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本当のこと Page2

last update Last Updated: 2025-08-25 13:51:42

「自分で買えるのはいいとして、セキュリティソフトのインストールとか、あなたは自分でおできになるのかしら?」

「それは…………」

 愛美には答えられなかった。そういえば、そういう初期の初期の設定からやったことはないかもしれない。

「だったら、結局のところは叔父さまを頼るほかないんじゃなくて?」

「っていうか、何も新しいの買う必要なくない? そのパソコン、壊れたわけじゃないんでしょ?」

「うん。ネットは使えるから……。動かないのはワードだけみたい」

「ってことは、OSのバージョンが古くなった、とかかなぁ。とりあえず、純也さんに連絡とって相談してみたら?」

「……そうだね。どっちみち、純也さんに電話するしかないか」

 愛美はスマホを取り出した。履歴から純也さんの番号を呼び出してリダイアルする。

『――もしもし、愛美ちゃん。こんな夜遅くにどうしたんだ?』

「純也さん、急にゴメンね。わたし今ピンチで、助けてほしいんだけど……」

 〝ピンチ〟と言っているわりにはそれほど切羽詰まっていない愛美の様子が伝わったのか、彼は落ち着いている。

『ピンチって、何かあったの?』

「それがね……、パソコンが急に動かなくなっちゃって困ってるの。ネットは繋がるんだけど、ワードが動かなくて」

『うん……、なるほど』

 愛美はそこで、さやかが「OSのバージョンが古くなっているせいではないか」と指摘していることを彼に伝えた。

「とにかく、わたしたちが見ても分かんないから、純也さんに一度見てほしいんだけど。大丈夫かな?」

『分かった。じゃあ明日の夕方にでも、俺がそっちに行ってパソコンを見せてもらうよ。愛美ちゃん、明日の講義は?』

「明日はそれほど詰まってないから、四時ごろから予定は空いてるけど。さすがに寮まで来てもらうわけには……」

 高校の寮とは違って、大学の学生寮は男性の出入りに厳しいのだ。

『ああ、そうか……。じゃあこうしよう。そっちの女子大近くのカフェまでパソコンを持ってきてくれたら、そこで見てあげるよ。それでもいいかな?』

「うん、それで大丈夫! ありがとう、純也さん! それじゃ明日の夕方、よろしくお願いします。おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

 ――こうして、愛美はノートパソコンの不具合というピンチを、純也さんの力を借りて乗り越えることとなった。
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  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   本当のこと Page4

    「いや、あの……。今すぐどうこうって話じゃなくてさ、ずっと前から考えててね。もちろん、大学を卒業してからでもいいし、タイミングは愛美ちゃんに任せるけど……。どう……だろう?」(純也さん、わたしの話を聞きたくないからこのタイミングで? なんかわざとらしい) もしかしたら違うのかもしれない。けれど、彼は現実から目を背けようとしているんじゃないかと愛美には思えた。(そりゃ、わたしだって純也さんとの結婚は考えてるけど……。まだ彼に出してもらったお金だって返せてないし、今のままじゃ結婚しても彼と対等な立場にはなれない。彼に負い目を感じながら一緒に生きていくなんてできないよ……)「純也さん、ゴメンなさい。今、ここでは返事できないから、ちょっと考えさせて下さい」「…………そうか、分かったよ。俺の方こそごめん。急にこんな話をして、困らせてしまったかな」 困惑顔で頭を下げた愛美に、純也さんはプロポーズしたこと自体を公開しているように謝った。「ううん、困ってるわけじゃ……。ただね、わたしの方も色々と考えることが多くて、正直それどころじゃないっていうか」「まさか俺以外に好きな男がいる……とか?」「そんな人いないよ。そうじゃなくて、田中さんへの恩返しがまだ終わってないから。そんな状態で結婚するのってちょっと自分勝手なんじゃないか、って」「た……っ、田中さんはそんなことで君に怒ったりしないよ。君はもう法的には成人してるし、自立してるんだから。淋しいとは思っても、決して怒ったりなんか――」「純也さん、どうしてそう言い切れるの?」「…………それは」(純也さん、完全にボロを出してる) 愛美は確信した。彼もまた、自分が田中太郎の正体であることを愛美に打ち明ける気でいることを。 「ねえ純也さん、わたしにずっとウソついてるよね? もう、正直になってもいいんじゃない? ウソをつき続けててもツラいだけだよ?」「…………!」「…………ゴメンなさい、今すぐはムリだよね。純也さんにも心の準備ってものが必要だもんね。だからわたし、純也さんが話せるタイミングになるまで待ってるよ」「愛美ちゃん……」 今日はパソコンを直すために来てもらったのだ。その要件はもう済んだので、忙しい彼をこれ以上引き留めておくわけにはいかない。「純也さん、今日はパソコンが使えるようにしてくれて助かったよ

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   本当のこと Page3

       * * * * 翌日の夕方。すべての講義を受け終えた愛美は、純也さんと待ち合わせをしている大学近くのカフェへ赴いた。トートバッグに、前日から突然調子の悪くなったノートパソコンを放り込んで。「――ああ、愛美ちゃん。こっちこっち」「純也さん、わざわざありがとう。待った?」「いや、そんなに待ってないよ。とりあえず何か注文しなよ」 純也さんがメニュー表を差し出したので、愛美はアイスラテを注文した。そして、お冷やで渇いていた喉を潤す。「じゃあ、さっそくで悪いんだけど、パソコンを見せてくれるかい?」「うん……。純也さん、これなんだけど」 愛美はテーブルの上にパソコンを開き、起動させた。まずはこの店のWi-Fiに繋ぎ、インターネットは使えることを彼に確認してもらう。「ね? ネットを使うには問題ないの。で、肝心のワードなんだけど……」 持ってきていたレポートのUSBを差し込み、文章を打ち込もうとしてみるけれど、まったく画面に反映されていない。「ねえ、純也さん。原因分かる?」「んー、やっぱりさやかちゃんも言ってたとおり、OSのバージョンがもう古くなってるのかな。このパソコン、もう三年以上使ってるんだろ? その間にバージョンアップとかしたことは?」「あ……、そういえば一回もなかったかも。なんか、素人が勝手にやっちゃいけない気がしてたから」 愛美は頬をポリポリ掻いた。身近にパソコンに詳しい人がいれば、もっと早くに指摘してもらえたかもしれない。「とりあえず、OSのバージョンを更新しておくから。これでもう安心して使えるようになると思うよ」 彼はホットの紅茶を飲みながら、サクサクと作業を進めていく。その間に、愛美が注文したアイスラテも運ばれてきた。「ありがとう、純也さん! ――ありがとうございます」 ホッとひと安心した愛美は、ガムシロップを入れてかき混ぜたアイスラテを飲み始めた。「一時はどうなることかと思ったけど、純也さんがいてくれてよかった。やっぱり頼りになるね。ずっとわたしのことを助けてくれてただけのことはあるなぁ」 そこまでポロッと言ってしまってから、愛美は「しまった!」と口元を手で押さえた。「……えっ? 愛美ちゃん、今のはどういう……」「あ、ううん! 何でもないの」(……もうそろそろ、純也さんにホントのこと話した方がいいのかな。「わ

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   本当のこと Page2

    「自分で買えるのはいいとして、セキュリティソフトのインストールとか、あなたは自分でおできになるのかしら?」「それは…………」 愛美には答えられなかった。そういえば、そういう初期の初期の設定からやったことはないかもしれない。「だったら、結局のところは叔父さまを頼るほかないんじゃなくて?」「っていうか、何も新しいの買う必要なくない? そのパソコン、壊れたわけじゃないんでしょ?」「うん。ネットは使えるから……。動かないのはワードだけみたい」「ってことは、OSのバージョンが古くなった、とかかなぁ。とりあえず、純也さんに連絡とって相談してみたら?」「……そうだね。どっちみち、純也さんに電話するしかないか」 愛美はスマホを取り出した。履歴から純也さんの番号を呼び出してリダイアルする。『――もしもし、愛美ちゃん。こんな夜遅くにどうしたんだ?』「純也さん、急にゴメンね。わたし今ピンチで、助けてほしいんだけど……」 〝ピンチ〟と言っているわりにはそれほど切羽詰まっていない愛美の様子が伝わったのか、彼は落ち着いている。『ピンチって、何かあったの?』「それがね……、パソコンが急に動かなくなっちゃって困ってるの。ネットは繋がるんだけど、ワードが動かなくて」『うん……、なるほど』 愛美はそこで、さやかが「OSのバージョンが古くなっているせいではないか」と指摘していることを彼に伝えた。「とにかく、わたしたちが見ても分かんないから、純也さんに一度見てほしいんだけど。大丈夫かな?」『分かった。じゃあ明日の夕方にでも、俺がそっちに行ってパソコンを見せてもらうよ。愛美ちゃん、明日の講義は?』「明日はそれほど詰まってないから、四時ごろから予定は空いてるけど。さすがに寮まで来てもらうわけには……」 高校の寮とは違って、大学の学生寮は男性の出入りに厳しいのだ。『ああ、そうか……。じゃあこうしよう。そっちの女子大近くのカフェまでパソコンを持ってきてくれたら、そこで見てあげるよ。それでもいいかな?』「うん、それで大丈夫! ありがとう、純也さん! それじゃ明日の夕方、よろしくお願いします。おやすみなさい」『ああ、おやすみ』 ――こうして、愛美はノートパソコンの不具合というピンチを、純也さんの力を借りて乗り越えることとなった。

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   本当のこと Page1

     ――それからさらに一ヶ月が過ぎ、梅雨入りした六月のある日の夜。愛美をピンチが襲った。「え~~~~っ!? ウソでしょ……」 勉強スペースで愛美が頭を抱えて困り果てている。まるでこの世の終わりみたいな様子の彼女に、各々課題をこなしていたさやかと珠莉は一体何事かと腰を浮かせた。「どしたの、愛美。急に絶望的な声出しちゃって」「そうよ、愛美さん。いつもポジティブで悩みなんてなさそうなあなたがそんなに落ち込むなんて」「……珠莉、アンタは一言余計だよ」 それはともかく、とさやかが改めて愛美に声をかける。……そういうさやかも結構辛辣な方だと思うのだけれど。「それがね、さやかちゃん。わたしのパソコン、急に動かなくなっちゃったの。もう大ピンチだよ……」「あらら……。それは確かに大ピンチだねぇ。だって、愛美にとっては大事な商売道具だもんね」 そりゃ絶望的にもなるわ、とさやかが納得し、珠莉もうんうんと頷く。  愛美は作家デビューする前からずっとこのパソコンを使い続けていて、もはや商売道具を通り越して相棒のようなものなのだ。それが動かなくなったとなれば、彼女がこの世の終わりのような気持ちになるのも無理はない。「それだけじゃなくて、大学のレポートだってこのパソコンで書いてるんだよ。今は作家の仕事がないからまだいいけど」 パソコンが使えないと、レポートも手書きするか、キャンパス内のパソコンルームか文芸サークルの部室にあるパソコンを使わせてもらうしかない。もしくはネットカフェに行くか。「ねえ愛美、今はレポート書いてるの?」「うん……。一応、書きかけのデータはUSBに保存してあるけど」「だったらさ、差し当たり、しばらくはあたしのパソコン使っとく? この部屋にいる時限定で、だけど」 そりゃそうだ。さやかだって課題やレポートでパソコンを使うだろうから、愛美が借りっぱなしというわけにもいかない。「えっ、いいの? ありがとう、さやかちゃん! じゃあさっそくお借りします」 愛美はさやかから借りたパソコンにUSBメモリーを差し込み、レポートの続きを書き始めたけれど……。「でも愛美さん、当面の間はそれでいいとしても、いつまでもさやかさんのパソコンをお借りしているわけにはいかないんじゃなくて?」「うん……、そうだよね。どうしたもんかな……?」「でしたら、純也叔父さまに新し

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   誤解と嫉妬 Page12

     わたしにとって、治樹さんは恋愛対象になりません。純也さんと比べたらまだ全然お子ちゃまだし(多分わたしは施設出身だから、精神年齢がちょっと高いのかも……)、何より親友の恋人ですもん。彼はわたしにとって兄みたいな存在でしかないから。だから、純也さんも彼に嫉妬する必要なんてなかったの。彼はもっと自分がわたしに思われてること、自信を持てばいいと思う。 そしてわたしも、純也さんとの身分の差とか格差をそろそろ気にしなくていい段階に来てるのかな。彼はもうわたしの保護者じゃないはずだし、年齢的にも法律では立派な成人だし、本が売れて印税が入ってくるようになったら経済的にも自立できるようになるし。 わたし、純也さんと結婚しても、主婦と作家の仕事を両立させるつもりです。やってやれないことはないでしょ? ずいぶん長い手紙になっちゃいましたね。これでもわたし、今けっこう手首が痛いんです。大学の講義でノートを取って、原稿を執筆するのに(それも二作分!)パソコンでタイピングのしすぎ。それでこの長編の手紙を書いたから、そろそろ手首が限界かも! それじゃ、また。おじさま、おやすみなさい。       かしこ 五月九日 大型連休明け      愛美』****

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   誤解と嫉妬 page11

     原稿を受け取った編集者の岡部さんは、原稿を読む前からこの作品へのわたしの思い入れの強さを分かってくれて、「この作品は絶対に出版されるように、僕もプレゼンを頑張ります」って言ってくれました。 でね、おじさま。岡部さんと別れてからが大変だったの。偶然、治樹さんにバッタリ会っちゃって、彼がお昼ゴハンをまだ食べてないっていうもんで、一緒にファミレスに入りました。 わたしはお昼を済ませてから寮を出たのでパンケーキとドリンクバーのあったかいレモンティー、治樹さんはガッツリと唐揚げ定食をゴハン大盛りで注文しました。 食べながら、治樹さんはわたしにグチってました。今の会社で営業の仕事をやってるんだけど、自分には向いてないかも。もう会社を辞めようかと思ってる、って。わたしは部署を変わるだけでもいいんじゃない、ってアドバイスしてあげたけど、こうも言ってあげました。「治樹さんには、お父さまの会社を継ぐっていう切り札があるじゃない?」って。小さな町工場の中小企業じゃん、って治樹さんも今はバカにしてるけど、きっと将来はやり手の社長さんになると思う。だって、日本の経済を支えてるのは間違いなく中小企業のはずだから。 で、「どうしてそんな話を恋人である珠莉ちゃんじゃなくてわたしにするの?」って訊いたら、珠莉ちゃんには言いづらい、自力で夢を叶えて頑張ってる彼女にそんな情けない話しなんてできないって言うんです。それに、男のプライドが邪魔して言いにくいんだ、って。 だからわたし、治樹さんにこう言ったの。「珠莉ちゃんのことがホントに好きで、将来結婚とか考えてるなら、プライドなんか関係なくちゃんと話すべきだよ」って。まあ、本音を言えば、治樹さんとわたしの仲を珠莉ちゃんと純也さんに誤解されたくないっていうのもあったんですけどね(笑) そしたら、窓の外に純也さんの車が停まってることに気がついて、わたし焦っちゃった。もしかしたら誤解されたんじゃないか、って。っていうか、純也さんから「今日会いに行っていい?」ってメッセージが来てたことに、その時まで気づいてなかったから……。 治樹さんの分まで支払いをしてお店を出たら、少し先の交差点で純也さんの車を見つけて彼と合流しました。 あの渾身の一作が書き上がったことを報告したら喜んでくれたけど、彼はやっぱりわたしと治樹さんのことを誤解してたみたいです……。

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