LOGIN浮気性の彼氏タケルからのプロポーズを受けようとした助産師の七海。自分が隠れオタクであることを明かそうとすると、気がつけばタケルから刺され、七海は自分の推しのレオナルド・ストリア公爵の婚約者リリアナ・マケーリ侯爵令嬢になっていた。小説『蠍の毒を持った女』においてレオナルドは当て馬。リリアナはレオナルドに愛の告白をし、彼とヒロインのミーナの恋を応援すると伝える。建国祭のパレードの襲撃事件で男主人公のアッサム王子を助けようと自ら盾になったリリアナ。彼女の優しさに惹かれるアッサム王子と、彼女の無償の愛に惚れてしまったレオナルド。レオナルドはリリアナを独占しようと監禁する。七海はダメ男沼に再びハマってしまうのであった。
View Moreタクシーに乗り、病院に向かう。「仙崎さん、先程の方にプロポーズをする予定とかあったんじゃ⋯⋯」 私の言葉に仙崎さんが吹き出す。「な、ないよ。男同士だからね⋯⋯久しぶりに会って食事していただけだから」 私は、自分がBLも嗜む事がバレてしまったようで赤面した。 リッチな方は久しぶりの食事でも三ツ星レストランを使うらしい。「やっぱり、面白いな。鈴木さん⋯⋯。祖父からよく君の話を聞いてるんだ。もっと君の話が聞きたいな、今度は君の口から⋯⋯」 真っ直ぐ、私を見てくる仙崎さんにアッサム王子が重なった。(そうだ⋯⋯私は本当はアッサム王子に惹かれていた。私の話を聞きたいと言ってくれた彼に⋯⋯) そういえば、産科のおじいちゃん先生の名前が仙崎だ。 上品な感じが彼と似ている。 1度彼が高級煎餅を産科に持って来てくれた事を思い出した。 「煎餅を持って来てくれましたね。王子⋯⋯」私の呟きに「食べてくれましたか? 姫⋯⋯」と仙崎さんが返してくる。「す、すみません。仙崎さんがあまりにかっこよく王子に見えました」 オタクの呟きに付き合わせてしまい私は居た堪れなくなってしまった。「あの、傷も浅いですし、救急外来に掛かる程ではないかと」「今、自分の事より病院の忙しさを気にしたでしょ。診断書は後日書くとして、今日は俺の家で手当しようか? 全然、食べてなかったみたいだし、お腹も空いたでしょ」 私の考えが見抜かれてしまっていて、恥ずかしい。「え、家?」 恋の始まりのようなものを期待してしまい、私はそのまま仙崎さんの家にお邪魔してしまった。(勇気を出して、踏み出してみよう⋯⋯) 1年後、私と彼が結婚することになるのはファンタジーではない、本当のお話。
「この人、本能寺タケルに刺されました。明確な殺意があったかと思います」 私はすかさず警察に説明した。「七海、ふざけんなよ。お前、夫が犯罪者になっても良いのかよ」「だから、結婚しないって言ってるでしょ」 タケルはこの後に及んで私が彼と結婚すると思っている。 私が今まで彼を甘やかし続けたからかもしれない。「七海、お前、もう30歳なんだから、俺を逃したら次はないぞ」「結婚なんてしなくても、私には手に職がありますから」 私は憧れの異世界でもやはり助産師として赤ちゃんを取り出していた事を思い出した。 それにしてもレオナルドは、タケルそっくりだった。 異世界でもダメ男沼にハマり抜け出せなくなっていた自分に思わず笑ってしまう。「あの事情をお聞かせ願えますか」 警察が私に話し掛けて来たところを、仙崎さんが制した。「彼女は怪我をしているので、事情聴取は後日お願いできますか? 私は医師で彼女を病院に連れて行きます。一部始終は彼が見ていたので、彼に聞いてください」 仙崎さんが手を翳した方に、黒髪で少し神経質そうな男性がいて立ち上がった。「弁護士の前田です。私が対応致します」 どうやら彼は仙崎さんと一緒に食事をしていた相手のようだ。 私は仙崎さんに連れられ、レストランを出た。 後ろから私の名前を必死に呼ぶタケルの声がしたが、振り向かなかった。
「あ、あれ?」目を開けると、あたりが騒がしい。ここはタケルと食事をしていた高級レストランだ。 胸に手を当てると薄っすらと血が滲んでいる。目の前には衝動的に私を刺した事で動揺するタケルがいた。よく考えれば食べ物ナイフごときで死ぬ訳がない。そして、根っからのオタクの私は普通の人より発達した脳を持っている。どうやら一瞬気を失った時に走馬灯の代わりに、推しのいる世界に入り込んだようだ。「お、お客様」狼狽えたように話しかけてくるボーイに私は強く言った。「110番通報してください! 私、今、彼に殺され掛けました」 私に指を刺すと、タケルは激しく動揺した。「ま、待てよ。だって、お前が浮気したとかいうから」「浮気しまくったのはあんたでしょ」 普段、ヘラヘラと彼の浮気を許してきた私の剣幕に彼が一歩引く。「警察呼ぶとか嘘だろ? 俺たち結婚するのに⋯⋯」「結婚なんてする訳ないだろ。この犯罪者が。目撃者もいるはずだよ。私を刺した場面を見てた人、手を挙げて!」 周囲の人が手を挙げる。(今、人生で1番注目されているわ⋯⋯) 皆、ドレスアップしていて、今日この時間を楽しみにしていたようだ。「皆様、このような素敵なレストランで騒ぎを起こして申し訳ございませんでした」 咄嗟に、頭を下げる。「いや、鈴木さんは悪くないでしょ。それより、ちゃんと止血しなきゃ」 すらっとした背の高い男性が私によってくる。 黒髪にメガネをかけて大人っぽく優しそうな印象だ。 おそらく傷は浅い。 位置が胸の辺りだからか、彼はハンカチを渡して来た。「えっ? あの、なんで私の名前⋯⋯」「俺、そんなに影薄いかな。仙崎総合病院で医師を務めてます。仙崎宗太郎と申します。」「あっ? もしかして外科の先生ですか? 外科病棟でお見かけしたことがあるような⋯⋯」 私の勤めている産科のある病棟から離れているが、彼を見かけたことがあ
「毒が入っていると分かってて飲んだ? 兄上は馬鹿なのか? いや、そこまでしてということか⋯⋯君も兄上が好きなんじゃないのか? ストリア公爵の元に行くよう言った僕が言える立場ではないが、君はこのままで良いのか?」 ルドルフ王子は、なぜ私がアッサム王子が好きだと思っているのだろう。 確かにアッサム王子は私を度々ときめかせる。 彼くらいのイケメンに優しくされたら皆少しは恋心を持つ気がする。 膝枕を強請ってきたり、年下の男の子の可愛さってこういう感じなのかと思ったりした。 前世では周囲から年下の良さを熱弁されても心が動かなかった。 しかし、時に甘えてきたり、急に頼りになったりする彼は聞いていた年下の男の子の良さを詰め込んだような子だった。(この世界では、私が年下だけどね⋯⋯) 私が唯一恋をしていたとはっきり言える相手は、小説の中のレオナルド・ストリアだ。 彼のことを考えるだけで、嫌な事があっても元気が出た。 彼のセリフを何度も読み返しては、ドキドキしたものだ。(本物のレオは思っていた人とは違ったな⋯⋯) 「私が好きなのはレオナルド・ストリアですよ」 私は立ち上がって、次の倒れている騎士の元に行こうとする。 そっとルドルフ王子は私を支えてきた。「君がそう言うなら、そうなんだろう。わざと毒を飲むくらいの気持ちを兄上が我慢できることを願うよ。毒を盛ったのは母上だ。母上は僕に王位を継がせたいが、僕は兄上を支えたいと思ってる。でも、女欲しさに毒を飲む君主はどうかと思うけどね」 ルドルフ王子は私にしか聞こえないような囁き声で言う。 彼は笑顔を作っているけれど、心が泣いているのが分かった。 彼は兄弟で争いなんかしたくないのに、母親がアッサム王子に毒を盛ったと思って苦しんでいる。 私は思わず、ルドルフ王子を元気づけたくて彼の胸に手を押し当て聖女の力を込めた。 その瞬間、私の世界が歪んでいった。♢♢♢ 目を開けるとそこには、私の大好きなレオの顔があっ
ふと、目を開けるとそこは王宮のベッドの上だった。(建国祭の日に来た部屋の天井と同じ⋯⋯) 「リリアナ嬢、大丈夫か?」 心配そうな顔で見つめてくるルビーのような赤い瞳。「それはこちらのセリフです。毒を盛られたのですか? 今にも死にそうな顔をしていて心配していたのですよ!」 私の続く言葉を塞ぐように、アッサム王子が口づけしてくる。 私は目を閉じてその口づけを受け止めた。(彼はやたらとキスしてくるけど、一体どういうつもりなのか⋯⋯)「リリアナ嬢が助けてくれるという確信があって
「おはよ。リリィ」 軽い口づけをされて、私は目覚める。 ストリア公爵邸で過ごし始めてから半年が経った。 その間、私は貴族令嬢としての礼法を仕込まれ、レオに愛されてきた。 「おはよ。レオ」 私たちはいつの間にか、愛称で呼び合う仲になっていた。 この半年間、レオ以外の人はメイドや家庭教師としか会っていない。 役割があり余計なことを話さない彼らに比べ、私の唯一の楽しみがレオと言葉を交わすことになっていた。 私の中身は彼氏の浮気に傷つき、人間関係で揉まれてきた三十路だ。
「アッサム王子殿下、お誕生日おめでとうございます」 今、アッサム王子と踊っているのは私と彼が一晩中練習した建国祭の1曲目だ。「リリアナ嬢⋯⋯もしかして、監禁されてないか?」 アッサム王子との思い出に浸っていたら、ふと耳元で囁かれた。(監禁⋯⋯溺愛じゃなくて、束縛愛かとは思ったことあるけれど⋯⋯確かに、監禁と感じた事があった⋯⋯) ふとレオから他の男と踊るなと言われたのにアッサム王子の誘いを受けてしまった事を思い出す。 こっそりと、レオの方を見ると冷たい目で私たちを見ていた。「あっ」
あれから1週間の時が経った。 婚約者という仲だから敬語はやめてほしいと言われ、名前も呼び捨てに変えた。 この1週間、家庭教師とメイドとレオナルドにしか会っていない。 ダンスのレッスンが終わり、窓の外を見るとレオナルドが第1騎士団の剣の訓練をしているのが見えた。 太陽光が彼の銀髪と降り積もった雪に反射し、キラキラしていて美しい。 彼は遠くからでも私の視線をキャッチしたのか、振り向いて輝くような笑顔で手を振ってくれる。 私は笑顔で手を振りかえした。 レオナルドは23歳と若いながらに、カサ