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第208話

Author: 雲間探
玲奈は青木おばあさんの腕をぎゅっと握った。

青木おばあさんは落ち着いた様子で彼女の手の甲を軽く叩き、言った。「大丈夫よ」

あちらがこちらの来訪を予想していたのなら、こちらもまた、彼女たちの来訪を読めないはずがない。

礼二が言った。「青木おばあさん、私、田渕じいさんに挨拶しに行くけど、玲奈と一緒に行きませんか?」

つまり、彼は彼女を田渕先生に紹介しようとしていた。

本人にとっての憧れの人と、直接言葉を交わす機会を作ろうとしたのだ。

だが青木おばあさんは首を振り、こう答えた。「これだけの作品を一度に見られるだけで充分幸せだわ。先生のご負担になりたくないから」

青木おばあさんがそこまで言われてしまっては、礼二もそれ以上強くは言えなかった。

ただ、大森家と遠山家がいるとなると、やはり少し心配だった。

玲奈は言った。「行っていいよ。心配しないで」

大森家と遠山家みたいな面子を重んじる人たちは、こんな場で何かしてくるはずがない。

それを聞いた礼二は、その場を離れた。

玲奈は尋ねた。「おばあちゃん、どの絵から見る?」

青木おばあさんはにこやかに答えた。「近いところからでいいわ」

玲奈は返した。「いいね」

玲奈がちょうど青木おばあさんの腕を取り、歩き出そうとしたその時、淳一と宗介も会場に現れた。

彼らもすぐに玲奈を見つけた。

宗介は未練がましく玲奈に声をかけに行こうとした。

淳一は無意識に眉をひそめていた。

玲奈は二人を無視して、踵を返した。

青木おばあさんが聞いた。「あの二人、知り合いなの?」

「仕事上の付き合いで」

それだけ答えると、青木おばあさんはそれ以上何も聞かなかった。

その時、正雄と佳子もやってきた。淳一を見かけて声をかけようとしたが、先に彼の方から口を開いた。「大森社長、大森夫人、お越しでしたか」

「ええ」

正雄が返事をしようとしたとき、大森おばあさんと遠山おばあさんが近づいてきて声をかけた。「正雄、佳子、お二人ともこの若者たちをご存じ?」

彼女たちは先ほど、玲奈と淳一の間に何か関係がありそうだと気づいていたのだった。

正雄は笑顔で答えた。「こちらは徳岡社長。優里ちゃんと智昭の友人でして」

「なるほどね」

淳一は軽く大森家と遠山家に挨拶を交わした後、宗介と共に展示室の奥へと進み、贈り物を届けに行った。

彼らが
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