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第15話

Auteur: 九ノ瀬
「彼氏」という言葉を聞いた瞬間、弘樹は頭に雷が落ちたような衝撃を受け、耳鳴りがするほどの眩暈を感じた。

「お前……彼氏がいるのか?」

弘樹がこれほど取り乱す理由が分からないので、楓は淡々と頷く。

隠す理由など何一つないし、その恋人だって人に見せられないような相手でもない。少し間をおいて何かを思い出したかのように、楓は改めて弘樹の方を見た。

「そうそう。今回、私たちが戻ってきたのは結婚式の準備のためなんだけど、式が終わったら、もうここには戻ってこないと思うんだ。だから、もしよかったら、結婚式に来てね」

楓が言い終わるか終わらないかのうちに、遠くから楓の名前を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げると、そこには蓮がいた。

「楓、トイレ長いよ!外で待ってる間、花が枯れそうになっ……」途中まで言って、ようやく隣の弘樹に気づいた蓮は、怪訝な目を向ける。「楓、この人は?」

「斉藤グループの社長、弘樹。前に話したことがあったよね?私に学費を支援してくれた斉藤家の……」楓は、弘樹を知らないふりはせず、堂々と二人を紹介した。今度は弘樹の方を見て付け加える。「この人は蓮。私の彼氏」

この、あまりにも何気
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