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第712話

Author: 月影
乃亜はすぐに辰巳を手術室に送り込んだ。

傷口は縫わなければならない。

乃亜が支払いをしに行こうとしたその瞬間、突然誰かが飛び出してきて、彼女の携帯を奪った。

支払い窓口のスタッフもびっくりして、何が起こったのか分からず、呆然としていた。

こんな昼間に堂々とひったくり?

乃亜は携帯を取られても全然焦らず、バッグから別の携帯を取り出して、淡々と電話をかけた。「私の携帯を追跡して。必要なら、爆破して」

彼女の携帯は特別に改造されていて、いくらリセットしても無駄だ。だから他の誰かが手にしても全く心配していなかった。

最後の二言は非常に残酷だが、乃亜の口から出ると、まるで友達に話すような普通の言い回しに聞こえる。

周りにいた人々は、思わず彼女から少し離れた。

この女性、普通の人じゃない。

関わらない方が良さそうだ。

その時、病院の外で、男がジャケットを脱ぎ、ゴミ箱に放り込むと、携帯を取り出して電話をかけた。

「蓮見様、乃亜の携帯を手に入れた」

「指定した場所に置いておけ。俺が人を送る」

「了解」

男は電話を切り、タクシーを捕まえて目的地を告げた。

乃亜が支払いを終え、手術室に戻ろうとしたとき、電話が鳴った。

「乃亜、位置情報をLINEで送ったよ。墓地みたいだ」

乃亜は眉をひそめた。「すぐに数人送って確認して、私も行く」

電話を切った後、乃亜はもう手術室の前に到着していることに気づいた。

座ろうとした瞬間、手術室のライトが消えた。

彼女は思わず背筋を伸ばし、立ち止まる。次の瞬間、手術室のドアが開き、辰巳が自分で歩いて出てきた。

乃亜を見つけた辰巳は、目を輝かせて駆け寄ってきた。「まだここにいたんだ!」

手術中、ずっと乃亜がもう帰ったと思っていた辰巳は、予想外の展開に驚き、嬉しさが込み上げた。

「支払いしてただけよ。病室行こう」乃亜は淡々と彼の顔を見た。

彼の様子が悪くないことを確認し、少し安心した。

「辰巳が無事で良かった」

その瞬間、以前拓海に対して感じた自責の念がよみがえった。

辰巳は喜びを抑えながらも、素直に乃亜についていった。

その様子はまるで......

忠実な犬のようだった。

後ろには数人の医療スタッフもついてきていた。

病室に入ると、乃亜は辰巳にベッドで横になるように言った。

辰巳は横になりたくなか
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