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第954話
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離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第975話
実は、桐島霞も内心穏やかではなかった。しかし、愛らしい九条美緒の姿を見ると、気持ちが落ち着いた。この子を、手放したくない。この子が一人で生きていくなんて考えられない。たとえ養子にしたとしても、本当の親子のように絆は築けないだろう......だったら、思い切った人情を見せてあげよう。水谷苑は大事な用事があったので、九条美緒を桐島霞に預けた。桐島霞は「私に任せてください。美緒ちゃんの面倒ちゃんと見ます」と安心させた。水谷苑は頭を下げて感謝した。彼女が去っていくと、九条美緒はその後ろ姿を見つめ、そして桐島霞に抱きついた。桐島霞は満たされた気持ちになった。......水谷苑は20人の警備員を連れて、出かけた。午後4時。市庁舎の美術館には、多くの著名人が集まっていた。桐島宗助はシャンパンを片手に、余裕綽々の様子で立ち回っていた。地位も高く、容姿端麗な彼は、多くの貴婦人や令嬢に囲まれていた。皆、桐島宗助の魅力を一目見ようと必死だった......そんな様子に、桐島宗助はとても満足していた。入り口で、水谷苑は一人で入ってきた。20人の警備員は、別の指示を受けていたのだ。案内係は彼女のことを知らず、招待状の提示を求めた。水谷苑はハンドバッグから桐島霞にもらった招待状を取り出し、落ち着いて言った。「桐島さんの奥さんの友人です」友人？案内係は恭しく頭を下げ、招待状を水谷苑に返した。「桐島さんの奥さんのご友人でしたか！こちら特別通路へどうぞ」妊娠中とはいえ、水谷苑には風格があった。彼女は冷静に桐島宗助の前に歩み寄り、彼の言葉を遮った。「桐島さん、ずいぶん探しましたよ」桐島宗助は驚いた。「どうしてこちらに？」水谷苑の瞳は、何かを秘めていた。実は、今日桐島霞へ行ったのは、ちゃんと準備があった。あらかじめ九条美緒が何を言うべきか、事前に教え込んでいた......心に罪悪感はあった。桐島霞には、九条美緒を利用して利益を得るようなことはしないと約束していたのに、今日、目的を達成するために、桐島霞の好意につけこんでしまった。彼女が何も言わなくても、桐島宗助には分かった。「妻が教えたんですね」桐島宗助は水谷苑に特別な感情を抱いていたが、この生死をかけた、利害が衝突する局面では、彼は冷静さを保っていた...
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第974話
桐島霞はしばらく悩んだが、我慢しないことにした。5月。暑い日が続いていた。水谷苑の妊娠7ヶ月目。あと2ヶ月で出産予定日だ。幸いにも食欲旺盛で、つわりもなく順調な経過をたどっていた。お腹は大きくなっているものの、全体的にはスリムな体型を保っていた。桐島霞は水谷苑に付き添い、リビングで世間話をしていた。傍らでは、九条美緒がおとなしく絵を描いていた。桐島霞は、九条美緒をとても可愛がっていた。彼女は、しばらく躊躇っていたが、意を決して口を開いた。「美緒ちゃんって本当に可愛いですね！宗助と私は、いつも自分たちに子供がいないことを残念に思っていますよ」水谷苑は微笑みながら答えた。「あなたたちなら、養子を迎えることも簡単でしょう」桐島霞は言葉を詰まらせた。そして、思い切って本題を切り出した。「宗助と何度も話し合ったのだけど、美緒ちゃんを養子に迎えたいと思っています。あなたたちが手放したくないのは分かっているけれど、私たちは美緒ちゃんを大切に育てると約束します」そう言うと、桐島霞の目には涙が浮かんでいた。彼女は心から九条美緒を愛していたのだ。九条美緒は話を少し理解したようで、二人をじっと見つめていた。「ママ」子猫のようにか細い声で九条美緒がそう言うと、絵を描くのをやめて水谷苑の腕の中に飛び込み、ぎゅっと抱きついた。「美緒はパパとママと離れたくない」「大丈夫よ」水谷苑は九条美緒の頭を優しく撫でながら、しばらくの間慰めていた。そして、桐島霞の方を向いて、静かに言った。「霞さん、あなたは事情をご存知だからこそ、こんな申し出をされたのでしょう......今日はっきり言いますが、養子縁組は絶対にありえません。時也はもちろん、私も同意しませんし、ましてや彼女を何かの取引材料にすることなど......絶対にしません」水谷苑は九条美緒を抱きしめながら、呟いた。「彼女は九条家の子供です。私と時也は、彼女をとても愛していますよ」桐島霞は内心では落胆していたが、笑顔を作りながら九条美緒の頭を撫でた。九条美緒は少しおびえていた。......この一件で、二つの家族の関係は少しぎくしゃくし、桐島霞はあまり来なくなった。6月。夏を迎えた。B市では、いつ何が起きてもおかしくない状況だった。まるで火薬庫のように、一触即発
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第973話
それを聞いて、桐島宗助はどこか奇妙な表情を浮かべた。妻に子供ができないことは知っている。なぜできないのかも、本当は知っている......ただ、口に出さないだけだ。彼は元々、気が進まなかった。桐島霞がそのことを持ち出したので、ますます気が失せてしまった。しばらく我慢したあと、桐島宗助は妻の手を払いのけ、冷淡に言った。「もう遅い。寝よう」桐島霞はベッドに横になり、少し居心地悪そうに黙っていた。彼女は後ろ暗い過去を持ち、夫の前では常に劣等感を感じていた。しかし今夜、彼女は九条美緒のような可愛い女の子がどうしても欲しかった。本当に欲しくてたまらなかった。そして、暗闇の中で夫の手を握り、低い声で懇願した。「宗助、今夜のあの子供は九条社長と水谷さんの実子じゃないの。二人には既に息子がいて、今水谷さんはまた妊娠しているの。彼女はまだ若いから、この先また子供ができるかもしれないわ......」桐島宗助は妻の考えを察した。彼は腕を上げて頭をのせ、静かに尋ねた。「あの子供を養子に迎えたいのか？」桐島霞は期待に満ちた表情をしていた。桐島宗助は同意しなかった。「今夜の状況も見たろう。九条さんはあの子供を実の子のように可愛がっている。他人に養子に出すわけがない。そんなこと、考えるだけ無駄だ」それでも妻は食い下がった。「私もあの子供を実の子のように育てるわ」桐島宗助の機嫌は少し和らいだ。彼は体を横に向け、妻の手を握りながら、からかうような口調で言った。「何の不自由がない九条さんたちだ！手放す訳がない。本当に子供が欲しいなら、可愛い子を養子に迎えればいいだろう」桐島霞はそれを望んでいなかった。彼女は九条美緒を養子にしたい一心だった。あの子供とは、何か縁があるように感じていたのだ。この時、桐島宗助はもうそのことには関心がなかった。ただ欲求不満を解消したかった。......あたりは静まり返っていた。洋館は煌々と明かりが灯っていた。九条時也は明日の朝早くにB市に戻らなければならないので、ほとんど寝る間も惜しんで、二人の子供を交代で見ていた......どちらにも愛情を注いでいた。もちろん、一番名残惜しいのは、水谷苑だった。寝室は、洋風に装飾され、金色のラインが入ったソファや、錦織のファブリックが豪華で心地よか
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第972話
九条時也は視線を落とし、水谷苑を見た。水谷苑はそっと小さく頷いた。そして、九条時也は少し声を強めて言った。「私たちは後ほど伺います」外の足音が遠ざかると、水谷苑は九条時也から離れ、考えながら口を開いた。「桐島さんのご両親はあなたの手中にあるが、私は今、桐島さんの縄張りの中にいる。あまり関係をこじらせてしまうと......ある程度の体面は、彼たちに保たせてあげた方がいいよね」九条時也は彼女の柔らかな頬を撫でた。そして、優しく微笑んだ。「女性の交友関係については、お前に任せる」水谷苑は彼を睨みつけた。「普段は女の人とのお付き合いが一番得意なのに、どうして私に任せるの？」クローゼットには誰もいなかった。九条時也は図々しく言った。「本気だと気づいてからは、他の女性とは付き合っていない。俺の心にはお前だけだ。体だって、お前だけだ」こんなふざけた話に、水谷苑には我慢できなかった。彼女は思わず眉をひそめ、一緒に下へ降りるよう促した。「桐島さん夫婦をお待たせしてはいけないわ」しかし、九条時也は彼女の細い腕を掴み、低い声で言った。「苑、もし彼が少しでも不埒なことをしたら、必ず俺に言え......こてんぱんにしてやる！」水谷苑はそっとお腹を撫でた。「この大きなお腹の妊婦さんなのよ、女として見てくれるのはあなただけじゃない？」九条時也も彼女のお腹に手を当てた。中には、彼の大切な娘がいる............一家で桐島家へ客として訪れた。九条時也は桐島宗助と世界情勢や経済について語り合った。桐島霞はとても社交的で、焼きたてのクッキーやコーヒー、お茶を用意するだけでなく、九条津帆と九条美緒のためにオルガンを演奏してくれた。九条美緒はおとなしく座って、クッキーを食べながら、桐島霞をじっと見つめ、演奏に聞き入っていた。桐島霞も彼女をとても気に入っていた。一曲が終わり、彼女は九条美緒を抱きしめた。九条美緒は最後のクッキーを小さな指でつまむように手に取り、桐島霞の頬にキスをして、柔らかな声で言った。「おいしかった。大好き」桐島霞は子供を産めない体だった。桐島宗助は養子を取ることを考えていたが、桐島霞は縁を感じていなかった。今回、九条美緒に会い、とても気に入った......さらに、この子の出生の経緯を多少
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第971話
その夜、九条時也は水谷苑と子供たちをH市へ送った。高橋は名残惜しそうに、専用機が飛び立つまで見送っていた。そして何度も涙を拭った。午後8時半。九条グループの専用機がH市国際空港に着陸した。空港の駐車場には、4台の高級車が並んで停まっていた。桐島夫婦は、B市から来た九条社長一家を出迎えるため、気丈に振る舞っていた。特に桐島宗助は......自分の両親が九条時也に捕まっているのだ。しばらくして、九条時也は妻と子供たちを連れて姿を現した。水谷苑は九条津帆の手を引いていた。九条時也は九条美緒を抱き上げていた。九条美緒は見慣れない周囲に少し不安げで、父親の首にぎゅっとしがみついていた。桐島宗助の傍らにいた中村秘書は、花束を持って水谷苑に近づき、「水谷さん、H市へようこそお越しくださいました」と挨拶した。今夜のこの待遇は、前回の冷遇とは比べ物にならないほど丁重なものだった。水谷苑は当然のことのように花束を受け取った。彼女の堂々とした態度は、夫の顔そのものだった。桐島宗助は自ら車のドアを開けた。数日前、九条時也に殴られて顔に痣を作っていたとは微塵も感じさせない、紳士的な態度だった。彼が今の地位にいるのは、それだけ柔軟に対応できるからだろう。数台の車は次々と空港を後にした。1時間後、車はゆっくりと桐島邸の黒く重厚な門をくぐった。すると、屋敷全体が明るく照らされ、白昼のように輝き、その壮大さを際立たせた。桐島邸の母屋の裏手には、瀟洒な洋館が建っていた。2階建てで、全部で12の部屋があった。内装や調度品はどれも贅沢なものだった。九条時也はこの洋館に、12人の腹心の警備員を配置していた。水谷苑の出入りはこの12人が担当し、妊婦検診や外出には桐島霞が付き添うことになっていた。何か問題があれば、まず桐島霞が責任を問われるのだ。彼が水谷苑をH市に滞在させるにあたって、万全の準備を整えていたのは明らかだった。一方、桐島宗助は気が気ではなかった。自宅が占拠されてしまったのだ――......九条時也は妻と子供たちを連れて2階へ上がった。警備員が荷物を持って上がってきた。水谷苑は荷物の整理をしようと立ち上がったが、九条時也に止められた。彼は優しく「妊娠してるのに、疲れてるだろ。休んでて。俺がやる」と言っ
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第970話
彼女は小声で言った。「まさか、桐島さんが九条社長の部下だったなんて......」大川夫人は内心、羨ましく思っていた。昨夜、夫と相談した結果、九条時也と佐藤潤の間では、やはり九条時也の方が有利だと結論づけた。若くて精力的だし、手段を選ばないからね。大川夫人は水谷苑に言った。「H市で安心して出産に専念して、九条社長が必要とする時はいつでも、夫は喜んで協力する」水谷苑は大川夫人の手を握り、柔らかな笑みを浮かべた。「そう言ってくれると安心するわ」大川夫人は自らローズティーを淹れながら言った。「これは美容とリラックスに効果があるのよ。飲んでみて」二人は話が弾んだ。しばらくして、大川夫人は急用で先に帰った。水谷苑はローズティーがとても美味しかったので、そのまま座って飲み干した......そして、まさか知り合いに会うとは思ってもみなかった。個室のドアが静かに開くと、そこに立っていたのは佐藤潤と遠藤秘書だった。遠藤秘書は軽く微笑んで言った。「九条様」この呼び方に佐藤潤は気分を害し、遠藤秘書を外で待たせて、一人で個室に入った。温かい照明の下、親子は、言葉もなく向かい合っていた。佐藤潤は水谷苑の少し膨らんだお腹に目をやった。計算すると、もう4ヶ月になる。しばらく見つめた後、佐藤潤は傍らの鞄から大きな封筒を4つ取り出し、水谷苑に言った。「これにはそれぞれ不動産の権利証が入っている。どれもいい場所の別荘だ！子供3人とお前で合わせて4つ......お年玉だと思ってくれ！」「いらないわ」水谷苑はためらうことなく、すぐに断った。佐藤潤は不機嫌そうに言った。「時也のせいかな？」水谷苑は感情を抑えながら、老人の顔を見つめた。かつて彼を「お父さん」と呼んでいた頃、いつも彼の書斎に入り浸っていたのを思い出した......しかし、まるで前世の記憶のように遠い昔のことのようだった。彼女は少し震える声で言った。「それは、あなたに聞いてほしいわ！」佐藤潤はそれ以上、無理強いしなかった。そして、ため息をついた。「お前は俺を恨んでいるんだな。時也を俺より、佐藤家より大切に思っている」水谷苑は苦笑いをして、言い返すことはしなかった。佐藤潤は何かを思い出したように言った。「H市に行くそうだときいたが、そんな必要はない！もうお前に
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