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第0597話

Author: 十六子
な、なに!?

まさか瑠璃が、こんな公の場で自分のことを愚かと名指しで言うとは、青葉は思ってもいなかった。

今でこそ身分は下がったが、ここ景市では――誰もが知っている。瑠璃は隼人の妻であり、彼女が「姑」と言えば、それはつまり、青葉自身のことだ。

その瞬間、会場の空気がざわめき、知らなかった観客たちも口々にひそひそと話し始めた。

隼人は無言のまま観客席に座っていたが、彼の端正な顔立ちには明らかな冷気が走っていた。

前列に座っていた夏美と賢も振り返り、顔色を変えた。

「青葉、またうちの娘に何か仕掛けたのか?さっき彼女がステージで言ってたこと……あれ、どういう意味なの!」

夏美は鋭い声で問い詰めた。

その一言で、周囲の観客も「やっぱり」「あの人が姑か」と理解した。

注目と非難の視線が集まり、青葉は慌てて席から立ち上がった。

「瑠璃!こんな場所で何を言ってるの!?恥を知らないのはあんただけよ!」

瑠璃は眉を軽く上げ、冷ややかに言い放った。

「面子が大事なら、姑として姪っ子と手を組んでこんな茶番を演じるべきじゃなかったわ」

「な……何を!私はそんなことしてない!雪菜とも結託なんて……」

「そうよ!瑠璃、いい加減にして!あんたが盗作したから、私が巻き込まれたの!」

「巻き込まれた?」

瑠璃は静かに口を開き、その瞳には鋭い光が宿った。

「雪菜……あなた、本当に私をただのバカだと思ってるの?」

その瞬間、雪菜はぎくりと肩を震わせ、一歩後ずさった。

瑠璃の視線はまるで鋼のように鋭く、真っ直ぐ彼女を射抜いていた。

「あなたとその姑様が結託して、ジュエリーデザイン決勝の舞台で私を潰そうとした――MLの専属デザイナーという私の名誉を、地に落とそうとしたこと、気づかないとでも思ったの?」

なんだと!瑠璃にバレたのか?

青葉と雪菜は完全に動揺していた。

「私はね、最初からあなたたちが私の図案を盗もうとしていることを知っていたの。だから、あえて盗ませてあげたのよ。書斎のドアを開けておいたのも、パソコンの画面をそのままにしておいたのも、全部あなたのため。さらに、どの作品を使うかまで教えてあげた」

「……」

「あなたたちの考えはこうでしょ?雪菜に私のデザインを持たせて先に投稿させる。そうすれば、彼女がオリジナルになって、あとから同じデザインを出した私は
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