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第165話

Author: 冷凍梨
不意に名を呼ばれた私は、一瞬、言葉を失った。

玉恵が先ほど「医者の徳」について熱弁していたことが頭をよぎった。

少し間を置いて、私は小さくうなずいた。「お義母さんの言うことはもっとも。ただ、この件はすでに厚労省が調査に入っているし、もう少し様子を見てもいいのではないかと……」

「もう時間がないのよ!」玉恵の声は焦りを帯び、机の上の「土地譲渡契約書」を指さした。「唐沢家はもうお父さんに話をつけてあるの。明日までに何らかの説明を出さなければ、マスコミに全部ばらすって。

東市の芸能関係者たちがどういう連中か、あんたたちも分かってるでしょう?金さえもらえば、どんなデタラメでも書き立てる。唐沢家とつながってる記者なんて、口が軽くて遠慮なんてないんだから、どんな噂を流されるか分かったもんじゃないのよ!」

その言葉で、私はようやく核心を悟った。

――唐沢家が本当に欲しいのは「ビジネスチャンス」だ。

凛の事件はただの口実。医療ミスかどうかなんて問題じゃない。それは彼らにとって、紀戸家から「欲しいもの」を引き出すための取引材料に過ぎないのだ。

厚労省の調査には時間がかかる。短くても三、五日、長ければ半月。

だが唐沢家はそんな猶予を与えない。

世論が膨れ上がる速さは、三年前、和夫が刺傷事件に巻き込まれた時に嫌というほど見てきた。まして今回は、唐沢家が意図的に火をつけている――

状況は、確かに厄介だった。

「俺がもう一度手を打つ。焦る必要はない」八雲は相変わらず冷静に言った。

離婚寸前の関係とはいえ、夫婦は運命を共にする。私は少し考え、口を開いた。「ひとつ、試してみる価値のある方法がある」

その瞬間、全員の視線が再び私に集まった。私は良辰が涙をにじませながら手術室を見つめていたあの場面を思い出し、言った。「――私が唐沢さんと直接話してみます」

私は賭けに出た。

妻を心から愛していた男なら、その愛は本物なら、「愛する人の死」を家族の政治的取引の道具になどさせない――そう信じて。

だが、私の言葉が終わるや否や、玉恵は鼻で笑った。「唐沢家がどんな連中か、あんたも知ってるでしょ?ああいう家に生まれた子に『真心』なんてあるわけないのよ。あの男がここまで騒ぎを大きくしてるのも、どうせ家族の指示よ。話し合う余地なんてないわ」

確かに、玉恵の話は理屈としては筋が通って
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