星芒のスズカ~イケメンに変身できちゃう屈強な獣人とか反則なんですけど?~

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بواسطة:  青砥尭杜مستمر
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 身体の弱い子供だった頃から、振り返ると「危うかった」と思う思春期を何とか乗り切って上京するまで、自分の成長に誰よりも寄り添ってくれた愛犬アルシオーネの葬儀のために帰郷した涼香。  人並みに二十一歳の大学生としてキャンパスライフを楽しんでいたはずの涼香は、葬儀から帰った実家の自室で独りになった途端に溢れる涙を止めることができず、そのまま泣き疲れて寝入ってしまう。  なぜか懐かしいと感じる声に名前を呼ばれて目を覚ました涼香の目の前には、イヌの頭部と人間の身体を持つ獣頭人身の獣人がいた。  涼香は恐怖をまったく感じなかった。その獣人の瞳がアルシオーネのものだったから――

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الفصل الأول

第1話 涼香とアルシオーネ、そしてアルフ

 強烈な寒気の影響で日本海側では大雪となった二〇二五年の二月八日。

 涼香が帰郷した名古屋市も、深夜から朝方にかけて降った雪がうっすらと積もっていた。

「涼香、大丈夫?」

 見慣れた風景の色をわずかに淡くする、寒さに凍えた車窓をじっと眺めていた涼香は母親の声で我に返った。

「うん。大丈夫だよ。覚悟はできてたし。キャバリアで十六歳まで生きてくれたんだもん。頑張ってくれたよ、アルシオーネは、ホントにさ」

 後部座席の涼香が気丈に答える様子に触れた母親は「そうよね」とだけ短く返すと、助手席で捻っていた身体を直して視線を前方に戻した。

 アルシオーネの葬儀は、ペット葬儀会社の火葬車が小さな身体を焼くのを見届けるだけのものだった。

 呆気ない葬儀の短い時間でも冷え切った手足と一緒に、自分の一部が消失していくように涼香は感じた。

 父親の運転する自動車が、愛犬の遺骨と共に実家へ帰ったのは昼前だった。

「お昼はいらないや。おなか空いてないし。久し振りだし、部屋の片付けでもしとくよ」

 母親に声を掛けた涼香は玄関から一直線に自室へと移動した。

 上京する前の状態からほとんど変わっていない自室で独りになった涼香は、途端に溢れてくる涙を止めることができなかった。

 泣き出してしまうことに驚きは無かった。家族の前でも気丈に振る舞うことしかできない自分を滑稽だとも思った。

 ベッドにつっぷした涼香は、いつも添い寝してくれたアルシオーネの柔らかい匂いが微かに残っている気のするマットレスの上で身体を丸め、いつしか泣き疲れるまま眠りに落ちた――

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「……すず……か……、すずか……」

 聞いた覚えはないのに何故か懐かしい感じのする声が、自分の名前を呼んでいることに気付いて、涼香はゆっくりとまぶたを開いた。

 明るかった。見たことのない白い天井。

 日が差し込む白を基調とした部屋の、純白のベッドで涼香は横になっていた。

「良かった。目が覚めたみたいね」

 涼香は自分を呼んでいた声がする方に視線を向けた。

 そこにはキャバリアの頭部に人の身体という、獣頭人身の姿をした獣人が立っていた。

「スズカ。あたちよ、分かるわよね?」

 涼香は獣頭人身の獣人という異形の存在を前にして、まったく恐怖を感じなかった。

 獣人のとろんとやさしい瞳は、涼香にとって見間違えようのない存在の瞳と同じだった。

「うんっ。分かるよっ……! アルシオーネ!」

 勢いよく起き上がった涼香は、迷いなく獣人に抱きついた。

 夢でもいいと思った。アルシオーネにふたたび会えただけで充分だった。

 アルシオーネはやわらかく涼香を抱きしめ返した。

 涼香の頬はアルシオーネのやわらかな毛並みを感じ、涼香の鼻腔はアルシオーネのあまやかな香りを吸い込んで悦んだ。

「寝覚めがいいようで、安心したよ」

 背後から聞こえた低いのに良く通るバリトンの男性の声に、涼香は驚いて振り返った。

 そこにはジャーマンシェパードの頭部を持つ、獣頭人身の獣人が立っていた。

「感動の再会に水をささないでちょうだい。声を掛けるのが早過ぎるわよ」

 アルシオーネが男性らしきジャーマンシェパードの獣人をたしなめると、獣人の男性は肩をすくめてみせた。

「こりゃ、失敬。はじめまして、スズカ嬢。俺はアルフ。見ての通り、ジャーマンシェパードの獣人だ。この国の近衛騎士団長ってことになってる」

 アルフと名乗った獣人は百九十センチを越える長身で、軽装ではあるが濃紺の軍服を着ており、屈強な感じが一目で見て取れる筋骨隆々とした人間の体躯を有していた。

「許してやってね。アルフってちょっと無粋なところがあるけれど、悪い男ではないわ」

 アルシオーネの声で視線を戻した涼香の瞳に映るのは、確かにアルシオーネの顔だった。

 百五十四センチと小柄な涼香とほぼ同じ身長のアルシオーネは、フードが付いた濃紺のローブを着ていた。

「アルシオーネ。これは、夢じゃない……の?」

「ええ、夢ではないわよ。スズカは召喚されたの、このイヌの国にね」

「召喚? イヌの国……?」

「この世界は獣人たちの生きる世界。人間はスズカを含めても二人だけ。もう一人も元の世界から召喚された人間ね。そして、この国はイヌの国。イヌの獣人たちが暮らす国よ」

 理解が追い付かない涼香は、首を傾げながらも次の質問を口にした。

「……あたしは、なんのために、召喚されたの?」

「それはね……」

 アルシオーネが言いよどむ様子を見て、アルフが代わりに涼香の問いに答えた。

「それは俺から説明しよう。俺たち獣人は総じて人間より戦闘に関する能力が高いんだが、スズカ嬢の前に召喚された人間、ヒロキ殿がネコの国の参謀になって辣腕を揮ったことで、軍略に関しては人間の方が向いてるってのが両国で共有する認識になった。そこでイヌの国も、人間の参謀を招くために召喚することを決めた。スズカ嬢には、この国の参謀になってもらいたい」

 突拍子もない展開に目を丸くした涼香は、驚きをそのまま表した大声で返した。

「参謀!? あたしが!?」

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第1話 涼香とアルシオーネ、そしてアルフ
 強烈な寒気の影響で日本海側では大雪となった二〇二五年の二月八日。 涼香が帰郷した名古屋市も、深夜から朝方にかけて降った雪がうっすらと積もっていた。「涼香、大丈夫?」 見慣れた風景の色をわずかに淡くする、寒さに凍えた車窓をじっと眺めていた涼香は母親の声で我に返った。「うん。大丈夫だよ。覚悟はできてたし。キャバリアで十六歳まで生きてくれたんだもん。頑張ってくれたよ、アルシオーネは、ホントにさ」 後部座席の涼香が気丈に答える様子に触れた母親は「そうよね」とだけ短く返すと、助手席で捻っていた身体を直して視線を前方に戻した。 アルシオーネの葬儀は、ペット葬儀会社の火葬車が小さな身体を焼くのを見届けるだけのものだった。 呆気ない葬儀の短い時間でも冷え切った手足と一緒に、自分の一部が消失していくように涼香は感じた。 父親の運転する自動車が、愛犬の遺骨と共に実家へ帰ったのは昼前だった。「お昼はいらないや。おなか空いてないし。久し振りだし、部屋の片付けでもしとくよ」 母親に声を掛けた涼香は玄関から一直線に自室へと移動した。 上京する前の状態からほとんど変わっていない自室で独りになった涼香は、途端に溢れてくる涙を止めることができなかった。 泣き出してしまうことに驚きは無かった。家族の前でも気丈に振る舞うことしかできない自分を滑稽だとも思った。 ベッドにつっぷした涼香は、いつも添い寝してくれたアルシオーネの柔らかい匂いが微かに残っている気のするマットレスの上で身体を丸め、いつしか泣き疲れるまま眠りに落ちた―― ◇ ◇ ◇ ◇ ◇「……すず……か……、すずか……」 聞いた覚えはないのに何故か懐かしい感じのする声が、自分の名前を呼んでいることに気付いて、涼香はゆっくりとまぶたを開いた。 明るかった。見たことのない白い天井。 日が差し込む白を基調とした部屋の、純白のベッドで涼香は横になっていた。「良かった。目が覚めたみたいね」 涼香は自分を呼んでいた声がする方に視線を向けた。 そこにはキャバリアの頭部に人の身体という、獣頭人身の姿をした獣人が立っていた。「スズカ。あたちよ、分かるわよね?」 涼香は獣頭人身の獣人という異形の存在を前にして、まったく恐怖を感じなかった。 獣人のとろんとやさしい瞳は、涼香にとって見間違えようのない存在の瞳と同じだっ
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第2話 イケメンになれちゃう獣人
 黒縁眼鏡の奥の少し吊り目気味な猫目を大きく見開いて驚きの声を上げた涼香の横で、小さな嘆息を漏らしたアルシオーネがたしなめる口調でアルフに対する指摘を口にした。「話を要約し過ぎよ。スズカはこの世界に来たばかりの女の子なの。日頃あなたが接してる、要点だけ伝えれば会話が成立する騎士や兵士たちとは違うのよ。説明を省略しちゃダメ」 アルシオーネにたしなめられて納得する様子をみせたアルフは、すぐさま涼香に向けて頭を下げながら謝罪した。「申し訳ない。アルシオーネ卿の言うとおりだ。今は特に注意して、順を追って説明するべきだった。この世界に来たばかりで不安を抱えているだろうスズカ嬢を、いたずらに驚かせてしまったことを心よりお詫びする」 大柄で屈強な獣人に頭を下げられるという事態に遭遇した涼香は、驚きが吹き飛んだ代わりに慌ててしまったことを隠す余裕も無くアルフに声を掛けた。「あたしなら大丈夫です。ちょっと驚いちゃっただけなんで。頭を上げてください」 涼香の声に合わせて頭を上げたアルフに対して、アルシオーネが次の行動を示唆した。「驚かせついでに、あたちたちの人化した姿をスズカに見てもらいましょ。この世界についての説明を聞くにしても、初めて見る獣人からよりヒトの姿になったあたちたちからのほうが、スズカもリラックスして聞けるでしょうから」 アルシオーネの提案に対して「なるほど。確かに一理ある」と首肯を返したアルフのジャーマンシェパードである頭部が淡い青みがかった光を帯びると、次の瞬間にはアルフの頭部が人間の男性のものになっていた。 眼前で突然の変身を遂げたアルフの姿に、猫目だけでなく薄い唇が少しコンプレックスでもある小さな口をポカンと空けた涼香は、実際の声にはならない驚きを胸の内で上げた。(待って待って待ってっ! いきなり人の、ってかめちゃくちゃイケメンになっちゃったんですけどっ!?) 涼香の心の声を聞いたかのように、唖然とした表情のままで固まる涼香にアルシオーネが声を掛けた。「なかなかの美丈夫でしょ? まあ、あたちには敵わないけど」 愉快そうに言い切ったアルシオーネのキャバリアである頭部が、アルフと同様に淡く青みがかる光を帯びた次の瞬間には、人間の女性の頭部へと姿を変えた。 頭部だけがイヌである獣頭人身の獣人の姿から、完全なヒトの姿へと変身したアルシオーネを
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第3話 革命の乙女
「戦国って……信長とか秀吉がいた、あの戦国時代みたいだってこと?」 涼香が聞き返すとアルシオーネはこくりと頷いてから答えた。「そう、その戦国時代よ。イヌの国とネコの国みたいに同盟を結んでいる国もあるけれどレアケースで、全体的に見れば十三に分かれた国々は互いに敵対しているの」 アルシオーネが説明した世界の状況に対して、涼香は浮かんだ疑問を素直に口にした。「争ってる理由はなに? 国同士で争ってるってことは、土地を奪い合ってるってことでしょ? 種族が違うから? それとも食糧事情とか?」 アルシオーネに代わって答えたのは、涼香が上げた疑問を聞いて感心する表情を浮かべるアルフだった。「素晴らしい着眼だ。本質を突いてる。まず前提として、十三の国に分かれてるのは地球の日本とほぼ同じ地形と面積の列島で、人口は列島全体で六百万ほど。農業や建築なんかの技術は江戸時代ってところなのがこの世界だ。食糧事情で考えるなら土地を奪い合う必要は無いと言っていい」 間を取るように説明を句切ったアルフに対し、涼香は続きを促すように「じゃあ、どうして?」と言葉を掛けた。 アルフが涼香をまっすぐに見つめながら静かな口調で答える。「俺たちはイヌやネコ、トリやネズミから獣人になったことでヒトと同等の脳、知能ってやつを手に入れてしまった。この世界に転生した時点で知識まで頭に入ってる状態だった。そんな獣人たちはヒトと同じように思考する中で、余計なものまで持つようになる。権力とか富なんかに対する欲だ。そして、獣人たちは闘争本能をセーブすることなく欲望のままに争いを始めてしまった」 アルフが口にした異世界の経緯に少なからずショックを受けた涼香は、素直な感想をぼそりと漏らした。「それじゃ……この世界って、アルシオーネたちにとって不幸な転生先ってこと……?」 涼香の率直な感想を聞いたアルフが、理解を示すようにゆったりとした頷きを返してから答える。「スズカ嬢がそう思うのも理解できる。ただ、この世界に転生した獣人たちの大半はそう思ってはいない。ヒトのエゴから解放された家畜たちや、解放という点で言ってしまえばペットたちも、自分の意思で生きられる知能と文明を手に入れた世界だと思ってる。獣人としての生を全うする形の中には争いも生じると、この世界の状況を受け入れてる」 アルフの言葉を聞いた涼香は、自分も
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第4話 神たるドラゴンの下賜
「革命の乙女ってさあ……もう響きからして最期は裏切られて火あぶりか凶弾に倒れそうじゃん……っていうか、アルシオーネの言い方だとあたしがこの世界に来るってこと、来る前から分かってた感じに聞こえるんですけど……?」 強く拒否する気も起きずに感想を口にした涼香に対して、アルシオーネはすんなりと答えた。「ええ、知っていたのよ。あたちがこの世界へ転生した時にドラゴンも同時に顕現して、この国の国王に告げたのよ。あたちと共に暮らしていたスズカという人間を転移させる召喚の術式を下賜するってね」 またしても急展開する話の流れに驚き疲れた涼香が、ぽかんと小さな口を開けて小首を傾げる。  涼香の反応を見たアルフが説明を補足をするために口を開いた。「最初に言った話へと戻るんだが……このイヌの国との同盟を結ぶ立役者となった、ネコの国の参謀であるヒロキ殿がこの世界に召喚された経緯も同様だったらしい。オニキス卿というネコの獣人が転生した際に、その飼い主だったヒロキという名の人間を召喚するための術式を下賜すると、この世界の神たるドラゴンはネコの国の国王陛下へと告げられた。信心深い陛下は神で在られるドラゴンのお告げは福音であろうと考え、召喚術式の行使を決定された」 涼香が説明に付いてきているか確認するように間を置いたアルフは、涼香の表情を確認してから説明を続けた。「ヒロキ殿の有能ぶりに感心していたこの国の国王陛下は、アルシオーネ卿の転生とともにドラゴンから下賜された召喚術式を行使すると即決された。そして、ドラゴンのお告げ通りにスズカ嬢がこの世界へと召喚されたってのが、かいつまんだ経緯になる」 アルフの説明を聞き、ふうと短い溜め息を漏らした涼香は、「いきなり獣人さんたちの世界に来たら参謀とか革命の乙女とか言われるって、話が急すぎるんですけど?」 と諦観した口調で答えた。「そこは本当に申し訳ないと思っている。本来ならスズカ嬢が落ち着くのを待ってから説明に入るべきだ。ただ、不躾なお願いだと承知の上で、俺たちの事情が切迫しているのもスズカ嬢には酌んでもらえるとありがたいんだが……」 アルフの凜々しい眼差しにわずかな憂いが浮かぶのを見て思わずドキッとしてしまった涼香は、「まあ、アルシオーネに会えたのはホントに嬉しいし、異世界ものは好きだし、取り敢えず身の危険も無さそうだし」 と早口
last updateآخر تحديث : 2025-06-07
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第5話 獣人たちが生きる世界の有り様
 「戦線の処理って……この国は今、どこかの国と交戦状態にあるってことですか……?」 アルフが口にした「戦線」という言葉に反応した涼香が、その部分を指摘するように訊くとアルフは首肯してみせた。「ああ、その通りだ。膠着してはいるが、イヌの国はイノシシの国と交戦状態にある」「……日本と同じ地形って言ってましたけど、あたしたちがいるのは日本だとどこになるんですか?」「京都だよ。地名は元の世界とほぼ同じものが、そのままこの世界でも使われてる。それと、言いそびれてたけど俺に対して敬語は必要ない。ラクに話してくれると嬉しい」 この世界の状況について説明を聞いている中で、アルフが差し挟んだ唐突な申し出に戸惑った涼香は、「でも、年上ですよね?」 とだけ短く答えを返した。 端的な返答を聞いて表情を緩めたアルフは、涼香に向けて微笑を浮かべてみせた。「この世界に転生した獣人は元の世界での年齢とは関係なく、ヒトの十代後半から五十代の半ばに相当する獣人として新たな人生を始める。始めの年齢が違う理由は分からないが、神たるドラゴンの意思ってことにして受け入れてる。俺やアルシオーネ卿みたいに元の世界で寿命を全うした獣人もいれば、一年と経たずに元の世界での生を終えた獣人もいる。そもそもベースになってる獣の寿命が全く違うから元の世界で生きた年数は、この世界じゃ記憶以外の意味を持ってない。そして、俺たち獣人はこの世界で歳をとらないんだ」 打ち明ける口調でアルフが口にした「獣人たちが生きる世界の有り様」を聞いた涼香は驚きを隠せなかった。 目を丸くする涼香に対して、微苦笑を浮かべてみせたアルフがもう一つの「世界の有り様」を伝える。「俺たち獣人はこの世界に転生したときの年齢と能力に応じた役割を、死ぬまで続けるってことになる。子孫を残すこともなく、ね」 思わず「え!?」と驚きの声を漏らした涼香に、アルフは微かな憂いを帯びた微笑を向けた。「俺たちの生殖器官は機能しないんだよ。形としては存在するしそういった行為も可能だが本来の役割は持ってない。自分の遺伝子を持った子孫を残すっていう生物としての本能を奪われてる。それが、この世界の獣人たちなんだ……他の本能って言い方が合ってるのか俺には分からない。ただ、情動とか欲求なんて言い方に代えても中身は変わらないとは思う。老いることも出来ない獣人たち
last updateآخر تحديث : 2025-06-08
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第6話 お姫様だっこ
「急かすようで申し訳ないが、応接間へ案内してもいいだろうか? ヒロキ殿を待たせているんでね」 涼香とアルシオーネの様子を黙って見守っていたアルフが、涼香の表情が落ち着くのを見計らって声を掛けた。「あっ、はい。だいじょうぶです」 バッと勢いよく顔を上げて答えた涼香に微笑を向けたアルフが、「敬語はいらないよ」 と柔らかい声で伝えながら、涼香の前に右手を差し出した。 (目を細めても瞳がクッキリしてるとかどこまでイケメン!? ってか今気付いたけど、目尻に泣きぼくろまであるとか美形フル装備すぎでしょ……) 落ち着いたと思った矢先にアルフのイケメンぶりを再認識してしまった涼香は、顔が火照るのを感じながらもアルフが差し出した右手にそっと自分の左手を乗せた。「う、うん……じゃ、案内してもらう」「ありがとう。ではエスコートさせてもらうとしよう」 大きさも厚みも自分の手と比べれば倍はありそうだと涼香が感じたアルフの手が、そっと大切なものを包むように涼香の左手を握ると、この世界で目覚めたベッドの上に座ったままだった涼香をゆっくりと引き寄せる。 力強いのに強引な感じが全くしないアルフの右手にひかれてベッドを降りた涼香は、ひんやりとした板張りの床に立ったことで目の前のアルフの大きさをあらためて実感することになった。(でっか……身長差四十センチぐらい? てか、胸板ぶ厚っ! マジで雄っぱいじゃん、こんなんもう……!) もう少し渋みがあったら完璧なのに……などと肉弾系紳士キャラがド真ん中に刺さるせいで思考がついつい夢方向へ飛んでしまった涼香を、現実に引き戻したのはアルフの声だった。「そのスリッパを使ってほしい」「あっ、はい……じゃなかった、うん。ありがと」 脳内が妄想方面に走りかけていたことを誤魔化すように、涼香がすすめられた生成りのスリッパに慌てて足を突っ込む。(やばいやばいっ! 夢見とかしてる場合じゃないでしょ……この状況でも妄想できるとかどんだけ図太いんだよ、あたし……?) 涼香が胸の内で自分にツッコみを入れている間にアルフは部屋のドアに手を掛け、アルシオーネもベッドから降りて涼香が履いたものと揃いのスリッパを履き終えていた。「準備はいいかな?」 ドアに手を掛けたまま振り向いたアルフの確認する声に、涼香が「うん」と小さくうなずきを返す。 アルフが
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第7話 宣布
 涼香を軽々と抱きかかえたアルフは、コンラートと襲撃者との戦闘を涼香が直視するのを避けるのと、万一の際にはこの場から素速く離脱できるように、コンラートからは視線を外さずに身体をひねって半身に構えた。 生まれて初めてのお姫様だっこに鼓動が激しいビートを刻んでいた涼香の視線は、アルフの配慮を飛び越えて素直な好奇心のままコンラートが三人の襲撃者を瞬く間に殴り飛ばす姿に向けられた。「ごぶっ……!」 人間同士の格闘とは次元の違う強烈な打撃の標的となった黒豚の頭部を持つ獣人たちは、断末魔の叫びを上げることさえ赦されずに大量の鮮血だけを口から吐き出して息絶えた。 身長は百七十センチほどだが太めで図体は大きく見える三人の襲撃者を容易く三発のパンチで倒してしまったコンラートが、呼吸の乱れる様子も見せずに襲撃者が突入してきた障子窓から外の様子を確認する。 現実から離れたアニメの戦闘シーンを見ているような錯覚を覚えた涼香は、「すご……」 とごく短い感嘆だけを小さな口から漏らした。 コンラートが三人の襲撃者を片付け、周囲に敵対する気配がないことを確認したアルフは、抱きかかえていた涼香の両足をそっと床へ降ろすと頭を下げて謝罪した。「すまない。咄嗟の判断とはいえ、スズカ嬢をいきなり抱き上げるかたちとなってしまった。言い訳をさせてもらうなら、他にも襲撃者がいる可能性と、こちらに注意を払うことでコンラートの力を削ぐ事態を避けるために離脱する可能性に備えた対応だった」 真っ先に自分の安全を優先してくれたアルフが謝っている姿に慌てた涼香は、「あやまらないで。あたしを護ってくれようとしたんでしょ? 逆にあたしがお礼する立場だよ。ありがと」 と早口になっている自分を感じながらも、お礼の言葉を返した。 「ありがとう。スズカ嬢が聡明なのは本当に助かる」「あの、さ……そのスズカ嬢って呼び方やめない? スズカでいいよ?」「分かった。では、今後はスズカと呼ばせてもらおう」 アルフの素直な反応が嬉しかった涼香は、間近で目にしたコンラートの異様な強さへの率直な感想を口にした。「コンラートさんって、めちゃくちゃ強いんだね。あたしたちを気にする必要がなければゼッタイ勝つって、アルフが信頼してるのも納得だよ」 涼香の言葉に対して一瞬だけ感心する表情をみせたアルフは、「スズカは言葉の意
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