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原初の詩と最後の敵

作者: 吟色
last update 最終更新日: 2025-08-26 01:30:08

原初の詩の間は、言葉では表現できないほど美しかった。

空間全体が虹色の光で満たされ、無数の文字が宙に舞っている。

それらは世界で最初に紡がれた言葉——愛と希望の結晶だった。

「これが……原初の詩」

セリアが息を呑む。

中央に浮かぶ古い巻物が、それだった。

しかし、その表面の多くが黒く染まっている。

「汚染されてる」

エスティアが顔を青くする。

「黙詩派の仕業ね」

『急がないと、完全に破壊されてしまいます』

ティオの心の声が警告する。

ユウリが手を伸ばそうとした時、空間が歪んだ。

現れたのは、黒いローブに身を包んだ人物だった。

その顔は深いフードに隠され、見ることができない。

「ついに来たな、継承者たちよ」

低く、重い声が響く。

「お前は……」

ユウリが身構える。

「我は黙詩派の真の指導者」

人物がゆっくりとフードを取る。

「『沈黙の王』と呼ばれている」

現れた顔は、予想外のものだった。

それは若い男性で、どこか悲しげな表情をしている。

黒く染まった花紋が、額に刻まれていた。

「君も……花紋者だったのか」

トアが驚く。

「そうだ。かつては、君たちと同じ道を歩んでいた」

沈黙の王が語り始める。

「愛する人のために、言葉の力で世界を救おうとしていた」

「なら、なぜ……」

「失ったからだ」

王の瞳に深い悲しみが宿る。

「言葉の力で、最愛の人を失った」

空間に映像が浮かぶ。

若き日の沈黙の王が、恋人と共に魔法の研究をしている光景。

しかし、実験の失敗により、恋人が命を落とす。

「言葉が人を殺した」

王が拳を握る。

「美しい詩も、愛の言葉も、結局は人を傷つける刃でしかない」

「でも、それは……」

ユウリが反論しようとするが、王がそれを遮る。

「だから決めたのだ。この世界から、すべての言葉を消し去ると」

王が漆黒の魔導書を開く。

「争いも、悲しみも、すべてを沈黙に変えてやる」

「それじゃあ、喜びも愛も消えてしまう」

セリアが叫ぶ。

「構わない」

王の声は冷たい。

「何も感じなければ、傷つくこともない」

戦闘が始まった。

沈黙の王の魔法は圧倒的だった。

言葉そのものを消去する力で、五人の詩を次々と無効化していく。

「くっ……魔法が使えない」

エスティアが苦戦する。

しかし、五人は諦めなかった。

魔法が使えなくても、心は繋がっている。

「みんな、声に出して話そう」

ユウリが提案する
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