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第1398話

Author: 夏目八月
午の三つ時、長い処刑台が運び上げられた。鉄木で鋳造された台は頑丈そのもので、大和国に一台しかない腰斬専用の刑具である。

この台は長らく封印されていた。

文利天皇は腰斬の刑があまりに残酷だとして、極悪人であっても用いなかった。

しかし刑そのものは廃止せず、謀反人への見せしめとして温存されていたのだ。

腰斬の残虐さは、人が真っ二つに斬られた後も上半身が這い回り、もがき苦しみ、血の道筋を描きながら蛇行することにある。

本来、腰斬の刑は民衆に見せるものではなかった。しかし通敵叛国、国政を乱し、皇位簒奪を企てるとは天に逆らう大罪である。謀反人と交わりのあった者がどれほどいるのか分からないし、調べても判明しない者も多い。

いっそのこと、このような方法で、かつて邪心を抱いた者どもを震え上がらせてやろうというわけだ。

甲虎の衣服が剥ぎ取られ、二人の男が彼を処刑台に押し付けた。肩をがっちりと掴んで、微動だにできないように固定する。

甲虎は恐怖のあまり白目を剥き、そのまま気絶してしまった。

処刑人が大刀を振り上げた瞬間、多くの者が素早く顔を逸らした。

ただ寧世王、燕良親王らだけは正面を見ることを強いられていた。護送車の中で首を鎖で固定され、顔を逸らすことができない。

彼らにできるのは目を閉じて身を震わせることだけだった。

燕良親王の精神力が最も脆弱だったようで、大刀が振り上げられた瞬間、慌てて目を閉じ、口から悲鳴を漏らした。

この場にいる全員の中で、ただ一人、秋本蒙雨だけが両眼を見開いて見つめていた。その瞳は古井戸のように深く静まり返り、大刀が振り下ろされた瞬間も、表情に一切の変化はなかった。

甲虎から青舞へと、彼は一度も視線を逸らすことなく、耳元で響く悲鳴や息を呑む音も聞こえないかのように、這い回る甲虎と青舞を見続けた。二人が動かなくなってようやく、名残惜しそうに視線を戻した。

夕美はとうに老夫人を連れて立ち去っていたが、三姫子は処刑が終わっても、まだその場に留まっていた。

結局、彼女は処刑の瞬間を見ることはなかった。ずっと目を閉じていて、民衆が「もう息絶えた」「動かなくなった」と話す声が聞こえてから、ようやく目を開いたのである。

遺体を晒し物にする必要はないので、遺族が引き取りに来なければならない。そうしなければ、無縁塚に投げ捨てられてしまう。

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