120.
ここまでのあらすじ
数々の強敵を下しC3リーグを突破したカオリたち。来期からはC2リーガー。しかし、その前に女流リーグがある。
女性だけの戦いにカオリたちがいま参戦する!
【登場人物紹介】
財前香織
ざいぜんかおり
通称カオリ
主人公。女子大生プロ雀士。
読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。
柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。
神の力を宿す。
財前真実
ざいぜんまなみ
通称マナミ
主人公の義理の姉。麻雀部部長。
攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。妹と一緒に女子大生プロ雀士となる。神に見守られている。
第36期新人王戦3位
佐藤優
さとうゆう
通称ユウ
兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。
誘導するような罠作りに長けている。
麻雀教室の講師になることが夢。
第1回UUCコーヒー杯優勝
竹田杏奈
たけだあんな
通称アン
テーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。佐藤優の相棒で、一緒に麻雀教室をやることを夢見ている。
佐藤卓
さとうすぐる
通称スグル
佐藤優の兄。『富士2号店』という雀荘の遅番メンバー。萬屋の右腕的存在。
自分の部屋は麻雀部に乗っ取られているが全く気にしていない。
井川美沙都
いがわみさと
通称ミサト
麻雀部いちのスタミナを誇る守備派の女子大生プロ雀士。
怠けることを嫌い、ス
122.第三話 ラボ 飯田雪はおぼつかない手つきだった。牌に触れたのは今日が初めてだと言うからそれも仕方ない。「なんか麻雀牌って重いんですね。それに、デザインも描いてるんじゃなくて彫ってあるんですね。素敵だなあ。知らなかったなあ」 そう言いながら飯田はまじまじと自分の手牌を見つめる。「盲牌(モーパイ)って聞いたことないか? あれはさ、指先の(主に親指の)腹だけで何の牌を引いたか当てることなんだよ。この彫りの手触りだけでね」「そっ、そんなこと可能なんですか?!」「出来る人には出来る。おれは苦手だけど」「ふふっ! なんだ、苦手なんですね。凄い! と思って聞いてたのに」 ふふっ! と笑う飯田は笑顔が幼い少女のようでなんだかミサトはキュンときた。 そんなこんなで半荘2回を行いミサトと店長が1回ずつトップを取って終了した。半荘2回を通して飯田を観察したミサトの感想は(飯田さんはとても丁寧に麻雀するなあ…… 鍛えたら強くなりそう。あと、顔がかわいい、髪を伸ばせばもっといいのに)と思ったという。 ゲーム終了後にミサトは思い切って話しかけた。「あ、あのさ。飯田さん。私も今18歳なんだけど、私達お友達になれないかな?」「えっ…… ぜ、ぜひよろしくお願いします。ユキって呼んでください。名前…… 気に入ってるので」「同じ同じ! 私も自分のファーストネームを気に入ってるの! 私のことはミサトって呼んでね、ユキ!」「わかりました…… よろしく、ミサト」(かわいい~!) ミサトの中で何か禁断の扉がバカン! と勢いよく開いたような音がした気がしたが(気のせいだろう)と思うことにした。
121.第二話 雪 その日、ミサトは『ひよこ』でフリー打ちしようとしていた。待ち席で空きが出るのを待っているミサト。……するとミサトのバイト先の店長である小宮山(こみやま)とその部下かな? と思われる方が来店する。 少し暖かくなってきたと思ったらまた最近は冷え始めていて、その部下っぽい人は青い野球帽を深く被っていて顔ははっきりと見えないが下は厚手のジーンズに少し厚みのあるフカフカした靴下を履いていた。それだけで、ミサトは直感する。(この人は強そうだ)と。 結婚してる感じはしないから多分自分で選んだ服装だろう。この靴下。季節という先入観にとらわれることなく、自分の感覚で(今日は寒い)と感じて最適な服装を選択出来る判断力。 毛玉のできやすい素材のはずなのに綺麗なままの毛玉ひとつない靴下。 つまり、几帳面。ズボラな人なら隙もあるが几帳面だと麻雀にも隙がない。 このように、ミサトくらいになれば一目見ただけで強いかどうかはやる前から見当が付くのである。(これは、締めてかかる必要がありそうね)「こちらの方は?」「あ、ミサトにはまだ紹介してなかったな。ウチの事務仕事担当の飯田君だ。まだ18歳だけどよく気付く子でね。裏方だからあまり顔を合わせることもないけど、同じ店の仲間だから。よろしくな」「飯田です。よろしくお願いします」「私は麻沼スズメこと井川ミサトです。よろしくお願いします」(男性にしてはずいぶん声が高いな)「飯田君はフリー雀荘に興味があると言ってたので連れてきたんだ。ゲームでしかやったことない子だから。もし良かったらでいいんだがミサトも一緒に0.5(テンゴ)で教えてあげてくれないか?」「あ、そういうことでしたか。1.0(ピン)で3人同卓の血で血を洗うバトルが始まるのかと思いましたよ。0.5ね。それなら、いいですね」
120.ここまでのあらすじ 数々の強敵を下しC3リーグを突破したカオリたち。来期からはC2リーガー。しかし、その前に女流リーグがある。 女性だけの戦いにカオリたちがいま参戦する! 【登場人物紹介】財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。女子大生プロ雀士。読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。神の力を宿す。財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。妹と一緒に女子大生プロ雀士となる。神に見守られている。第36期新人王戦3位佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。誘導するような罠作りに長けている。麻雀教室の講師になることが夢。第1回UUCコーヒー杯優勝竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。佐藤優の相棒で、一緒に麻雀教室をやることを夢見ている。佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『富士2号店』という雀荘の遅番メンバー。萬屋の右腕的存在。自分の部屋は麻雀部に乗っ取られているが全く気にしていない。井川美沙都いがわみさと通称ミサト麻雀部いちのスタミナを誇る守備派の女子大生プロ雀士。怠けることを嫌い、ス
119.第十六話 豊かな人生「じゃあ、まず店長に連絡しましょう」「そうね、プロ辞めたと思ってシフト作り始めてたら大変だものね、だって来月は女流リーグが始まるし」 そう、プロリーグはカオリたちには2つある。1つは普通の男女混合リーグ。そしてもう1つは女性だけのリーグ戦『女流リーグ』だ。 リーグ戦を終えたら直ぐに女流リーグが始まる。「あ、もしもし。店長、あのね実は……◆◇◆◇ 一方、中野雅也はというと、ニューヨーク支店行きを結局は喜んでいた。(リーグ昇級をムダにしてしまったのは悔やまれるけど会社員にとって栄転はそれ以上に喜ばしいことだ。まして、ニューヨーク支店。断ったりしたら一生後悔する) 中野の今期リーグ戦は役満をツモったり三倍満をツモったりと奇跡の首位昇級だった。それだけでいい、辞めるならむしろこの、自分が最強だった記憶を最後にするのは悪くない。中野はそう思うことにした。 中野はプロになるきっかけとなった雀荘『あおい』の店主に挨拶をしに行った。あおいのオーナーの後押しがあったからプロになろうと思ったのだ。「史子(ふみこ)さん、おれ、この店に偶然出会えて本当に良かった。 おかげでこんなに楽しい思い出がいっぱいです。おれの人生は、今とても豊かです。恋人がいなくても。結婚してなくても。プロリーグを辞める事になっても。こんなにも豊かです。 少しの間お別れですけど、いつかまたここに来ますね。 今日までプロ雀士中野雅也を応援していただき、誠にありがとうございました!」 「雅也くん。また、卓上で会える日が来るって信じてるよ。栄転おめでとう」「……必ず、また会いに来ます。どれだけ先になろうとも、必ず!」 そう言うと中野はガラガラッと扉を開けた。「もう帰るのかい? 1回くらい打っていきなよ」「けっこう忙しくてね、時間がないんだ。マスターにもよろしく言って下さい。それじゃ。また」※マスターは基本的に遅番をしてるので今はぐっすり寝ている時間だった。「うん、またね。約束だよ」 かくして、繰り上げとは言え財前香織はリーグ戦初出場にして首位昇級者。井川美沙都は新人王にして2位昇級。財前真実は新人王戦3位で4位昇級となった。素晴らしい結果である。 これにより、彼女たちは新世代のスーパールーキーとしてその存在を認知され始めるのであった――
118.第十伍話 笑顔♪ピロン(カオリちゃんからだ…… なんだろう。あまり、見たくないな。なんだか、合わす顔がないし……) 家事は終わらせているので子供は旦那に任せることも出来るが、気が乗らない。プロを辞めた事についての話だろうなと思うとどうしてもメッセージを開くことに躊躇してしまうメグミだった。────(メグミさん、既読付かないなあ)「アンちゃん。ちょっと私、洋服見に行ってくる。また帰ってくるから」「わかりました~」「じゃ、またあとで」「あい、いってらっしゃい」 カランカラン“メグミさん。忙しいですか。それならまた今度でもいいです。すいません、無理言って”────(またカオリちゃんからだ。さすがに開くか……) 丁度その時、子供を夫に任せてメグミは夕飯の買い物をしに外に出ていた。“いま丁度外に出たとこ。少しなら会えるけど、10分くらいでいいかな”“大丈夫です”“じゃあ10分以内で行くから待ってて”“わかりました”────「お待たせ、ごめんね返信遅くなって」 メグミがほぼノーメイクで来た。いつもメイクが濃いわけではないがそれなりに化粧をしていたんだなとこの時知った。「メグミさん! お待ちしてました。何か飲まれますか?」「じゃあ、アイスコーヒーが飲みたいかな」「アンちゃん、アイスコーヒー2つ下さい」「アイスコーヒー2つですね。かしこまりました」「随分親しげね。あの子は友達?」「あれ、そういえば紹介してませんでしたっけ。彼女は竹田杏奈。私の高校の後輩で一緒に麻雀を鍛錬したかけがえのない仲間です」「そうなの。竹田さん初めまして。私は日…」「に?」「いえ、成田恵美です。よろしくね」(日本プロ麻雀師団所属だという紹介はもうしなくていいんだった)「よろしくお願いします」「……で、いきなり本題なんですけど、師団を辞めるって本当ですか?」「あら、もう聞いたの。店長ったらお喋りだなぁ。……ホントよ。もうけっこう前から決めてたの、次のリーグ戦で昇級しなかったら辞めようって」「嫌ですよ! 辞めてほしくないです!」 カオリにしては珍しく大きな声を上げた。アンは初めてカオリの大きな声を聞いてビックリした。「シーッ…… 喫茶店で大きな声出さないの……。うん、ありがとね。わざわざ止めるために呼び出したり…… 私、後輩に説得
117. 第十四話 説得 次の土曜日。今日は前半がカオリ、後半がマナミの出勤だ。すると店長から驚きの報告を受けた。「メグちゃんね、プロやめるって。ここの仕事は続けるんだけど来月からメグちゃんは女子バイトになるんだ。まあ、やる事はあまり変わらないけどそう言う事だからよろしく」 それを聞いたカオリはショックだったが。それよりマナミが気掛かりだった。マナミは最後の対局で自分のアガリがトドメを刺したと思って気にしている。その上プロを辞めたなどと知ればどんな風に思うだろうか。「あの、このことはまだマナミには言わないで下さい。どうか、どうか。おねがいします!」「あっ… ああ。それはいいけれど」「ありがとうございます」────15時40分「おはようございます!」 カオリとマナミの交代の時間だ。「いらっしゃいませ!」 マナミが出勤の挨拶をホールにする。「マナミさんおはようございます。いま仕事はとりあえず落ち着いてるから。あっ、カオリさんはもうあがっていいよ」「ありがとうございます、じゃあ挨拶してあがります」「お先に失礼します。みなさまごゆっくりどうぞ」「お疲れ様」「はーい、また明日」「カオリちゃーん昇級おめでとう! 明日は何時からなの?」「ありがとうございます! 今日と同じ10時からですよ。明日も来てくださいね」 カオリはお客さんに大人気だ。財前姉妹は今や水戸の麻雀アイドルになりつつあった。(さて、メグミさんを説得しなきゃ)“メグミさん、会ってお話ししたい事があるんでこれから駅前の喫茶店『グリーン』に来れませんか? 私は今日はもう用事がないのでのんびりお茶して待っています。来れたら来て欲しいです”(さーて、なんて説得しようかなぁ。ねえwomanどうする?)《メグミさんにも事情があるでしょうし、そんなうまくいきますかね?》(とりあえずはやってみる。話はそれからでしょ)《まあ、頑張ってみましょうか。私も彼女がプロを辞めてしまうのは悲しいです》(そうよね、それを伝えてみるわ)(あとは、アンに連絡か)“今から『グリーン』に行くけどなるべく静かな席を2席取っておいて欲しいの。できたらで構わないけど” するとアンからは即で返信が来た。“OK”(よし) しかし、メグミからの返信はすぐには来なかった。