美は答えた。彼女は体を少し傾けて、「早く入って」と言った。しかしすぐにまた迷いを見せた。「でも、こんなふうにあなたたちを中に入れていいのかしら……」「それくらい説明できるわよ。『無理やり入ってきた』って言えばいいんだから」香織が冗談交じりに言った。由美はうなずいた。「外の空気、気持ちいいわよ。ちょっと待ってて」急いで星の部屋に戻ると、由美は星をベッドに下ろし、おむつを確認した。──おむつも汚れておらず、お腹も空いていない。そう思って由美は星を抱き上げて、そっと揺らしてあげた。由美の腕の中で、星の泣き声はだんだんと小さくなり、やがてすすり泣きに変わっていった。少しして完全に泣き止むと、由美は微笑みながら言った。「庭で話そうか」肩に顔をうずめて泣き疲れた星を抱え、由美は庭へと歩いていった。香織は、少し成長して輪郭がはっきりしてきた星の顔を見て、自然と口元が緩んだ。──女の子、いいなあ。残念ながら自分にはいないが。「私にも抱っこさせて」「飛行機降りてすぐ来たんでしょ？少し休んだら？」由美は、彼女がメッセージを送ってきた時間を思い返して、その頃にはすでに機内にいたはずだと気づいた。「大丈夫。全然疲れてないから」香織は軽く言った。圭介は、由美と香織に時間を与えるように席を立った。ちょうど電話がかかってきて、自然な流れでその場を離れた。「でも、どうして突然来たの？」香織は今や完全に家庭に戻っていた。──母さんと佐藤さんが手伝ってくれているため、あまり負担はない。だが由美は一人で子供の世話をしている。きっと大変だろう。「圭介が会社の用事でこっちに来ることになってね。私はついでに……というか、あなたに会いたくて」──本音を言えば、由美の今の様子を自分の目で確認したかったのだ。その顔を見て、だいぶ安心した。「じゃあ、いつ帰るの？」その問いに、香織は由美を睨んだ。──来たばかりなのに追い返そうとは。「違うの！ そういう意味じゃなくて！」誤解を恐れた由美は慌てて否定した。「わかってるって。明日の夜には帰る予定よ。あなたが今こんなふうに元気でいてくれて、本当にうれしいわ」──少なくとも由美はこのまま平穏に暮らしていける。香織は由美の手
拗れた愛への執着: 結婚から逃げた総裁に愛された 第1129話
由美はうつむき加減で憲一の横を通り過ぎようとしたが、手提げバッグのファスナーをバスローブの端に引っ掛けてしまった……バスローブがパッと開いた。「……」振り返った由美の目に飛び込んだのは――「いや、これは……」憲一は慌てて説明した。「君のバッグのファスナーがローブに引っかかっただけで……」彼は素早くローブを巻き直した。由美は前に走り出し、慌てて自分の携帯をつかんだ。そして顔を赤らめたまま、別荘から飛び出していった。憲一の目には、それはまるで「逃げ出していった」ように見えた。「別に裸だったわけでもないのに……」そうつぶやきながらも、彼の耳の先はほんのりと赤く染まっていた。……しばらく全力で走ったあと、由美はようやく足を止めた。「油断した……でも、明日には憲一もいなくなるし……」──実際、そこまで大したことじゃない。でも、なんだか落ち着かない。空気が変わってしまった。自分は保育士で、子どもの面倒を見る立場。二人の関係は、雇い主と従業員──そうあるべきだ。さっきの自分の反応、ちょっと大げさすぎたかも？家に帰った由美はパソコンを開いた。ちょうど今日、F国の栄養学会から一通のメールが届いていた。それは保育士たちが集まり、経験を共有するためのオンラインセミナーの案内だった。セミナーが始まると、彼女は画面に集中しながら、専門家たちの意見を熱心にメモしていった。時折チャット欄に自分の経験を書き込むこともあった。やがてセミナーが終了すると、ずっと同じ姿勢でいたせいか、腰に鈍い痛みが走った。 「ふう……」と伸びをして、由美は入浴の準備を始めた。「ピロン」その時、メッセージの通知音が鳴り、由美は携帯を手に取った。「由美、圭介とそちらに戻るかもしれない」──香織と圭介が帰ってくる？「本当？いつ？」由美はすぐに返信した。飛行機に乗っていた香織は、隣の圭介と目を合わせ、ニヤリと笑ってから素早く返信を打った。「多分明後日くらい」由美は何も疑わず、「わかった。でも迎えに行けないかも」と返した。「迎えなんていらないわよ」……翌朝、由美が憲一の家に到着すると、彼は黙々と彼女のスーツケースを運び入れた。二人はまるで申し合わせたかのように、昨夜のこ
拗れた愛への執着: 結婚から逃げた総裁に愛された 第1128話
憲一自身も、気づけば飲み干してしまったことに驚いていた。さらに由美から聞いた育児への細やかな配慮に、思わず胸が熱くなるのを感じた。「こちらは私がやりますので、松原さんは星と遊んであげてください。もうすぐお別れですから」ニンジンとリンゴをミックスしたジュースにストローを差し込むと、由美はそれを憲一に手渡した。エプロンをつけたままの憲一は、そのジュースを持って星の元へ向かった。「星、美味しい野菜ジュース、パパが飲ませてあげようか？」「いーいーっ」まだ言葉を話せない星は、憲一に向かって両手を伸ばした。揺り椅子にずっと座っていたので、抱っこされたい気分だった。「よしよし、うちの可愛いお姫様」親バカ全開の憲一は、星をしっかりと抱き上げた。その姿は、由美と比べても手慣れていた。彼は星の頬に何度もキスをしてから、ジュースを少しずつ飲ませた。その頃、由美はすでにもう一杯絞っており、後でまた星に飲ませるつもりだった。憲一が娘を溺愛する姿を見て、由美はしばらく見惚れてしまった。──この子を憲一に託して、本当に良かった。「文絵、早く来てくれ！」憲一の声に我に返った由美は、慌てて彼のもとへ駆け寄った。「どうかしました？」近づいた瞬間、由美はおしっこの匂いに気づいた。視線を憲一に移すと、彼の服の一部が濡れていた。オムツをつけっぱなしだとお尻が蒸れてしまう。だから由美は星が起きている間は外して、お尻を休ませてやるのだ。「ちょっと飲みすぎちゃったみたいですね。私が連れて洗ってきます」「松原さんも着替えてください」憲一の腕から星を抱き取ると、彼のエプロンや袖はぐっしょり濡れていた。彼は首を振って、微笑んだ。おしっこをかけられても、少しも嫌ではなかった。──自分の娘のものなら、おしっこだって清らかだ。「松原さん、大丈夫ですか？」憲一が依然として動かずにいるのを見て、由美は心配そうに手を彼の目の前でひらひらと振った。「……あ、すぐ行く」由美はまず星のお尻をぬるま湯で洗ってから、新しいオムツをつけてあげた。「星、パパを困らせちゃだめよ〜」「ほら、パパびっくりしてたでしょ？」星はまるで由美の言葉を理解したかのように、くすくすと可愛らしい声で笑った。由美は星の頭をなで、
拗れた愛への執着: 結婚から逃げた総裁に愛された 第1127話
──今は家に自分しかいないのだから、やらなければ誰もやってくれない。「大丈夫です。疲れていません」しかし憲一は浮かない顔をしていた。「暁美はあと一週間で戻ってくる。それまでの間ビビアンに手伝わせようと思う」──ビビアン？由美は少し気が進まなかったが、憲一がそこまで言うのなら、口を挟むこともできなかった。「……はい、松原さんのご判断に従います」星としばらく遊んだ後、憲一は翌日の持ち物をまとめに上の階へ行った。再び降りてきたときには、由美が星のために野菜ジュースを作っている最中だった。「手伝えることあるか？」憲一が近づいて尋ねた。星は揺れるベビーチェアに寝かされ、大きな目で二人を見上げながら、時折自分の指を吸っていた。「それなら……この野菜を洗ってもらえますか？」憲一が本当に手持ち無沙汰そうにしているのを見て、由美も手伝いを受け入れることにした。──なにより、これは憲一が星と過ごす最後の夜なのだ。星だって、一ヶ月も父親に会えなければ、きっと寂しくなるだろう。「わかった」憲一は袖をまくり、手元のニンジンとキュウリを洗い始めた。それを見た由美は、ふと気になって、掛かっていたエプロンを手に取った。「松原さん、これをつけた方がいいですよ」憲一は振り返り、由美の手にあるエプロンに目をやると、手の水を軽く払った。「俺の手、濡れてるから……つけてもらえる？」そう言って、彼は由美の前にしゃがみこんだ。その姿に、由美は一瞬動きを止めた。──まさか憲一が、自分につけてもらうつもりだったなんて。だが、彼の濡れた手や半ば屈んだ姿を見て……まあ、ただエプロンをつけるだけだし。由美は憲一の頭にエプロンを通し、無意識に彼と目が合ってしまった。憲一が膝をついていたため、ちょうど二人の視線は同じ高さになっていた。──彼の瞳には、手術室で見せたあの独特の落ち着きと冷静さが宿っていた。時が経っても、彼の目の中にあるものは変わっていない。由美はすぐに視線をそらした。──彼は変わらないが、自分は変わってしまった。「松原さん、もう立っていいですよ」その言葉に憲一は立ち上がり、由美が背後に回って、きゅっとエプロンの紐を結んだ。彼の心臓は激しく鼓動していたが、表情には一切それを出さな
拗れた愛への執着: 結婚から逃げた総裁に愛された 第1126話
会社に戻ってきた憲一は、どこか心ここにあらずだった。──この一ヶ月の間に何が起こるのか、まったく見当もつかない。明日には、チームと共にAリゾートへ向かう予定だ。Aリゾートは、閉鎖型のホテルで、憲一のような人間の「目的」を達成するために特化して作られた施設だった。取締役会での賭けとも言えるこの計画に、彼は全てを懸けざるを得ない状況に追い込まれていた。オフィスでは、本来ビビアンが座っているはずの席がぽっかりと空いていた。とはいえ、社内の誰もそのことに触れようとはしなかった。ビビアンは今や憲一の側近として、ある程度の面子は与えられていたからだ。……一方その頃、全身黒ずくめのビビアンは、とある裏路地にある一軒家の前で立ち止まり、ドアをノックした。扉が開くと、彼女はすばやく中に身を滑り込ませる。「……ビビアンか？」部屋の中では、時代遅れのバックスタイルにした男がリクライニングチェアに座り、斜めに彼女を見下ろしていた。そばにいたアシスタントはタブレットを手に、何やら作業をしている様子だった。「松原さん。今回はどんなご用件で？」ビビアンの姿は、まさに絶品といえるもので、男は思わず舌なめずりをした。「俺の甥っ子なんかの女になって何が楽しいんだ？それより俺についてきたらどうだ？」この男の名は松原真城（まつばら ましろ）。憲一の叔父にあたり、会社の中でも最大の株式を保有する大株主だ。長年、憲一の足元を掬う機会をうかがい、彼の事業を密かに崩そうと暗躍してきた。狙いはただ一つ、自らが社長の座に就くためだった。「またまたご冗談を。私なんかが社長のお相手になれるわけないじゃありませんか」「私はただ食べていくために働いているだけです。そんな偉いお方と釣り合うはずもなくて」それを聞いて、真城は手を打ち鳴らした。──このビビアンを単なる飾り物だと思っていたが、どうやらこの女、なかなかやり手らしい。それゆえ、彼女が憲一の傍に居座ることを許されていたのかもしれない。実際、憲一自身は、ビビアンにそれほどの価値を見出していなかった。彼女の仕事能力は特に優れているわけでもなく、あくまで雑務処理のために一時的にそばに置いている存在にすぎなかった。「女、俺がお前を助けてやろう」ビビアンは微笑んだ。
拗れた愛への執着: 結婚から逃げた総裁に愛された 第1125話
「そのお金、私が貸します！」暁美は涙をぬぐうと、息子に「ここで待ってて、何かあったらすぐ電話して」と言い残して立ち上がった。そして急いで由美のもとにたどり着くと、彼女は黒い大きなバッグを手渡してきた。「中に400万円入ってます。まずはこれで急場を凌いでください」そう言って、由美はあらかじめ用意していた借用書を紙と一緒に差し出した。暁美は余計な言葉を挟まず、黙ってサインをした。──目の前で主人を見殺しにするなんて、どうしてもできない。「安心してください。このお金、必ずお返しします」由美は暁美の肩を軽く叩いた。──誰にだって困った時はある。この借用書も、彼女が堂々とこの金を受け取れるようにと、あらかじめ準備していたのだ。彼女には彼女の誇りがあることは、由美もちゃんと分かっていた。「急いで病院に戻ってください。松原さんには私から説明しておきます」暁美は感謝の気持ちで由美を抱きしめると、すぐに病院へと急いだ。暁美が去った後、由美は憲一から預かっていたカードで400万円を引き出した。するとその直後、うたた寝をしていた憲一の携帯に通知が届いた。メッセージを見た彼は、眉をひそめた。──まさか文絵に何かあった？それとも子どもに異変が？不安に駆られた憲一は、すぐさま会社を出た。──午前の役員会議では、叔父たちからほぼ不可能と思える仕事を任されていた。一ヶ月の猶予すら、危ういかもしれない。だからこそ、その前に——家のことだけは、何としても落ち着かせておく必要がある。「松原さん、どうしてもう帰ってきたんですか？」由美の視線はどこかよそよそしく、驚きと戸惑いを隠せなかった。──さっきお金を引き出したばかりなのに……どうして戻ってきたの？「なぜ金を引き出した？」憲一の声には焦りが滲んでいた。その目には血がにじむような色が宿っていた。由美は二歩後ずさり、テーブルの上の借用書を手に取った。「小林さんの家に急用ができたので、勝手にお金を引き出しました。これは……私があなたに借りたってことにしてください」借用書を見つめた憲一の眉間にあった不安の色が、ようやく薄らいだ。──暁美の用か……彼女に何があったと思ったのに……「小林さんの主人は今も手術中です。松原さんが心
You may also like
